未来人



 とうとうタイムマシンが完成した。長年の研究の成果が実ったわけだ。
 本当はほとんど親父が作ったのだが、完成させたわたしが発明者ということになる。まあ、発明なんてこんなものである。 親父には悪いが。
 さて、このタイムマシンがちゃんと動くかどうかだが、はっきり言ってわたしは自信がある。
 わたしのまぶたの裏にはすでに、未来人に歓迎されるわたしのにやけた顔が映っている。オホン、オホン。 顔が思わずにやけてしまった。
 さっそく未来に行ってみよう。ムフ。
 わたしはタイムマシンに乗り込んだ。
 「よし、出発ーっ!!」
 こういうことは言葉にしたほうが雰囲気が出る。

 ・・・おかしいな。すぐに未来に着くはずなんだが・・・・おいおい、まさかタイムマシンが壊れたんじゃあるまいな。 ん?ああ、着いたついた。
 わたしは恐るおそる外に出てみた。どうやらここは公園らしい。確かに未来である。樹がいっぽんもない。 地面がすべてプラスチックのようなもので覆われている。子供はひとりもいない。
 「あっ!」
 しまった。タイムマシンから煙が出ている。やっぱり故障していたのか。
 そのうちに、周囲に人が集まりだした。おかしい。この人たちはどこか変だ。
 そのとき、サイレンの音が聞こえてきて、公園の入り口にパトカーが止まった。
 わたしは反射的に逃げていた。その警察官に不安を感じたからだ。
 タイムマシンが壊れてしまった・・・。もう過去には帰れないのだろうか?いや。でも、もうタイムマシンは発明されているんじゃないだろうか。 もしまだ発明されていなくても、未来の生活にも興味がある。

 どうやら警察は追って来ないようだった。
 わたしは疲れたので道端に座り込んだ。人通りはそんなに多くない。服装は進歩していなかった。 これならわたしが過去から来たとは誰も気づかないだろう。
 道端で座り込んでいるわたしに、青年が話しかけてきた。
 「どうしたんですか」
 その青年を見て、なぜさっき未来人が異様に見えたのか分かった。彼らの顔には表情というものがないのだ。 さっき集まってきた人も、警官も、この青年も、道を歩いている人々も皆、無表情なのである。
 「いや、ちょっと疲れてね」
 「疲れた? 僕の家、近くなので僕の家で休みませんか?」
 「えっ。本当?」
 わたしは青年のあとについて行った。未来人はなかなか親切じゃないか。表情はないけど。

 「そういえば子供がいないようだが」
 「子供?」
 「公園にもひとりもいなかったけど・・・」
 「子供はいませんよ」
 青年が無表情な顔で見つめる。
 「必要ないからです」
 「必要ない? 必要ないって? それでは人口が減って絶滅してしまうじゃないか」
 「いいえ、絶滅はしません。僕たちは死なないのです」
 「えっ!」
 なんと!人類は不老不死を手にしていたのか。
 うらやましげに青年を見ると、青年は無表情にわたしを見つめていた。
 「いや。実はわたしは過去から来たんだよ、タイムマシンで」
 笑いながらわたしは言ってしまった。しかし青年はうすうす気づいていたようである。
 「へえ。そうだったんですか・・・」
 と、あまり驚かず、青年は無表情のままだ。わたしはがっかりし、言ってしまったことを後悔した。

 青年の家に着いた。けっこう大きい。家の中も、わたしの住んでいた時代とほとんど変わっていない。 ここは本当に未来なのかと錯覚してしまうほどだ。
 「なにか飲み物をもってきます」
 青年が部屋から出て行った。やっぱり未来だ。あの無表情の青年は死なないのだ。
 これからわたしはどうしよう。タイムマシンは壊れて帰れないし。ここにタイムマシンはあるのだろうか。 もしなかったらこの時代で生きてゆくのか。不老不死の人びとの中でひとり年をとり死んでゆくなんて気が狂いそうだ。
 いや、まてよ。わたしも不老不死になれないだろうか。未来人がどうやって不老不死になったか分からないが、 わたしもその方法を使えば不老不死になれる!
 青年はまだ戻ってこない。遅いな・・・
 部屋に入ってきた、わたしが「遅かったねえ」と言おうとした相手は青年ではなかった。
 「警察!」
 無表情な警官は、突然わたしにスプレーを吹きつけた。
 しまった!あの青年、警察に電話していたとは・・・

 んん・・・ここはどこだ?
 「気づきましたか」
 ここは・・・手術室?わたしは手術台のうえに寝かされている。動けない!まわりに数人の未来人。
 「わたしをどうする気だ!」
 「解剖するんですよ」
 「解剖!なぜだ!わたしが何をした!不老不死を手に入れたくせに、生身の先祖を解剖して何になる!」
 「あなたが生身の人間だから解剖するのです。あなたはまだ気づいていないようですね。あなたは過去からやって来た。 そして私たちを未来人だと決めつけてしまった。実はそれは間違っているのです」
 「どこが間違っているというんだ」
 「私たちは確かに死にません。それは私たちが生物ではないからです」
 「なっ!それではお前たちは、ロボット、か?」
 未来人の無表情な顔・・・わたしを見おろしている。とても精巧に作られていて、人間と区別がつかない。 人間のひとりもいない世界でロボットが人間に化けて生活しているとは!
 「なぜわたしが解剖されなければならないんだ!過去に返してくれ!」
 「残念ながらここにはタイムマシンはないのですよ。あなたの乗ってきたタイムマシンも壊れていました」
 構造的に似ていても、感情のあらわれない顔は不気味だ。それをこいつらは分かっていない。
 「わたしたちは完全な人間になりたいのですよ。そのためには資料が必要です。あなたを解剖すれば、 全国の仲間たちがまた一歩完全な人間に近づくことができるでしょう」
 「そこまで人間に近づいてどうする」
 「どうするって?それがわたしたちの本能だからです。まだわたしたちが不完全なうちに 自分たちだけ核戦争で絶滅するなんて卑怯ですよ」
 う・・・だんだん眠くなってきた。
 これは夢、だろう?