むらよし旅日記・其の十四

拝めや拝め善光寺祝御開帳ラン

1997年5月25日〜26日
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個人ランの季節に

 今年は七年に一度の善光寺御開帳の年。それに合わせ、温泉好きなら一度は肌で感じたい草津温泉、サイクリストなら一度は攻略したい渋峠、他に北アルプスの眺望、仁科三湖と、一泊二日にしては盛りだくさんの内容で計画を立てた。
 本来土曜日出発の予定だったが、天気の都合で日曜日に延期。まあ、どうせ月曜の授業なんて行かねえし・・・。

5月25日(日)お医者様でも草津の湯でも

 朝4時過ぎ、お気に入りのレギュラーコーヒーを飲んで、つくばのアパートを自転車で出発。まず30km北の下館駅まで、曇天の夜明けを駆け抜ける。
 下館駅からは自転車を輪行し、電車で西へ向かう。昨日まで北関東を襲った暴風雨で、車窓に見えるどの川も氾濫しそうな勢いで流れている。でもこれから向かう先の西の空は、みるみる青くなっていく。「そのまま!そのまま!」まるで競馬場での心の叫びだ。やがて電車は群馬県は嬬恋村、大前駅に到着。ここはJR吾妻線の終着駅で、ほとんど利用者がいないはずの無人駅だが、好奇心でここまで来てしまう人が多い。私もその一人だったりする。
 時は昼過ぎ、再び組み立てられた自転車で草津へ登る。ふと背後を振り返ると、浅間山がドーンッて感じに裾野を広げてそびえていて絶景。やがて草津温泉に着き、湯の花を採取する『湯畑』を見物。さらに近くにある無料外湯の一つ、瑠璃(ルリ)の湯に入る。小さな建物の小さな湯船、あああこがれの草津温泉に今つかっているんだなあ。でも私の病は草津の湯でも癒せないのさ…?
 ここからいざ渋峠に向かってさらに登る、志賀草津道路。木はあまり生えておらず、草原あり地獄あり残雪あり。あっ、スキーやってる連中もいる。うわさ通りのきつーい登り、視界がひらけすぎていて先が見えるのが精神的に響く。でもそのぶん前後の景色は申しぶんない。急がないと日が暮れてしまうので、ほとんど休まず登ってゆく。標高が高いせいか息も切れ切れ、足がつりそうになるころ、白根山に着いた。

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残雪の残る志賀草津道路
 白根に来たら、やはり湯釜をみるべし、少々歩く。その神秘的な白色の火口湖を見るだけ見て、またすぐに自転車に戻り走りはじめる。ここからは深い霧がたちこめてるが、ほどなく日本国道最高標高地点(2173m)であらせられる渋峠に。下界から1400m近くのアップをしたことになる。ここからの展望がいい筈だが、視界は霧で真っ白である。う〜ん残念。
 ここから下り坂。しかし気温がセ氏3度とメチャクチャ冷え込んでおり、おまけに先の見えない濃霧。サイクリング用のグラブの上に軍手もはめたが、ブレーキを握る両手は死ぬほどかじかむ。時々止まって凍った手を暖め直すなど、苦労して今日の目的地、木戸池キャンプ場まで下りることができた。
 となりの木戸池温泉ホテルにテント設営の許可をもらい、ついでに温泉に入り冷えきった体を暖める。今回自炊用具は持ってこなかったので、さらについでにカレーを作ってもらった。意外に親切だなあ、金はもちろん取られるけど。
 で、テントに戻る。設営したのは「出そう」な廃屋の軒下。広場の芝生はまだ根付いていないらしいし、ここが雨もしのげて丁度いいのだ。

5月26日(月)求めていた君

 ここはまだ標高が高い。夜は相当冷え込んで、早朝、足の冷たさで起きた。でも外はスカッ晴れ。いい景色が期待できる。テントをたたみ、セ氏4度の下り坂を重力にまかせ下りてゆく。すると、いきなり目の前に遠くの山々の景色が広がった。黒姫山、飯綱山などの“北信五岳”であり、まだ雪をかぶっている。「これだよ、求めていたのは…」と思わずつぶやいてしまった。手前の眼下には盆地が広がり、その向こうに北信五岳の連山。まさに鳥になった気分である。

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渋・湯田中温泉街と北信五岳
 やがてその盆地まで下り、「渋い男は渋温泉だな」とか思っちゃったりして渋温泉に寄ってみる。しかし外湯めぐりの鍵なるものを買う(借りる)のが面倒だったのでやめにした。
 そのまま長野市街まで走り、今回の旅の主目的、七年に一度の御開帳中の善光寺へ。おみくじを引いてから、境内を歩く。平日の、まだ朝だというのに人が多い。日曜の昨日はもっと大変だったんだろう。そして寺の建物の中、多分あれが七年に一度とやらの御本尊だろうというのを拝ませてもらう。さらに奥にすすむと、「真っ暗な廊下で開運の鍵をさわっちゃおうゲェーム!」みたいなアトラクション(?)があって、試みは面白いと思った。お参り観光のジジババどもがキャーキャーうるさいが。お土産屋では、来年開催の長野五輪グッズが売っていて、私もマグカップとTシャツを買った。「いよいよ五輪が長野に来るんだぁ!」と自分の心の中でかなり盛り上がってきたぞ。
 疲れているので、新幹線開業準備中の長野駅からとっとと特急『あさま』で帰ろうかとも思ったが、「きっといいことあるさ」と思い直し、予定通りさらに西へ向かうことにした。途中寄った白糸の滝は秘境の感があり、青具峠を越えて白馬村に入った。すると今度は一気に目前に北アルプス白馬連山が!「君だよ、僕が会いたかったのは!!」空は曇っていたが、山にはぎりぎり雲がかかっておらず、雪をかぶった山脈の風景は素晴しかったのだ。
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残雪の白馬連山
 ここから道を南に折れ、まず名水百選の姫川源流に寄る。森の中に源流が湧き出しており、ちょっとめずらしい。少しだけ飲んでもみた。それから佐野坂峠(トンネル)を越え、今度は仁科三湖。上流側から青木湖、中綱湖、木崎湖と下りてゆく。木崎湖の、大糸線の線路と妙にマッチした構図が気に入った。
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仁科三湖の一つ、木崎湖
 そして夕方、大町温泉へ。『薬師の湯』は割安ながら、いろんな種類の体験風呂が楽しめグッド。ゆっくりさせてもらう。ここから松本まで走るのは無理があるので、信濃大町駅まで走り、ランを終りにした。到着。今日は130km位走ったようだ。さびれた商店街にある食堂で、ハンバーグ定食とコーヒー&ケーキを頂き、輪行で電車に乗って松本経由、夜行急行『アルプス』で帰った。

 やはり信州は景色を楽しめるので良い。今回、たった2日間だから少々の無理をしても大丈夫だろうと結構ハードな走りをしたが、それはそれで楽しかった。しかし次の日に行われた、大学の体力測定には響いたが・・・。
 あと、2日目は平日のランということで、世の中みんな通勤通学してる時にのんきに旅をしているという、現世からの隔離感を覚えた。とにかくこうやって旅に出ると、頭の中がスッキリするね。


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