宮崎海岸から親不知を望む

自転車キャンプツーリング記

越中宇奈月〜越後親不知〜信州戸土

2014年11月8〜9日

日記

11/8() 宇奈月なっとく

週末に二日かけてサイクリングする行動力が失われてる気がする。という訳でダルい土曜日だが頑張って早起きして松本駅で輪行、大糸線に乗り込んで北に向かう。行き先は富山県の宇奈月温泉。来年3月にはフル規格の新幹線としては初めて駅名に「温泉」が付く黒部宇奈月温泉駅が開業し、大盛況となることが予想される。その前に訪れてみたかった。

富山県下新川郡朝日町、北陸本線泊駅

大糸線の車窓には常念山脈、仁科三湖、後立山連峰などが青空に映える。南小谷(みなみおたり)駅から北はJR西日本のキハ120形。いつまで存続できるだろう。新潟県の糸魚川駅で早めの昼食。ろくな売店がないが、新幹線が開業するまでの辛抱だろうか。引き換えにもうすぐ第三セクターになっちまう、青い車体の北陸本線に乗り換えて西へ、富山県に入る。黒部川扇状地は特に美しい扇型で、扇頂の先にある宇奈月に向かう場合、扇端をつたうどの駅で降りても距離は大差ない。ならば一番手前にある朝日町の泊駅で下車する。

黒東合口用水沈砂池と黒部川扇状地

自転車を組み立てて県道13号、扇状地を一路南へ。道路標識ごとに宇奈月温泉を示す平仮名の「う」が付く。う、う、う、うっうー。どこまで登っても背後には富山湾が見える。その様子から舟見という地名が付いたのだろうか。扇頂からは合口用水沈砂池を前景に扇状地を一望。黒部川右岸の県道328号に入ると、始めのキツい坂さえ登りきれば愛本堰堤と紅葉のいい景色。早くもお腹いっぱい。狭い道に猿が横切る。

宇奈月湖、新柳河原発電所

1時間で宇奈月温泉に辿り着き、本日のサイクリングはほぼ終了。さあ、黒部峡谷鉄道の往復切符を一駅区間だけ買おう…終点まではいずれ「下の廊下」を歩く時に…。という予定だったが、ここまで来たらやっぱり終点まで欲しくなった。戻る頃には暗くなるだろうが、仕方ない。売店にある鱒の寿司は最後の一つで、1400円という値段に躊躇してるヒマはない。これを買い込んでトロッコ列車の旅が始まる。あまり予備知識なしに来たのでまず電気機関車2両プラス客車13両、計15両編成には驚いた。ナローゲージとは言え、まるで大都会。

やま茂の鱒のすし

オープン客車で風を受けながら、キーキーというフランジ音高らかに深い峡谷を分け入っていく。室井滋による楽しげなアナウンスが聞こえづらいのが難点かな。本来降りる予定だった黒薙駅を過ぎたら、写真撮影の手は緩めて鱒の寿司を頂く。この曲げわっぱ、捨てるのは勿体無い。ん〜ベタな観光旅行だ。ダム湖は青白く、紅葉は終盤だがまだまだ美しく、遠くの山は雪化粧。また発電所ごとにトロッコの引込線があるのが面白い。ロマンを感じるが、本来は資材や職員用の軌道、こんなに観光輸送しまくってて路盤とか大丈夫なんだろうか。

名剣温泉の露天風呂

片道1時間22分で欅平駅に終着。ここから先、黒四に続く上部軌道は関西電力専用となる。帰りの電車まで2時間弱の余裕を作ったので、ゆっくり散策しよう…いや、なるべくたくさん見たいから、つい小走りしちゃう性。岩をくりぬいた小径の往復で猿飛峡を見て、川原展望台を見て、奥鐘橋、人喰岩、名剣橋。そして少し白っぽい湯の名剣温泉(750円)に入る。ごった返す駅周辺に比べれば静かで、露天風呂をしばらく独占、やがて後客が来る。秘境の秘湯という雰囲気を存分に味わった。

夜の宇奈月温泉街

復路の「上り」列車もオープン。つい写真ばっか撮ってしまう下りに比べればゆっくりと景色を堪能できるのだが、いかんせん寒い。ダウンのベストとジャケットを重ね着してしのぐ。そろそろ夜景が始まる宇奈月に着くと、みな口々に「寒かった〜…」「さぁ温泉温泉」と言っている。自分もささや食堂で卵とじカツ丼を食ってから、温泉会館で体を温める。熱めの透明湯で極楽極楽。

愛本橋のライトアップ

かったるいので宿泊は街の小公園でもいいのだが、今回はお行儀よくキャンプ場を目指す。富山地方鉄道沿いに扇頂まで戻って、愛本橋は謎ライトアップ。黒部市の中ノ口緑地運動公園という立派な公園に隣接して、入善町の外れ、墓ノ木自然公園が無料のキャンプ場。墓ノ木っていう名前がイカす。真っ暗森の中だし全くヒト気ないし。

11/9() 戸土忘備録
宇奈月〜親不知〜戸土マップ 墓ノ木自然公園キャンプ場の朝

キャンプだというのに10時間半も熟睡してた。これで普段の寝不足が解消したなら良い。もう明るくなった公園には小川が流れ、釣り人ひとり。管理車両もやってきた。7時に出発。コンビニ朝食を摂ってから、扇状地の東端を通る新川スーパー農道と県道102号で日本海沿いに出る。国道8号の城山トンネルは自転車禁止だが県道60号で海沿いを行ける。宮崎海岸は目を皿にして探せばヒスイの原石が見つかるとか見つからないとか。境橋を渡ると新潟県糸魚川市、越後国の振り出しを意味する市振の宿。

天険親不知

海道の松を過ぎるといよいよ天下の険、親不知・子不知(おやしらず・こしらず)に入る。北アルプスがそのまま海に落ちる断崖絶壁に、国道の洞門がへばり付くように延々と続くさまは壮観だ。途中の天険トンネル(第三世代)は、歩行者と自転車は旧道(第二世代)で避けることができる。親不知コミュニティロードと名付けられ、一枚岩に彫り込まれた「如砥如矢」の字が、明治期の開道の喜びを伝える。それまでの北陸道(第一世代)は展望東屋の遥か眼下、わずかな波打ち際を命懸けで通行したんだとか。現代の自転車旅は、多少のアップダウンとトラックの轟音に耐えれば楽々抜けられる。クルマなら高速道路(第四世代)で一瞬だし。

道の駅親不知ピアパークのヒスイ原石

栂海新道(つがみしんどう)登山口からは山側と海側に道があり、後立山連峰の完璧な縦走を目指す人が通るようだ。80m下の海に降りてみるのも面白そうだが、今回はスルー。道の駅親不知ピアパークは狭い地形を通る高速高架橋の下に位置し、デカいヒスイ原石が見もの。子不知の駒返しトンネルがチャリが通らねばならない唯一のトンネルか。

根知谷と雨飾山

ぽつぽつ降り出した雨に急かされるように青海(おうみ)の街から海と別れ、姫川左岸の県道368号、222号を遡る。このへん糸魚川グランフォンドで走ったわー。さらに翡翠橋と中山橋の間も地図では道があるように見えるが、行ってみたら崖崩れで長らく通行止で永遠に復旧しそうにない。翡翠橋まで引き返して右岸の国道148号に乗り、東側の県道225号、根知谷に入る。正面には雨飾山が雨に飾られ、左手の駒ヶ岳は岩壁が凄い。進むほどに坂は急になり、昨日の黒部峡谷に勝る秘境感がアップしていく。

信州、戸土集落

脚力の限界に挑戦するかのようなダートの激坂になり、とどのつまりが小谷村の戸土集落。峠より海側に信越国境があるため、長野県で唯一の海が見える集落だった。住民は今いずこ、季節によっては管理に来るらしいが、ほぼ廃村と言える状態だ。分校跡の碑のほか小屋数軒。奥の方にようやく雨戸の閉まった古民家が一軒見える程度。松本街道はこの先険しい峠道を経て松本まで続くが、この天気では冒険すまい。海は見えないが来ただけで満足したので、姫川まで引き返す。

根知駅から大糸線キハ120形に乗り、南小谷駅からは特急あずさでさっさと帰松。一泊二日でも近場でまだまだこんな面白いサイクリングが出来るんだ、と再確認できた旅だった。


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