-----So fine!-----
その日は朝からよく晴れた天気のいい日だった。
青島俊作巡査部長――ここ、杉並北警察署に配属されて一月になる――は、ようやく自分の中に感覚として戻ってきたパトロールに向かうべく、席を立った。
「あ、じゃあ俺、パトロール行ってきますね」
椅子に腰掛けて書類をチェックする(ちなみにそれは例によって青島の始末書だったりする訳だが)、先輩にあたる警官に声をかけて。
顔を上げる先輩に軽く手を上げてから、青島は交番の外へ出た。
そして青く、高く、綺麗に澄み渡った空を見上げ、帽子をかぶりながら足を踏み出そうとして・・・慌てて後ずさる。
眼前には――否、眼下には、いつの間にか色とりどりのスモッグの群れが広がっていた。
「な・・・あ、え?」
呆気に取られて思わず間抜けな声を出してしまう彼を見上げて、幼稚園児達はもじもじと互いをつつき合う。
青島はすぐに破顔して、彼らと視線を同じくするためにその場にしゃがみ込んだ。
もちろん帽子も取って、にっこり笑ってみせることは忘れない。
「みんなどうしたのかな? あー・・・なんか、あった?」
覗き込むようにそれぞれの顔を順番に見遣ると(よく見ると朝の通園時間に挨拶を交わしたりする子も混じっていた)、その人好きのする笑顔につられたのか、園児達もはにかむような笑みを浮かべ始める。
子供特有の無邪気な笑顔に、心がほんわりと暖かくなっていくような気がして、青島はますます相好を崩した。
と、一人の可愛らしい女の子が一歩進み出て、何かを言いたげに青島を見上げてきて。
「あの・・・おまわりさん」
鈴の鳴るような声ってのはこういうのを言うんだろうな、などと考えながら青島は優しく返事をする。
「ん?」
「あのね・・・?」
「うん。」
にこり、と笑ってゆっくり返事を待つ青島の前で、女の子はまるで勇気を振り絞るかのように勢い良く後ろにまわしていた右手を突き出した。
驚いてちょっと目をぱちぱちさせる青島の右側から、今度は別の男の子が同じような勢いで両手を差し出してくる。
その手には、何やら紙で作られた筒状のもの。
表面にはたどたどしい字や絵が所狭しと書かれている。
うつむきながら、青島の様子を伺いながら、そしてたぶんどうしようもないくらいどきどきしてる心臓を抱えながら立ち尽くしてるだろう子供たちと、その手のものを見比べて。
青島は柔らかい口調で問い掛けた。
「・・・もしかして、俺にくれるの?」
いったんその目を見上げ、こっくり頷いて、またうつむいてしまう女の子。
他の子たちも同じように頷いては、恥ずかしそうに視線を逸らす。
「・・・あの」
じわじわと、何とも言えない気持ちが込み上げてきて、笑ってるんだかそうじゃないんだか分からない表情になってしまう青島の制服の裾を引っ張って、また別の男の子が。
「ん?」
「あの・・・ね、いつも僕たちを守ってくれて、ありがとう」
「え・・・」
思ってもみなかった形で、思ってもみなかった相手から突然示された感謝に、思わず青島の動きと言葉が止まる。
それとは反対に、ここまできて緊張が解けたのか、開き直ったのか、とにかく園児達はいっせいに、けれど口々にばらばらに青島に向かって声を張り上げた。
「いつもありがとう、おまわりさん!」
「いっしょうけんめい、つくったの!」
「またあそんでね!」
「またね〜!」
告げるだけ告げて、青島が慌てて出した手のひらに筒状のそれを乗せて、子供たちがあっという間に駆け出して行ってしまって。
ほんのちょっとだけ呆然としてた青島がようやく我に返った時には、危うく子供たちが公園の角のカーブを曲がって見えなくなってしまうところだった。
「ありがとなーっ!」
慌てて叫ぶと、振り返った彼らが満面の笑顔で手を振る。
「車に気をつけて帰るんだぞーっ」
青島も同じような表情で大きく手を振った。
子供たちはそれに元気な声で返事をしながら、跳ねるような足取りで、おそらく先生の待つ幼稚園に戻って行った。
見送って、ひとつ息をつき、手の中のものを見下ろそうとすると、奥から青島と子供たちの様子を眺めていたであろう先輩警官が後ろから覗き込んでくる。
「何だ?」
「ええと・・・ですね」
説明しようと振り返ろうとして、その前にもらったものの正体を見てしまった青島は、どこかくすぐったいような、心なしか照れたような顔で笑い出した。
紙でできていると思ったそれは、金属の筒に紙を貼りつけて包み込み、更にはその上から色紙やクレヨンで鮮やかな飾りをつけたものだった。
きっとこれは鉛筆立てなんだろう。
中に入っている手紙には、制服姿の警官と子供たちの絵。
たどたどしい字が、先程もらった言葉をもう一度繰り返す。
『ありがとう』
噛みしめて、じんわりと、自分の中にそれが染み込んでいくのを感じていた青島の肩を先輩警官がぽんと叩いた。
「俺はそれ、去年の勤労感謝の日にもらったよ」
良かったな、とにっこり笑って、帽子を振って出て行く背中が嬉しい。
きっと今からパトロールに行ったんじゃ、あの子たちが帰る時間帯には戻ってこれないから。
無言のまま、笑顔のまま、後ろ姿に頭を下げて。
もう一度鉛筆立てを見下ろした青島は、それから空を見上げて笑った。
沢山の沢山の優しさに包まれている自分がこんなにもシアワセだということ。
だから、まだまだ自分はだいじょうぶ、これからも頑張れるんだということ。
そう伝えたい人たちの顔を順番に青のスクリーンに映して。
青島は、高く、綺麗に澄み渡った空に向かって、晴れやかに笑った。
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確かあれは勤労感謝の日だったように思うのですが。
幼稚園児がね、おまわりさんに、手作りの鉛筆立てをね、
あげてたんですよ。ニュースで。
なんかそれ見てて・・・青島くんももらったのかな〜なんて。
もらったら、じわじわって笑ってくれるんだろうな、なんて。
単に自分がその笑顔を見たくて、
こんな小説(もどき←しつこいな自分)を書いてみたのでした。
あんまり上手くいかなかったような気もするけど・・・。くうう。
小説って、ムズカシイよねぇ・・・。
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