「ねえねえ室井さん。携帯欲しくないすか?」 「……別に」 「……あっそ」 「……。」 「……。」 「……なんだ」 「……何がすか?」 「携帯。欲しいと言ったら何なんだと聞いてるんだ」 「俺のね、知り合いがね、タダ同然で売ってくれるんだって。最新機種」 「……それで?」 「欲しくない?」 「いや、……」 「……。」 「まあ……欲しい、とも、言えなくも、ない」 「……。」 「…分かったからそんな目で睨むな。欲しい、と言えばいいんだろう?」 「……なんか引っかかるけどまあ良しとしましょう。じゃ、今度の休みは買いに行きましょね、それ」 「……俺も行くのか?」 「アタリマエでしょ。はい決定」 「……。」 『初メール! あ、でも無理して送ってくれなくていいっすよ。勝手に送りますから』 ……それは助かる。お前と違ってこんなもの、上手く扱えないに決まってる。 『おはようゴザイマス。今日は気持ちいいくらい晴れてますね』 …そうだな。その分冷え込んでるみたいだが…風邪引くなよ。 『遅くなりそうっすか? あんまり無理して倒れちゃダメっすよー』 ……君にだけは言われたくない。 『今日も昼飯、すみれさんに奢らされちゃいました。今月、ピンチ。あ、いつもか』 …今度、何か奢ってやる。久しぶりに寿司でも行くか…。 『久々に和久さんが来ました! でもまた説教くらいました。変わってなかったっす』 …どうせまた叱られるようなことをしてたんだろう…。 『飲み会で最後の帆立を食べたらすみれさんに怒られました。怖かった・・・。』 ……食べ物の恨みは怖いからな……特に彼女は…。 『まだ仕事かな? こっちは宿直中っす。あー!暇ー!眠くなるー!』 …平和が一番だろう。特に湾岸署は。 『…室井です』 あ、室井さん? 俺ですけど。 『どうした? 何かあったか?』 いや、別に……何も、ないすけど。 『……珍しく歯切れが悪いな。どうした?』 いえ。ほんとに何でも。……ちょっと聞いてもいいすか? 『……?』 室井さん……今日、何時頃終わるんです? 『…今日か…? そうだな……朝までには何とかってところか…』 そっか……大変っすね。あれでしょ?世田谷の、事件。 『そうだが……本当にどうしたんだ?やはり何かあったのか?』 いいえ。邪魔しちゃってすいませんでした。またメール送りますね。それじゃ。 『おい、あおし……』 ……さて。…帰ろっかな。 「……青島?」 「あ。室井さん。おかえりなさーい」 「こんな時間に何やってるんだ! まさか…ずっと待ってたのか!?」 「ストーップ! 待って、まだそこにいて下さいって!」 「?」 「コレ。ここを、押すと……ホラ」 「携帯…? ……!」 「『オメデトウ』」 「青島……」 「改めて、おめでとございます。一週間も遅くなっちゃったけど」 「お前、まさか……このために新しい携帯欲しがった訳じゃ、ないよな?」 「……嬉しいくせに憎まれ口叩かないの」 「……馬鹿言うな。俺は別に……っ!」 「……今のが、ひとつめのプレゼント。ふたつめ以降は、室井さん次第だよ?」 「……とりあえず、部屋入れ。冷えてるだろう」 「室井さんがあっためてね〜」 「……馬鹿」 「馬鹿ですよ〜? でも、そんな俺も好きでいてくれるでしょ、室井さんなら」 「……ばか」 |