苗場山池塘群

Naeba Mountain Haraigawa Course

苗場山祓川コース山小屋泊 登山日記

2011年10月1日〜10月2日

日記

10/1() 湯沢の男

松本から越後湯沢まで鉄道で行くのは意外に遠い。長野から新幹線乗り継ぎが最速だが料金が高すぎるので、直江津から北越急行ほくほく線を使うことにした。特別急行はくたか5号は長大トンネル群を時速160kmでぶっ飛ばす。車両が気密構造になっているとはいえ気圧変化が耳に来るので、ビジネス等で頻繁に乗る人は大変だろう。

越後湯沢駅で、関越道を使ってやってきたサイクリング部時代の友人HM君、O君と落ち合う。もう一人のHA君が遅れて来るようなので、先にエキナカで昼食を済ます。「魚沼の畑」という店のバイキング定食800円はおかず食べ放題なのが嬉しい。肉とかないけど豆類はあるので登山前の栄養補給はバッチリだ。こんな店が松本にもあったら月イチで通うのになぁ。ああ、登る前から食い過ぎてしまった。やがてHA君も駆けつけ、クルマで苗場山林道へ。

かぐらゲレンデ付近

苗場、ナエバ、Naeba。とんでもなくミーハーな響きだが、登山の対象としては相対的にマイナーだろう。いざ、かぐらスキー場かぐらエリアのゲレンデ駐車場から祓川コースで歩き始める。関東地方からアプローチし易く最もスタンダードな初級コースだが、時々小雨がぱらつくので装備の選択には迷う。私は登山用ザックではなく大きめのデイパックでカバーがなく、着ている合羽の中にも入らない。「中村、荷物の準備がなっとらんぞ」…いいもん、熊よけの鈴を持ってきたの僕だけだもん。

上ノ芝付近

始めはぬかるみを避け車道を歩く。急いではいないけど、明るいうちには山頂に着きたいな。和田小屋前のポストにHM君が書いてきた登山届を提出し、いよいよ山に入る。道は沢登りに近い様相で、展望もなくやや単調。私の使い古しトレッキングシューズでは足元に油断するとすぐ浸水してくるから困る。下ノ芝など木道が良く整備された湿地帯もあり、そこは快適。また、この天候では日本百名山といえど行き交う人が滅多にいない。合羽の着脱を繰り返しつつ、中ノ芝、上ノ芝あたりは少し秋色になってきている。相変わらず霧雲の中で、雨雲っぽくないのが救い。

さすが(かつての)体力自慢が揃ってるだけあってハイスピードで神楽ヶ峰まで登りつく。特に先頭を行くO君がびっくりするほど飛ばすので、マラソン趣味の私でも頑張らないと置いてかれる展開。ここから楽な稜線区間を雷清水まで下って、さぁ最後の登り返し雲尾坂。これがキツイ。O君がとうとうスタミナ切れとなり、ようやくまともなペースの一行となる。頑張れ。

苗場山頂

「もうちょっと、あと30m!」とか言いながら、けっこう遠かったり。山頂湿原の木道まで辿り着いてしまえば、もう坂は無い。ここで青空と太陽が現れて喜ぶが、束の間だった。また霧の中、広大なはずの高層湿原は明日見よう。新潟県側の山小屋(休業中)の裏に三角点があり記念撮影。木々に囲まれ展望はない。ここから少しぬかるみに困りながらも長野県側の山小屋「苗場山自然体験交流センター」に到着。これかー。コースタイム4時間15分より1時間近く早着し、まだ充分に明るい。けっこー寒いし靴は濡れてるし、チェックインしたらもう外に出る気はしない。温度差でメガネが曇る曇る。記名の手指がかじかむかじかむ。

一泊二食付きで8500円。8月のツーリングではあまり果たせなかった「大震災に遭った栄村にお金を落とす」という目的はこれで達成かな。天水による蛇口はありえないくらいチョロチョロとしか出ないが、水の有り難みを思い出すいい機会だ。山道はあれだけ静かだったのに、小屋には団体もいてうるさいくらい。山登る人ってどーして声がデカイんでしょ。苗場山域にはキャンプ地が無いし、生まれて初めて山小屋泊を体験する。寒い思いはしないし、夜行フェリーの二等よりは広いテリトリー。となりのオッサンがやたら話しかけてきたりミカンくれたりする。一人の時なら良い情報交換の相手となるが、今回は年に一度会うか会わないかの旧友四人パーティー。水入らずにしたい気持ちもあるんだよなぁ。笹団子ひとつ返しておく。

夕食はおかずバイキングとカレー、おかわり2回。これでもかっ。持ち込みの酒も少々飲み、20時前には消灯。ああ、山頂泊って9年ぶりだったっけ。

苗場山マップ
10/2() 池塘秋登山

やや固い布団が丁度良く、よく眠れた。4時半前に目を覚ますと真っ暗。まだ誰も起きていないのか。そろそろと抜け出し、ヘッドライトの灯りでヒゲを剃る。続けて目覚めたHMが玄関の気温計を見てきて、マイナス2度だと教えてくれる。Oも起動。HAは日頃の激務があるようで寝かしとこうかと思ったが、起きてからの行動は速かった。

苗場山祓川下山口での御来光

外に出るとオリオン座をメインに、数多の星が徐々に白く溶けてゆく。期待に違わぬ好天で、下界の街明かりも見える。パーティーは山小屋を離れて少し東に歩き、台地のヘリ、祓川下山口まで来た。うおお、こんな高度感のある所だったのか。左には十日町や六日町方面が雲海、神楽ヶ峰やカッサ湖が眼下、右に谷川連峰。奥は越後三山や奥会津の山々、「その向こうにあるんだ」とどうしても意識してしまう福島・・・。寒い中、少しずつ明るくなるけどけっこう待つ。北に南に流れる雲の層があってさらに若干遅れたが、5時40分過ぎに見事な御来光を拝むことが出来た。山に来たらやっぱこれだよね。

朝日と苗場木道

さぁ戻ろう。うわぁ、朝焼けに輝く山頂湿原! 無数の池塘が点在する台地は驚くほど広大で、当初想像していた美ヶ原的なものとは全然様相が違う。これが苗場山だ。コクド堤のプライベートゴルフ場だと言う冗談も。振り返れば池の一つに朝日が写り込んでいる。宿泊客の多くはこの辺で来光を見ていたようだ。山小屋の裏にもちょっとした展望所があるので寄ってみると、秋山郷の集落を眼下に、鳥甲山(とりかぶとやま)にはこちらの山影が写る。

龍ノ峰近くから山小屋方面

これでもかってくらい朝食をとり、7時過ぎに出発。青く近い空に明るい高層湿原。風はない。言うこともない。ただ素晴らしい。これじゃフィルムがいくらあっても足りないね。まぁデジカメだけど。西に遥か北アルプスや北信五岳を遠望しながら、せっかくなので湿原地帯の西南側にある龍ノ峰まで足を伸ばす。少し下っているが、平坦に近くほぼ木道で歩き易い。赤や黄色に色付いた植物もあり、秋の山らしい。夏には五月蝿いであろうブヨはもういなかった。龍ノ峰自体は展望の効かない場所にあるつまらない三角点だったが、途中にビューポイントもあったから良かったとしよう。引き返す途中で歩きながらカメラを操作していたら派手に転び、弁慶の泣き所を打って涙目。それ以上にSDメモリカードがダメージを負ったらしく…。最後にもう一度山小屋のトイレを借りていく。

雲尾坂を振り返る

さよなら、不思議な光景の苗場山。昨日登ってきた新潟側の祓川コースを引き返す。良く晴れて景色を堪能できるぶん、道がダイナミックに見える。雷清水から山頂を振り返ると、もし昨日見えていたら「今からこれ登るのかぁ?」とナエること必至の山体である。雲が少しずつ増え、それ以上に増えているのが登山者。天気良いしね。昨日の静寂が嘘のようだ。

上ノ芝顕彰碑付近

樹林帯に入ると単調になる登山道。今日もOを先頭に羽根のように丘を下り、あっという間だった。隘路での行き違いは登り側が優先だが、向こうがこちらの勢いを察して「先にどうぞ」と待ってくれる事が多い。「すいませーん、ありがとござまーす」。途中下ノ芝で小休止した程度で、もうスキー場のゲレンデ、和田小屋まで降りてきた。水場に大きめのブラシが置いてあって、靴やズボンをゴシゴシ洗えるのがすごく嬉しかったりする。山頂では使う機会がなかったHM持参のコンロでお湯を沸かし、コーヒーで一服。

へぎそば

もうちょっと下って駐車場に到着したのが11時半。あとの運転は任せた。国道17号沿いにある三俣温泉「街道の湯」で湯水を湯水の如く使い、露天でユックリ、着替えてサッパリ。山はもう曇り空で、良いタイミングの登山だったと思う。越後湯沢駅の「小嶋屋」で、海藻つなぎのへぎそばを昼食にしてから解散した。あぁ。

復路については時刻表を山頂に携行してまであれこれ考えていたが、結局時間と料金のバランスで往路と同様にはくたかの特急券をポンした。その発車まで時間があいたので、湯沢温泉街を散歩する。今風の小ギレイなエキナカに比べ、そこを一歩出れば30年前にタイムスリップ。エキナカに客を取られて加齢が加速してるんじゃないかと心配になる。とはいえ何も買わずに戻り、はくたかに乗車する。直江津駅からは鈍行。長野電鉄前の立ち食いそば「しなの」でうどんを食い、姨捨の夜景を見つつ松本に帰る。何もかも無事に。

SDメモリカードが無事じゃなかった。取り込み時にMacがカーネルパニックを起こしてデータを消失してしまう。レスキューソフトで何とか半分は取り戻せたが、失われた中には「これはベストショット」と自賛していたものもあったので残念。永遠に記憶の中へ。

元々8月の秋山郷ツーリングで副案として考えていた苗場山登山。それがツイッターの何気ない呟きから友人を巻き込んで復活し、形を変えて実現した。予定日が近付くにつれ天気予報が悪化したのでどうなることかと思ったが、うまい具合に回復してくれた。またそれ以上に、呼び捨てで冗談を飛ばし合える仲間とこういう馬鹿な行動を供に出来るって、自分には希少なもの。またあるといいな。翌日には山頂に5センチメートルの雪が積もったという。


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