むらよし旅日記・其の二十三

キャンピング班秋合宿:富士山麓周遊編

1998年11月26日〜29日
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もう旅なんてしない

 体力面のみならず、精神的にも疲れ切った夏。「もう旅なんかするものか!」とさえ思った。あれから3ヵ月。まだ心は十分に立ち直っていないのだが、もうサイクリング部では秋合宿の時期を迎えた……。
 まあ、合宿なら孤独でつらい思いをすることもない。今回もキャンピング班の後輩達が主宰する合宿に参加させてもらうことにした。場所は富士山麓をぐるっと約一周するルート。もう冬近く、寒さや天気がやや心配ではある。

11月26日(木)箱根の山は天下の険

 毎度のように夜明け前、大学宿舎前に集まった我々キャンピング班。合宿参加者は残念にも一人風邪で欠席し、結果6人になった。荒川沖駅まで走って輪行、常磐線に乗り込み都心へ向かう頃、ようやく空は明るくなった。
 移動の列車内では基本的に独りだ。車窓を眺めながら、MDウォークマンを聴く。合宿前はややブルーだった心境も、こうして旅立ってしまえば気楽なものである。列車の揺れも心地よい。東海道本線に乗り継いだ我々は、やがて神奈川県の小田原駅に到着した。天候は曇りである。
 1年生T村は今回、おニューのランドナーで来ている。ランドナー乗りが増えるのは心強く嬉しいことである。しかし輪行の分解・組み立てにはまだまだ時間がかかっている。そういう自転車だから仕方ないが、そのうち慣れて、手早く出来るようになるだろう。
 駅の近くのスーパーで食事の買い出しをして、まずはかの小田原城を訪ねる。戦国時代には北条氏が、そのあまりにも強固な城郭構造で敵を悩ませしめた名城である。しかし今はなぜかちゃっちい動物園と化している。ぞうさん、あまり幸せそうじゃない。
 いい雰囲気の小田原の街を抜け、国道1号線、そして県道の旧東海道の坂へ。昔はこっちが箱根の坂だった。さすが“天下の険”、かなりの激坂である。みんな苦労して登って行く中、1年生I藤が立て続けにパンク。それが精神的に応えたらしく、彼らしくない遅いペースになってしまった。私はシンガリにつけ、滅入る彼をなんとか励ましつつ、やっとの思いで峠にたどり着いた。
 峠には“甘酒茶屋”がある。観光バスも寄るような名所ゆえ、その価格設定はボッタクリっぽいが、まあいいか。甘酒と餅を口にした。

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箱根関所にぶら下がるの図
 いちおう箱根関所跡も見学し、カルデラ芦ノ湖の東岸サイクリングロードを走る。やがて湖の北端、県立芦ノ湖キャンプ場に到着。夕食は鶏味噌なべ鴨入り、とても美味しかった。寝る。

11月27日(金)視界いっぱいの富士山

 標高700mを越えている湖畔の朝、しかし意外に暖かい。テントをたたみ、北へ向かう。箱根外輪山ごしにもう富士山がきれいに見える。いい天気になりそうだ。
 外輪山を越える乙女峠のトンネルを抜けると、今度は一切さえぎるもののない見事な富士山! よく考えてみれば、いつも見ている紫峰筑波山の、4倍以上の標高があるのだ。少し雪もかぶり始めている富士山、少しずつ斜度を緩やかにする裾野も広大だ。
 眼下には御殿場の街並もよく見える。今回のツーリングは初めて、眼鏡ではなくコンタクトレンズを着用してのランにしている。だからいつもより視界が広いし、見下ろす街並の一つ一つの建物もクリアに見えるのだ。

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浅間(せんげん)神社で不良座りの図
 静岡県に属する御殿場市街に下り、昼食の買い出しをして北へ、また坂を登る。途中の浅間神社でいつもの“その場サンドイッチ”。やはりフルーチェをパンに塗るのがおいしい。
 さらに登り坂を行く。昨日不調だったI藤はすっかり元気を取り戻していて、一番に篭坂峠に到着。回復してなによりだ。そして私も到着。他の皆もそのうち到着。ここからは山梨県に入る。
 富士山の山梨県側は、富士五湖を擁する湖沼地帯だ。かつては一つの巨大な湖が存在したとも言われる。篭坂峠を下りると、まずは山中湖。電波少年で一躍有名になった(?)山中湖スワンボートがたくさん桟橋に浮いている。
 次に忍野八海。“忍野八海”って一体何だ? メンバー誰も未確認であったが、行ってみるとやはり8つの池がある所だった。ただの池ではない。ものすごく深く、透明度もバツグン。水面には富士山が逆さまに映る。他の観光客が「来てよかった!」なんて漏らしてるので、私もその気になった。
 富士吉田市で買い出しをして、河口湖へ向かう頃にはもう暗くなった。富士急ハイランドの観覧車は七色に輝き、街灯やホテルの明りが映る河口湖の夜景もロマンチック。湖畔にあるキャンプ場でM谷先輩と合流し7人、今夜はぽん酢なべ。

11月28日(土)不尽の高嶺に雪は降りける

 やや寒い朝。夜のうちに富士山に雪が積もったらしく、その雪を大きく被ってすごくきれいな朝焼けの富士。河口湖畔の紅葉で染まった斜面も美しい。
 1年のS坪がここで都合により帰宅、また6人になってのラン。河口湖から西湖へ、紅葉を眺めながらの湖畔サイクリングを楽しむ。西湖を越えるとそこは富士の樹海地帯。うっかり道を外れたら本当に戻ってこれなくなるのだろうか。
 ここは洞窟地帯でもある。そのうちの一つ、鳴沢氷穴に入る。観光客向けに中を一周できるようになっている。確かに寒い。
 少し寄り道でダートを登ると、紅葉台という展望ポイントがある。そこから南には見事な富士、北の眼下には西湖、さらに西に視線を移していくと、広大な樹海、そして稜線に雪をたたえた南アルプスまで!
 さらに登ると五湖台というもっといい展望所もあるのだが、あまり無理な寄り道は合宿中は禁物ということで断念。山を下り、再び樹海の中を南へ進む。富士山の北西斜面を進んでいる。すると、また絶好の展望ポイント発見。南アルプス山脈が北から南までほとんど見渡せるのだ。いい天気だ。本栖湖もおまけ。

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銀マットを風になびかせるの図
 富士ヶ嶺の牧草地で昼パン。間近に、すぐそこに、青と白の富士山を眺めながら。
 やや坂を下りて、静岡県側に入ると朝霧高原。山麓に牛の放牧。これが牧歌的風景ってやつか。さらに南へ向かう。ここで私は、キャリアにくくり付けていたはずのテントのフライシートをどこかに落としてきたことに気が付いた。やばっ。みんなを先に行かせて、私は道を引き返して探す。すぐに見つかった。車に轢かれていて、ファスナーがイカレてしまったのだが。ともかく急いでみんなを追いかけ、予定通り白糸の滝前で落ち合った。
 白糸の滝は、富士山麓最大の滝。横視界いっぱいに、無数に小さな滝筋が広がる。それ自体はとても神秘的である。もし他の観光客とかいなかったら、素晴しい、鳥肌の立つほどの感動だったろう。実際には観光客でごった返している。
 キャンプは田貫湖キャンプ場で。連日のキャンプ場使用はちょっと金かかるが、きれいなキャンプ場なのでよしとしよう。夕日を受けてくれないに染まった富士もまた美しい。
 そして夜になると富士山は空よりも黒くなる。味噌キムチ鍋、そして小コンパもして、睡眠へ。

11月29日(日)田子の浦ゆ、うち出でて見れば…

 今朝は曇りがち。富士の日ノ出はなし。
 田貫湖を一周してから、海に向けてひたすらな下り坂へ。富士宮市、そして富士市の街中を長い時間隊列状態で下っていると、衝突などが怖いため精神的にとても疲れる。海に着く頃には口も聞けぬほどになっていた。
 そこは、かの和歌で有名な田子の浦。しかし現代ではあまりに人工的な護岸堤防が連なり、風情のかけらもなく。ともかくここで海風を浴びながら昼食パン。向こうには伊豆も見える、きらめく海を前に陽の光を受けておひるね・・・、するほど睡眠不足じゃなかった。
 ここから東の千本松原方面へ、ずーっと単調な海岸サイクリングロード。向かい風に苦しみ、なかなか向こうに見える沼津の街が近づかない。先頭風避けの1年生つらそう。
 かくしてようやく沼津に到着。せっかく静岡に来ているので、私はお土産に緑茶を買った。あとは行きと同じくMDを聴きながら、電車でつくばへ帰った。

 つまらない日常。やっぱ合宿で非日常を時々楽しまないとね、と思った。それだけ楽しい合宿だったということかな。心配していたほど寒くもなく、天気に恵まれ過ぎて顔がずいぶん日焼けしたほどだ。富士山の偉大さを思い知った、でも“あたたかい”合宿だったと思う。

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