毛むくじゃらのメロディ



ある日突然、毛むくじゃらのCDが曲がり角から飛び出してきた。

そんなに急いで、どうしたんだい? マドモァゼル

わたしが薔薇を手渡しながら紳士的にたずねると、
そいつは不意にモーツァルトのピアノソナタ第16番ハ長調K545第1楽章をあびせかけてきた。

バトル開始だぜ!

ふたりは互いに防御の姿勢を崩さなかった。
(ポケットのハトが sometime ときどき鉄格子の外に頭を出してはポロッポー!)
見つめあう二人は恋に落ちるのを必死でこらえるのが精一杯だった。

・ 

そして75分後に、目が回ってしまったCDの回転は止まり、力尽きたのだった。
あたりにCDの無残な抜け毛が散乱している。

もったいない

わたしは、ひとつかみ握りしめると、となりの家の波平さんへのお土産にした。

勝った

わたしは勝利の美酒に酔いしれながら最後の備長炭に火をつけた。

きょうも冷えるぜ・・・

セミのぬけがらが、わたしの首筋で静かに崩れ落ちた。

(完)