むらよし旅日記・其の四

東信北信ホステリング

1995年8月20日〜22日

 8月22日から、自分がもう一つ所属しているギター・マンドリン部の、夏合宿が信州の野沢温泉で行われる。ということで私は、サイクリングでそれに合流することに決めた。なにしろ信州といえば、北海道と並び賞するに値するサイクリストの聖地といえる。
 もともとユースホステルというものにあこがれていたので、それを2ヵ所予約してみた。ギターなど合宿に必要な荷物は、自動車で来る友人に預けておいた。
 さあ、初めての“個人ラン”。ひとりで泊りがけの旅行をするのもこれが生まれて初めてだと思う。

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8月20日(日)

 茨城の大学から東京に帰省中だった私は、自転車を分解・袋詰めつまり輪行して電車に乗り込んだ。到着したのは群馬県の端、横川駅。ひとりなので、合宿時と違って気がねなくゆっくり自転車を組み立てられる。ここの名物は何と言っても“峠の釜めし”。暑くて食欲が全くないが、なんとか腹に詰め込み、正午になってラン開始。
 さっそく中山道・碓氷峠への登りが始まるが、勾配はさほどきつくもない。それより自動車やバイクの交通量が多いのがイヤかな。途中、特急あさま号を押して登る電気機関車や、昔の鉄道の跡である眼鏡橋など面白いものを見かけた。鉄道ファンだったらたまらないだろうな。ここで他のサイクリストとすれ違って軽く挨拶。よーし元気が出てきたぞ。
 184のカーブを数えて(いや数えてないが)長野県との県境、碓氷峠に着いた。茶屋ぐらいあるかと思ったら何もない。それもそのはず、すぐ下ったらもう軽井沢の街なのだ。せっかく登ったのにちょっと拍子抜けしてしまう。
 あまり遅くなると夕立ちの心配があるので、観光を楽しむ余裕はなし。軽井沢と小諸は、残念だが通過でやりすごす。浅間山が雲に隠れて見えないのも残念。
 交通量の少ない北国街道旧道があるのでそちらを走ってみる。『海野宿(うんのじゅく)』では古い宿場の街並が、観光地化して残されている。そこで売っているソフトクリームがおいしそうだったが、何とか我慢だ。
 やがて上田市街まで走り来た。時間的に余裕は出てきたが、やっぱり空模様が不安なので別所温泉へ直行する。こうして無事に“上田まほろばユースホステル”に到着。個人でYHを利用するのは初めてなので、ワクワクする。
 しばらく休んでいたら、レーサー(自転車の一種)の旅人もやってきた。おおっ。そしてちと眠いが温泉が先、近くの共同温泉につかる。疲れた両足が「まだつかっていたいよう!」と言うが、上半身がのぼせそうなのでほどほどにした。ユースホステルに戻り、先程のレーサーの人と話す。28歳の既婚の人で、今日は須坂市の方から菅平高原を越えて来たそうだ。若くて時間のあるうちに小笠原へ旅しに行くといいとか、夏のツーリングは北海道が一番だとか、いろいろ教えてくれた。
 やがて食事の時間。そっか、ユースホステルでは支度を手伝うんだよね。それにしてもここは、とても家庭的な宿である。家庭と違うのは、よそう箸と食べる箸が別であることくらい。出てきたのは豪勢なメシではあるが、例によって食欲がなく、またむりやり腹に詰め込む。
 食後、自己紹介なんてのもある。今日の仲間はYHペアレンツとヘルパーの女の子、さっきのレーサー、一家族、ユースキチ○イおばさん、そして遅れてきたおっさんといったところだ。そのユースキ○ガイおばさんいわく「天気が崩れてきそうね、なんとなく。」えっ、そりゃあ困るぜ。
 とにかく今日はここの家庭的な雰囲気に感動した。旅って楽しいな、なんて。さて明日はどうしよう、楽して千曲川沿いに行くか、菅平高原越えに挑むか…。

8月21日(月)

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上田まほろばYH前にて
 ユースの前でペアレントにシャッターを押してもらい、出発。ペアレントに「菅平には登るの?」と聞かれ「ええ、そのつもりです。」と答えてしまったので、登らないわけには行かなくなってしまった。
 上田城跡で一休みして、その900mアップを開始した。しかし、どうもたりぃ。やっぱひとりだと気合いが入らない。しかも交通量が多い。ま、ペダル漕いでりゃそのうち着くだろう。
 昼ごろ、ようやく菅平高原まで登り切った。高原だけあって涼しく、しかしラグビー部の合宿生たちが大勢徘徊しているのはムサイ。何はともかくソフトクリームを喰う。「かーっ、うめえ!」
 記念に“SUGADAIRA”ワッペンを買って自転車のフロントバックに付けてみた。さらに、知る人ぞ知る筑波大学生物実験センターに寄ってみた。しかし特に興味を引くものは見当たらなかった。
 須坂市への下りに入った。ちょっと下った所に、昨日のレーサーが教えてくれた湧き水をを見つけ、飲んでみた。冷たくてうまい。さらに豪快な下り坂。こんな道、登りたくないぞ。やがて街に着いて“コンビニ定食”を喰う。相変わらず食欲が無いので、ウイダーエネルギーインなど流動物ばっか。
 長野市の“アップルライン”に入る。この道にはちょうど収穫が始まったばかりの林檎の直売店が立ち並んでいて、私も買い喰いしてみた。つがるりんごが2個100円。まずその場で一個まるかじりする。甘くておいしいね。
 「さあ、これから野尻湖への登りだ」って所で、恐れていた夕立ちが始まってしまった。急きょ近くのセブンイレブンへ避難して、ジュースを飲んだり地図をチェックしたりもう一個の林檎をかじったりしながら、雨が止むのを待つ。一応安物のカッパ(コンビニで売っている俗称“ゴアゴアテックス”)は持っているが、やっぱり雨にはあたりたくないもの。そんな中、コンビニに駐車した車のラジオから偶然「帝京高校の栄誉をたたえ…」と聞こえてきた。よっしゃ地元が優勝したぜ、夏の高校野球。
 やがて小降りになったので出発。かったりー登りを終え、やーっと野尻湖へ。今日のお宿はYH宮川旅館。昨日とは一転して、ひとりでゆっくりくつろげる環境ではある。一応、他のホステラーとも少し話はしたが。今日は走行距離約95km、アップも合計約1300mと、結構走った。明日は楽をしよう。

8月22日(火)

 朝から雨。やがて止んだので野尻湖一周を目指す。ここ野尻湖はナウマン象の化石が出たとかで有名らしい。それにしても、たかが湖一周なのにアップダウンきつい。半周ぐらいしてまた本降りになってきてしまったので、喫茶店に避難。ずーっと待ってやっと止んで、一周終わる頃にはもう午後になってしまった。
 カロリーメイトを喰って、万坂峠さらに斑尾高原へ登る。やたらきついぞ。空は晴れて暑くなってくるし。
 ゴーカイな坂を下りると飯山市街。千曲川を望む飯山城跡公園で休みながら、またカロリーメイトを喰う。ラストは野沢温泉へ。ここも登り坂、厄介である。
 そしてついに野沢温泉に到着。いよいよ尊敬するあの人に、楽しいあいつに、かわいいあの娘に会える…? そんな期待に胸をふくらませて、ギター・マンドリン部の合宿が行われる宿に着いてみたら、まだ誰も来ていなくて寂しかった。ちえっ、みんなが集まってる所に現れてみたかったのにな、なんて。やがてぼちぼち自動車でみんながやってきた。まあ、いいか。

 こんな感じで無事ギター・マンドリン部の合宿に合流。自由時間にはちょっとしたサイクリングに出かけるなど、存分に5日間の合宿を楽しんだ。もちろんギター練習の成果も得た(ハズ)。
 帰りも自転車で、越後湯沢まで走った。そこから新幹線輪行、という贅沢をして帰京。初めての個人ラン、なかなかナイスな旅だった。


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