サイクリング&鉄道&登山日記

ゆけ ゆく先は 立山だ

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2005年 7月13日(水)

松本−大町−立山

夜更かし癖が治らず、今日も暁を迎えようとしていた。少し仮眠の時間を設けたが、睡眠には至らず。そのまま朝食を採って支度を整え、アパートの外に出る。6月末のツールド美ヶ原以来、半月もチャリにまたがっていない。これはおそらく自転車人生で最長のブランクであろう。大事にしていたランドナー、お庭で雨に濡れていた。今朝はチェーンが錆びてるナ、「シューシューシュー」油を注した。

5時25分出撃。実は三日前の長距離ジョギングで左足首を痛めており、歩行が困難な状況であった。ならば腰痛以外の万病を治す(気がする)不思議なチャリに乗ってみてはどうかと思ったのだ。久々のペダリング感触は何だか重い。だけど思惑通り足首には負担が掛からないみたいで、ガンガンと明科経由で大町市へ向かう。行く先は「立山黒部アルペンルート」。大町市街地を過ぎるとカーブの少ない緩い登り坂が延々と続き、時々バスや乗用車が私を追い越してゆく。青空が垣間見えるが、前進する程に小雨模様で困った気分。ともかく53km/ 900mUPを走り切り、標高1433mの扇沢駅に着いた。ここまで2時間45分間、完全ノンストップである。



トンネルに向かうトロリーバス

身だしなみを整えてからきっぷ売場へ。ここ扇沢からアルペンルート最高点の室堂までの往復が安くなる広告クーポン券があり、期限が明後日で切れるので是非使ってみたかった。キャンペーン「3003きっぷ」¥8,500¥5,770。天気予報上、ここ数日では今日が一番降水確率が低いから来たのだが、雲行きは怪しい。

まず北アルプス赤沢岳(後立山連峰)直下を貫く関電トンネルトロリーバスに乗り込む。架線からの給電を動力とする珍しい形式で、広義での鉄道に含まれるそうな。こりゃ鉄道好きにはたまらんね。

8時30分発のバスは4号車まで席が埋まり、立ち客もいる。まず発車加速時のサウンドがまるで電車のそれであることに驚かされる。でもタイヤをハンドルで操作してるから、不思議な乗り心地なのだ。しかもトンネルに入ると、内部は一車線なのに高速道路並みに飛ばす。中間地点では対向車と行き違いのため少々停車。長野県から富山県に入り、やがて黒部ダム駅に到着。


鏡のように赤牛岳を映す黒部湖

もうね、ここはプロジェクトXの世界ですよ。地上の星by中島みゆき@紅白歌合戦ですよ。左足をかばいながら展望台へのトンネル階段を抜けると、さっきまでの雨が嘘のように晴れて、山脈の緑と雪渓の白と天空の青! 「キター!」というより「ヤバイ!」である。日本一の規模を誇る黒部ダムも圧巻で、観光放水の体積感がさらに己の小ささを際立たせる。一時の無風が、湖面を鏡のようにして山々を映しだす。

西を見上げると一際立派な屏風がそびえ、覆っていた霧がまさに散ろうとしていた。あれが有名な立山か。いつか、会いにゆきます。ダム放水には虹がかかる。普通虹って上に見るものだが、ここでは下に見るのだ。



黒部平駅屋上からの立山

写真を撮りまくってたせいで、ダム越しにある黒部湖駅からの黒部ケーブルカーに一本乗り遅れてしまった。このケーブルカーは全線トンネル内で、車内が階段状になっている(当たり前か)。最大斜度は31度とのことだが、かなり急に見える。程なく黒部平駅に到着。ここからの景色が良いです。雄大です。こんなに凄くてもまだ旅程はクライマックスではないのである。


車窓からの針ノ木岳

団体客で混む立山ロープウェーでは、下側隅を占領。動き出したロープウェーから眼下の黒部湖や山脈を眺める頃には、興奮のるつぼにあった。なんでチャリンコでちょっとの距離に住んでいながら、今までここに来なかったのかと。

大観峰駅ではいよいよTシャツ一枚じゃ寒くて耐えられなくなり、Yシャツを重ねる。持ってきたクッキーを一気に食べ尽くす。ここからはまた地中に潜り、立山トンネルトロリーバス。さっきのよりトンネルが狭い気がする。これで、立山直下を西側に回る。



室堂平からの立山

10時25分、室堂駅に到着。ここの標高2450mが、日本の鉄道で最高地点と言われる。いやぁ、実に標高2450mまで来たねぇ。ここまでの交通もアトラクションみたいで楽しかった。さて、ジジババに混じって軽く散策だけして帰ろうね。足が悪いから。

・・・おい、ふざけるな。あこがれの3000m峰、立山山頂はすぐそこじゃないか。足に魔法を掛けてでも登れ。散策は後回しにして、人気のない登山道へ急行する。天候が悪化し始めているから、それとのスピード競争なのだ。間に合ってくれー。そして足よ持ちこたえてくれー。


いくつもの雪渓を越えてゆく

道はセメントで整備された遊歩道なのだが、すぐ雪渓に覆われ、これをトラバースすることになる。雪の進軍! 始めは面白がっていたが、気を抜くと滑るので歩きにくい。豪快に踏み抜いた跡もあるし(下は水が流れている)。雪渓は2つや3つではなく、次々と行く手を阻む。しかも振り返る度にさっきとは違った絶景がそこにあるから、つい写真を撮りまくる。


立山雄山への岩稜登り

おかげで山脈の鞍部にあたる一ノ越に着くまでに、室堂着から1時間もかかってしまった。南方には水晶岳、野口五郎岳、燕岳などが望めるポイントだが、じっとしてると風が冷たいし、一気に北に折れて立山山頂への岩稜に取りかかる。急登になると燃えて、疲れ知らずになる自分である。空気が薄いのでたまに呼吸を整える必要があるが、コースタイムの半分、30分で登り切った。時刻は11時55分。


黒部ダムやロープウェー駅を眼下に

一足遅かった…。もう霧に覆われてしまったのである。いや、きっとまた晴れるだろう。とりあえず雄山の頂3003mに立とうとしたら、拝観料がかかるみたいである。この霧ではあんま意味ないし後回しにして(どうせピストンで戻ってくるし)、さらに北にある立山最高地点の大汝山3015mへ稜線歩きをする。人気はさらに激減する。すぐにそれらしきピークに着くが、え?ここ?? 霧の合間に黒部ダムが見下ろせるが、それ以外はよく分からない。もうちょっと北に、もう一つのピークが見え隠れしている。よし、あそこまで行ってみよう。


室堂平方面は雪渓のラクガキ

それは富士の折立2999m。見た目は「どうやって登るんだ?」と思わせる岩だが、実際はそう難しくはない。それでも最後の稜線岩を乗り越えるところで突風に煽られ怖い思いをした。


向こうに急峻な剱岳が見える

折しも眼下の視界を遮っていた霧が一気に消えたのである。空は曇りまたは小雨混じりだが、かなり遠くの山々まで見渡せるし、それに眼下! つまりアルプス裏銀座から後立山連峰、日本一急峻と言われる剱岳、あとはよくわからん山々を水平線やや下に、さらに下には東側にエメラルドグリーンの黒部湖、西側に雪渓のラクガキとも言うべき室堂平が広がる。ここまで来る登山客は誰もいないから、クルクルと体を回転させて独り占め。全方位の繊細で雄大な地球を感じるか。空気は冷たいか。まぁちったぁ座って休もう。



水晶岳の向こうに槍穂連峰
左端は燕岳

昼食にするはずのパンを昨夜我慢出来ずに食ってしまったから、実は無食料で登って来てしまっていた。よくないよくない。来た道を引き返しにかかる。岩を掴む手のひらが出血を開始。軍手くらい持ってこいよ。大汝山まで戻ると、南方にはさっきまで見えなかった槍ヶ岳、穂高岳、笠ヶ岳が彼方に並んでいる。あんなに遠くにあるのにより高く見えるのだから、槍穂連峰は北アルプスでも別格の山と言えよう。右手後方を振り返ると雲海の隙間に富山湾の海岸線が見える! こんな高い山から海を見るなんて初めてだから感動した。


雄山3003m

雄山では、社務所で山頂神社の拝観料を払うことにする。値段が書いてないので躊躇したが、聞いてみると200円。鈴付きのありがた〜い札が貰える。参道に行くとゲート小屋(今日は無人)に拝観料500円と書いてあるので、繁忙期はここでそれだけ盗るのだろう。多くの観光案内で立山の標高が雄山3003mと表記されているのは、ここの利権が絡んでると見た。(後で調べてみたらここは日本三大霊場だか霊山だかの一つで、500円の日はお祓いをしてもらったり酒を舐めたり出来るらしい。)


薬師岳から左に黒部五郎岳・笠ヶ岳(薄く)
右の谷間に有峰湖

雄山山頂からは、昔サイクリング部の合宿中に無心で湖畔を走り抜けた有峰湖を見下ろせた。さてここからの岩稜下りが自分にとっては難関。ただでさえ苦手なのに、いよいよ魔法もクソも無い、問題の左足首は「とても痛い」から「激しく痛い」にレベルアップし、一歩ごとに金切り声を上げる。膝も疲れてるし、手も痛い。無事岩稜を降り切ったところで、一ノ越からの雪渓群も悩ましい。おかげで下山にはとても時間がかかった。


火山湖のミクリガ池

室堂平まで下りて、後回しにしていた散策コースに入る。室堂とは古い山小屋のことで、2棟残されている。ミドリガ池、ミクリガ池などと周り、池には雪渓が浮いていて面白いが、空はどんよりしていて写真は今ひとつ。地獄谷は上から眺めるだけにしておいた。もう歩きたくない。



若干残る雪の大谷

室堂駅に戻ってみると、アルペンルートの復路は最終便を残すのみとなっていた。予定外に遅くなってしまったが、それだけ立山と長く時を共にできたのだから良しとするか。待ち時間があるのでベンチに座って休む。足が笑っている。写真を撮り過ぎて256MBのSDメモリーカードを使い切ってしまったが、ケータイで使用中のSDと入れ換えて生き長らえる(Vodaの利点だ)。3003きっぷの特典の絵はがきを窓口で貰う。奇麗な写真の3枚セットである。


立山トンネルのすれ違い所

16時30分発の最終トロリーバス。混むんだろうなと思ったら乗客オレ一人かい!? 乗り継ぎのロープウェーもオレ一人…。雨が泣いている。ちなみにこのロープウェーは日本で唯一のワンスパン方式で、つまり全長1702mもの間に一切の支柱がなく、大観峰駅だけで全ての重量を支えている。突然の地震て駅が崩れたら、私は地面に叩き付けられて粉々になってしまう。しかし眼下は夢のような岩と緑と沢の山肌。病院で死ぬよりマシかも知れない。


客のいないケーブルカー

空腹のあまり、各駅でお土産の試食をする。ケーブルカーも他に客なし。アルペンルートを作り上げるのに多大なる犠牲、莫大な建設費や維持費や人件費がかかってるんだろうに、割引券で乗ってる私一人とは、すまないねぇ。黒部ダムはびっこ引いて歩く。立山はすっかり雲の中で、ここもかなりの雨の跡がある。最後のトロリーバスは団体客もいてホッとした気分。さよなら立山、さよなら黒部。


松本−大町−立山

17時51分。大事にしていたランドナー、扇沢で雨に濡れていた。ともかく長い下り坂をナイトランにすることは避けたいので、急いでカッパを着て走らす。雨はますます激しさを増すが、市街地に降りる頃には小降りになった。空腹が限界なのでマクドに寄る。セットが安くなる広告クーポン券があり、期限が明日で切れるので是非使ってみたかった。

疲れたので電車で帰りたいが、チャリを放っては行けない。ダイナモランプを点けて、高瀬川沿いのやや下り基調を急行する。あれ、何だか意識が朦朧としてきた。そうだ、完徹だったので眠いのだ。睡魔との闘いは2度の途中休憩を余儀なくしたが、豊科経由で松本帰着、21時25分。

長い一日だったなぁ! その後すぐBlogを書かなきゃだったけど、今日を思い出しつつまとめるのもまた楽し。立山にかぶれて貰ってきたパンフを読みあさったり、Webで情報収集したり…。ああ、夜更かし癖が治らない。


黒部ダムから下を覗く

室堂から一ノ越へ

一番左が鹿島槍ヶ岳

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