金精トンネル

自転車キャンプツーリング記

松本上田〜吾妻地方〜金精峠〜日光宇都宮〜岩舟駅

2008年8月15日〜8月17日
長野〜群馬〜栃木マップ
8/15(金) ぐんぐん群馬

待ちに待ったお盆休みはたったの4日間。しかもその初日をだらだらと過ごしてしまい、残すところ3日間となってしまった。自転車で群馬、栃木方面へ走ろうとは思うが、ちょっと無理のある計画か。数ヶ月前までの「我こそは体力の勝利者なり」みたいな驕りはどこへ行った。旅が怖い。

そんなわけで少々寝過ごし、10時半の出撃となった。二年ぶりとなるキャンプ装備は自炊セットこそ積んでいないが、いつもの通勤路からして深緑が新鮮に見える。ブログ用にケータイは持ってきたけど、電池を持たすため基本的に無線は封止。
大口沢から国道143号“松本街道”をそのまま進む。照り付ける夏の太陽が暑すぎて、水分を惜しみなく採りながらぐんぐん登る。標高1040m、青木峠のトンネルを抜けて上田市へ降り、国道144号“上州街道”につなぐ。

嬬恋村風景

ここからが長い。鳥居峠への登りがだんだんキツくなる。心拍数の上がり過ぎに気付いて時々休むほど。ふと「荷物たくさん積んで何やってんだ?」と疑問に思ったら「これが俺の生き方なんだ」と納得させつつ、いつしか標高1362mの峠を越えて群馬県に入った。ここまで来れば非日常。
道は“長野街道”と名称を変え、吾妻川沿いに降りていく。嬬恋村の景色が、高原野菜の青々とした匂いと共に開ける。12年くらい前に参加したツールド嬬恋を思い出すなぁ。

大前を過ぎると天候急変、土砂降りになる。道路も川のようになり、靴がぐちゃぐちゃだ。一旦止んで丸岩城の奇岩を見上げたのも束の間、二度目の土砂降りが来てたまらずJR吾妻線の川原湯温泉駅に逃げ込む。「ここで駅寝もアリか」と思ったが、もう少し進もう。時間的に予定していた沼田市への到達は断念するが。峠ひとつ分、明日はさらにキツくなりそうだ。
いつの間にか国道番号が一つ上がって145号になっている。そういえば谷の上方に高速道路のようなものが建造されていた。こんな山奥に通すなんて、群馬県の政治力たるや恐ろしい。(後で八ッ場ダム関連事業だと知った。)

「関東は日が暮れるのが早いなー」と思いつつ、晩飯をスーパーで買い食いしてる間にもまた雷雨が。東吾妻町の岩櫃城温泉で疲れを癒し、中之条町の離山句碑公園に東屋を見つけ、テントをゲリラ設営。ラッキー。本日の走行距離は125kmくらい。
果たして無事朝を迎えることができるのか。この不安感がなぜか好きなんだ。

8/16() 精魂尽き果て金精峠
離山句碑公園

夜中に襲われることなく無事迎えた朝。今日は気合いのレーパンレーシャツに着替えてテントを畳み、薄皮つぶあんパンを食って6時にはずらかる。
国道145号は吾妻線から北東に離れ“沼田街道”となる。“日本ロマンチック街道”とも書かれ、まず朝焼けが美しい。高山村の農村地帯をゆるゆると登り、今井峠740m。峠にはロックハート城がある。信州ゴールデンキャッスルよりちょっとだけ立派かも。

椎坂峠打ちっ放し

沼田市に降り、市街地は河岸段丘の上。国道120号へつなぎ、日焼け止めを塗りつつ次は椎坂峠740m。道端に『12種のソフトクリーム』という看板がこれでもかというほど現れるので、誘惑に負けて峠のドライブインですりおろしりんごソフトクリームを食べる。少しシャーベットみたいな食感が加わり、旨い。峠には開放感ありすぎのゴルフ打ちっぱなしやオルゴールの展示販売などもあり、クルマで来たらのんびりしたい所だ。つーか昔何かのドライブでこの辺通ったことがあるはずだと今更気付いた。

その時に寄った吹割の滝は華麗にスルーし、だらだら登っていった所の片品村で補給食を採る。いよいよ旅の最難関、金精峠への登りに入る。ここからでもざっと距離20km、標高差1000m。半分も登らぬうちに両手が痺れ、暫くの休止を余儀なくする。昨日もいっぱい走ったうえ今日も既に二つ峠を越えているから無理もないか?

丸沼高原菅沼

1キロ1キロが凄く重く感じられ、かつてこれ程苦労した峠越えがあっただろうかと脳内検索してみる。若い頃はもっと体力回復能力があったから…。
また両手が痺れ、あずきキャラメルでごまかしつつリスタート。未開感のある丸沼高原の丸沼、菅沼を過ぎ、14時にようやく標高1840mに登り切った。峠はトンネルだから感動は薄いが、最難関を突破したという事実だけで充分だ。

栃木県側に抜けると湯ノ湖や戦場ヶ原を見下ろせるが、天候はどんより気味。下っていても腕が痺れるし、菓子じゃなくてちゃんとしたものを食べなきゃダメみたいだ。戦場ヶ原のドライブインで、名前からして旨そうなゆばラーメンを食べる。とにかく何でも旨い。

中禅寺湖畔から今日も雨が降ってくる。華厳の滝を華厳にスルーして先を急ぐも、いろは坂で土砂降りの雷雨になってしまった。ジェットコースターのような急坂を、渋滞を縫うように落ちて行く。観光はあまりしないつもりとはいえ東照宮くらいは見て行きたかったが、それどころじゃない。ああ、世界遺産までもスルーか…。

東武日光駅で暫く途方に暮れた後、スーパーで夕飯を買い食いして町外れの温泉『ほの香』の湯にありつく。源泉掛け流しの風呂は極楽だが、外の雷雨がなかなか止まない。これから一体どこにテントを張れるのか、それが最後の難関だ。
休憩室でブログを打ちつつ粘るが、相変わらずの雨に観念して出撃。もう真っ暗な小倉山森林公園を彷徨して、東屋発見! もうここでいいや。本日の走行距離は120kmくらい。雨漏りがするのでテントのフライでしのぐ。不安と空腹で寝付けず、朝食用のパンを先食い。

8/17() ウツだ、食おう

5時の目覚ましで起きて、最後の難関をクリアしたことをさとる。雨は止んだか?微妙なところ。ここも早々にずらかってJR日光の古い駅舎でホットコーヒーを買い、冷えきった体を暖める。

東照宮正面

タクシーの運ちゃんらと話をしているうちに気が変わり、昨日諦めたはずの世界文化遺産『二社一寺』を巡るため、少し登り戻ることにした。神橋のたもとにチャリを停め、小雨の中歩いて輪王寺、東照宮前、フラタニティもとい二荒山神社をお参りする。朝8時の開場までまだ時間があるため内部拝観はできない。「世の中に不満があるなら自分を変えろ、それが嫌なら耳と目を閉じ口をつぐんで孤独に暮らせ」という教えを今に残す(?)見ざる言わざる聞かざるの三猿を見たいというのが旅のきっかけだったから少々残念だが、観光客が押し寄せてくる前の静かな神域というのも良い物だ。

日光杉並木街道

日光を出発して、ギネス級の長大な“日光杉並木街道”を駆け下りて行く。クルマが入れない石畳や未舗装路も、自転車なら自由自在に満喫できるのが良い。『走る男』という番組でこの辺を走っているのを見かけて、自分も走ってみたいなと思ったのも旅のきっかけだった。
やがて杉並木は途絶えても、国道119号“日光街道”は緑の桜並木が続く。嬉しい旅のフィナーレランだ。

という訳でやってきました宇都宮。『茄子 スーツケースの渡り鳥』の舞台ってことはすっかり忘れつつ、こんな時間に開いてる餃子屋なんてあるのかしらと街を徘徊。JR宇都宮駅のビルに老舗『みんみん』の支店があって、丁度10時の開店時間だった。雰囲気じゃないけどここでいいや。焼きと水のセットを注文し、醤油・酢・ラー油をたっぷり付けて頂く。味は良いのだが、期待していたほど実が詰まってる訳じゃない。比較的安いことも人気の理由なのだろう。それにしても何という行列か。あと数分到着が遅れていたら諦めているところだった。NHKの朝ドラ『瞳』に度々宇都宮餃子が出てくるので「食べてみたいな」と思ったのが旅のきっかけだった。余は満足じゃ。

岩舟駅構内

しかし旅路はここで終わるものではない。「栃木って行ったことあるか?」 ぶっ壊れそうな脚をみんみん回して、県道2号を南下するものである。栃木市を過ぎればあと一息。雨が降ったり止んだりと期待外れな天候の下、幾多の困難を乗り越えて、13時過ぎに終着したのはJR両毛線の岩舟駅! 知る人ぞ知る『秒速5センチメートル』の聖地だ。ド田舎の駅。アニメの世界の中を自由に動き回れるのが嬉しくて、駅前の通りを往復したり。しかし名場面たる肝心の駅待合室は、吸殻やゴミでひどく散らかっていた。同じ無人駅でも大糸線海ノ口駅とは対照的だ。

本日の走行距離は85kmくらい。ここで輪行して列車に乗り込む。もう無謀なランをしなくてもいいんだ。普通に帰るだけでいい。
高崎で新幹線に乗り換え長野までワープ。そこから松本までは鈍行。こうして二泊三日とは思えぬ濃厚な旅は無事終了。無事という言葉がありがたい。いろいろ干して乾かすためにあと一日休みが欲しいが、そういうわけにもまいらん。
そして、やっぱり旅に出て多少太ったようだ。


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