雨の一乗谷朝倉氏遺跡、復元武家屋敷

自転車キャンプツーリング記

御嶽山麓から福井へ

2014年5月3〜5日

経緯

待ちに待ったゴールデンウイーク旅行。毎年の事とはいえ長野マラソンが終わるとロクに運動しなくなるので、再始動のきっかけにしたい。

表富士に行くか渋峠にいくか、さらには野反湖へ? 直前までプランに迷い、なるべく排気ガスの少なそうな岐阜県方面に決定。去年のボツ案だった気がするけど。まだ登ったことがない長峰峠を越え、御嶽山麓から岐阜県を横断して福井へ向かってみよう。週間天気予報もいい感じだ。

御嶽山麓〜福井マップ

日記

5/3(土・憲法記念日) 原野駅 かーらーのー?

中央西線の始発に乗り、持ち込んだ朝刊を読んでから少し眠っているうちに木曽福島の一つ手前、無人駅の原野に到着した。ここで自転車を組み立て、サイクリングスタート。国道19号を福島まで少し下りて国道361号の木曽大橋を渡る。福島から福井を目指す福々ランになるかな。柔らかな日差しを受けた新緑の山村風景が美しく、背後には中央アルプス。のっけから上機嫌だ。

地蔵峠の御岳展望台付近から

問題は、軽キャンプ装備とはいえ今の脚で峠越えの多いツーリングをこなせるか。ちょっと不安だ。まずは飛騨街道の旧道に入り、唐沢の滝を見てつづら登り。やがて峠の風を感じる。この雰囲気が旅。地蔵峠の少し先に御岳展望台があり、御嶽山がどーんと…ちょっと雲に隠れている。低難易度ながら三千メートル級の百名山、今年こそ登山で行けるだろうか。下りた所の開田高原アイスクリーム工房でとうもろこしソフトをワッフルコーンで頂き、明るい開田高原を西へ。あまり峠という感じがしない九蔵峠を過ぎる。そういえばここで蕎麦を食べたことがないが、今回も時間が合わずスルーになっちゃう。

期待通り車通りが少なく、代わりにライダーが多い。沢筋を離れて峠道らしくなったと思ったら、ほどなく長峰峠。景色はない。比較的近場ながら初めて越える県境で岐阜に入る。日和田高原から高地トレーニング地帯。乗鞍岳を望む平地に専用のトラックまである。アスリートって奴はこういう所で鍛錬してるんだろうな。

チャオ御岳スノーリゾート

ここから南へ折れ、御岳西側をさらにガンガンズンズングイグイ上昇。ずーっと斜度7.5%固定の二車線で、時々正面に御嶽山を望む。だんだん残雪が多くなり、柳蘭峠1697mを過ぎてさらに登るとチャオ御岳スノーリゾートが現れた。チャオと言っても女の子向けのマンガ雑誌じゃない。ミーハーなイメージのスキー場、くらいの認識だったが、ここにあったとは知らなんだ。滑り納めの中京人たちで大変な賑わい。イカ娘など様々なコスプレや痛板を多く見かけると思ったら、仮装大会をやってるらしい。キャンプ装備の自転車にレーパンレーシャツでノコノコやってきた私が一番場違いだな。

標高1875mほどの最高点を過ぎ、下りに入るとまだ二車線化してない所もある。濁河峠を下りて丁字路に当たり、左の山側にまたちょっと登ると、濁河温泉がある。「にごりご」って読むのだと途中の標識で知った。にっごりっごにー。標高1800m、通年営業の温泉街としては万座温泉と共に日本最高所を謳っている。やや寂れた感はあるけど。下呂市営露天風呂は茶色の湯の掛け流し。広いのは良いけどそのせいでヌルい。いつまでも入っていたくなる。そんなに時間が押してるわけはないけど、ほどほどに。

御嶽パノラマライン、眼下に御嶽溶岩流

あとは下り一辺倒、ではない。御岳パノラマラインという狭い道のアップダウンで、左手の谷がどんどん深くなっていく。あ、道端にカモシカがいる。それにしても景色すげー。谷越しの御嶽山頂は雲に隠れているが、眼下に溶岩流の台地が続いている様が圧巻。この道を走らずして御嶽を語るなかれ、と登ったこともない私が言ってみる。やがてまともな下り基調になるが、途中で右側の鈴蘭峠に寄り道ピストンする。10年以上前だったか、白装束ハ○ナウェーブの車列が屯していたことで一時的に知名度が全国区になっていた気がする。ただそれだけ。

ようやく道は二車線化し、豪快に下りて行く。道の駅南飛騨小坂は三色のハナモモが見頃。補給食ばかりでまともな昼食を摂っていなかったから、大動脈の国道41号に入りハンガーノック気味で危険を感じる。上呂駅前に今時珍しい瓶ジュースの自販機を見つけ、ジンジャーエールで一服。自炊用具を持ってきてないので夕食は食品スーパーのパンや惣菜で済ませ、萩原の飛騨川公園でゲリラキャンプ。本日の走行距離106km、獲得標高差1930m。近場にまだこんな素晴らしいツーリングルートがあった。百点満点。

道の駅南飛騨小坂のはなもも 上呂駅近くの瓶コーラ自販機 飛騨萩原、飛騨川公園
5/4(日・みどりの日) めいほうからの霊峰
馬瀬川 川上付近

夜中に突風で何度もテントごと飛ばされそうになったが、何とか朝を迎えた。ゲリラキャンプだしケチが付かないうちにさっさと退散。

岐阜県中部は何本もの川が南北に流れるので、東西の移動は峠を越えるかトンネルを抜けるかになる。まず飛騨川を渡って新日和田トンネルを抜け、新緑が美しい馬瀬川の清流沿いに北上。ここらへんの地名、川上と書いてカオレと読む。桜がまだ咲いている道の駅パスカル清見で飛騨せせらぎ街道と合流し、坂本トンネルを抜けると吉田川源流に入る。

水馬洞林道めいほうスキー場からの御嶽山

ここからが地味ながら旅の最難関、水馬洞(みずまぼら)林道。少々のダートは大丈夫だと思うが、荷崩れや熊の出没が心配だ。交通量ゼロだし。しかし既に今年の営業を終了している「めいほうスキー場」からの展望は開放的で、昨日山頂までは見えなかった霊峰御嶽山がくっきり、乗鞍岳も垣間見える。おかげで不安だったこの道が楽しく、上機嫌のうちに中央分水嶺の山中峠1160mを越える。水芭蕉園があるが、他の観光客が「昔の面影が全くない」と言うほど数が少ない。

買い物も通勤もレースもダートツーリングも何でもこなせるランドナー。樹林の隙間に白山を眺めつつ、明るい農村風景のなか国道158号まで降りればクルマやバイクが多い。道の駅荘川は金管四重奏で盛り上がっている。遠くの地でフェスティバル気分に包まれる。これが、旅だ。

国道156号「白川街道」を南下すると、ひるがの高原875mでまた中央分水嶺を越える。昔ここらへんを通った記憶は…ほぼ蒸発してるな。ようやく他の自転車乗りも見かけるようになるが、まだまだライダーに比べれば超少数民族。自転車ブームとか聞くけど、誰かに決められたコースではなく自由にツーリングする、という点では発展途上だろうか。

正ヶ洞棚田

長良川鉄道(越美南線)の終着駅である北濃まで下りて、かつてラーメン屋だった駅舎の軽食堂「花まんま」でおはぎ・きなこ餅セットを頂く。さらに昔、ここから越美北線の九頭竜湖駅に線路を繋ぐ計画があったらしく、その夢を自転車で繋ぎに来た。少し引き返して県道314号の峠道に入る。日本の棚田百選の正ヶ洞(しょうがほら)棚田や日本の滝百選の阿弥陀ヶ滝が脚を止める。それにしても斜度12%という急な峠路、なるほど鉄道敷設が断念されたわけだ。

桧峠960mでまたまた中央分水嶺を越え、本格的な登りは終了。出店のジャンボソーセージでタンパク質を補給し、満天の湯というつるつる系の温泉でリフレッシュする。ここから福井県側に下りるが、石徹白(いとしろ)集落はまだ岐阜県。昔いろいろあって境界が替わったようだ。電力会社の境界は桧峠だし、ややこしい。やがて福井県に入ると、川べりの道なのにガードレールが無くて狭い。

九頭竜峡

九頭竜湖駅併設の道の駅でちょうど17時、親子恐竜の像が首を振って吠えている。ダムを見に行く時間と体力は残っておらず、西へ進む。ここからの国道158号は、険しい九頭竜峡の地形にスノーシェッドが連続する。登り坂もあって汗をかいてしまうが、やがて盆地が見えてくる。大野市街地まで頑張って走行距離137km、獲得標高1930m。またスーパーで買い食いし、適当に見つけた明治公園でテントに身を隠す。

これから登る めいほうスキー場 ひるがの高原分水嶺公園 北濃駅の転車台
5/5(日・こどもの日) 行程300km、夢幻の如くなり
越前大野城

サイクリング最終の三日目は、まさかの雨。体調も今ひとつなので、あわよくば日本海までという強気案は取りやめ、プランBね。福井駅まで観光メインで。

「地図からの脱却」が最近のテーマだが、限られた日程では完全に自由というわけにはいかない。予めルートを頭に叩き込んでおき、旅行中は地図を封印してカンに任せるという方法で擬似的に実現している。それも昨日までで、今日分のルート考察はとうとう手持ちの地図を開いた。
まずは大野市街地の観光から。七間朝市は、まだ始まる時間じゃなかった。御清水(おしょうず)で水分を補給し、チャリを置いて越前大野城のある亀山を登る。こちらも登閣時間ではなく、展望は限定的。ラジオ体操で集まっている老人たちにとっては、体操よりもここまで登るほうが良い運動になってそうだ。

一乗谷朝倉氏遺跡

国道158号の旧道は快適。頑張れ雨のランドナー。稀に越美北線のキハ120形を目撃しつつ、少し南側に寄り道すると一乗谷がある。良く覚えていないがソフトバンクCMのロケ地になっていたらしく、それ以前に言わずと知れた朝倉氏遺跡、栄華を極めた小京都である。復原町並はGW中は入場無料とのことで侵入するがまだ客は誰もおらず、深緑の上下合羽に茶色のバンダナ姿の私は関係者と間違われて、他のスタッフにやたら挨拶されまくる始末。付近は義景館やいくつもの庭園跡が高低差ある遊歩道で繋がる。これだけの町を灰燼に帰すとは、おのれ信長め。

永平寺拝観中

来た道を少し戻って今度は国道364号を北上。急坂を登って宇坂トンネルを抜けると、曹洞宗大本山の永平寺があり、大勢のガチ信者を集めている。私も父方が曹洞宗だから無関係ではないが「宗教とは、心の安寧を商材にした経済システムである」と割り切っているので信仰は薄い。拝観料を払って本堂に賽銭を投げてちゃっちゃと済ますつもりだったので、靴を脱いで説法を聞いて回廊を歩く参拝形式は、ちょっと面倒に思えた。心に余裕を持てれば面白かっただろうに。そもそもここは観光地ではなく厳しい禅修行の寺。先祖代々に思いを馳せつつ焼香の真似事はしたが、理解を深めてまた来よう…。

旨くもない御利益だんごを食って、京福電気鉄道永平寺線の廃線沿いに北へ下りる。最後に越える峠は県道165号の越坂峠。短いながら、山深げな雰囲気が良い。福井市街地の国道8号をちょっと南下して、国道158号の起点を見に行く。そこにはあの信長書店があった。おのれ信長め。ちなみに国道158号の終点は松本市にある。

正午に福井駅到着。本日の走行距離59km、獲得標高差460m。初日から積んでて捨場が無かった新聞をやっと捨てられる。とりあえず輪行袋詰めを済ませ、駅ビルの飲食店で福井名物ソースカツ丼を食うが、満足度はキャベツのある駒ヶ根に軍配かな。となりのシュークリーム屋はうめぇ。あとは列車で松本に帰る。iPadでブログの下書きをしつつ、あこがれの特急サンダーバードで富山までワープ。あとは鈍行で大糸線へ。まもなく北陸新幹線が延伸開業したら、このへんの使い勝手も変わるだろう。

こうして、テントを乾かすための予備日を残してGW旅行は終了。「人気の少ないルートは地味そうだ」という予想を裏切って、多彩で充実したサイクリングだった。ずっと家でふて寝してようかとも思ってたけど、やっぱり出発して良かった。


return むらよしギムナシオンに戻る