マイン坊や

自転車キャンプツーリング記

くりはら田園鉄道跡〜須川温泉・栗駒山〜鳥海山矢島口

2010年8月5〜9日
8/5(木) 竹飾ること林の如く
仙台七夕まつり

ツーリングの準備で毎度睡眠不足。1時間しか寝てないが、電車でうとうとしてれば大丈夫だろう。輪行して青春18きっぷで松本発の中央東線始発に乗り・・・終点が近付くと眠くなる。
新宿乗り換えで、今は湘南新宿ラインってのがあるんだな。直接東北線方面へ行けて便利だ。ただし宇都宮、黒磯、郡山と乗り継ぎが多くなり、福島までロングシート。白石で降りて蔵王山を目指すプランも有力だったが、そのまま乗り過ごすことにする。

仙台が近づくに連れて、浴衣姿の乗客で混んでくる。七夕祭りって明日からじゃなかったっけ? そういえば幼少の頃読んでいた、学研だか小学館だかの星座図鑑の裏表紙が仙台七夕祭りだったような。駅を降りてみると、まさにこれ。大きな竹飾りがたくさんぶら下がっている。古すぎる記憶が蘇り、ジンと来てしまう。乗り継ぎの予定をすっぽかして、アーケード街を歩いてみよう。浴衣の人々はどうやら花火大会に向かっているようだ。あ、アップルストアも発見。

列車旅に戻る。外が暗くなってきて、先行きに不安を覚える。宮城県北部の石越駅で下車し、チャリを組み立て。自炊用具なしの軽キャンプなので、めちゃくちゃ重いわけじゃない。すぐ西の若柳という町でパンを買い、迫川の河川敷にテントを設営する。この暑さで眠れるか。

8/6(金) マインマイン
くりでん若柳駅跡

寝袋使わずに寝てたら体が冷えたが、風邪をひく程じゃない。ゆっくりと支度をして出発。まずは3年前に廃止されたくりはら田園鉄道の遺構を巡る旅。旧若柳駅こそ動態車両など色々保存されているが、線路は踏切毎に分断されコンクリートで埋められている。「鉄路復活の夢をズタズタに断つなんて、ひでえことしやがる」と思ってしまうが、法律上仕方のないこと。駅舎どころかホームすら撤去された駅が多い。勇姿を見たかったなぁ、乗りたかったなぁ。夏の気温はどんどん上がってゆく。

ホソキュリアンの受胎空間

道草を食いながら、最果てが細倉マインパーク前駅。近くの『東京タワーオカンとなんたら』のノスタルジックなロケセット地で時間を潰すと、いよいよマインパークの開園時間である。15年前の合宿で近くを通っておきながらスルーしたのが悔やまれた。廃線の影響でもう虫の息なんじゃないかと、心配で居ても立ってもいられなくなって、来ちゃった。入園料900円を払って門番のマイン坊やに恐れおののきつつ坑道に入ると、外の猛暑と打って変わってたちまち汗がドン冷えに。ボタンを押すと蠢く坑夫人形。前後に他客がいないから、立ち止まって耳をすませば水の滴る音だけだ。

寒さをこらえながら歴史ゾーンが終わると、宇宙が創生される。ホソキュリアンの受胎空間は強烈だし、謎の神社、謎の壁画、謎の骨、謎の地殻変動…。ホソキュリアンが物質文明に鳴らす警鐘とは? 最後は森の精となり、トンネルから排出された。やっとあったまる〜。お、アグネス・チャンや地方局「てれまさむね」のサインがある。てれますねぇ。
昼食にはまだ早い時間だが、併設食堂で日替りトンカツ定食600円を注文。さくさくだしトコロテンも付く。パートのおばちゃんたちが明るいし、案外ここは元気なのかも知れない。さぁ全国一千万のパラダイス・ハンターたちよ、細倉マインパークにカモンカモン!

厳美渓

栗駒駅のある岩ヶ崎まで来た道を戻ってから「鉄路にさよならを」し、うねる台地のアップダウンを北へ進むと岩手県に入る。それにしても暑い…現代人にこの暑さは無理だろ。霜後の滝(そうごのたき)を経由し厳美渓に至る頃には意識朦朧となる。スポーツドリンク2本と持参の梅チューブで意識を取り戻す。渓谷の奇石を見て回る程度の余裕が復活。

ここからかつての合宿コースを外れ、西へ栗駒山を目指す。ポラーノというミーハーっぽいジェラート屋を発見し、誘惑に負けてダブルを食う。夕食と朝食を買い出すため最後の街で商店に寄るが…ろくなもん無く、残ってる菓子パンを漁るしか。まぁよくある話。ケータイはもう圏外で、登り坂は本番へ。

祭畤大橋

震災復旧工事をあちこちでしている。そんなニュース、記憶にあるようなないような。うわっ橋が落ちている。これは覚えているぞ、2年くらい前だ。この道が再開通したのはつい最近っぽいが、真湯あたりの宿は廃業に追い込まれている。にしても予想以上に長い峠道。ツーリングマップルの距離表示間違えてるぞ。一雨降った後らしく多少涼しいが、シャツは汗でびしょびしょ。心が折れて予備食の大福を食いつつ18時過ぎ、やっと峠の須川高原温泉に到着した。

話し掛けてきた従業員の方がとても気さくで、テントの有利な立て場所等いろいろ情報をくれた。露天風呂は広く、ライトアップされた奇岩と夏の星座を独り占めしながら疲れを癒す。白い強酸性の湯で、くたくたの体を溶かし尽くして。標高は1100mくらいで、テント内も涼しくて良い。

8/7() 地獄への階段
栗駒山より東南方向

栗駒山にかかる雲が晴れつつあるので、朝5時半、須川温泉からの登山道を歩き始める。湿原からの見晴らし良好。しかし4kmなら30分で行ける、とタカをくくってたら90分かかった。登山競走のノリで計算すると大幅に狂うな。ともかく標高1627mの頂きに到着。南北に中央分水嶺が連なり、岩手・宮城・秋田3県の境界をなすこの山は、まさに奥羽山脈のド真ん中である。下山も別ルートで90分。草露ですっかり靴の中が濡れた。

また雲に隠れつつある栗駒山と別れ、チャリで秋田県側の栗駒道路を降りてゆく。噴湯あがる小安峡(おやすきょう)を過ぎ、こまち湯っくりロードで登りに入る。なかなかキツくて、名前の通りゆっくり走るしかない。沼が点在する木地山高原を過ぎ左折。遠くから湯気が見えていた地熱発電所を間近に、もうひと登りすると泥湯という小さな温泉街。まさに秘湯の趣だし、水場があってありがたい。さらに続く激坂には「有毒ガス発生中、立ち止まらないで下さい」という標識が。草津にも同様の標識があったが、チャリは呼吸苦しいのにどうしろと言うのか。

川原毛地獄

やってきました川原毛地獄。昨日はパラダイスだったのに、今日は日本三大地獄の一つである。観光客は少なく、より荒涼とした白い山。下側の駐車場まで車道がないので、階段とガレ石の遊歩道を押して降りて行かなくてはならないのが、まさに地獄の苦行? 島根の降露坂ほどじゃないが。
降り切ってチャリを置き、さらに遊歩道を歩いて降りると川原毛大湯滝。滝壺がそのまま温泉となっていて野趣満点。本州にもカムイワッカ並に凄い所があったんだ! レーパンのまま入って滝に打たれてみると、うおっ酸っぱい! 駐車場では秋田名物ババヘラを売っている。一本買ってこ。

院内銀山御幸坑

集落まで下りて、厳美渓以来久々にケータイ圏内に入る。ソフトバンクならではのそんな非日常感も良かったが、ようやく昨日分のブログを送信できた。コンビニで遅い昼食をとり、院内駅を見て西への国道108号を登る。院内銀山遺跡の標識が気になったので寄り道してみる。島根の岩見銀山は世界遺産にもなってるくらいだし、ここも結構な遺跡なのでは?と思ったら人っ子一人居ない・・・理由が判った。夥しい虻がスクランブルで襲ってくるのだ。慌てて虫除けスプレーを脚からかけるが、脚がダメなら腕、腕がダメなら顔、顔がダメなら耳の穴まで襲ってくる。辛うじて数枚の写真を撮って、あとは逃げ帰るしかなかった。(東北有数の心霊スポットであることを知ったのは後日。)

松ノ木トンネルまでに体力を使い果たす。道の駅鳥海郷に「テントを張って下さい」と言わんばかりの広い芝地があるし、もっと先まで行きたかったがどうしよう。とりあえず道の駅の食堂で牛肉コロッケを2つ注文。閉店間際に悪かったが、揚げたてサクサクで旨い。もうここまでにしよう。隣のスーパーへ買い出しに行くと、またパンしかねぇ。ご飯物が食べたいよう。

細倉〜栗駒山〜鳥海山マップ
8/8() チョーカイテイオー
矢島駅裏手

矢島街道を下るうちに左手に鳥海山が見えてくる。今からあのてっぺんまで行くんだ。天気はどうなるかな。20kmほど走って矢島駅前に到着。こっちにも駅の裏手にテントを張れそうな広場があったんだ。まぁいいや、ここまではウォーミングアップってことで。駅でひと休みし、由利高原鉄道に乗りたい気持ちをグッと抑えて出発。

街のパチンコ屋前。この辺が鳥海バイシクルクラシックという自転車ヒルクライムレースの、2ndステージスタート地点のはずだ。時刻は7時半、チャンピオンクラス気分でコースを登り始める(実際のチャンピオンクラススタートは8:20)。さっそく見晴らしの良いところで足を付き、写真を撮ったりするが。ロードレーサーが1台先を行く。キャンプ装備じゃとても追い付かないや。

秋田県道58号木境展望台付近

右折して県道を離れると道は狭く急になる。正面左に鳥海山。辺りは長閑な農村地帯だが、所々パワージェルやアミノジェルの残骸が落ちているあたり、一週間前は合戦場であったことを物語る。もう暑くてボトルのドリンクがみるみる減っていく。広い新道を右折すると、けっこう下り坂もある。まもなくハーフクラスゴールの花立、1時間15分くらい。レースならもう失格のタイムだ。
時々休んでは心拍を落ち着かせたり、パンを食ったり、予備のドリンクをボトルに補充したり。木境展望台からは丘の風力発電所群と、本庄市街越しに日本海がうっすら望める。道は観光道路かと思いきや、1.5車線で交通量は少ない。ヘタりながらもギアをインナーローまで落とすのは何とか堪えながら、ブナの林を登っていく。下りてきたクルマの人に「さっぎ駒の王子で小熊いだから気をつけれ」と言われるが、ここまで来たら引き下がれない。せいぜいベルをチャリチャリ鳴らす。駒の王子を過ぎ、空が曇って涼しくはなったのだろうが、まだ苦しくてしょうがない。丸々3時間かかってやっと標高1,200m、祓川駐車場にゴールした。昼食にパンを食う。

鳥海山雪渓歩き

ここが鳥海山矢島口の五合目。さらに歩いて山頂を目指すことになるが、レースのついでに寄れる美ヶ原や乗鞍岳のような生易しい登山道ではない。時間が掛かるのを覚悟で、登山者カードを提出してから取り掛かる。昨日の栗駒山はここの予行演習の意味もあった。

始めは竜ヶ原湿原の木道。続くタッチラ坂は急登。六合目の賽の河原はひんやりした雪渓歩き。七合目の御田まであっという間。雲を抜けたのか晴れて暑くなってきた。山頂もハッキリ見えてくる。
八合目七ッ釜あたりから山形県に入る。明るくて変化に富んだ登山道だが、さて水場ってどこにあるのだろう。もしかして雪渓から融け出している濁った水を飲めってことか。他の登山者に聞いてみたら、どうもそれが山ヤの常識らしい。

鳥海山新山

行き交う登山者と挨拶をしつつ、山頂は少しずつしか近付かない。軽装な私を見て「トレランですか?」「タイムアタックですか?」と言われるが、歩くのがやっとでもうだいぶへばっている。九合目氷の薬師から道は芸術的な三列石畳になる。どうやって敷き詰めたんだろう。いよいよ脚が上がらなくなってくる中、ようやく許容範囲内の水場があって命拾いする。ラストは舎利坂という急な鎖場。どうにかクリアして、外輪山の頂点、七高山(しちこうさん)2229.2mに至る。下界は曇って見えないが、絶壁が南へ続いているのが圧巻。

このまま引き返したい体だが、内側の新山の方が数メートル高いから、煙人間としてはあっちにも行きたい。絶壁の外輪山を降りてまた登るのが一苦労。2m級の岩がたくさん積み重なった山で、下の空洞をくぐったりしつつ新山2236mにやっと立つ。虫が多いしタバコをふかす人もいるので長居は出来なかったが、目標達成は嬉しい。七高山に戻っていざ下山。膝が耐えきるよう祈りつつ急行し、竜ヶ原湿原の木道まで戻ってきた時の安心感と言ったら。往復5時間半掛かり、登山者カードに無事下山のサインをする。

日本海と飛島

非常食のカロリーメイトで腹を繋ぎ、チャリで象潟方面へ下山。時々振り返ると、雲が晴れた夕刻の鳥海山が雄大である。こっちからだと七高山と新山が割れて見えるのね。日本海には飛島が浮いている。右手には九十九島かな。18時過ぎに象潟の街に降り着き、海水浴の予定は諦めてキャンプ場へ。有料1300円だが朝8時までに撤収すれば無料、という解釈で良さそうだ。
スーパーでやっとご飯物である寿司を半額で買い食いし、1.7km北にある道の駅が『ねむの丘』という温泉施設。濃い塩泉にサッと入る。コンビニでもう一腹満たし、もう走らない。

8/9(月) ヘイ 新潟 ハイジァラバウェー
象潟キャンプ場

海沿いでのキャンプは予想以上に蒸し暑く、何度も起きた。朝が来ても全身筋肉痛だが、鞭を打って撤収し象潟駅で輪行。18きっぷで羽越本線上りの始発に間に合わせる。酒田〜村上間は電化路線なのに気動車のキハ40系が運用されている。ロングシートの電車よりゃずっと良い。
短パンだと昨日まで酷使した膝がクーラーで冷えてしまうのが困る。新潟での長い待ち合わせ時間は、駅前や電器屋をうろうろする。快速くびきの号で青海川眩しく、新井で信州色の普通列車に乗り換えれば長野県に帰れる。列車は信越の高い山々に分け入っていく。

今回の旅は往きの列車内でもコロコロ予定が変わったりした。川原毛なんて当日まで地名も知らなかったが、あの秘境感は東北サイクリングに持つイメージそのものだ。終わった時に全てが無駄に思えたらどうしようなんて考えていたけど、密度の高い旅の充実感は確かにある。そして、より高いレベルの自由が欲しければより高いレベルのトレーニングが必要だとも痛感した。ええっ、まだやるの?
長野県の松本に到着し、アパートの2階にチャリを荷物ごと押し上げれば、何もかも無事に帰宅。


付録

ブログフォトアルバム→2010/08栗駒鳥海サイクリング&登山
36枚。当旅行記ページに紹介し切れなかった写真を掲載。

return むらよしギムナシオンに戻る