燕岳・大天井岳登山日記

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2002年9月14日〜15日

 「信州へ行って北アルプスを登りたい。ルートを考えてみてくれない?」との提案を友人H詰より受け、燕岳(つばくろだけ)プランに決定した。余力があれば大天井岳(おてんしょうだけ)まで足を伸ばそう。
 どちらの山も松本市街から遠望できるから、いずれ登りたいと思っていた。燕岳は蝶ヶ岳と並んでアルプス入門コースとして人気がある(どちらも空を舞う動物名なのでよく混同してしまう…)。大天井岳は目立たぬ山だが、安曇野の西に雄大にそびえる常念山脈の最高峰。なかなか楽しみである。
 天気予報は、予定日が近付くにつれ晴れ→曇り→時々雨、と悪化してゆき…。

9月14日(土)

 昨日出発の予定だったが、天気が悪いので一日延期した。今日こそはと午前5時に起きるが、いま一つの空模様。ともかく朝食をしっかり採って、我が白アルトを走らせること1時間余、秘湯とも呼ばれる中房温泉(なかぶさおんせん)に到着した。第一駐車場は既に一杯だったが軽自動車、狭い隙間を見つけて強引に駐車する。

赤く実ったナナカマド
背景は合戦小屋
 8時前には歩き始める。フル装備の荷の重さにはようやく慣れてきた。ここは合戦尾根。“北アルプス三大バカ登り”の一つとして有名らしい。「バカ」という響きがだいすきな私は楽しみにしていたわけだ。ちなみに他の二つはブナ立尾根と笠新道、だったかな?
 ゆうべよく寝たので二人ともコンディションは良好。バカ登りも何のその、H詰に引っ張らせると急行どころか特急ペースだ。…持つのか? というか仕事に忙殺されてるはずの社会人なのに大したもんだ。こっちは余裕こくつもりでいたのに、頑張らないとついていけないので焦ったぞ。
 第一ベンチ、第二ベンチ、第三ベンチ、富士見ベンチ。それぞれで休むのがセオリーだが“特急”は飛ばし飛ばし、合戦小屋に停車した。暑くて汗だく。自転車用のレーシングシャツを着用してるので若干マシだが。このあたりでは霧雲が明けそうな明るさになり、日焼け止めを塗り始めてる人もいるぐらいだった。

燕岳を南側から
 ミヤマリンドウやトリカブトなど高山植物も目にしつつ、樹林帯を抜けハイマツ帯。「いっぱいいっぱい」と言いつつも、驚異のペースで午前11時前、稜線上の燕山荘に着。向こうに野口五郎岳を発見したのが先だったか、吹き付ける西からの冷風に震えたのが先だったか。あっという間に手の感覚がなくなってしまった。
 荷物を置き、片道20分の燕岳へ往復。なるほど、花崗石の大きな岩が西から吹き上げる強風によって傾いた造形をしていて、奇妙な雰囲気を楽しめる。しかし山頂ではそこにいた女の子と話す事に夢中になってた気がする。それにしても雲間にはっきり眺望できるのは野口五郎岳ばかり。何でだろ? H詰曰く「目立ちたがり屋だから」 なるほど。一時的にこれから向かう大天井岳も見えた。
 やがてまた霧が深くなり、燕山荘のベンチで寒さに震えながら昼食。毎度の焼ソバ弁当であるが、隣のおばちゃんらがおいしいチマキを分けてくれた。嬉しい。
 しかし冷たい食事では体は暖まらない。槍ヶ岳に続く“表銀座縦走コース”を南下開始。人気があって歩いている人が多いから銀座なんだそうな。稜線の東側を巻いてくれれば風を防げるのに、西巻きが多い。それでもじっとしてるよりは暖まり、徐々に生き返ってきた。体も疲れてはいるが稜線歩きなので楽。
 どれが蛙岩(げえろいわ)なんだか分からない大岩地帯を抜け、右手には林道すらありゃしない大森林を見下ろし、雷鳥の家族にも出会い、“大下り”はややキツイ下り坂、クサリ場はちょっとした切り通し。ここの分岐で槍ヶ岳に向かう大勢は右へ行くが、我々は左へ、大天井岳を目指す。登りは岩稜っぽくやや急になるが、歩き易い。先月ヒィヒィ言わされた常念岳より標高あるのに?
 ついに霧雨が雨に変わり午後2時過ぎ、たまらずフードを被ったところで大天荘に到着。もうか。あー、雨キャンプ寒そうだよー。でもとにかく金が無いからテント張る。
 H詰はテントを売ってしまったとのことで大天荘泊まり。私も便乗して、小屋の炊事休憩室にモグる。外よりちょっとは暖かい。そこにはTVがあって、ビールオヤジどもが大声でJリーグ中継を観戦しててうるさい。山ヤのダメなイメージそのまま。イビキもきっとうるさいのだろう。やになって私はテントに戻り、この日記を書いたり荷物整理でもしてた。

山小屋 午後6時の情景
 メシの時間にはまた炊事休憩室へ。米を炊きレトルト親子丼などを夕食した。TVでは大相撲中継。復活なるかの貴乃花には私も注目してしまった。山の上にまで来て、なに下界の事を気にしてるんだろうね。
 食後もしばらくダベってた。あまり早く寝てしまうと寒さが余計つらくなるだろうから。午後7時には外真っ暗。明朝、山頂で会いましょうということにして、テントに帰った。

9月15日(日)

 やっぱり寒かった。わずか半月前、自転車旅行の時は死ぬほど暑かったこのテントがよ。寝ても一時間毎に覚めてた気がする。雨がフライシートにぱちぱち当たり、時折北西の風が強く揺する。午前2時頃だったか、光と音が同時の強烈なヤツが一発あった。逃げるに逃げられんよ。

夜明け前の大天井岳山頂
 ようやくという感じで5時になり起床。どんなにつらかろうが、無事に朝が迎えられればいい。どうしようもない濃霧でもなく、10分弱登った所の大天井岳山頂にH詰は先に来ていた。いるのは他に一組ぐらい。当然来光はないが、近くの尾根尾根を見下ろして独特の風情はある。でも槍ヶ岳や松本市街を眺めるぞーという望みが叶わず残念。ともかく常念山脈最高峰2922mである。
 また小屋の中で炊事し、朝食を採る。テントは濡れたままだが急ぎ撤収、7時前に出発した。不安な下山もまずは稜線歩き。大下りを登り切った所ではさすがに疲れて一休み。燕山荘ベンチでは座り休み。いよいよ合戦尾根のバカ下り。フードを被ったり上げたりして霧雨をしのぎつつ。
 登りの時もびっくりしたが、下りもびっくり。H詰のペース。やっぱり頑張らないとついて行けない。何か用事があって急いでるらしいが、さすがである。でもあたしゃあんまり山で頑張りたくないね。

中房駐車場 近くに温泉がある
 この天気では登山を諦める人が多いのだろう、登る人より下る人によく会うぐらい(おいおい)。心配していた混雑、渋滞がなくて良かったが、やはり階段状の下りでヒザが痛かった。「羽が生えてるようね」などとヤジを受けつつ、全てがあっという間に過ぎ去り、午前11時前に下山終了。まさかの早着きである。
 クルマに着けば一安心。近くの国民宿舎有明荘では温泉入浴。広い露天風呂が嬉しかった。一大運動をした後は、鏡にいい顔が映る。なんてね。松本に戻り次第、H詰は急いで新潟県へ帰っていった。

大天井岳山頂より その2

後日談

 私は8月末の自転車ツーリング以来、9月に入って全く運動をしないでいたが、今回の登山で十二分に触発を受け、翌日から筋肉痛ほぐしも兼ねてトレーニングを再開した。わずか半月のブランクでも弱体化していたので、やり直しだ。
 さらに余談。山にいる女性は美人が多い気がする。何でだろ? むらよし「重量があると物理的に登れないから?」 H詰「化粧が崩れるから、すっぴんでも通用する人しか登らない」……失礼しました。

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