ふと見たらそこにあった。ぼくの目の前にあるラジカセの近くに小さなビスが落ちていた。
「どこのビスが取れたんだろう」とぼくはラジカセを隅からすみまで点検してみたが、
ビスの取れた跡はどこにもなかった。「おかしいな」
「中に付いてたビスが取れて出てきたのかな・・・」ぼくはラジカセを両手で持ち上げ、軽く振ってみた。
カセットホルダーがカタカタと鳴った。とくに変わったところはなかった。変わったとすればぼくの感覚が変わったのだ、
この小さな一つのビスを見たことによって。
それからもラジカセは今までどおり作動した。どこも壊れた様子はなかった。ビスは机のひきだしにしまっておいた。
いつのまにか消えているんじゃないか、と思った。いや、いつのまにか消えていてほしい、と願った。
ビスのことを忘れかけていたある日、ぼくは音楽を聴いていた。ラジカセからはちゃんと音が出ていた。
そのぼくの後ろで母が「あら?」と言った。ぼくは何だろうと思い、母を振り返った。そして母はこう言ったのだ。
「あんた、頭のビスが一本無いわよ」
ぼくは愕然とした。あれはぼくの頭のビスだったのだ。ラジカセの音がぐにゃぐにゃっと壊れたように聞こえた気がした。
しかしぼくはすばやくこう答えていた。
「ああ、そうなんだ」