私のクルマ遍歴

CITY  私のクルマ遍歴はホンダ初代シティに始まる。あれは就職で名古屋近郊に住むことになり、その年の年末のボーナスをはたいて親からも金を借り、ローンも組んで当時出たばかりの赤いシティR(5MT)を衝動買いした。T系の会社にいたのだが、新鮮なフォルム(トールボーイと呼ばれた車高の高さ、ショートノーズ)と思いっきりの良さ(ラジオさえついていなかった)と合理性(あちこちにものを入れるポケットがあった。助手席前のダッシュボードにはエアコンを入れるとクーラーボックスになるもの入れがあった)にハンコを押したのだった。椅子に座るような背の立った姿勢と堅い足周りには閉口したが、4年で10万キロを走破した。今でもマッドネスのCM(ホンダ・ホンダ・ホンダ・・・)とともに若かりし頃の自分を思い出す。(^^;;モトコンポというバイクがオプションであったなぁ(買わなかったけど)。ビニールのようなシートで長時間運転するとお尻が痛くなり、足がだるくなるし、うちわのようなドア(質感のない閉まりかた)が気になりだし、次のクルマを捜すことになった。







EARODECK  セイシェルブルーのFFジェミニ(街の遊撃手)も気になったが、買ったのはガンメタ(グラファイトグレー)のホンダアコードエアロデッキLXR(5MT,サンルーフ付き)であった。シティと比べるとゆったりとして、大人の乗り心地。ばかでかいががっしりとしたドア、そして何よりもワールドシビックを扁平に伸ばしたような斬新なスタイル(密かに私はそのデザインがアルファの145に共通しているように感じる)。サンルーフを付けたため、車内高は頭に余裕がなかったがその閉ざされた空間はまるで4人乗りのボブスレーを思わせるようであった。しかしこのクルマは日本では成功しなかった。アコードといえばセダンがほとんどであった。逆にそのことによってますますこのクルマに愛着を感じるようになった。エアロデッキに出会う度に「あっエアロデッキだぁ」と指をさす程であった(それはいまプジョーに乗ってからも変わらないけど)。いろんなところへ出かけた。萩・津和野にもいったし、フェリーでだけど北海道へは2回もいった。スキーへも度々出かけた。そんなエアロデッキも13万キロをこえてショックのへたりが気になりだし、サンルーフの立て付けも悪くなり、塗装もくたびれてきた。転職をして長野の茅野へやってきて、子供もできて4枚ドアが欲しくなった。

 次に乗るクルマは何にするか?だが日本車の中にはもう私の心をときめかせるクルマはなかったのである。モデルチェンジの繰り返しでだんだんどこのクルマも似たようなクルマに思えた。時を同じくして外国車の値段が下がり始めたのである。200万ちょっと足せばいろんな国の小型車が買える!名古屋に住んでいたときに私はフランス車の洗礼を受けていた。バンド仲間の友人がシトロエンのGSパラスに乗っていたのである。当時エアロデッキに乗っていた私にとってそのクルマはまるで異次元であった。体を包み込むようなやわらかなソファーのようなシート。体重計のようなボビンメーターの速度計。エンジンをかけるとむっくりと起き出すようなハイドロのサスペンション。すべてが新鮮だった。ただ少しくたびれていたのでよく入院していて、私にとっては「禁断の実」のようなクルマだった。そして茅野に住んでいたとき、秋になると突然ヘンなクルマ(フランス車)の集団に出くわすことがあった。車山高原で年に一度行われるフランス車の祭典「French Blue Meeting」である。そのヘンなクルマに乗った人々はみんな幸せそうに見えた。私もその仲間になれるのだろうか?

 しかし、私は慎重にクルマ選びをおこなった。イタリア車は信頼性の面でまだ心配があるので、はずすことにした。ドイツ車にも乗ってみた。ビータはパッケージが優れていると思ったが帰省時にのせる荷物の量を考えると小さすぎた。ベクトラワゴンは後席の掛け心地がいまひとつ良くない。ゴルフは十分のトランクを持っていたし、シートは堅いが全体にしっかり感があったのだが、室内の雰囲気が暗かった。アメ車はフォードのトーラスワゴンに魅力を感じたが、車体が大きすぎる。モンデオワゴンはやっぱりドイツ車っぽくおもしろくない。ローバーは何となく似合わないなと思った。そして残るのはフランス車!(スウェーデンのクルマは私にとって高すぎた) 「禁断の実」であるフランス車も現在の新車であれば信頼性も向上しているだろう(と自分を納得させた)。ルノーは日本の受け入れ体制が心配だったし、サンク以降のデザインが好きでなかったのでパスした。ということは、シトロエンか、プジョーということになる。荷室の大きさからエグザンティアかZXブレークか306ST(セダン)が候補にあがった(405はちょっと敷居が高かった)。エグザンティアは確かにデザインも好きだし、ハイドロニューマチックだし、食指が動いたが、予算オーバーである。乗ってみて、確かにいいのだが、今の私には車格があわない気がした(もっとアッパーミドルなひとが乗るクルマだと思った)。ZXブレークは後席にヘッドレストがないのが気に入らない。また後席の視界が悪かった。4速ATだが、1800CCなので出足が悪く運転していてかったるい印象をうけた。そして、プジョーである。まず形から入る私としては、王家の紋章のようなライオンのエムブレムに心をときめかせた。端正なつり目のフロントデザイン(新型になった今の顔より私は旧型の顔の方が好きだ)、かんなで削り取ったような反った側面の形状、やはりつり目のリアランプ。リアクウォーターパネルの微妙な形状。5ナンバーのサイズに収まったそのデザインすべてが私の心をとらえた。試乗してみると、ステアリングの握り具合、シートのホールド感が心地よかった。AT(4速)ながら、出足は悪くない。コーナリングするときに吸い付くようについてくるリアタイヤ。何かちょうど良さが私を支配した。まるでしゃっきりと着こなしたスーツのようだ。営業の人に聞けば、来週に限定特別仕様車(10連奏CD、アルミホイール、リアスポイラー付き)を1台販売する予定だという。これは神様が私にそのクルマを買えと言っているのだなと感じ、1.9%ローンがさらに私の背中を押し、とうとうフランス車を手にすることになった。1996年8月7日、クルマを受け取った。そして今に至っている。メカ音痴ですべてディーラー任せにしているのだが、納車直後のガソリンピュー事件、フロントブレーキのジャダー、リコール1回の他はいたって順調に走ってくれている。そしてこのクルマを買って良かったと思っている。これからも306STと長い付き合いをしていくであろう。306はマイナーチェンジを受けて顔つきがきつくなったが、わたしはこの顔とエムブレムの方が好きだ。99年モデルからはATがルノーと共同開発されたゲートタイプのものに変わった。これだけは、うらやましい。(ZF製ATは4速へのチェンジがデリケートなので)


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