むらよし旅日記・其の十八

晩秋の山形県へ

1997年11月1日〜2日
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夏休み補完計画

 夏におこなった1ヵ月のサイクリングは最終目標が山形県入りであったが、ついに目標を達成することなく手前の新潟で息絶えた。今回はその補完として、新たに個人ランを計画。東日本最後の聖地(まだ自分の自転車で行ってないってこと)となっている山形県に行くことにする。時はもう11月、東北地方では冬の足音すら聞こえそうな季節となっている。

11月1日(土)あの虹をくぐろう

 夜行快速『ムーンライトえちご』号はまだ暗いうちに新潟駅到着。新潟は今年の夏に無念のラン中止をした場所であり、その続きとして今日これからここを出発するのだ。
 ある程度明るくなってから自転車にまたがり、北東方面に走り始める。冷たい風が新鮮。サイクリングってこんなに楽しかったっけ? 55キロほど走った坂町という駅に寄る頃にはしかし、もうやる気をなくし、計画の下方修正を考えだす。本日目的の赤湯まではあと80km、400mアップ・・・。例によって寝不足でおまけに運動不足でもある体、無理はしない方がよいかな。
 いや、もう弱気にはなりたくない! やることはやるのだ! 久々に強気な気分になり、西へ向かって前進することにする。荒川沿いの国道113号線、強い追い風も味方になっている。
 程なく山形県小国町に入る。念願の山形県入り達成! ここらへんで今日はおしまいにしちゃおう、という弱音をギリギリ跳ね返してさらに先へ進む。一日くらい無理しても死にはしないだろう。ところで途中『赤芝峡』という所は東北有数の紅葉の名所で、確かに巨大な壁のように迫り来る山肌は見事だが、今年は紅葉の色つきがあまり良くないみたいだった。まあ秋より冬を感じに来ているランだからいいけどね。
 そのうち雨が降りだしてくる。標高が高くなるにつれヒョウが吹雪のように吹き付けるようになり、時々設置されている電光掲示板の気温表示は8度→6度→4度→3度とどんどん低くなっていく。どうやら相当な寒波が来ているようで、少し足を休めようものなら猛烈な寒さに襲われる。しかし自転車を漕いで坂を登っている分には暑く、まさに体がすごい熱量を発しているのを実感できる。顔面は雨雪と汗と涙と鼻水でぐじゃぐじゃになって訳わかんねぇ。
 宇津峠をくぐる宇津トンネルを抜けると今度は米沢盆地への下り坂、もろに寒い! 特に手はシビれちゃう。雨雪は峠を越えたおかげで期待通り止み、背後の山際には待望の太陽が顔を出す。そして前を見ると!

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(建物など略)
 こんなふうにくっきり虹が! これに感動せずして何に感動せよと言うのか。寒さつらさがしばらく吹っ飛ぶ。一時の安らぎを与えてくれた虹は、しかしやがて消滅・・・。
 夕方思ったより早く赤湯に到着。まずは赤湯駅内のヒーターにへばりつき、冷え切った体をあたためつつ濡れたジャンパーも乾かす。そして街中の小公園にテントを設営し、食事は近くの定食屋で頂く。さらに赤湯といえば開湯900年の赤湯温泉。百円で入れる公衆浴場は、冷え切った体にゴクラクゴクラク。

11月2日(日)あこがれの奥州三名湯

 夜中、足の冷たさで何度か目が覚めてしまって、そのままつらい朝を迎える。寒いがとにかく行動しなくては、と思っていたら公園掃除のおばさんが話しかけてきたぞ。「朝ごはんは?」よっしゃー。この人は高校野球で有名な某宗教の信者で、朝御飯を食べさせてくれるのはうれしいけど教団のありがたさを熱心に説いてくるのは難である。とにかく山形名物ラフランスまで食べさせてもらうなどの親切を受けて、赤湯を出発。
 今日はいい天気で、飯豊連峰や朝日岳の雪化粧が美しい。行き先はいろんなルートが考えられるけれども、比較的楽な福島行きプランを実行することにした。まずは交通量が少なくていい感じの坂道を650mほどアップして鳩峰峠へ。奥羽山脈を越えるこの峠からは米沢盆地を一望でき、飯豊連峰や朝日岳と合わせて絶景である。やっぱ峠はこうでなくっちゃ。車で来ている人からは時々「自転車で、すごいねー。」と言われるのもちょっとうれしい。
 下り坂はときおり鮮やかなもみじも眺めつつ、そのうちなんだか荒涼とした谷に入った。どうやらダムを建設中で、ハッパもかけられている。さらに下るといよいよ飯坂温泉だ。奥州三名湯のひとつなのであこがれていたのだ。鯖湖湯という古い建築様式の共同湯は百円という安さ、疲れた手足にぴりぴりくる。
 あとは福島駅まで走ってラン終了、輪行して電車に乗る。つくばに帰ってみれば東北に比べまだ暖かく感じるものだ。

 一足早く冬を感じてついでに秋も楽しめたラン、まさに楽しさが凝縮された二日間だった。“山形”という心のスキ間は埋まって東日本は全県制覇できたけれども、しかし東北にはまだまだ行きたい所がたくさんある。今回のように楽しいランだったらまた何度でも行きたいね。


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