9月 24日 火曜日 包帯おじさん。 録画しておいた.hackのビデオを見ながら、アワーズ増刊の外伝のネームコンテを描く日々。 .hack、面白いんだけど、ネットゲームとりわけスパンの長いネットRPG、 こんなにみんな真面目じゃないよなあ、と。 みんなもっとアホだ。 正確には、もっとアホ人間がいっぱいいるはずだ。 勿論、陽性のイイ意味での。 僕がUOでやってたキャラは「包帯おじさん」だった。 包帯おじさん。 このキャラの外見は中途半端な無精ひげに無精髪のおじさんで、 服装は全裸に真っ赤なマント一丁という井出達。正確にはふんどし一丁。 靴すらはいてません。 肩から下げたバックパックには重さで動けなくなるんじゃないかと言う位ギッシリとつまった包帯。 お金は一銭も持っていません。 そして戦場をうろつきます。ただあてもなく。 よくブリテンの上の方の町の近くの墓場みたいなとこをうろうろうろうろしていました。 そして他のプレイヤーがモンスターと戦っているのを、物陰に隠れてジッと見ています。 そしてダメージを受けているのを見るや、無言で物凄い勢いで背後から突進し、 そのキャラの後方にへばりついたかと思うと、 「ムホ!ムハ!ウホ!ウホホ!ムキキ!」等と人間学園の変態所長みたいな声で 時折歓喜の奇声をあげながら黙々と包帯を巻いて治療を始めます。 その人が「ありがとう」とか「サンキュー」とか言われても、 「おじさんは包帯を巻くのが仕事なのです。私はそのためにうまれたの・・ある意味綾波みたいなもん」とか 「うっせー手前は黙って俺に包帯巻かれてリャいいんだよ!包帯さえ巻いてりゃこの世は極楽なんだよ!」とか 「頼むよ・・あと一枚だけ・・な?あと一枚だけ包帯巻かせてくれよ・・ もう耐えられねえんだよ!な?一枚、一枚だけ、お願い、いや、おお願い、お願いします、 なんでもしますから、い、一枚だけ、お願い1お願いよオオォ!」 とか、テンパッた事しか言いません。 全裸にマント一丁の中年男が墓場の真ん中でそんな事を絶叫していたら、 当然すぐ相手にされず、奇異の眼か冷笑を浮かべて去っていくのが殆どの方でした。 せっかく傷を直してあげたと言うのに言動の奇異を見るやいなや 翻して薄笑いをうかべ去っていく数々のプレイヤーを見て、 世知辛い世の中だのう、とつぶやきながら町に戻ると、 酒場の影にうずくまって安酒を煽り酩酊し、前後不覚に陥って 「てやんでえバカヤロゥ、コンチクショウ」とつぶやきながら パソコンの電源を消し、暗闇に意識が落ちていく。 そこまでの一連の行動を全部含めてロールプレイして楽しんでました。 町の電波おじさんとしての人生をロールプレイ。 まさに至福の日々でした。 そんななかある日の事、きょうも包帯おじさん頑張るぞ!とUOを始め、 いつものように町の北の墓場に行き、建物の一角に入ると、 そこは死体の山。 正確にはゾンビの死骸の一部が部屋を埋め尽くさん程に大量に、 しかし整然と並べられておりました。 ゾンビは死ぬと自分の残した荷物内に自分の死骸を残すのです。 それは上半身だったり内臓だったり手足だったりするのですが それが一箇所の建物の部屋内に集められ、整然と並べられており、 その死骸の山の部屋の中央には、全裸に黒マント、顔には不気味な南国風の仮面一丁という井出達の男が 仁王立ちで立っているではありませんか。 一瞬なにか禍々しいイベントかな、と思いましたがよくよくその男を見ると プレイヤーなのです。普通の。どっかの。 要するにこの人、ゾンビを狩るか死体を調べて死骸を回収し、 丁寧にこの部屋の一角に並べて周ったのです。 地獄の底の様な有様のなか、普通のプレイヤーならさっさと逃げるか、 相手にもせず通り過ぎるかするでしょう。 悪趣味なヤツもいるな、キモい、と。 しかし私は包帯おじさん。 話しかけてみました。 「私は包帯おじさん。なぜこんなことをするのかね。  死者で戯れるなど、おじさんは許しませんよ。  この包帯にかけて。治療命。包帯パンチをおみまいするぜ」 全裸のおじさんは素手で戦闘体勢を整えます。 武器は持っていません。なぜですって?包帯おじさんだからです。 包帯おじさんは生まれてからこの方、包帯より重いものは持った事がありません。 すると男は答えました。 「私はふんどし和尚。死者を弔うのが仕事なのじゃ」 見渡す限りの死骸の山の中、全裸にマントの男達が仁王立ちで話し合います。 聞けば和尚様、プレイヤーが墓でゾンビを倒すのはいいのだが、 中には悪いやつがいて、わざわざ死体を漁って切り刻み、 死骸や臓物をそこらにまいて行く奴らに心を痛めていたそうで、 今日は和尚と化し、死骸を一箇所に集めて弔っておったのじゃ。 とのこと。 「和尚様、それはそれは誠に結構。南無阿弥陀仏。」 「南無阿弥陀仏」 「アーメンソーメンカンフーメン」 「何で和尚なのにマント?」 「かっこいいから」 すっかり意気投合した我ら全裸おじさん二人は弔いの歌 「ゾンビよ安らかに眠れ -ロメロも-」を歌ったのであった。 まさしくネットゲームの醍醐味、交流と一体感を心の底から味わった瞬間であった。 と、まあようするに、.hackにも全裸キャラがほしい。 おじさんの。 全裸にマントの。