むらよし旅日記・其の二十一

キャンピング班GW合宿:秋葉街道’98

1998年5月2日〜5日

秋葉街道再び・・・

 我らが筑波大学サイクリング部は今年、久々に新入生が多く入ってくる好調ぶり。私は、今回のゴールデンウィークは出身キャンピング班にこだわらず、ファーストラン班(主にレーサーで旅する班)の合宿にでも参加するつもりでいたが、諸多の事情により、結局またキャンピング班合宿への参加となった。
 しかも合宿地は3年前に経験がある長野県秋葉街道。あの時はサイクリングに目覚めてしまった歴史的なツーリングだったが、同じ場所でもう一度合宿だなんて、勿体ない気がする。でもまぁ、それでも何か得られるものがあるのだろう。

map

5月2日(土)杖を突きたくなる峠

 最近、つくばの近くに新しく開業した“JRひたち野うしく駅”から朝早い電車に乗り、東京経由で信濃路へ旅に出る。あずさ2号なんかではなくもちろん鈍行だ。4人来るはずだった新入生はなぜか2人に減っていた。ドタキャンがまかり通る時代ということか。気持ちは判る。とにかく合宿メンバーは6人となった。
 長野県に入って諏訪湖の手前にあたる茅野(ちの)駅で電車を降り、輪行袋に詰めておいたバラバラの自転車を、駅前で組み立てる。ここからサイクリングのスタートだ。茅野は、北にある白樺湖など避暑地へのベースとして有名な街だが、今回我々が向かうのはひたすら南。
 まずは約600mアップの杖突峠。杖を突きたくなるほど大変な峠。3年前も登ったはずだが、しかし道中の記憶がほとんど残っていないことに気が付いた。やがて峠の展望ポイントが見えてきた。ここで私とM下先輩がスプリント勝負! これに割り込んできたのが何と1年生のI上君。結局レースはM下先輩の勝利だったが、頼もしい新入生が入ったものだ。
 峠からの景色は、曇っていて八ヶ岳などは見えなかったが、眼下の街を見下ろすのはやはり気分がいいものだ。
 国道152号線をひたすら南下するのが秋葉街道ツーリングの基本形だが、今回の合宿では、杖突峠で東に折れ、入笠山方面への林道でやや遠回りしてみるルートを走ってみることになった。ここの林道は舗装されていて、しかも交通量が少ないから快適。
 しかし小雨模様になってきてしまった。するとそこに千代田湖畔キャンプ場発見。今日はここまでとなり、定番のカレーを食べてテント泊。明日の天気は・・・。

5月3日(日,憲法記念日)雷をよけるゲーム

 ロマンチックな湖畔の朝。いい天気になるかなー、と思ったら、尾根づたいのダート道に入るなり土砂降り。おまけに雷が鳴り出した! これは誰か雷に打たれるかも知れない。こんな所で死んでたまるか。山道では各自フリーペース走行なので、私は大急ぎで山を降りた。I上君曰く「中村さん、ダートの下り速いっすねぇ。」…逃げ足が速いだけだ。
 長谷村にある公園の東屋で雨をしのぎつつの昼食。ドロヨケのないMTBゆえに泥だらけになった1年生二人はさすがにブルーそうだ。公園の水道をかぶるようにして泥を落としていた。こういう時、私やI島の乗っているランドナーは有利だ。ちなみに新入生S坪君はコンビニカッパ。この点では私の後継者となってくれそう。安くて便利だよね?
 さらに南へ、分杭峠への登りで、急に今度は天気が良くなってきた。南アルプス千丈ヶ岳がきれいに見える。
 600mアップして分杭峠。崖崩れの復旧工事で通行止だったが、二輪車なら何とか通れる幅が残されていて事無きを得た。
 峠を下りて大鹿村。少し寄り道した所に鹿塩温泉が湧いている。3年前は素通りしたが、今回は班長K林女史の執念により入浴。湯を舐めてみると、確かに塩っぽい。
 キャンプはGW休校中の大鹿小学校にて。3年前の面影はわずかで、校舎は新築だ。ここでカメラマンM田先輩合流。メンバーは7人になった。校庭からは、まだ雪渓を残している赤石岳が、夕日に映えて文字通り赤く見えた。夕食はスキヤキもどき。

(こういった日常と離れた旅先で、片付け忘れていた心の中の問題を、ひとつひとつ解いていく。それができるだけで、旅に出た価値は十分に見い出せる。)

5月4日(月,国民の休日)ランエボと勝負か!?

picture
大鹿小学校の朝
 いい天気の朝。赤石山脈(南アルプス)の代表峰とも言える赤石岳が、V字谷の向こうに大きくそびえている。
 我々が旅している秋葉街道は、古くは遠江の国にある秋葉神社へお参りするための、信仰の道であった。赤石山脈と伊那山地に挟まれてほぼ直線の谷が続き、中央構造線の断層も観察できる道として、地学マニア感涙の街道でもある。
 そんな秋葉街道。みんな頑張って地蔵峠を登り、さらに上、しらびそ峠を目指してトラバースする。途中で、名古屋から軽装サイクリングに来ている50歳位のオッサンと合流。この人と世間話をしながら登る。というか、こっちは息が絶え絶えなのに、何という元気なオヤジなんだろう。峠でスプリントされ、“峠で一番”を奪われてしまった。
 私は3年前の時ほどの脳内麻薬が分泌されなかったようだが、やっぱり登りこそサイクリングの醍醐味であると思う。よく自動車で上まで登って下りだけチャリで楽しむ人も見かけるが、勿体なくてかわいそうだ。同じ自転車愛好者ということで手は振るけど。
 我々のメンバーの中では、I上君が2番手で登って来た。S坪君も、トゥクリップ無しなのにさほど遅れずついてくる。今年の1年生はやっぱ強い。
picture
しらびそ峠から見下ろす風景
 さあしらびそ峠からの眺望。南アルプスが大迫力。嶺線あたりは雲で隠れてしまっていて残念だが、見下ろす谷の圧倒的な大自然空間は健在だ。素晴しい。
 さらに100mほどアップした所に広がるしらびそ高原で昼食。メニューは今朝炊いておいた釜飯(コッヘル弁当)である。ふもとから計1300mアップした、この標高1900mの草原を渡る風が気持ちいい。
 そして長い下り。始めはダート、しかし舗装路に入ってからの激坂の方が恐ろしかった。少しブレーキ遅れると谷底へ転落してしまいそうだ。
 普通、下り坂ではチャリは自動車より速いものだ。しかし、そんな我々を黄色い車が猛烈に追い抜いていった。だめだ、勝てねぇ。あれはあこがれのランサー、しかもリリースされたばかりのエボV、さすが……。
 急斜面にへばりつく“日本のチロル”下栗集落を抜けて、南信濃村にある小学校でキャンプ。近くに「せせらぎの里」という温泉があるという情報を聞きつけ、入浴に行く。400円かかる筈なのだが、受け付けの人が寛大なのかルーズなのか、タダで入れてくれた。ラッキー。それにしても一度も風呂に入らなかった3年前とは大違いだ。班長が代わると合宿も変わる。
 風呂後、つい財布の紐が緩み、缶ジュースを買ってしまった。いかん、ランの修行性が薄れる…が、まあいいか。夕食は焼肉もどき、その後は酒が入る。いつもはすぐに眠ってしまう私だが、今夜は調子良くギャグを飛ばしまくる。

5月5日(火,こどもの日)深い山道を抜けて

picture
青崩峠の登山道へ
 3年前は楽々登っていた青崩への坂。今登ってみると長くつらい。時の流れとはかくあるものか。やがて国道は消滅し、先は遊歩道しかなくなる。チャリを押したり担いだり。マジでこんなつらかったっけ!?ハードなGW合宿、4日目ともなると足に無理が利かなくなっている。
 頑張って青崩峠に到着。南北に緑の谷が望める、やっぱり渋さNo.1の峠だ!! ここで“峠のノート”を探す。残念ながら3年前のノートは失われていたが(本当に残念)、新しく置かれているノートにまた峠の感想を記す。
 それにしてもみんな疲れている様子だ。この峠も700mアップはあった。峠に散策に来ていたオバサン達が分けてくれた、おにぎりやパンが有難かった。
 峠からは静岡県に入る。坂を下っていき、水窪は素通りして天竜川と合流。疲労感と戦いながら、左手の山の上のほうにある秋葉神社はパス、天竜市までハイペースで走った。長らく続いた深い山々は終り、平野がひらける。ここの天竜二俣駅でラン終了。天竜浜名湖鉄道の単行汽動車に乗り込む。こういったローカル鉄道に乗れることが、鉄道好きとしてはたまらなく嬉しいぞ。
 東海道本線に乗り換えてからは、MDを聴きながらおとなしくつくばへ帰った。

 ハードになりがちなGW合宿が、4日間と、例年に比べ1日長くなって、より大変だった今回の秋葉街道だったが、頼もしい1年生達、そして天候の変化にも恵まれて、楽しい合宿になったと思う。また、個人的にも精神のリフレッシュができて、旅の有難みを感じる4日間であった。しかし体力の落ち込みは、どうにかしたいと思う・・・。


return むらよし旅日記(目次)へ戻る