乗鞍岳から東を望む

むらよしクライム日記

第22回 全日本マウンテンサイクリングin乗鞍 参戦記

2007年8月25日〜8月26日

経緯

信州の夏は短い。その終わりを象徴するかのような大会、通称「乗鞍ヒルクライム」が今年もやってきた。3000m級の高みを目指して全国から脚に覚えのあるサイクリストが集まる、名実共に日本最高峰のホビーレースだ。近年はキャパシティに勝る山梨県のMt.富士ヒルクライムが互角以上の盛り上がりを見せているようだが、かと言って乗鞍の人気が衰えた訳ではない。
例年すぐに閉め切られる参加申し込みが今年は抽選制となり、私は松本市内からの個人参加という不利な情勢。もし落ちても応援には行こうくらいに思っていたら、運良く当選した。出るからには昨年を上回る自己ベストでフィニッシュしたいところだが、昨秋のマラソン戦線から先々月のツールド美ヶ原に至るまで何かと自己記録を更新し続けた“快進撃”は、なぜか心身ともに折れてしまった状態。一時は今回1時間15分の目標があったものの、到底無理だ。でも楽しんで走れるくらいのトレーニングは積めたかな…。

日記

8/25()
あずみ館

やや寝坊して、出発は炎天下の11時となった。今年も自転車による自走で乗鞍高原に向かうのだ。いきなりサドルキャリアが壊れ、ロープで何とかそれ以上の崩壊は食い止めつつ国道158号、魔のトンネル街道を登って行く。渋滞の先頭は走りたくないから、東名阪の連中がクルマで大挙して押し寄せてくる前にノンストップで急ぐのだ。その甲斐あって空いているうちにトンネル地帯を抜け、2時間半で標高差900mの乗鞍高原に到着。だいぶ脚を使ってしまったような。とにかく暑い! 疲れた! ソフトクリーム!
すぐに受付会場でG蕃さんを発見し、彼のニューマシンを見せてもらう。小指でも持ち上がるようなカーボンフレームで、入賞も射程内のトレーニングを積んで来たようだ。明日の健闘が楽しみである。

いろいろ散策してみたかったけど、早々に「あずみ館」という宿にチェックインしてバタンキュー。去年もこの宿で、会場から至近距離にあるのが良い。間もなく同宿のT井さんも到着。同じく筑大サイクリング部出身のS浦さんは残念ながら欠場となった。
18時になればメシだー。皿数がいっぱいあるー! ビールうめぇ〜!
普段飲む機会が無いから「酒を飲むなんて数ヶ月振りですよ」と言うと「え?そういう宗教に入ってるの?」。ともかくガツガツとご飯5杯を平らげた。明日のことなど知らん。めっちゃ膨れた状態で温泉の白い湯も楽しむ。これで昨日の棚卸し仕事で痛めた腰と、今日の疲れが取れるといいな。明日無事完走できますように。

松本−乗鞍高原マップ
8/26()
スタート前

夜中に一度も目覚めないほど良く眠れた。朝食は宿には頼んでいなかったので、カロリーメイト二箱で800kcalを平らげる。大会の集合場所へ早々に自転車を置きに行き、今年もまたランドナーのくせに前の方のスターティンググリッドを確保。秋のように澄んだ空気で乗鞍岳がくっきり映えている。まだ涼しいけど暑くなりそうだ。
一旦宿に戻り荷物をまとめ、ゴール地点行きのマイクロバスに預ける。コース最初のヘアピンまでジョギングで1kmの往復。私なりのウォーミングアップはこんなもんでいいだろう。やる気満々にローラーとか踏んでる人を見る度にびびりまくりだ。私のチャリなぞはケータイや財布を入れたポーチを付けていたり、さらに「余計な物」まで付けていたりする。

VAAMゼリーを飲んで会場に戻り、だべりながら自分のスタート時間を待つ。足腰の不安を抱え、体調は100%ではない。それでもだんだん無心になってくる。後にして思えば、下界の灰色な現実のことなど忘れていた。ただレースを楽しむだけに整列する。

そう、4000人もの参加者がいようが、今日という日を一番楽しむのはこの俺だ!

一般男子Cクラス(ロードレーサー31〜35歳)は大所帯のためC-1とC-2とに分かれる。だいぶ待たされたが、我がC-1もいざスタート! 始めはせめて後ろから来る人の壁にならぬよう、何とか前の人に付いて行くのみ。攻めの姿勢は無い。練習量の不足感からくる自信の無さが表れてしまう。
やがて前のクラスの最後尾に追い付き、またC-1内でのライバルの顔ぶれも決まってくる。どうやらケツにLOVEと書いてある928番と当面は抜きつ抜かれつになりそうだ。このLOVE男め。

「暑い…」。思わず口をつくほど気温が上がってきた。素晴らしい好天に恵まれたのは良いが、ヒルクライムをするには陽が照り過ぎている。体力を奪われてないか心配な足取りになるのは仕方ないか。それでも序盤、乗鞍の有名人“阪神タイガース男”の後ろにしばらく付けて、六甲おろしのBGMを楽しむ余裕はあった。
21分ほどで第1チェックポイントの三本滝スキー場に到達。右手に給水所があるが、まだ受け取る必要は無い。しかし左に逃れる進路を塞がれてしまい、どうにか左に大きく蛇行した所で「左!」と後ろから注意を受けた。C-2のトップ2人組がもうブチ抜いてきたのだ。うち一人は他ならぬG蕃さんだった。「がんばって!」と背中を叩かれ、ようし!とちょっと付けてみるが、無理。すげーなぁ。がんばれー!

セーラー服男を数秒だけストーキングしたりしながら、やはりLOVE男とのデットヒートが続く。中間地点でタイムを見たら31分40秒。「去年より10秒遅い!」。それが聞こえたのか、私がこれではいかんとペースを上げたのか、以降LOVE男は見かけなくなった。
それにしても、今年はダメだダメだと思ってた割にそんなに落ちてはいないのだ。自己記録を更新出来るかまだ判らないという事実が、闘志に火を付けた。九十九折り区間に入り、「石畳」と呼ばれたコンクリート舗装がアスファルトに変わってて「あれぇ!?」などと叫びつつ、ヘアピンはインベタにこだわってローディーどもをダース単位で片付けて行く。さすがにこの大会は自転車が多く、抜いても抜いても大勢だ。時々ランドナーを抜く時だけは、「ランドナー頑張れ」などと声を掛けて行く。

乗鞍高原−乗鞍岳マップ

もしかしたら誰かが後ろを付けていたのかも知れない。やがて「クソッ!」と断末魔が聞こえ、気配は無くなった。
第二チェックポイントの位ヶ原山荘ではスポーツドリンクを受け取りたかったが、今度は逆に混み合い過ぎてて断念する。水道水を入れたボトルだけでゴールまで走らなきゃいけないのか。ちょっと落胆して力が弱る。腰がだいぶ辛い。脚もいっぱい。レースじゃなくてサイクリングモードにしちゃおうか?
って時に「残り5km」の看板が現れる。経過時間59分。ざっと計算してみると、ここからハーフマラソンペースでも自己記録と勝ち負けになる。俄然やる気を取り戻してまた脚に力を入れ始める。心肺には自信があるから高度が高くなっても心配は無い。いよいよハイマツ帯に突入しているのである。

同クラス内の順位争いはしばらく一人旅が続いていたが、ようやく数人捉えてかわせるようになった。レース中の心境の変化が、自分本来の脚質である後半追込み型のペース配分に繋がったようだ。ゴール前はどうせ渋滞して力を出し切れないから、最後のヘアピンからはロングスパート気味に頑張るのが有効だ。左手に大雪渓を見て、さらに同クラスのライバルを追い回す。フハハハ、ダンシングで逃げても無駄だっ!

ゴール地点

もう早々にゴールしたクラスの下山が開始され、使える道幅はかなり狭くなる。早く渋滞に身を委ねて楽になりたいが、ギリギリまで頑張ろう。そして標高2720mの県境にゴール! 1時間16分19秒。記録を2分も更新できたっ!ヨシッ! 嬉しくてガッツポーズを繰り返す。不安が大きかった分、完走の喜びと相まってまるで優勝したかのよう。自己記録を更新し続ける快進撃は緩みはしたが止まらずに済んだし。

闘い終わり、駐車場をとぼとぼ進むとG蕃さんを発見。1時間5分台だそうだ。すげーよ、入賞したっぽいじゃん。
こうしてこんなに標高が高い場所に自転車がうじゃうじゃいる光景を見てるのも楽しい。天気良すぎるし。やがてMTBのT井さんもゴール。熱中症気味で苦しみつつ、2時間を切る目標は達成したようだ。

下山もやたら楽しい。今日はレースとしては暑すぎた分、下りは寒い思いをしなくて済む。標高が高い所からの景色ってすごいんだなぁ、と素直に思う。幾重もの山並みの向こうに槍穂連峰や木曽駒、御岳を遠望する。青い空に適度な筋雲。自由に下車して写真を撮りながら、標高差1,260mを快適に降りてスタート会場に戻る。
貼り出されているリザルトを見ると、G蕃さんが見事5位入賞! 私なぞは想像も付かない、陰なる努力の結実であろう。身近な人が入賞ってなかなか無い事だから、私も嬉しい。
あと、入賞者がいるチームは参加抽選が免除されるから、来年は同じチームに入れてもらおう…。

宿の温泉で疲れを癒し、閉会式へ。表彰式が一通り終わった後、じゃんけん大会が始まる。しかし無邪気に“後出し”を繰り出す地元小学生達の独壇場と化し、商品はゲット出来ず。まぁいいか。T井さんと別れ、自分はチャリでの帰路となる。トンネル街道は適当にクルマと折り合いつつ、明るいうちに松本市街地に帰宅。何もかもが無事だ。自分へのご褒美に近所のラーメン屋で肉味噌ラーメンを食べ、翌日からの仕事に備える。
こうして2007年の夏は終わりぬ。

十字路の標識 大雪渓 位ヶ原
槍穂遠望 鶴ヶ池 三本滝スキー場

結果

Web発表による公式リザルト
時間
(全長20.5km 標高差1,260m)
1時間16分19秒 (最速者0:57:15, 最終完走者3:58:15)
一般男子Cクラス 順位
(ロードレーサー31〜35歳)
49位 (/完走 463名/登録521名中)
総合順位
(61歳以上,女子,MTB含)
397位 (/完走3,543名/登録4,004名中)

疲れ過ぎて寝付きが悪く、誰かが枕元を歩いている気がして「玄関開けっ放しで寝ちゃったのか」と確かめようにも金縛り。霊感ゼロなのに、怖いよ。そんな夜が2日ほど続いた。
ところでレース中にチャリに付けていた「余計な物」とは、カシオ製デジタルカメラEX-V7である。トップチューブに手製のキャリアを付けてデジカメを固定、スタートからゴールまで完璧に動画を撮り切っていた。チャリ自体の振動とキャリアの華奢さでそれなりにブレはあるものの、カシオ様々の撮影性能もあって凄い映像が撮れたと思う。練習不足の割に恥ずかしい走りにはならなかったから、これで予定通り5倍速動画に変換してALPSLAB videoに投稿できる。5倍速ともなると千人斬りしてんじゃないのかってくらいの勢いでオーバーテイクしているが、速い人に抜かれる時の勢いも大きい。
大会のコース紹介をコンセプトに公開した地図付き動画は、一部自転車系のブログや掲示板でも取り上げられまずまずの評判を得たが、同時に敵に塩を送った事実と、「来年も恥ずかしい走りは出来ない」というプレッシャーにも繋がった。だけど自分で何度見ても飽きないそれは、やはり自分が一番楽しめたと思う。来年に向けたイメトレはこれでバッチリ?

ALPSLAB video

リンク

全日本マウンテンサイクリングin乗鞍公式ページ
2008年度から新設された大会公式ページ。
JCA(日本サイクリング協会)
ツール・ド・美ヶ原やマウンテンサイクリングin乗鞍などの主催団体。
MSPO(エムスポ)
主にトライアスロン情報のページだが、自転車ヒルクライムのリザルトも充実。
TAK'S HEAVEN/『2007乗鞍』参戦記
当ページで“阪神タイガース男”として登場し、ビデオでも一際目立ったTAK(猛虎参號)さんによる参戦記。むらよし裏日記にリンク頂きました。G蕃さん繋がりで2008年は同じチーム所属となります。

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