天草四郎時貞像

自転車キャンプツーリング記

灼熱の九州。豊後森と天草〜薩摩半島

2018年8月12〜18日

日記

8/12() 持たぬスマホの旅山陽
岡山駅

支度や行く先々の調べ事で、1時間しか寝られなかった。松本駅から青春18きっぷ輪行の旅が始まり土砂降りの中央本線、木曽路あたりはなるべく眠る。「引き返せなくなった時に、初めてそれは旅になるのだ」とはアニメよりもいの名言だが、この場合は東海道本線の大垣駅を過ぎてからかな。

「ぼーっとしている時間が一番の贅沢なんだよ」…これは古い友人の言葉だ。ケータイ・スマホは旅情を台無しにするアイテムだから持ってきてない。車窓を眺めつつ本当にぼーっとしているしかない。うとうとと大事なことを思い出しては、ふと気づくと忘れている。そんなことを繰り返して、山陽本線の岡山駅まで来た。鈍行は一旦打ち切り、山陽新幹線に乗換える。18きっぷだけで九州上陸するのはさすがにキツいのと、どうせ今は豪雨災害で不通箇所が多いのと、東京発の「のぞみ」はこの辺りで地獄の混雑が解消されるからである。

中津城とさそり座

小倉駅からまた鈍行で日豊本線、ああ日が暮れる。海沿いに大分県に入った所の中津駅で下車、自転車を組み立てる。からあげが名物らしいがもう飲食店は居酒屋しか開いてないし、スーパーの惣菜でいいや。いちおう福沢諭吉旧居や黒田官兵衛ゆかりの合元寺(ごうがんじ)赤壁を見て、中津城近くでゲリラキャンプ。空にはさそり座が浮かぶ。

8/13(月) 今すぐミスミー
耶馬溪〜豊後森map メイプル耶馬サイクリングロード

明くる朝、早速蒸し暑い。中津城をぐるり散歩してから、朝焼けの街を発つ。山国川に沿って南下し、スゴイデカイジャスコを過ぎるとメイプル耶馬サイクリングロードに入る。耶馬溪鉄道の遺構も残る、走り易くて楽しい道だ。青の洞門にも寄り道。パスタソースではない。このへんは昔、合宿で走ったっけ。一人のロード乗りとすれ違う。

サイクリングターミナルとやらには、屋外にトイレと自販機くらいはあって欲しかった。ここから県道28号でさらに南へ登って行く。耶馬溪には本耶馬渓、奥耶馬渓、裏耶馬渓、深耶馬渓、椎屋耶馬溪、津民耶馬溪とあって、ここはシン・ヤバケイ。「一目八景」は紅葉は素晴らしいだろうが、夏場は深くもない谷底から岩場を見上げるだけって感じだ。

豊後森機関庫

標高480mの峠トンネルを抜けると、玖珠町の市街地に入る。まもなく豊後森(ぶんごもり)機関庫が見えてきてテンションアップ。ラブライブサンシャインの聖地で、もう頭の中はHAPPY PARTY TRAINが流れまくり。
「遠い駅で、きっとなにかが待ってるね♪」
まるであやとりの箒のような線形の転車台と車庫で、ガラス窓の割れっぷりが廃墟チックで激萌えである。まだ朝方なせいか、聖地巡礼の同業者は見かけない。店も開いてないが、中にねそべり人形が置いてあるのが見える。

さて「豊後森を観たい」というのが九州に来るキッカケだったから、もう旅の目的は達成した。この先どーすんだ?…どっちへ走っても魅惑的な観光スポットが目白押しだが、ここから汽車に乗って旅立つのが良い。輪行して、駅10時発の久大本線に間に合わせる。単行気動車。日田〜光岡(てるおか)間は豪雨災害から先月復旧したばかりで、バラストが真新しいここだけ乗り心地が良い。

世界遺産三角西港

久留米駅で鹿児島本線の電車に乗り換え、さらに南へ。8分遅れを解消せんとする回復運転がエキサイティングでファンタスティック。熊本駅で無事に三角(みすみ)線への気動車に乗り換え、島原湾の向こうに雲仙普賢岳を眺めながら宇土半島を西へ進む。山奥の石打ダム駅でけっこう下車客がいるのが謎だが、お盆だし親戚一同だろうか。14時半に最果ての駅、宇城市の三角駅着。教会風の駅舎や謎ピラミッドがある。それにしても暑い。日の高い時間を鉄道でやり過ごしたのは正解だった。

せっかくだからワールドヘリテージな世界遺産、三角西港に寄り道する。まぁ写真を撮るくらいだが。いよいよ天草五橋に取り掛かり、まず天門橋で上天草市の大矢野島に入る。買い出しでスーパーに寄ると、BGMにWATER BLUE NEW WORLDのインストが流れてて、ラブライバーにっこり。天草四郎の像は同じポォズで写真を撮り、大矢野橋を渡った永浦島ではシオマネキが見られるらしいので海岸に下りてみる。この浜ではなかったようでシオマネキとは別種だが、先を急いでいることを忘れてしばし蟹とたわむる。

天草五橋 松島橋から前島橋

あちこちにサイクルラックを設置してあるのだが、続く中の橋、前島橋、松島橋…どれも自転車では渡りづらい設計なのが勿体無い。途中ロード乗り2人とすれ違ったくらいか。上島の天草市に入り、道の駅有明あたりで今日のラン終了、走行合計94km。でかい蛸のオブジェがある。たこたこ^〜。

米を炊いてレトルトカレーを流し込み、併設の温泉「さざ波の湯」に入る。水風呂重要、露天からの眺め良し。休憩室のテレビで天気予報を見ると、今日は日田で39.9℃、三角で37.7℃を記録するなど九州各地で史上最高を更新。明日も同様の暑さが続くとのことで、サイクリングは命懸けの特攻になりそうだ。

はるか島原半島の海岸に横一線の灯り。空には夏の大三角からさそり座に向かって天の川。すっかり遅くなった、寝よう。

深耶馬渓一目八景 三角東港 海のピラミッド 雲仙普賢岳と天草ありあけタコ街道オブジェ
8/14(火) 天草道草
本渡瀬戸歩道橋

ああ寝坊、キャンパーが明るくなってから起床するとは何事だ。朝食とインスタントコーヒーというルーチンをこなしてから出撃、ロザリオラインを西へ進む。本渡が天草市の中心市街地、えーでえーで。上島と下島を分ける本渡瀬戸には大きなループ橋の他に歩道橋があり、船が通行する際に中央部がせり上がる昇開橋方式。珍しいので動く所を見たかったが、船の気配がなく断念。国道266号を内陸へ、デッカイジャスコ、亀川ダムを過ぎて南へ、小さい峠をいくつか越える。

葡テ集落

ピストンになるが羊角湾を西に道草。トンネルを避けて小さな半島を回ると、さらに小さな湾の向こうに潜伏キリシタン葡テ集落が見えてくる。一月半前に登録が決まったばかりで出来立てほやほやの、ワールドヘリテージな世界遺産である。道の駅の係員もこれから忙しくなるぞーという体制。駐輪場は街中にある。天主堂は昭和時代のものだが集落のシンボルで、中に入ってみる。キリスト教の教会は初めてで勝手が分からん。手はこうやって合わせるのか?賽銭は5円でいいのか?…。頭の中は賛美歌312番「いつくしみ深き」ががんがん流れているけれど。記帳を見ると、昨日も長野県松本市からの来訪者がいるな。杉ようかんを食ったり、長野県民ならスルー出来ない諏訪神社をお参りしたりして、さよなら葡テ。

小森海岸 烏帽子坑跡

島南端の牛深に辿り着き、まず防風壁が眩しいハイヤ大橋を登る。これ、べた踏み坂だ。橋の途中で下須島(げすしま)に渡り、またいくつかアップダウン。発汗がすさまじく意識が遠のいてきたところで、ハッと我に返る光景。明治期の炭鉱「烏帽子坑跡」だ。まるで海中ダンジョン入口を思わせる坑口は今にも崩落しそうで、美しくも物悲しい。天草観光はいろいろ省略してしまったけれど、ここだけは外せなかった。牛深に戻って郷土菓子「こまきちゃん」を頬張りつつフェリーに乗り、熊本県を離れる。クルマは次便待ちが出るほど盛況だがチャリは自分だけ。ともかく船旅特有の、この染み出すような旅情がたまらない。
(この日、牛深では気温38.2℃を記録したそう)

天草〜薩摩map 長島の向日葵畑

長島の蔵之元港で下船。せーので、かごしまっ! しかしいきなりの坂道続きに、むりー! 道の駅に逃げ込み、島みかんアイスを食いながら茫然とする。暑さには人一倍強いつもりだが、もはやこれまでか。でも先は長いからゆっくりでも進まないと。心拍が上がらないよう気を付けて、しつこく続くアップダウンをこなしていく。島南部の段々畑が美しい。ぼよよん、ぼよよん、だんだん。黒之瀬戸大橋に至り、もうスポーツドリンクはケチらず飲みたいだけ飲む方針に転換。リットル単位で減っていくし、自分史上最大の消費量だろう。大半がPETボトルで、プラスチックごみ削減の時勢に申し訳ない。

薩摩川内市の人形岩

九州本土に復帰しさらに南へ。きまぐれに肥薩おれんじ鉄道の単行気動車が通り過ぎて行く。架線はあるけど、貨物列車が使うのかな? 阿久根市街地に入ったが、明るいうちからキャンプしても暑いだけだし、さらに次の街を目指そう。向こうに見えるのは川内原発か。こちらが先にメルトダウンしそうです。国道3号の333km地点を過ぎて夕暮れ、ようやく汗が正常に機能するくらいに気温が下がってくる。川内市街地に到着するまで、今日はとうとうスポーツ自転車を一台も見かけなかった。こんな日は走っちゃダメでしょうって時に150km余り距離を稼いだ。良く走ったと思うが、明日が心配。

白和温泉という銭湯を探し当て、さっぱりする。公園でゲリラキャンプ、でも米は炊く。

牛深ハイヤ大橋 杉ようかん、こまきちゃん、島みかんアイス、白和温泉 国道3号の333km地点
8/15(水) 奇奇開聞
伊集院駅と島津義弘像

地面からも熱気が伝わる夜でほとんど眠れなかったが、朝になったから出発だ。新幹線のある川内駅で一休みしてから、国道3号を南へ向かう。ゆるゆると昨日の疲れを回復させながら…なんて出来るかなぁ。神村学園がある串木いちき野市だったかいちき串木野市だったかを過ぎ東へ、薩摩半島横断は県道24号を選択。美山という陶芸の里があり、あと謎の廃線跡と交差する(後日調べたら南薩鉄道が枕崎まで通じていたらしい)。伊集院駅前のローソンで早くも大休止。馬鹿力は出そうにない。

鹿児島市に入る。JRきっぷ販売機の駅名検索で「まつも」まで入力するとサジェストされることで松本市民には有名な(?)薩摩松元駅がある。この辺りで、朝から時々ぱらついていた雨が本降りになってきた。少しなら涼しくて気持ち良いけれど、土砂降りは雨宿りしてやり過ごす。予定よりどんどん遅れていくなぁ。

桜島からのフェリー

峠を越え、鹿児島中央駅前に到着。すげえ、巨大かつ賑やかな駅ビルに観覧車まである! ここは九州の果てではない、中心にしてやるぞという気概を感じる。大河ドラマによるフィーバーもあろう。国道終点の碑(3号10号225号)や西郷隆盛像を見て、フェリーターミナルに寄り道。「昔走った道」とこれで接続。ばかばかと距離を稼ぐような走り方をしたのはこのため。自転車乗りのロマンなんだ。桜島山は雲をかぶっているが、行き来するフェリーの乗客と手を振り合うのが楽しい。旅情!

うーん、ボクもここから種子島に渡ってみようかな。残り日程的には可能だが、海が時化てそうだからやめとくべ。昼食は元ダイエーで…あっドムドムがある。鹿児島まで来てドムドムかよと思うが、これを逃すと一生食いっぱぐれるかも知れない。チキンバーガーセット、旨くも不味くもない…。午後のランもゆるゆると開始。路面の黒い砂は火山灰だろうか。産業道路を南へ急行するが、空は土砂降りとカンカン照りを繰り返す。昨日までの酷暑が続けば潰れていただろうから恵みの雨だけど、お肌には優しくない。

知林ヶ島遠景

ずっと錦江湾を左に見る国道226号。自慢のスタミナも今日は絶え絶えで、道の駅喜入、さらに指宿市に入って道の駅いぶすきで休憩。特産オクラの刺さったソフトクリームがシュール。それにしても向かい風が妙に強いのだが、まさか台風が来ているのだろうか。一個前の台風が過ぎたタイミングで九州入りしたからヘーキヘーキと思っていたが。ああもう時間がない。田良岬の砂のかけはしを遠目に駆け抜け、指宿の砂むし温泉もスルー。元湯だけ入ろうと思ったら休業中だ。スーパーで買い出しついでに店のテレビを見ると、画面隅に明日は降水確率80%と出ている。

西大山駅から開聞岳

火山台地のアップダウンをこなしていくと、ついに目前に現れる開聞岳。後方羊蹄山みたいなのをイメージしていたが違う、ちゃんと南の果ての雰囲気がある。そう、あれに登るつもりで準備してきたのだが、天候次第で無理かも知れない。最終判断は明日の朝に行う。JR最南端駅の西大山(にしおおやま)はさすがの人だかり。サクッと撮ってもうひと登り。夕方6時きっかりに、かいもん山麓ふれあい公園キャンプ場に到着。本日走行125km。

かいもん山麓ふれあい公園キャンプ場

ミニゴルフ場を兼ねた、芝生の素晴らしいサイト。せっかく有料のキャンプ場を使うんだからレトルトじゃなくて、ちょとはマシなキャンプめしを作ろうぜ。ひき肉をたっぷり炒めて、豆腐ともやしをぶち込んで、麻婆豆腐の素をぶち込んで…これが私の精一杯。

こんなにだらだらでも、日常の象徴であるスマホをいじくり回しながらの旅とは異次元の密度を感じられるようになった非日常。クラウドに預けていた時間軸が、自分の背骨に戻ってくる。すべての日本人が忘れた感覚だ。

鹿児島中央駅 喜入のエネルギー基地 道の駅いぶすきのオクラソフトクリーム
8/16(木) 砂に還る人の群れは誰も雄弁で
花瀬望比公園

朝日が昇るー、私は旅するー♪…ってキャンプ場晴れてるじゃん。雨予報とは何だったのか。でも開聞岳は分厚い雲に覆われてるし、一度諦めるとずくが出ないから登山は止めた。それなら、昨日スルーした場所に全部寄ってやるんだ。という訳でまず南麓の周回路を行く。海岸の花瀬(はなせ)望比公園には、フィリピン戦線から帰れなかった兵士を鎮める碑や像がたくさん並んでいる。居合わせたライダーさん曰く、昨日台風が来てたけどもう日本海側に抜けたよと。

長崎鼻から開聞岳

スリル満点な細長いトンネルを抜けると川尻集落。こんな南の果てにも、民家にラブライブの痛車が駐めてあるのが嬉しい。薩摩半島最南端の長崎鼻は、崩れたコンクリ歩道が岩場に続いているのが冒険心をそそる。海が時化てて怖いけど。おまけにまた土砂降りがやってくる。今日も目まぐるしい天気になりそうだ。激坂を下りて高波が洗う道を決死の思いで駆け抜けると、山川砂むし温泉。やっぱり指宿市まで来たからには、これをやっていかないと。浴衣姿で砂に埋められ、やがて全身の脈拍が全部触覚に跳ね返ってくる。

山川地熱発電所

市街地にある施設より穴場な気がするけど、掲示物によれば「三月のライオン」の聖地らしい。なるほど、明らかにそれ目当てという挙動をとる兄さんが居るわ。さつまいも蒸しが安くて旨い。あっ、開聞岳が一瞬晴れた。このタイミングで山頂に居た人は歓声を上げたろう。またすぐ笠雲に覆われた。続けて九州電力の山川発電所を無料見学。そこかしこに張り巡らされたパイプが萌え。謎映画を観たり、日傘を借りて内部見学ツアーに参加したり、おまけに記念ハンカチまで頂けた。地熱発電バンザイ!

池田湖

さてゆっくりし過ぎて、午後の予定がタイトになってしまった。薩摩国一宮の枚聞神社(ひらききじんじゃ)をお参りし、朱塗りの社殿に旅の安全を祈る。九州最大のカルデラ湖、池田湖はひと気のある倶多楽湖という風情、って分かりづらいか。花壇が美しい前景となる。どしゃー、また雨宿りだー。

頴娃(えい)から茶畑の広がるシラス台地を北へ、ドリンクの自販機やAコープが有り難い。近道を辿りつつ、知覧武家屋敷に到着。「Chiran Samurai Residence」という標識があちこちにあったもんで、それだけでカッコ良かった。時間なく、石垣の通りをさっと抜ける程度だが。

知覧特攻平和会館前

知覧特攻平和会館の開館時間に間に合い、中へ。数多の遺書絶筆に胸が締め付けられる。館内撮影は禁止だが、これだけ記憶した。
「決して泣いてはいけません。私は名譽ある特攻隊員です。ほめて下さい。笑って下さい。」
私の祖父も特攻隊員だったらしい。いよいよ特攻機に乗り込む順番が回ってきた時が73年前の昨日、玉音放送。わずかにタイミングが異なれば、私の母さえ存在しない世界線だった。

このサイクリングもそろそろ終戦としよう。なるほど飛行場になりそうな平坦な土地から南西へ、広大な茶畑の道を最後の脚力を振り絞って、夕方遅く枕崎市街に到着。本日走行90km。駅前の銭湯で汗を流し、ゲリラキャンプも最後。スーパーの惣菜だけど、枕崎産かつおのたたきを食べる。グルメグルメ。

山川砂むし温泉 枚聞神社 茶畑と開聞岳
8/17(金) 日南去ってまた一難
さいはての駅 枕崎

いっぺん突風でテントごと吹っ飛ばされそうになったが、涼しかったぶん今迄で一番良く眠れた。オリオン座が昇る未明、さいはての駅、枕崎で輪行。もうサイクリングなんてしない。付近の青空美術館とやらを少々散歩してから、指宿枕崎線の2両編成気動車に乗り込む。始めは3人だった乗客も、進むにつれ指宿高の生徒で賑やかになってくる。開聞岳にさよならを。

桜島とハロ

鹿児島中央駅で18きっぷにスタンプを押して貰い、日豊本線への電車に乗り換える。車窓には錦江湾越しに、我が胸の萌ゆる思いに比べれば煙はうすし桜島山。ハロ(円形の虹)が出てる。うとうとしてる間に宮崎県に入り、宮崎駅で日南線への快速に乗り換える。単行気動車で始めは混み合うが、進むにつれがらがらに。

車窓は日向灘で鬼の洗濯板、そして今回の旅で初めて自転車旅行をしている人を見かける。九州一周かな? また鹿児島県に入り、さいはての駅、志布志で降りる。これで三角線と合わせて3つの盲腸線を制覇し、鉄道好きご満悦。郵便ポストには志布志市志布志町志布志と住所表示されている。

さんふらわあ きりしま(旧式)

さてフェリーターミナルまでの1.6kmを輪行チャリを担いで歩くか、いちいち組み立ててまた輪行するか、と思案していたらどうやら路線バスがある。「志布志港入口」行きと「志布志港」行きで到着場所が全然違うのが紛らわしいが、志布志港行きのバスに輪行状態のまま乗せてもらい、無事楽して移動完了。そういえば鹿児島土産がまだだった。売店のかるかんにまっしぐら。

さんふらわあ きりしま。まもなく新造艦と入れ替わる旧式だし錆も目立つが、立派な艦容にテンションが上がる。繁忙期の雑魚寝クラスは地獄なので、早めに寝台クラスを予約しておいた。同室の、汗腺を鍛えてないと思われるライダー達が汗臭いのが難だけど。志布志発なのは、元々宮崎県の秘境や大隅半島を走ろうと考えていた名残である。そちらもいずれ行こう。

志布志港から出航

風呂も激混みになる前にさっさと入っておく。乗船から出航までの間ずっと「さんふらわあさんふらわあ、太陽に守られて行こう〜♪」と洗脳BGMが流されてるので、あーあ、もうみんな口ずさんじゃってるよ。夕方6時、手を振り合いながら岸を離れていく。ボーーーーーーー!! 今生の別れを思い起こさせるような汽笛が、胸にズシンと響く。九州にもさよならを。ここまで遅延なく来られて良かった。あとは大船に乗った気分で。

夕食はバイキング形式。ここで野菜不足を解消するはずがつい、肉肉魚肉肉揚げ物! ぶっちゃけありえない量を取ってしまった。なんとか完食したと思ったら、良く見るとデザートバイキングもあるし。もう別腹別腹。これから吠える40度、狂う50度、絶叫する60度…ってわけじゃないけど、太平洋航路は瀬戸内航路に比べて結構揺れるよ? まぁまだ大丈夫だろう。ロビーでくつろいでいると絵本コーナーに銀河鉄道の夜を発見。藤城清治影絵の素敵なやつだし、読みふける。

8/17() 向日葵フェリーから向日市プラネへ
大阪南港

暗いうちに目が覚め、海岸線の灯りは四国だろうか。やがて東の水平線に朝日が昇る。眩しい島々、淡路島ナゾのパラダイスはあのあたり。フェリーは紀伊水道から紀淡海峡を抜け、ミナミやキタのビル群が近付く。また、こんな旅がしたいなあ!

しかし悪天候の影響で入港は1時間遅れになるという。そんなに揺れたっけ?熟睡していて気付かなかった。やよい軒高槻店で朝食をとる目論みは諦め、次の予定も危ない。大阪南港で下船次第シャトルバス移動、さらに長い通路を急いでトレードセンター前駅からニュートラム乗車。旅疲れの身体に輪行チャリが強烈に重い。地下鉄中央線、18きっぷでJR環状線、京都線と乗り継いでいく。

向日市天文館planetarian

新しくない方の快速に乗り、京都府の向日町(むこうまち)駅で途中下車。輪行袋を駅に放置し、しばらく歩くと神社の敷地に向日市天文館がある。向日と聞いて宮崎県にあると勘違いしていたくらい知らない土地だが、プラネタリウム版planetarianの夏バージョンがここで本邦初公開されている。内容はアニメの投影機修理シーンがばっさりカットされているなど、初見の人には唐突そうな進行だが、劇中の投影シーン再現はプラネタリウムでしか得られない体験だ。館内に職員手作りの「ゆめみの花束」が供えてあるなど、この施設なりの作品愛も多分に感じられた。これで郡山×2や豊橋と合わせて春夏秋冬バージョン揃ったことになる。でももっと、細々とで良いから全国で星の人の系譜を繋いで欲しい。

予定は全て完了。うっかり米原駅を寝過ごしそうになったが、ぎりぎりセーフ。あとは松本駅で輪行を解いて帰宅するだけ。溜まった新聞にざっと目を通してみるが、情報を遮断していた間、大きなニュースといえばイタリア橋がフォーリンダウンしたことくらい。ほんと、自分が生きてようが死んでようが世の中は変わらないって、毎度実感する。自室でネット漬け、外出先でも背中を丸めてスマホをいじくる日常が帰ってくる。当面は暑き旅の七日間を振り返りながら、ブログにまとめていこう。
遠い駅で、なにも待ってはいなかった。

九州map

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