光城山〜光城跡〜

光城山遠景
「ま、そんな訳で第二回は私達が観光するんだけど。
今回は遅刻しなかったのね、蓮子?」

『いつもより7分35秒早く出たのよ、メリー。
それで、今回の目的地は…あれね。ちょっと自分で選んで後悔したわ』

「あれって…そっちには山しかないわよ?」

『山に行くのよ。あの山の名前は光城山。名前の由来は戦国時代、
真田一族の海野六郎幸元が城…って言うより砦ね、山に砦を築いて
ここら辺一帯の守備をしたと言う歴史があって、その海野六郎の別名
光之六郎の「光」に「城山」を足して「光城山」となった訳。
標高たった912mの可愛い山よ』

「蓮子はいつから専攻を超統一物理学から第二古代期文化学へと変えたのかしら?
相変わらず変なことには妙に詳しいのね。
それで、この山に何かあるのかしら?」

『勿論よ。ほら、山肌に桜色の道が見えるでしょう?
あれが全て桜なのよ。麓から山頂まで約二千本の吉野桜の道。
地元の人が名物にと植えたモノらしいけど』

「観光にお花見だとか小山登りだとか、レトロ趣味を超えて時代錯誤の域ね。
でもまぁ、嫌いじゃないわ。たまにはそう言うのも」

『そうね、でもさっきも言ったけどちょっぴり後悔してるわ』

「あら、どうして?これはこれで楽しそうじゃない」

『麓に来ると…意外とね、思ったよりね、急なのよ…』




光城山〜山頂、古峯神社〜

古峯神社
「ふぅ、ここが山頂ね。
麓の標高が550mと少しだから、高さにして300m程しか登ってないとは言え
そこそこ足に来るわね…」

『見た?途中でおじいさんが犬を連れて散歩してたわよ…
聞いたら毎日してるんだって…自分の現代っ子を痛感するわ
あー、足が重い』

「丁度良い休憩場所があるじゃない。少し休みましょう」

『ふぅ、そこは休憩場所じゃなくて神社よメリー。
名は古峯神社。または「こみねさん」「こぶがはらさま」なんて呼ばれるらしいけど』

「神社…にしては何もないわね。ここは何の神様を奉ってるの?」

『日本武尊(ヤマトタケル)よ。草薙のエピソードから防火の神様として奉られてるみたい。
この神社のほら、すぐ横は元は光城があったところで、山城の主な役目は
狼煙で敵の接近を本体に連絡したりすることでしょう。だから火の神を奉るのね』

「古峯神社なら私もひとつ知ってる事があるわよ。
天狗の宿、って言われてるんでしょ」

『らしいわね。
こんな山頂にあったら天狗の羽根休めには丁度いいかも』



「ところで、すぐ前の登りきったところ、開けてて桜も多くて、
お花見するには格別って感じだったけど誰も居なかったわねー」

『光城跡の二の郭ね。
「私達」の時代となるとわざわざ遠出して本物を見に来るのは本当に物好きだけよ。
そりゃ、少し昔なら物好きも多かったんだろうけど、そういう世代の人たちは
とっくに絶えてしまってるから…ああ、そう言えば』

「なに?」

『その「少し昔」。そうね、西暦数えで2007年頃だったかしら。
ここの桜が一本も咲かなかった春があったそうよ。
二千本もの桜が、ただの一本もね』

「一本も?それだけの花はどこへ行ってしまったのかしら」

『当時の新聞では、食糧不足の野鳥が若芽を食べ尽くしてしまったんじゃないか、
なんて書いてあったけども、不思議に思って直に見に行った2人組が居たそうだわ』

「物好きね」

『私達みたいなね。
ま、結局さしたる発見も謎の解決もなしに暗くなったから帰ってきたんだって』

「何それ、つまらない。どうせなら二千本分の春を誰かが盗んだ、
なんて話なら面白いのに」

『誰が盗むのよ春なんて?…ああ
あの時の、あの秋の…あの一面の桜の持ち主とか?』

「かもね。
…あら?蓮子、また前時代的な物を持ってるじゃない」

『山頂と神社ではお酒を戴くものよ?
山頂の神社なら尚更ね』

「前時代的な場所で前時代的な観光をして前時代的なお酒を戴く。
たまにはこんな倶楽部活動も悪くないわね。
うん、悪くないわ、蓮子にしては」

『そりゃどうも』


















「やっぱりどうしても足りないわ、春度が。貴方のところから回収したものは全部ばら撒いたし
巫女や魔法使いやメイドが自分達で回収したものも各々リリースした筈だけど、どうしても足りないのよ。
ねぇ、何か知らない?」

『うちのは全部貴方に渡したわよ。
もちろん、今咲いてる分はちゃんと本来のうちの分だし。だから私は知らないわ』

「私達の仲に嘘は言いっこなしよ?」

『貴方が私に嘘をつかないのと同じように、私も貴方に嘘はつかないわ』

「嘘つき。
もう、後の足りない分はこっちで何とかするわ。
外の世界なら多少の幻想はあっちの式で勝手に無効化されるから。
代わりに、隠してる分を使う時が来たら…きっと教えなさいな?」






08/02/16