むらよし旅日記風サイクリング旅行記

 秋の伊豆天城越え

2000年11月28日〜11月29日 
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秋といえば、伊豆?

 11月ももうすぐ終わり。このまま信州の冬を迎えてしまうのかなあ。いや、その前に何処か行かなくてはもったいない!
 ということで、伊豆へサイクリングの旅に出ることにした。ツーリングの適地として有名な伊豆半島であるが、私はこれまで行ったことがない。それがちょっとした心残りだった訳でもある。
 晩秋とはいえきっとまだ暖かいだろう。紅葉も見ごろであろう。「天城越え」なんてこともしてみたかったし、そして最終目的は……。


11月29日(火) ひなびた伊豆の中ほどへ


 相当な冷え込みの松本の朝、防寒は欠かせない。輪行(自転車を分解して袋詰め)して普通列車で南へ向かう。眠い中、ぽかぽかと暖房の効いた列車に揺られる。これが気持ちいい。
 朝焼けの諏訪湖風景の神々しさ。こんなにも美しい国に住んでいるんだ。たとえば諏訪湖に注ぐ小川の流れ。何気ないように見えても、ひょっとしたらその全てが奪われて涸れてしまう日が来るかも知れない。そう思うと、かけがえのない無常の流れである。
 あまりに駅数が多くてかったるいJR身延線も終着するころ、富士山が近くに現れ出した。上空に北から寒気が押し寄せている…? 白い雲を南東の方向にたなびかせている。

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沼津を出発

 沼津駅で降り、自転車を組み立てる。厚着のままではやはり暑い! 海を眺めながら昼パンを食べて、サイクリングスタート。ここから伊豆半島を縦断気味に南へ向かう。
 空気の悪い国道を走って程なく、伊豆長岡温泉に着いた。伊豆と言えばまずは温泉だろ。200円の公衆浴場でひとつかりする。建物はびっくりするほどオンボロだが、熱くていい湯だ。この銭湯に限らず、温泉街全体が古くひなびている。
 ここまでは万事順調。しかしどうも気温が急降下してきた。狩野川沿いにさらに南に向かうと、雨が! なんてこったい、天気予報では0%だった筈だ。だからカッパなんて持ってきてないんだ。いつのまにか上空に黒い雲。ずっと向こうの空では青空が西日に光っているのに。
 伊豆箱根鉄道の終点、修善寺駅に避難。ここで本降りをやりすごす。駅という場所は好きだからいいけれど。どうやら寒気団が南下してきてしまったようだ。期待に反して、寒い。持ち過ぎたと思っていた防寒着は、丁度良かった。ケータイで暇をつぶす。

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中伊豆の夕景

 まだ小雨残るが、いいかげん暗くなっていくのがいやなので、出撃。道を東にそれて、中伊豆町に入る。民家の点在する、落ち着いた田舎だ。今日はあまり景色を楽しむどころではなかったが、この不思議な天気ならではの夕闇の輝きは格別であった。天城山に向かってひと登りすると、YH木屋旅館に到着。「こ、これか…」。だいたい旅館の名前からわくイメージ通り、古〜い宿である。
 もうひとり、61歳のオッサンが泊まりに来ていた。ハイカーであるが、山登りが目的ではないようだ。ちょっと話が噛み合わないながらも、いろいろ旅の話をすることができた。また、女将のオバチャンも人柄は良く、近くにある万城の滝について教えてくれた。なんでも滝の「ウラ」に回れる所らしい。それは是非行かねば。
 


11月30日(水) あなたと越えたかった天城越え


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滝を裏から

 今年いちばんという冷え込み。今日こそ天気はいいだろうか。昨日聞いた万城の滝へ寄ってみる。別名「裏見の滝」ともいい、滝本体の後ろの岩が窪んでいて、ちょうど人が歩けるようになっている。なんか、あこがれのシチュエーションじゃありませんか。滝越しに空を見るというのは、他ではなかなか出来ない、希少な体験である。

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中伊豆奥地のワサビ田

 国士峠を越えにかかる。途中の山間に広大なワサビ田を見つけた。上流側から無数に折り重なる棚田を見下ろすことができる。はっと息を飲んだ。あまりに静かな山野で、時が止まった気がしたからだ。いつも自転車で移動しながら見る景色は動的である。滅多にチャンスはないけど、こうやって「時を止めてみる」ことができると新たな感動があるんだ。

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天城湯ヶ島の出会い橋

 峠を天城湯ヶ島へ降りると、そこには出会い橋がある。二つの川が合わさるところに「男橋」と「女橋」が架けられていて、あいだにモニュメントがある。角度を工夫して見るとハート型になる。ヤラレタ。
 また道を南下し登ってゆく。浄蓮の滝がある。日本の滝100選のひとつとはいえ、大した景観ではなかった。しかし石川さゆり『天城越え』の歌碑があって、いよいよ気分は高まってきた。「♪くらくら燃える地を這って、あなたと越えたい・・・」
 もう一曲、頭の中を良く流れる。「♪天城越え〜、天城越え〜、手を振る友の姿は〜」そりゃアロハオエでしょーが。
 天城旧道に入ると、道は未舗装になる。古きを偲ぶにはその方が嬉しい。歩いて登っている人も多い。しかし何でこんな所に自動車まで侵入してくるかな…。

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天城トンネル

 これがかの天城トンネル。伊豆の踊り子、純情な恋のものがたり。いよいよ中に入ってゆき、今まさに抜けているんだと感激する。これが旅の最大目的だったからね。前後の紅葉は、まあまあ。まだちょっと早かったのかな?

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伊豆の東海岸

 空腹にならないうちに下田へ着きたいから、先を急いで下りを漕いでゆく。すっかり曇天になってしまった。海岸へ出ると、むこうに大きく島が見えるではないか。その島からさらに南へ向かって列島が連なっている。そうかこれが伊豆諸島の景観か。こっちには断崖が続く。
 だからアップダウンが激しい。刻々とせまるハンガーノックの恐怖と闘いつつ、ヘロヘロになって下田に到着。急いだので疲れたぞ。ラストはフェニックス並木の4車線がサイクリングのフィナーレを迎えてくれた。
 ここで旅の最終目的、とんかつ一(はじめ)に入る。「お客さん初めて?噂は聞いてきたの?」ちょっとだけ聞いたことがある。カウンター席に座り、すすめられるがままにミックス定食1300円。出てきたのはとんでもないボリュームである。それだけではない。どうやらカツ以外はお代わり自由なのだ、というか、頼んでもないのに「旦那さん、どう?いくら食べても値段は一緒だから」と、御飯・味噌汁・キャベツ・スパゲティを追加して山盛りしてくる。味はよく判らない。とにかくガッついてガッついてガッつく。各1〜2回お代わりして「ギブアップ」。苦、苦しい。余は満足じゃ…。

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伊豆急行の普通列車『Alpha Resort 21』

 ここまでお腹いっぱいにしてしまうと、もうちまちまと観光する気もなくなる。とっとと自転車を輪行して、土産を買って、伊豆急行に乗り込む。運が悪くなければ、リゾート21型の車両に乗ることができる。先頭車両が前面ガラス張りの展望室になっており、ほかの車両も海側の席が海側を向いている(!)など、独特の設計である。リクライニングシートではないものの、まるでリゾート特急みたいで、しかしこれが各駅停車の普通列車なのである。これに乗ることが旅の第三の目的?
 展望室に席を確保し、景色を眺めたり日記を書いたりしながら。やがて暗くなって海の夜景へ…。これから山に帰らねばならない。
 身延線では特急を使い、胃もたれ状態のまま、松本に帰宅した。


 伊豆半島はかつてはるか南の海上にあって、それが日本の本州に衝突し、富士山を形成した・・・。そんなことはすっかり忘れたままツーリングしてた。で、この旅で得たものってなんだろう。十分満足はした。まだ伊豆の中で行っていないところが数多く残っているとはいえ。
 結局、言葉ではうまく表現できなくても、伊豆の印象が永く心に残ればよいのであろう。


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