青森駅出発前の急行はまなす

自転車キャンプツーリング記

急行はまなすで行く北海道 襟裳岬〜十勝縦断6泊7日の旅

2012年8月11〜17日

経緯

襟裳岬〜十勝縦断予定マップ

昨年末に2012年分の会社カレンダーを見たら、お盆が9連という長い休みになっていた。これはチャンス。もう二度と出来ないかも、と思っていた北海道自転車ツーリングに行くしかないじゃん。
…そう構想を練っていたのだが、5月に群馬の山中で遭難しかけ、自転車とキャンプ用品の多くを失ってしまった。膝を悪くしたし自信も失った。一度は諦める。

だが生涯最後かも知れない機会を逃すなんて嫌だ。ギリギリの金策で自転車、キャリア、テントを買い戻す。北海道へ往復するのに必要な列車の指定券は、有給休暇も使ってそれぞれ一ヶ月前に確保。贅沢は出来ないけれど、学生の頃のように貧乏旅行を楽しめれば良い。

過去に走ったことのない地域から行き先を選び、まずは襟裳岬へ。そこから十勝平野を北上して三国峠を目指す。予備日を1つ加算し、列車往復を含め6泊7日の旅程とした。残り2連休は家でぐったり休むとしても、一週間果たして体力気力は持つのだろうか。ひょっとしたら今年はとんでもない厄年で、またツーリング続行不能なトラブルが起きるんじゃないだろうか。不安を少しでも解消しようと輪行の練習などをしつつ、出発日を迎える。

日記

8/11() 旅は紙かカンに限る

いつも通りの朝食を早目に食う。テレビではロンドンオリンピックの中継をしているが、これからは暫く観られない。冷蔵庫の中身を空っぽにしたし、部屋中ほとんどのコンセントを引っこ抜いて準備完了。フルキャンプ装備の重いランドナーで自宅から松本駅まで下り、分解、袋詰めを行う。長い輪行の旅が始まる。

6:53発。改札を通したのは『北海道&東日本パス』…連続する7日間にJR2社の普通列車が乗り放題となる10000円の切符で、急行でも乗車券として使えるのが青春18きっぷとの大きな違いである。篠ノ井線の車窓には北アルプスが映る。帰ってくるのは一週間後だ。果たして荷物に過不足はないか心配になるが、もう考えてもしょうがない。眠くなるころ長野駅に着き、信越本線の普通『妙高』号に乗り換え。新潟県に入り新井駅からは快速『くびきの』号。どちらも元特急型車両で快適に進む。

車内でケータイやスマホを弄っている人を見ると羨ましくなる。自分だって旅先でニュースをチェックしたりブログやツイッターを読み書きするのは嫌いじゃない。けれどせっかくの非日常に日常が付いて回るし、電池切れの心配もしなくてはならない。
今回、思い切ってそういった物は持たないことにした。俺はもうそんなものには縛られないんだぞと、優越感があってもいい。旅には紙の時刻表と地図、あとは少々のカンがあれば充分。だって学生の頃はそうだったじゃないか。不安だけれど、帰ってくる頃にはきっと当たり前になっている。
唯一の情報手段としてFMラジオは持ってきた。と言ってもiPod nanoだが。ずっと列車に乗りっぱなしでこれ一つでは電池不足なので、音楽を聴く用に初代iPod shuffleも持ってきてある。

新津駅で持参のお好み焼き弁当を食いつつ、羽越本線に乗り換え。全て鈍行だと間に合わないので、新発田駅から少し特急でワープする。もちろん乗車券も追加購入してある。お盆休み初日ということでデッキまで酷い混雑、25分の辛抱だった。村上駅から再び鈍行に乗り換えまったり、キハ48形に揺られ笹川流れの景色をうとうと眺めながら山形県に入る。酒田駅からはロングシートの701系電車。こうして列車旅をするのも楽しいし楽だし、いっそ北海道でも自転車はやめて鉄道乗り潰しの旅に変更しようか?なんてね。ただ、久々にクーラーに当たっているせいか腹の調子が今ひとつ。

羽越本線より日本海

明日ランが始まったら予定通りのペースで行くか、ガンガン先行するか…。今考え過ぎても結論なんて出ないから、当日の風次第ってことでいいよ。鳥海山を過ぎて秋田県に入ると日本海に夕日が沈む。もうだいぶ遠くまで来たもんだ。奥羽本線に入って車窓は真っ暗になり、持参のおにぎり弁当を食いつつ大館駅からはまた特急ワープ。後発の鈍行でもギリギリ間に合うが、輪行中に乗り換え時間がタイトになるのは危険。ここで特急を使っておけば乗り継ぐ急行が半額になるので、料金に大差ないし。『つがる』号はE751系でとても乗り心地が良い。

青森駅に入線する急行はまなす

青森駅に夜行『はまなす』号が入線する時のワクワク感は半端じゃない。臨時を除けばJRで現存する唯一の急行列車で、青い客車が連なる様はブルートレインのような趣がある。今夜は機関車を含め13両、ホームからはみ出さんばかりに増結された編成だが、自由席車両はすぐに囚人列車と化した。指定席車両にも立ち客が溢れて来たので、やはり早目に自転車を積んでおいて良かった。自分は増結車の指定席。低グレードな簡易リクライニングだし隣の席との仕切りも無くて困るが、夜通し突っ立ってるよりゃマシだろう。

22:42発。津軽海峡線をゆく列車はいつしか海底深く、意識も薄れてゆく。

8/12() 襟裳の夏は何も見えない夏です

ああ、北海道に上陸したんだな。列車は函館駅でスイッチバックとなり、以降は函館本線を反対向きに進む。かと言って席を回す人はいないようだ。やはり寝心地悪く時々目が覚めてしまうが、全く眠れないよりは良い。長袖シャツとマスクを装備しておいたおかげで体調を崩すことなく、やがてうっすらと太平洋が見えてきた。ここまで立ち続けている人達の根性は凄い。

早朝、室蘭本線の苫小牧駅に到着。素早く自転車を下ろせて一安心。札幌へ向かう急行はまなすと一旦お別れだ。すっかり体が痛いので、早朝の市内を散歩しよう。北海道って夏でもこんなに寒いのか、と震えつつ3km離れた港町の卸売市場まで行く。しかし目当てのマルトマ食堂は日曜でお休みだった。そんな気はしていたんだ。朝食はコンビニで済まそう。

静内駅とキハ40

日高本線の単行気動車に乗り、さらに東を目指す。やや混んでる車内、みんなどこへ向かうんだろう。もしかしてピストン? 新冠や静内など、競馬ファンお馴染みの地名が何だか嬉しい。
車窓は本州に比べると極端に人家が少なく、サラブレッド牧場や昆布の天日干しが連続する。なんちゅー所まで来てしまったんだ。「とにかく遠い所へ」という旅心をかなり久々に刺激する。寝不足だけどこの景色で眠るわけにはいかない。北海道ツーリングは私が求めうる究極の非日常なんだ。

カロリーメイトを早目の昼食にしつつ11:19、さいはての駅、様似に到着。逆にここで走り終えた人と情報交換をしつつチャリを組み上げ、いざサイクリングを開始する。新しい『丸石エンペラー・ツーリングマスター』でする初めての旅行。途中で音を上げることがありませんように。

国道336号の様似付近

国道336号に出て、さっそくライダーさん達が手を振ってくるので振り返す。本州ではあまりない交流。そうか、ここは北海道なんだ。テンションがグングン上昇する。さっきまで晴れていた空は雲行き怪しくアポイ岳が隠れてしまったが、磯の香りの濃さを感じながら、徐々に脚の回転が良くなってくる。向い風でも24km/hくらい出ているようだ。そんなに急がなくていいよ。

襟裳岬へ向かう

えりも町のコープで買い出し。カステラと羊羹のサンドが珍しくて、これを間食にする。岬へ向かう道道34号に入ると、進めば進むほど森林のない丘が美しい道となる。これ、無料で走っていいの?ってくらい。しかし霧も深くなってくる。旅の第一目標だった襟裳岬に到着し、ハマナス咲く遊歩道を突端まで進むも、辛うじて眼下に波しぶきが見えるくらい。…目を閉じれば犬吠埼が見えるし、岬に背を向けて両手を広げれば「こっからこっちが北海道〜」。

百人浜キャンプ場

岬の東側を少し北上すれば百人浜。かつて大量の遺体が流れ着いたことから付いた地名で心霊スポットとされるし、カラスが多くて不気味だ。でもキャンプ場はそんなイメージとは違って浜から離れ緑に囲まれたところ。今日はまだ46kmしか走ってないけど、ラン初日から疲れてもロクな事がないからここまででいいや。まったりしよう。コンロやコッヘルまで持参する本格キャンプツーリングは3年振り。ごはんはまあまあ美味しく炊けた。おかずはレトルトカレーですが何か。エンドウ豆も一緒に炊いて一工夫したつもり。食後はスティックコーヒーで落ち着く。18時過ぎにはもう就寝。

ザッザッザッザッザッ…。テントのすぐ近くをたくさんの足音が行き交う。「バンガローで小学生が合宿するからうるさいかも知れませんよ」と管理人が言っていたのを思い出す。肝試しでもしてるのだろうか。じきに落ち着く。

8/13(月) どこ どこ どこから来るのか黄金道路

就寝が早すぎたし時折雨がテントを叩くので目を覚ますこともあったが、夜行列車の座席だった前泊に比べれば、ここは芝生の上だし気持ち良く眠れた。テントの前室で豆ご飯の余りを温めて塩で味付け、お湯も沸かしてパックの味噌汁で朝食にする。前室と言ってもアライテントの『エアライズ1』はあまりそのスペースはなく、ガソリンコンロの扱いには気をつけなければならない。その代わり軽量でコンパクト、そこそこの機能性で値段とのバランスが良い。今年買い替えたものは以前のより軽い材質が使用されており、ますますチャリダーの定番として活躍しそうだ。

黄金道路

ゴウゴウと海の声ばかり聞こえる百人浜を、生憎の小雨模様のもと合羽を着て6時に出発する。北に向かい国道336号に合流すると、日高山脈の絶壁が海に落ちるところに無理やり道を通した『黄金道路』が始まる。名前の通り莫大な建設費が掛かっており、犠牲も多かったであろう。私はそんなコンクリートの塊を有り難がる、一人の観光客に過ぎない。道路トンネルとしては北海道最長4941mを誇る『えりも黄金トンネル』はまだ早朝だからか、すれ違ったクルマ3台、追い抜いてったクルマ0台で意外に快適。覆道は文明遺跡のように芸術的だし、防波堤テトラポッドまで愛らしい。

岩肌を落ちる小さな滝が連続する『フンベの滝』を過ぎると、もう一息で広尾の街に着く。ここは何と言っても国鉄広尾線。とうに廃線となった終着駅が鉄道記念館として残されており、楽しさと無念さが同居する。ちきしょうモータリゼーションめ。
ここからほぼ旧鉄路沿いに、海岸を離れて内陸へ入る旅。北海道一周系ライダー&チャリダーとのすれ違いが激減する。直線状の道が続き、左右に入る農道も直線状。『○○南6号』といったバス停名が続く。

それにしても晴れそうにないなー。ケータイを持ってきていないので時事ニュースやオリンピック、高校野球、そして肝心の天気予報さえどうなっているのか分からない。大樹町にある道の駅に寄って、ようやく天気予報を知ることができた。どうやら今日いっぱい辛抱する必要がありそうである。それなら距離を稼ぎましょ。雨中走行はランドナーの真骨頂だし。虫類のセイコーマートで昼食にし、リスタートを切る。

更別村

国道236号はトラックを含め交通量が多い。若干の登坂で更別村に入ってから、右の道道238号へ逃げる。左右の丘は防風林で仕切られた広大な畑の風景。ぱっとみ長野県の野辺山高原に似ているが、それがどこまでも続くのだからさすが十勝平野! あっちもこっちも冒険してみたいけど、私はこの直線道路を前に進む。とかち帯広空港はちっとも飛行機の離着陸する様子がない。

旧広尾線愛国駅

国道に復帰するように左折すると、一大観光地である広尾線の幸福駅がある。小さくて黒い木造駅舎にはおびただしい枚数の名刺が鋲付けされており、線路跡にはキハ22形2両が静態保存されている。カップルでごった返すなか、売店で『愛国から幸福ゆき』の切符を買ってしまうのが悲しい性。
対して、もう少し走った所にある愛国駅は客層が落ち着いており、これなら「爆弾を仕掛けて、離れた所でスイッチを押したい」という衝動にかられることもない。

六花亭のサクサクパイ

道が広い帯広市街に入り雨が止んだところで、帯広南温泉(光南温泉)という旅館併設の銭湯に入る。わずかに黄土色のモール泉が、疲れを取ってくれそう。JR帯広駅の観光案内所で「ナイタイの通行止め、どうなりました?」と聞くと、「解除にはなったが今日の雨で地盤が緩んでどうなるかは分からない」とのこと。まぁ大丈夫だろう。明日走る予定の、一番気がかりだった所だ。出発直前に土砂崩れの情報があったから。
さらに六花亭の西三条店にも寄って、賞味期限3時間を誇るサクサクパイを食べる。140円でコーヒー無料。サクサクだぜ。

今夜は勝毎花火大会という北海道で一番大きな花火大会が開かれるとのことで、市内の公園でキャンプするには不向き。と思ったら明日に順延されたようだ。でも買い出しがまだだし、十勝川を渡ってもう少し進もう。そうこうしているうちに再び降り出した雨が本格化し、音更町の希望が丘公園に逃げ込む。屋根付きの駐輪場を発見、ここでいい。本日の走行134km、フル装備としては良く走ったんじゃないかな。夕食はキャンプの定番にしている麻婆豆腐に、もやし1袋も投入する。

8/14(火) ナイタイの風になりたい
音更町希望が丘公園

雨を降らせていた前線は南へ下がり、雲の隙間から青空が見えてくる。はるか西に山脈も姿を現す。これはきっと素晴らしい一日に、いや素晴らしい夏休みになりそうだ。はやる気持ちを抑えて濡れた荷物を乾かしたり、チェーンに注油したりする。朝7時半出発。

気が付けば旅程はもう中日となり、十勝縦断も後半戦。北へ向かう国道241号は相変わらずの直線道路で、始めちょろちょろ中ぱっぱと走ってゆく。行き交うライダーも多い。上士幌町に入って西に折れると、徐々に登ってナイタイ高原牧場の道に入る。つい下世話なスポーツ新聞を連想する名前だが、それとは無関係のアイヌ語が元で、日本最大の公共牧場とのこと。昨夜の雨でまた通行止なんてことはなく、入口が開いてるのを見て一安心。ピストンコースになるけど、対乗鞍トレーニングを兼ねて重い荷物を積んだまま、敷地内の丘を登る。

ナイタイ高原牧場の道

「これは現実なのか?」と疑って眼鏡を外すほど、緑の草原と所々の樹木が美しい。古いファンタジーゲームに例えるとハイドライド3のフェアリーランドに迷い込んだようだ。ゆっくり登ってどこでも停めて、ぼうっと風景を眺めたり写真を撮ったりできるのは自転車の特権。それにしては他のチャリダーを見掛けないけれど。
やがて標高800mのレストハウスに登り着く。牧場を一望し、麓に広がる平野は安心のとかちブランド。さらにその背後には道東の山々が連なる。ここではもう、お金を使っちゃおうね。『メガドック・煮込みハンバーグ』780円。そうそう、こういうの食いたかった。さらに『どら焼きサンド』450円。こちらは焼きたてなのは良いがすぐにソフトクリームが溶けてしまって、急いで食う必要があった。

ナイタイ高原ツリーハウス

暖かくなってきたし、下山もレーシャツ1枚で大丈夫そう。名残惜しく丘を下り始め、やっぱり時々止まって写真を撮りながら、ツリーハウスも近くで見ていく。この旅で最大の目的地を、大満足で後にした。

上士幌の街で買い出しとおやつを済ませ、国道273号を北へ行こうランララン。見ろよ青い空白い雲、サイコーの旅だ。脚の回転も絶好調。十勝平野縦断を終え、北海道の中枢部たる山岳地帯に入っていく。時々並行する国鉄士幌線のアーチ橋梁跡は、その上に木々が生い茂っていて、無常な美しさに息をのむ。いくつかトンネルを抜け、ぬかびら源泉郷に到着。

ぬかびら源泉郷

まだ14時だけど今日はここまで。85km走行、獲得標高差1030mくらいか。国設キャンプ場にテントを建てたり米をうるかす(水に浸す)などしておき、サンダルを履いて散歩に出る。糠平湖を見て、小さな鉄道資料館を見て、温泉街をぶらぶら。観光案内所の前でガソリン不足を訴えてるドライバーがいたが「22km先までスタンドないからJAF呼ぶしかないよー」とのこと。私の手持ち燃料ではどうにもならないだろう。
風呂は中村屋を選択。\中村屋/。古い銭湯みたいな男女別内湯と、男しかいない混浴露天。ロビーではエスプレッソを頂いて本を読んでまったり。これはくつろげる。

キャンプ場に戻り、夕食はレトルトハヤシに、レトルトハンバーグ3ヶ一束のやつを乗せる。昼食に比べると味は大幅グレードダウンだけど、ご飯は一番上手に炊けたよ。

8/15(水) 三国の四方を走るべし

標高があるせいか、前線南下で秋風が入っているのか、とても寒い夜だった。前回の旅で失った自転車やテントを買い戻して何とか実現したこの北海道だけど、資金不足で寝袋が無い。代わりに持ってきたダウンジャケットなど出来るだけの重ね着をしたが耐え切れず、朝4時にギブアップして朝食にする。

タウシュベツ橋梁

6時前には糠平を出発して北上。申し訳ないくらい良い天気だし、チャリのスピードは旧国鉄士幌線のアーチ橋梁群を見て回るのに丁度良い。クライマックスは湖の対岸から遠望するタウシュベツ橋梁。季節により水没を繰り返し、古代遺跡のように枯化している。
幌加駅跡には線路とホームが残されているが、周囲に人家は全く無い。終着の十勝三股駅も、かつて人口1500を擁したと云うが今はレストランが一軒あるのみ。路線バスさえ最近一日1往復にまで減便されたようだ。ルピナスの花が咲く季節にまた来られるかな。

松見大橋と十勝三股盆地

ここから登り坂が本格化し標高を700m、800mと上げてゆく。圧巻は大樹海にかかる松見大橋。30万都市があってもおかしくないほど広大な十勝三股盆地は、実際には数えるほどの人口しかいない。太古の昔は湖だったりしたのかな。周囲の山々もよく見渡せて、心に刻まれるよう。まもなく北海道の車道峠最高所、三国峠1139mに到達。レストハウスがあるのは良いけど、このへんからだと景色が半分木々に隠れてしまうんだな。カロリーメイトを早目の昼食にして、日本海・太平洋・オホーツク海の分水嶺である三国山の近くをトンネルで抜ける。さよなら十勝地方。

これで所期の目的は達した。あとは上川にでも下りて、列車に乗って帰ればいい。…しかしもう一日、予備日を設けてあるのだ。という訳でどこかのサイクリング部の人達?とすれ違いつつ大雪湖まで下りたら、東に折れて国道39号で石北峠1050mに登る。昔走ったことのある道だがすっかり記憶が薄れているし、峠も俺の知ってる石北峠と違う(後で調べたら建物は一度全て焼失したらしい)。売店は案外良心的な価格設定で、格安な土産物が目に付く。自分はカルビ巻き200円と、ソフトクリームトリプル500円を食べる。このソフトクリームは旨くなかったが。
店のラジオからは昼のニュースが聞こえる。そういえば今日、終戦記念日だったね。

道の駅おんねゆ温泉のからくりハト時計

冷えた腹で、北見地方へ豪快に下りてゆく。何だかこの道、三才山トンネルの東側(上田市)にイメージが似てるんだよなー。全然広いはずなのに。やがて温根湯温泉の道の駅に到着すると、『山の水族館』ってのがすごい行列になっている。口直しにまたソフトクリームを食い、少し離れた大江本家の風呂に入る。おお、広くて良い感じ。ロビーの新聞を見ると、今夜からまた雨?
道の駅に戻ると、15時ちょうどのからくりハト時計が始まったので見物していく。

キャンプ場もあるし今日はここまで、と考えていたが時間はまだある。脚が「走ってもいいよ」と言うので、もう少し頑張ることにした。向い風にめげずアウタートップで留辺蘂手前まで下り、左折して国道242号を北上。追い風に助けられつつ金華峠360mを越え、ランドナーらしからぬハイスピードでぶん回す。
年に数度のマラソンや自転車ヒルクライムレース、またそれに向けたトレーニング。何のためにやってるかと言えば「より自由に旅を楽しむため」って理由が大きい。今こそその成果を発揮する時だ。

生田原の街を抜け、間もなく遠軽…って所で力尽きた。ソフトクリームの腹持ち悪さを甘く見ていたぜ。仕方がない、カロメ半箱でエネルギーを補給し、スローダウンしてようやく遠軽の街に入る。買い出しが済む頃には、少し暗くなってきた。駅前の地図によれば丘の上にキャンプ場があるようだが、もう登る気力がない。

遠軽町の瞰望岩

瞰望岩(がんぼういわ)の真下にある公園で、ゲリラ的にキャンプする。こういう時に緑色のフライシートだと、目立たなくて良い。夕食はまたもやし入り麻婆豆腐だが、ひき肉も炒めてもう少し料理らしくする。本日は走行距離156km、獲得標高差1000mほど。存分に走って、北海道サイクリングが終わりつつある。あと数日続けられれば…とも思うが、米は使い切ったし帰りに乗る列車も決まっている。
いろいろ、どうなったかなぁ。ネットとかメールとか。毎日毎時かじりついていた先週までの過去が懐かしい。

8/16(木) 北海道で見る夕日は これが最後ねと
瞰望岩より石北本線スイッチバック

今度は身体の暖め過ぎか疲れ過ぎか、また長く眠れない。4時前に起床して朝食を済ませる。風が強くテントが乾いているのが幸い。さっさと撤収して、雨が降る前になるべく行動しよう。公園裏手の長い階段を登り、遠軽の象徴である瞰望岩の頂に立つ。まだほとんど眠っている町を一望でき、石北本線のスイッチバック線形もよく分かる。かつては北に続いていた名寄本線に思いを馳せ、下山して出発。サイクリング最終日も、消失点まで続く一直線の道を走る。

湧別町オホーツク海

1時間も北上すれば湧別の町を抜け、ついには港に突き当たる。少し東にシフトして浜へ出ると、そこは一面のオホーツク海! 旅の予備日としての蛇足ではあるが、これも見たかったんだ。頭の中に長渕剛の『オホーツクの海』が静かに流れる。あるいは斉藤清六が「オホーツクオホーツク♪」と歌う一正蒲鉾のCMソングとか。テトラポッドに登って、カムチャツカのてっぺん先を睨んだり、気まぐれな恋人の夢を見たり。
右手はサロマ湖の砂嘴が緑色に続くが、知床連山までは見えないか。左手は目を閉じれば樺太が見えるし、海に背を向けて両手を広げれば「こっからこっちが北海道〜」…と言うにはそうとう大きく広げる必要がある。

あとは帰るだけ、って時に雨が本降りになる。向い風のなか急ぎつつも、中湧別の保存駅だけは見ていく。あんまりずぶ濡れのまま輪行するのはブルーだなぁ、と思っていたら遠軽まで戻ると止んでくれた。本日走行50km、ここの駅にて5日間に及ぶサイクリングは終〜了〜。まだ「お疲れ様でした」という気分ではないが。
少しでもチャリを乾かすため、先に早目の昼食としてパンを買い食いし、それから分解・袋詰め作業に入る。チャックは少し開けておこうか…。キオスクで土産のハッカ飴を買い、10:18発の特別快速『きたみ』にバタバタと間に合わせた。これを逃すと、以降間に合う列車は特急しかなくなるから、昨日急遽無理して距離を稼いだんだ。北海道&東日本パスによる帰路が始まる。きたみはキハ54形の2両編成だ。

美瑛町、ケンとメリーの木

ぽっかりと時間的余裕が出来たので、どこか乗ったことのない路線を使ってみよう。車窓に目もくれず時刻表とにらめっこした結果、旭川駅から富良野線に乗ることにした。キハ150形の単行はやや混み、「なまら」などのリアル方言が聞こえてくる。
やがて美瑛駅に到着し、乗り継ぎの列車までまた時間がある。自転車を畳んでしまっても、私にはジョギングという脚がある。裏手の丘を駆け登って行くと『ケンとメリーの木』が立ち、美瑛らしい丘々の景色にマッチする。続いて北西の丘展望公園も寄るなど、天気は今ひとつだが駅に戻るまでの5.7kmを気持ち良く駆け抜けた。コンビニで大福を買い食いし、また列車に乗る。

富良野駅周辺も少しぶらぶらして、乗り継ぎの根室本線を待つ。5分遅れで来たキハ40形の赤い単行列車からは、大勢の同業者が降りてきた。原因はお前らか。合宿で輪行まで同行するのは考えたほうがいいな。降車作業も一大事。これから列車は回復運転、ワクワクするぜ。
車両や線路は廃線寸前の風情ながら、乗客はけっこう多い。滝川駅で函館本線の711系電車に乗り換えると、往路で見掛けたセーラー服男(?)がまた居るわ。今日はずっと曇りか雨だったけど、遥か西の空が晴れてきて、神々しい夕焼けになっている。私はこの車窓をずっと覚えているだろうか。

急行はまなすB寝台下段

731系、721系と乗り継いで苗穂駅で途中下車。駅前に蔵の湯という銭湯があり、食事セットが安いのでここで夕食にソースカツ丼を食う。風呂で昨日今日の汗を流してスッキリ。コンビニで明日の朝食分まで買い出しし、また電車に乗って札幌駅へ。もう歩き回るような余力はないので、改札を出ずに夜行急行はまなすを待つ。入線してきたのは青い機関車も含め往路と同じ13両編成で、自由席に空きはあるようだ。でも帰りは大枚はたいてB寝台下段を取ってあるんだ。旅情はまさにブルートレインそのもので、殺人事件とか起きたらどうしましょう、キャー!

22:00発。さぁ北海道はまだまだ長いよ。

8/17(金) 津軽海峡線夏景色
青森到着の急行はまなす1号車

寝台車はしっかり減光されるし、千歳駅を過ぎれば車内放送もない。降りる予定の客がいれば直接声を掛けるのだろう。快適なふかふかベッドに揺られ、函館駅での長時間停車時に一旦目を覚ましたのを除けばよく眠れた。5時ころ目を覚ます。顔を洗って通路の補助席に座ると、車窓には陸奥湾が広がる蓬田付近。『雲の向こう、約束の場所』のテーマが頭の中を流れる。

♪札幌発の夜行列車降りた時から、青森駅は雨の中。南へ帰る人の群れは誰も無口で、シャッターばかり切っている。私も一人、鈍行列車に乗り、酒田までのロングシートに泣いていました。ああ…

村上市の七夕祭りにて

もう完全に本州の風景だな。ちょくちょく間食しつつ、鶴岡駅からは臨時特急いなほ84号でワープし、村上駅で途中下車する。昼食の買い出しがてら散歩に出ると、七夕祭りで山車を引いている。電線に触れんばかりに高く飾られたぼんぼりは、人形劇を模した作りで凝っている。実際に電線に引っかかって、ぶっ壊れてしまったけど。それにしても本州は暑い。そういえば北海道では「暑い」ってこと無かったなぁ。
新潟駅からはこちら方面への旅で毎度世話になる快速くびき野号。増えつつあった溜め息が止まるほど、素晴らしい列車だ。日本海に夕日が沈む。

高田駅で乗り換え長野へ向かう。しかし大雨による徐行で相当な遅れが生じ、それが拡大していく一方なので大焦り。車内アナウンスによれば「乗り継ぎの列車はこの列車の到着を待って発車します」とのことだったが、とうとう新幹線の最終列車は反故にされた。松本方面の普通列車もギリギリの判断だったろうが、こちらは待っててくれた。昨日今日で17回目の乗り換えを済ませ、これで帰れる。
この一週間の旅で得たものは何か? 成長したのか? 多分、生命力は上がったと思う。当初の不安は日々解消し、まったりと激しく危なげなく、予定以上の質と量で走りを楽しめた。スポーツ趣味で培った体力的な自由と、ケータイ・ネット依存を断ったことによる精神的な自由が、私に最高の夏休みをもたらしたと言えよう。

新しい自転車は買って以来、激坂系レースにばかり連れ回していた。ランドナーらしいこの小旅行を経て、ようやく相棒になった気がする。他のチャリダーと会うことが少なかったのは少々残念。もっと旅人が増えるといい。車窓の締めくくりは姨捨駅からの夜景で、トンネルを抜ければ筑摩の地に入る。13分遅れの23:15に松本駅到着。チャリを組み立て、日付が変わる直前に帰宅を果たす。まず淹れるレギュラーコーヒーで落ち着く〜。
盆休みはあと二日残っているし、荷物を乾かしたり洗濯したりしながら、ネットの世界へも復帰していこう。ただいま。

付録

襟裳岬〜十勝縦断〜湧別マップ
襟裳岬突端 旧広尾線幸福駅 ナイタイ高原牧場レストハウス付近より
旧士幌線音更第四橋梁 三国峠〜大雪湖間 岩見沢付近の車窓夕景

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