遠山川と南アルプス

自転車キャンプツーリング記

その先の長野へ。南信編 しらびそ高原と茶臼山

2012年4月28〜30日

日記

4/28() その先の長野へ。南信編
松本城から北アルプス

いつも通りの朝飯を食い、いつも通りの時刻に、いつもの北アルプスを眺めながらチャリで出発。でも今日向かうのは職場じゃなくていい。松本から五千石街道、旧三州街道を経て善知鳥峠を越えれば「その先の長野へ。南信編」の旅が始まる。五月の4連休に予定していた旅程だが、そっちの天候が怪しいので急遽四月の3連休に前倒しした。準備が面倒だし軽荷で楽をしたいので、近年の例にもれずまた自炊用具を持たない軽キャンプ装備である。朝は冷えていたのにどんどん暑くなり、辰野の湧水「徳本水(とくほんすい)」が美味い。

伊那を過ぎて駒ヶ根へ。ジョギングだとここまで来るのに一日がかりだが、チャリだと11時には着く。昼飯はやっぱりソースかつ丼。この時間に開いている店の中から「やまだ」を選択。微妙な問題点はあるが、旦那の腕は確かでまぁ旨かった。

与田切川と中央アルプス

正午を過ぎると真夏のような向かい風。左手には南アルプスを遠望し、右手には中央アルプスが間近に迫る。こんなに暑いのに、山脈はまだ多く冠雪していて妙。やや西に登った飯田線七久保駅に寄り道して、また谷へ下りていく。新緑も鮮やかで旅らしくなってきた。「つつじ祭」のノボリに惹かれて台城公園(松川町大島城跡)へ行くと、花はまだだが平山城の遺構がよく残っている。

天竜川を渡れば初めて訪れる豊丘村&喬木村。特に変哲もない村? この先ケータイが圏外になるだろうと、エーコープで買い出しついでにブログを先に打って送信しておく。そんなに到着を急ぐ必要もないしね。ここから県道251号を山へ向かう。沢沿いの狭い登り道が何だか楽しい。日陰が多くて助かるし、ウグイスの声が聞こえる。走る喜びが蘇りつつあるな。氏乗(うじのり)集落からバイパスと合流して広くなっちゃうんだけど。そろそろお疲れだし、塩分不足でヘロヘロになってきた。

矢筈ダム公園キャンプ場

本日の走行距離109km、獲得標高900m。
矢筈ダム公園キャンプ場に到着。夏休み中以外は無料とのこと。河原でオートに混ざるのもいいが、奥の方の静かなサイトにテントを設営する。山鳩の声を聞きながら、パンや天ぷらを夕食にする。梅チューブは基本。これで生き返る。あれ、ケータイ電波バリ3じゃん…むしろ残念。明日も好天&元気でありますように。暗くなったらさっさと寝る。

4/29() まさに蛇洞

おにぎりやおやきを朝飯にして、出撃準備。早朝の野外で歯を磨く雰囲気がたまらない。乾燥してるのかテントが濡れてないのは助かるが、道中は喉の渇きに注意だな。

赤石峠(トンネル)

走り出してすぐ、山奥に突如巨大構造物が現れる。三遠南信道の先行開通部分だ。この矢筈トンネルを通れれば楽なんだけど、チャリはダメ。ほとんど自転車道と化している旧道を登り、狭く長く真っ暗な赤石隧道で伊那山地を東に抜けると旧上村に降りる。熊を警戒したけど居たのはカモシカだった。上町宿から北に登り直すとやっと矢筈トンネルの東側に至る。

今日はレーパンレーシャツ体制。蛇洞林道経由でしらびそ高原を目指す。そんなに急でもない舗装路で登り易いが、ゆっくり行こう。大自然の中、谷の向こうの稜線を眺めながらスローで走っていると、どんどん自分がちっちゃな存在になって溶け込んでゆく。自転車ツーリングならではの感覚が蘇る。大鹿村地蔵峠からの道と合流すると最後の登り。1995年サイクリング部のゴールデンウィーク合宿で通り、初めて生きてることを実感した記念すべき場所だ。今でも私は生きているか? ちょっと自信ないけど、レースとかでたまに「命を、燃やせ〜!」と心で叫んでいるよ。

体が全て登ることに集中している感じが良い。やがて前方にハイランドしらびその建物が見えてくる。斜度は緩いけど、道の雰囲気は高ボッチに似ている気がする。

しらびそ峠

左手にちょっとした切れ所、しらびそ峠に到着。まさにむらよしが選ぶ日本一の峠!高度差のある谷の向こうに、聖岳を主に左右に広がる南アルプスの冠雪した稜線が間近である。今日は雲一つない青空に映え、あんパンをかじりながら感動しっぱなしだ。「しらびそ峠 1833m」の標識前は次から次へとやってくるライダーの記念撮影順番待ち状態となっている。口々に「疲れたー」と言いながら。

名残惜しく峠を離れ、ここからもちょっと急な坂を登るんだよね。路肩には雪が残っている。ハイランドしらびその園地がほぼ最高地点。南アルプスの反対方向には、さっき越えた伊那山地の向こうに中央アルプスもバッチリ眺められる。左には恵那山、そして明日登る予定の茶臼山もうっすら尖って見える。こっちの南アルプス展望場所は天空の喫煙所となっているので、落ち着いて眺めるならやはり峠の方が良いだろう。

ずいぶん長居してしまった。きっとこの先も絶景、さぁ南アルプスエコーラインを下りましょ。緩い坂の途中は、近年になって日本唯一のクレーター地形と確認された御池山隕石地帯。言われてみればそんな気もする。岩のひび割れがクレーターの中心に向いてたりするんだって。少し登り返してからは急坂下りとなる。コンクリ舗装もあって、ブレーキを握る手が疲れるくらい。逆にこれを登るヒルクライムレースがあったようだけど、大変だったろうな。

日本のチロル下栗の里おおぎびら展望台

日本のチロルのビューポイントとしておおぎびら展望台が整備されており、狭い遊歩道をすれ違い譲り合いしながら10分くらい歩く。おお、パンフレットにあるような、つづら折りの急斜面にへばりつくような下栗の里の風景が目前である。いったいどうやって生活しているのか、我ら観光客はただ有り難がって写真を撮るばかりだ。つーか見られ続ける側の気持ちはどうなんだろう。まぁせいぜい遊歩道整備の募金箱に五百円玉をブチ込んどこう。

上町宿に戻る道へ迷い込まないよう注意しつつ、さっき見たつづら折りを実際にチャリで下ってゆく。住民たちは畑に種を蒔いている。遠山川の清流を眼下に、背後には聖岳と光岳。新緑に点在する下栗の集落。極上のツーリングシーンが続く。

旧木沢小学校の職員室

時間を掛け過ぎて、ここでお腹が空いた。国道152号まで下りた所の梨元ていしゃばで遠山鹿丼を昼食にする。硬めのジンギスカンを卵で綴じた感じ。ここは遠山川や北又沢に伸びていた森林鉄道の起点だった土地らしい。ロマンがあるなぁ。食後、少し南へ進むと旧木沢小学校の木造校舎が見学自由とある。せっかくだから寄ってみると、作文やドリルが雑然と机上に置いてあったり、最後の卒業生の黒板書きがそのままっぽくなっていたり、まるで時が止まったかのようだ。BGMに埴生の宿や早春賦、北上夜曲が流れてるし、あまにのノスタルジーにこれ普通、泣いちゃうよ? 展示品に手を触れないで下さいみたいな野暮な注意書きが無いのも良い。ちなみに引越のサカイのCM 2011年「感動がエンジン篇」ロケ地にもなったとのこと。

平岡ダム湖(天竜川)沿い

旧南信濃村の中心、和田宿に入る。サイクリング部の合宿でキャンプしたのは小学校だったっけ、中学校だったっけ。高台に観音霊水があり、日本一の硬度だのパワースポットだのと妖しさ大爆発な雰囲気。いよいよ時間がなくなってきたので温泉はスルーして急ぎ天龍村に下り、県道1号で天竜川を遡る。平岡ダム湖沿いに走る飯田線の線路が美しい、山深いアップダウン。これでも上流には伊那盆地や諏訪盆地があるんだぜ。

阿南町。長野県の自治体で唯一、町を「ちょう」と読む。ともかくいっぺん通り過ぎて南宮橋を渡り、温田駅に寄り道する。ただ泰阜村を走ったという実績が欲しかっただけ。阿南町に戻ってスーパーで買い出しとブログ送信を済ませ、あとは町内の森林公園キャンプ場に向かうだけ…。だがまず役場までけっこう登るのでヘロヘロ。国道151号「祭り街道」もアップダウン&トンネル。工事が多く、通れただけラッキーだったらしい。森林公園へ川沿いに向かう道は通行止めで、さらに国道を進むことにした。

これがまたずっと登る! 予想外に急なのは、事前の地図読みが甘かっただけか。前方にループ橋を見るにつけ心が折れ、明日の補給食にするつもりだったドラ焼きを食う。時にはツラい事があるのもサイクリングのうちだよね…。「はかりまき」の難所をようやく登り切ったところで日が暮れたし体力も切れた。道の駅信州新野千石平があるので、隅の目立たない所でキャンプしちゃえ。明日の朝を無事迎えられますように。

本日の走行距離も109km、獲得標高は2050m。

松本〜しらびそ高原〜茶臼山〜明智マップ
4/30() ツイストアンド茶臼

寝付き悪く、4時前にはもういいやと起床して朝食。走るのに支障ない明るさになった5時にずらかる。味気ないトンネルを避けて旧道を少し登ったところが売木峠、980m。長野県民にもまず存在が知られていないであろう(?)、峠に囲まれた小さな自治体「売木村」に入る。これで県内の市町村は殆どサイクリングかジョギングで通ったことになる。まだ高山村のみクルマでしか行ったことがないので、いずれまたの機会に。

中心集落から県道46号を西南へ登る。村としては中級サイクリングルートとして推しているらしく、飛騨せせらぎ街道が思い出されるような快適さだ。もう一つの売木峠を経て根羽村に入ると、茶臼山高原の周遊道路となる。ここもやたらパワースポット推しで妖しさ大爆発なのが面白い。「茶臼山最強のパワースポット」を謳う岩に手をかざすと、みなぎってきた…?? 矢作川源流を見てから登山道を470mほど歩くと県境の山頂に至る。昨日しらびそ高原からも遠くに尖って見えていた山だ。

茶臼山より東方面

愛知県の最高峰と言えば満場一致で軽食喫茶マウンテンということになるだろうが、標高が一番あるのはここ茶臼山1415m。長野的にはありふれた名前のありふれた里山に過ぎなくても、愛知的には県唯一のスキー場を含む一大リゾート地として開発されているほど。長野側は華奢ながら金属製のそこそこ高い展望台があり、愛知側には低いが木製のがっちりした展望台がある。今日は曇天だけれど南アルプスをうっすら遠望し、雲海の盆地群や牧場の丘々を見下ろせる。期待していた太平洋や名古屋市街までは見えず、この天気なら長野の勝ち。

ここから茶臼山高原道路を西へ豊根村、設楽町と下りてゆく。登り返しもあるけれど概ね快適に飛ばせる下り勾配で、風力発電所を見掛けつつ元有料道路区間の19kmがあっという間に終わる。国道257号を少し北上して豊田市に入り、三州街道との交点が道の駅どんぐりの里いなぶ(稲武)。9時半でもう物凄い人出だが、どんぐりの湯はまだ空いている。ああ、やっと温泉に入れる。やっとヒゲが剃れる…。早目の昼食も温泉併設の食堂でまったりと、稲武米を使った唐揚げ御膳。

岩村城跡

西へ行けばマウンテンだが、今回は国道257号をさらに北へ進み岐阜県恵那市に入る。新緑美しい川沿いを降り登りして新木ノ実トンネルを抜けると、右手に岩村城への入口がある。これが激坂で狭い上に前後からクルマが来るので、今回の旅で一番息を切らせる登り方をした。城跡は大規模な石垣が驚くほど見事に残っている。天守跡からは東側に展望が開ける。日本三大山城の一つで、女城主がキーワードらしい。
ここから市街地へ下る遊歩道に自転車を引いて行ったら、思いのほか階段状になっていて担ぎがかなり入った。その様子を珍しがって写メしてる人も。もうだいぶパワーを使い果たした。古い町並みをゆっくり抜け、明知鉄道の岩村駅も見ていく。

あとひと頑張り国道363号を西南へ、台地の稜線を登るような坂を越える。鉄路とともに、明智駅がサイクリングの終点。もうね、明智って聞くだけでIQすごく高そうな感じがするね。時間をみて日本大正村を謳う街並みをさっと回り、五平餅を食ってから輪行する。
本日の走行距離84km、獲得標高1600m。
切符は昔懐かしい硬券で、使用済みも記念用に20円で売っている。何でもいいからと適当に一つ掴んで買っておく。東野行き?マイナー過ぎたかな。

明知鉄道明智駅

この小さな単行気動車が旅のクライマックス。運転体験イベントに参加していたらしいマニア達で車内は騒がしいが、彼らのお陰で運営が成り立っているなら仕方ない。GWだし岩村駅からの観光客でも賑わう。車内はともかく、架線のない単線にぽつんとホームがある途中駅は風情がある。特に野志駅や飯沼駅は日本一の急勾配駅で、坂道発進の重々しさは貴重な体験。JR中央西線で恵那駅を通過する時いつも指をくわえて見ていただけの路線に、初めて乗ることができた。疲れと寝不足で眠りそうだったけど。

あとは普通に松本へ帰る。ネットを気にしたり弁当を作ったりといった日常も帰ってくる。残るのは体中くったくたな感覚。ややハードな旅程だったが、これからも驚きのある平和な旅が続けられると良い。


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