充分な睡眠を確保し、昼食をとってから松本市街の自宅を出発する。タイヤに空気をたっぷりパンパンに入れておいたし、今年も自転車による自走で乗鞍高原に向かうのだ。島々谷手前で国道158号の気温計は33℃。胸いっぱいに排気ガスを吸いながら、トンネル街道を登っていく。奈川渡ダムの先で県道84号に分かれてからも長い。車道は例年よりかなり渋滞が激しい様子。みんな、時間とか大丈夫かな…。
2時間半弱で会場に到着。悪魔おじさんと初音ミクとマルチのコスプレが集まって記念撮影しているのが面白い。受付を済ませて坂を下り、温泉宿の寿家に到着する。ESCA(東日本学生サイクリング連盟)のOBが主体となっている『チーム寿』の面々に合流。私の新車を彼らに披露するのは初めてだ。「またランドナーかい!」。
明るいうちにフロントキャリアを外すなど、レースに向けた整備をしておく。
白いお湯の温泉につかって、間もなく夕食。馬刺しや豚すき焼きなどでご飯がススム。ここでのビール2杯が酒に弱い私の限界で、そのあと宴会では控える。諸先輩方の武勇伝を聞いていると、私の自転車経験なんかはまだまだヒヨっ子なんだなと思う。
21時早々に眠る。
金欠のあまり、今年はキャンプ場でテント泊にしようかと考えていた。結局、寂しがり屋のかまってちゃんだから、こうなった。
10日ほど前の北海道ツーリングで絶好調だったのだから、ピーキングという意味ではやや落ちる。それでも出来るだけ体調を維持してきたつもり。夜は予想していたほど冷え込まず、寝汗をかくくらいだった。朝食のご飯は2杯にとどめる。毎年食べられるだけ食べてしまい、少し後悔していたんだ。
会場への登り坂はちょうど良いウォーミングアップ。早目に到着したので、スタート行列は半分より前の方を確保できた。ゴール行きの運搬バスに下山用の荷物バッグを預ける。レース中にパンクすることなんてまず有り得ないので、修理セットやインフレーターもバッグの中だ。朝の雲は晴れて日が照り、乗鞍岳山頂が見えてくる。もう暑くて、頭がボーッとしてしまう。参加者名簿のなかにT内先輩の名があったので探してみたが、人が多すぎて断念。4500名とはずいぶん無理して増やしたものだ。そりゃあ渋滞も酷くなる。毎度のヒルクライム仲間kinottyさんには会うことが出来た。
ボトルの中身は塩水。パワージェルやアミノバイタルゼリーでスタミナを確保しつつ、ぞろぞろとスタートラインに近づく。チャリ載動画を撮るためのデジカメは、三脚ネジ穴がバカになったままなので、また両面テープなどを使う原始的な補強で何とかする。チャンピオンクラスから1時間以上待たされた8時7分、一般男子D-2クラスの号砲が鳴る。今年からツールド美ヶ原がそうであったように、スタートラインにもタイム計測マットが敷かれ、そこからのネットタイムが公式記録となるようだった。1時間20分を切れるかどうかという練習状況なので、十数秒のスタートロスがなくなるのは大きい。
去年のタイムが1:20'ちょうど。それより少しでも速ければいいと思っているから、意気込んではいるものの気負いはない。始めチョロチョロ中パッパ作戦、序盤は基本キープレフトでゆっくり走る。右からガンガン抜かれて順位が落ちていくが、多分あらかた抜き返せるだろう。少し呼吸が苦しいかな、という程度の負荷で進む。天気は最高で、良い動画が取れそうである。
鈴蘭橋を渡り休暇村を過ぎた辺りで、背後から妙な、いや動画サイトで聞き慣れた歌声が近づいてくる。そしてあっさり抜かれた。キター!初音ミクのコスプレの人(キクミミモータースさん)だ。猛虎参號さんのようにスピーカーで音楽を流しながら走っているが、その曲目がボーカロイドなのだ。これほど面白い撮影&録音対象はなかなか無いし、ちょっとだけ後ろに付けてみる。コスチュームだけでなく痛チャリにも、ネギ型サドルやブレーキ位置などに工夫が見られる。
案外付いていけそうかも? つーか、前カゴを付けたママチャリに負けたらランドナーが廃るだろ。一気に目が覚めて、必死で食らいつく。「ゆっくりしていってね!」のテーマが流れてくるが、ゆっくりしている場合じゃない。
斜度変化の捉えようによってはこちらが前に出て少し離せたりもする。そのうち抜き返される。でも追いつけなくもない。これは終盤までデッドヒートになるのか。夜泣峠を経て、抜きつ抜かれつの攻防が10分余り続く。相手はガチの装備なら入賞クラスの実力者。負けるならそれも受け入れるしか無いと思ったが、諦めの悪い私。呼吸は苦しいが、身体は慣れてきたか。それともペースを乱されたか。勝負はまだまだ判らない。
間もなく第1チェックポイント、去年までのタイムと比べてみよう。…というところで、後輪にゴリッと来たぜ。あるある。ゴリッゴリッゴリッゴリッ。え・・・。
これ以上無理に漕いでもマシンにダメージを受けるだけなので、スローダウン。ボーカロイドが彼方に消失してゆく。あと1時間とことん苦しむ予定だったのに、楽になるなぁ。あー、よりによってレース中にパンクとか。間を見てコース左端に停車する。タイヤを見るが異状なし。すっかり戦意喪失してるけど、完走する手段は? せめてインフレーターがあれば騙し騙しも考えられるが、頂上まで行かないと無い。押して歩くのは腰痛的に耐えられない。どう考えても無理。
ここにいても仕方がないので、第1CPまで押して歩こう。道路の左右どちらが安全だろうか。右は後続スタートのトップクラスが殺気立って飛ばしてくるから、やはり左端が良さそう。このレースに初参加した15年ほど前も早々にメカトラでリタイアして、とぼとぼ歩いていたらテレビのインタビューを受けたんだっけ。あの時はガッカリのあまり、暗い受け答えになってしまったのが悔やまれる。ほら、ピンチは最大のチャンス。今回もテレビのクルーが近付いて来た。いろいろ質問を受け、嬉々として「気合入れて練習したんですけどねー」などと大ボラを吹きまくる。多分オンエアには採用されないけど、美人レポーターと話せただけでラッキーじゃないか。
という訳で、三本滝レストハウス到着を以ってDNF(Did Not Finish)、2012年の夏が終わった。例年手を付けることがない給水所のアクエリアスを何杯か貰って、もう一度タイヤをよく診てみる。暑くてレバーがなくても外せたので、チューブに口で空気を入れたらクラクラしてちょっと倒れてしまった。とにかくタイヤは表裏ともキレイなので、チューブの問題だろう。そうこうしているうちに同宿チームの人の通過を見逃してしまい、皆との連絡手段を失ってしまった。ケータイも宿に預けたままだし、心配を掛けてしまうかも。やがて猛虎参號さんの娘さんがジュニアクラスでゴールする。後ろ姿だがフィニッシュ写真を撮れたので、ちょっと貢献できたかな。
せっかく三本滝に来たんだから三本滝に行こうぜ。遊歩道を900m歩くと、三本の滝に囲まれた岩場で俺一人。神秘的な気分だけど、レースを棄権して何やってるんだろう。レストハウスに戻ると、ジュニア・ビギナーの完走者はすでに下山していて、さらに頂上からも第1組が降りてきた。みんな最高の乗鞍を楽しんできたんだろうなぁ。羨ましいなぁ。彼らが通りすぎるのを待ち、道路右端を押し歩きで自分も降りていく。乗車できれば一瞬なのに、歩きだと1時間は掛かりそう。5月の群馬彷徨で、歩いて山を脱出した時のことを思い出す。今回は手元にチャリがあるだけマシだ。それにしても今年はやっぱり厄年ではないか?
参った参った。ようやくスタート会場に戻ると、DNS(Did Not Start)だったnorikura1059さんや、猛虎参號さんの奥さんが迎えてくれた。大会サービスのスイカを食ったりしているうちにチームの面々も降りてきて、記念撮影。私はまだ動けないことを幹事のM輪さんに伝え、先に宿まで降りて貰う。下山最終組のあと、待ちに待った荷物バスが降りてくる。ステージのアルプホルンや太鼓の演奏を聴きながら、急ぎチューブ交換を済ます。やっと乗れる自転車に戻った。
宿の昼食には間に合ったが、もう一度温泉に入る時間までは無かった。玄関で集合写真を撮って、解散という流れ。自走で帰る私は「心配だ」と言われるが、こちらから見ればクルマの方がよっぽど心配。トンネル地帯の手前だったか、渋滞が激しいところで追突事故を起こし、途方に暮れているグループを見掛けた。彼らは今日中に家に帰れるのだろうか。すり抜けたりすり抜けなかったりしつつ、島々を過ぎればいわゆる波田高速を使って快適に帰宅する。レースでは楽をしたのに、やっぱり疲れた。
記録が良かろうが悪かろうが、普通に完走することがいかに嬉しいことか、こういう経験があると身にしみて分かるようになるかもしれない。しかも今日は数年に一度の絶好天だったからね。もうちょっと悔しがれよ自分。あの高みに僕は、行かなかった。
時間 (全長20.5km 標高差1,260m) |
DNF | (最速者0:56:16, 最終完走者3:49:16) |
一般男子Dクラス 順位 (ロードレーサー36〜40歳) |
---位 | (/完走580名/出走583名/登録676名中) |
男子順位 (チャンピオン,61歳以上,MTB含) |
---位 | (/完走3,735名/出走3,761名/登録4,272名中) |
総合順位 (女子含) |
---位 | (/完走3,913名/出走3,940名/登録4,473名中) 他にショート完走49名/出走51名/登録61名 |
レース中のチャリ載動画は第1CPまでと中途半端で、後半の絶景もなく残念。しかし初音ミクのコスプレを追い回していたので、それをメインに編集したネタ動画として昇華した。
それにしてもやっぱりブレが大きい。近年はGoProなど高性能なスポーツ用カメラが出回っていて、優れたヒルクライム動画が次々アップされる状況となった。私の役目は終わりつつあるのか、カメラを買い換えてでも続けるか、思案しているところ。