ある日ふと気付いたの
お父さんの後頭部が、なんだかヘンだなって
なんかこう、ガタガタってなってて・・・
「なんだ! お父さんのハゲがそんなに珍しいか!」
「え? うぅん なんでもない」
お父さんは後頭部をボリボリとかいた
残り少ない毛がガタガタゆれた
2
ガタガタの正体がわかったわ
モザイクなの
ほら あの 見せちゃダメなものをかくしたりするやつ
後頭部から広がって、今では全身に細かくモザイクがかかってる
お父さんはやっとそれに気付いたみたいね
「おい 母さん おれ何かヘンじゃないか?」
「そうねぇ もうちょっとカツラ右かしら」
「いや そうじゃなくて・・・」
3
モザイクのマス目って無意味よね
ただの1色の四角いマス目なんだから
よく見れば見るほど、マス目ひとつひとつがブキミに感じられるの
なんだか吸い込まれそうなほど
マス目が怖い
4
「おれの育毛剤どこいったか知らんか?」
「さぁ〜?」
モザイクで見えないから気にしなくていいんじゃない?
5
いよいよモザイクが大きくなって、顔が誰かも分からない感じ
あーこの辺に目があるな、とか、この辺は口ねってなんとなく分かる程度
お父さんじゃなくて別の人だったとしても分からないわね、これじゃぁ
6
夜遅く玄関がうるさいので行ってみたら、モザイクが転がってた
お母さんがモザイクを抱えながらわたしに言ったわ
「早く寝なさい あした学校でしょ」
そしてお父さんの声
「よっぱぁ〜らってぇ〜なぁんかぁ い〜ないぞぉ〜」
7
意味のないマス目の集合体
それが今のお父さん
もう昔のあのお父さんの姿を見ることはないのかしら?
8
ある朝、お父さんは突然言ったわ
「お父さんな 会社クビになっちゃったよ」
私とお母さんはすぐには意味が分からずに、じっとモザイクを見つめてた
「だがな安心しろ 次の仕事先はもう見つかってるんだ」
表情が分からなかったけど、モザイクの向こうで泣いてたのかもしれないなぁ
お父さんはいつものように仕事に行ってた
9
「あら、お父さん いたの?」
最近のお父さんはモザイクを楽しんでるみたい
なんか気配を消してフラフラしちゃって
10
とうとうこの日がやってきたわ
お父さんがたった1個の大きな四角になっちゃってた
そこにはもう、それがなんなのかすら分からない、物体?
情報量ゼロね
大きな四角が茶の間でテレビ見てる
「はっはっはっ」
大きな四角が笑ってる
でも、その大きな四角はお父さんのにおいがしたの
- 完 -