イギリスの思い出 Part2


ローラ

ローラ
アーチ

アーチー


猫って意外にかわいいのね

私がそのフラットに越してきてから間もなくです。ローラがよくフラットへ遊びに来るようになりました。私はそれまでずっと犬派で犬を飼ったことはあっても猫のことは良く知らなかったので、特に猫たちに関心を示したことはありませんでした。しかしローラはなぜか私のことを気に入ったようで、私が学校から帰ってくると部屋のドアの前で待っていてくれるようになったのです。

私は猫の扱い方など全く知らなかったので、猫たちが部屋に来ても彼らの好きなようにさせていました。ローラはその辺に寝そべったり、時々階下へ降りていったりしながら、ほとんどの時間を私の部屋で過ごしていました。しかし、猫たちには門限がありました。夜10時になると大家さんが迎えにくるのです。猫たちは日中は外出自由でしたが夜だけはトイレと餌のあるキッチンに閉じ込められ、寝かされてしまうのです。それからは、10時になると私が自主的に猫をフラットから出すようになりました。

そうこうしているうちに、ローラがだんだんと私に近づいてくるようになりました。まずは、机に広げた教科書の上に寝そべって勉強の邪魔をします。仕方なく、勉強の手を止めてテレビなど見ていると、今度はひざの上に乗ってくるのです。当時私の使っていたイスはかなり幅が広かったので、いつもそのイスに座る時はお行儀悪くあぐらをかいていました。そのあぐらの上で3回くらいグルグルと位置決めのために回ってから、おもむろにストンと座るのです。ローラはかなりの甘えん坊だったらしく、時にはひざに抱かれてから私の脇の下に顔をグイグイ押し込んで片腕をぐーっとのばして眠ったり、私の胸の上でひたすらモミモミを続けたこともありました。(そのころは、モミモミの意味すら知らなかったんですよね〜。)

今の私ならば、猫が自発的にこんな行動に出た日には、うれしくて狂喜乱舞してしまうでしょうが、当時はなぜ猫がそんな行動をするのか、なぜそんなに私に懐いてくれるのか、ただただ不思議で、ひたすら猫の行動をじっと観察していました。しかし、懐いてくれるものを憎く思う人はいませんよね。私も次第に猫たちがかわいくなり、学校の帰り道にペットショップへ寄って猫用ビスケットを買って来たり、日本から送られてきたかつおぶしをおすそわけしたりするようになりました。

[ちなみに、イギリスの猫は肉食なのでお魚をあげても喜びません。かつおぶしだけは気に入ったようでしたが、ツナ缶などにも全く興味を示しませんでした。もちろんペットフードに魚味 (マグロ缶など) はほとんどなく、フードの原材料はチキン、ターキー、ラム、ウサギなどでした。]

クリスマスの風景

こうしてロンドンでの生活にも猫たちにも慣れたころ、クリスマスがやってきました。クリスマスはイギリス人 (多分ほとんどのヨーロッパ人) にとって一年で最も重要な家族行事です。(日本の年末年始の感覚と同じでしょうか。) リビングに大きな樅の木を運び入れ、部屋中に様々なデコレーションを施します。もらったクリスマス カードも壁に貼ったり糸で吊るしたりと、できる限り飾ります。そして、クリスマスが近づくにつれ、樅の木の根元にはみんなに配るクリスマス プレゼントがだんだんと増えていきます。

お母さんは何日も前から、腕によりをかけてクリスマス プディングやクリスマス ケーキ (どちらも日本には無いタイプのものなのでうまく説明できません。ごめんなさい。) を作ったり、大きなターキー (七面鳥) をまるごとローストにしたりして準備を整えます。そして25日の午後2時くらいからクリスマス ディナーが始まります。(イギリスでは時間的には昼食でも特別な時はディナーと呼ぶのです。ちなみに、毎日の夕食はサパー。)

家族と、時には親しい友人を招いてダイニング ルームに集まり、おいしいクリスマス料理をいただきます。そしてディナーがすむと、次はお待ちかねのプレゼント交換です。リビングに戻り、家族の代表者が樅の木の下に置かれたプレゼントをそれぞれに配ります。ちなみに、私がお世話になっていた家はどこも子供が既に成人になっていたので、プレゼントは親から子供というのではなく、みんながそれぞれに用意してプレゼント交換をしていました。そして、その日は一日家族でゆっくりと語りあったり、のんびりテレビを見たりして過ごします。私はクリスマス時期に滞在していたそれぞれの家で毎年このクリスマスに招待してもらうことができたので、今でもとても素敵な思い出になっています。

そしてロンドンの家で初めてクリスマスに招待された時のことです。家族でのパーティもすんで皆それぞれの部屋へ戻ったり、別のパーティへとくり出して行ったりして、リビングは大家さん夫婦と私だけの3人になりました。そろそろ私も自分の部屋へ戻ろうと思ったのですが、大家さんが一緒にテレビでも見ていけばと誘ってくれたので、3人で映画を見ることにしました。そしてテレビの前にそれぞれお気に入りの椅子を持ってきて落ち着いた時です。どこからかローラが現れました。それまでパーティの喧騒を避けてどこかにいたのでしょう。ずっと姿を見かけなかったので、奥さんが 「どこに行ってたの。こっちにいらっしゃい。」 と言ってローラを抱き上げました。しかし、ローラは何だかイヤそうな顔をして私の方を見ています。そんな顔を見てだんなさんが、「どうもローラは○○ (私の名前) の方がいいみたいだね。」 と言ったその時です。ローラが奥さんのひざからジャンプして隣にいた私のひざに飛び移って来たのです。そしていつものようにひざの上でクルクルと回ると、ストンと座って脇の下に顔をうずめて眠ってしまいました。

そんなローラの姿を見た奥さんは、「私には一度だっていい子で抱かれたことなどないのに。いつも懐いてこないからかわいくないと思ったら、○○にはあんな態度をするのね。まあ、悔しい。ジェラス、ジェラス。」 と言って少々憤慨していました。それまでずっとローラがとても人懐こい猫だと信じていた私は、その時初めてローラが実は家族の間では愛想のない、懐かない猫だと思われていた事を知り、なおさら彼女のことが可愛くなってしまったのでした。

それから、大家さんが旅行などで留守の時は門限になってもローラを帰さずに、そのまま一つのベッドで一緒に眠ったり、時にはローラが小鳥のおみやげをもってきてくれたり(@_@)と、私が帰国するまでずっと仲良くしていました。そしていよいよ帰国の時、あまりにローラが懐いてしまったので、大家さんはローラを日本へ連れて帰っても良いとまで言ってくれました。もちろん、ローラと離れ離れになるのは身を裂かれるように辛いものでした。しかし、13時間も飛行機に乗せたり、検疫で6ヶ月も離れて暮らすなど、あまりにローラがかわいそうでできませんでした (ちなみに、このころはまだ日本に入国する際の猫の検疫は無く、6ヶ月の隔離というのは私の勘違いでした…)。それに、やっぱりローラはイギリスの猫。広い家と広い庭のある環境で鳥を追いかけたり木に登ったりしてのびのびと暮らすほうが幸せだと思い、泣く泣くローラを置いて帰国しました。

それからもう6年以上が経ちます。帰国後数年は毎年ローラに会いにイギリスへ行っていましたが、去年はにこちゃんの仲間達でご紹介したような大騒動があったため行くことはできませんでした。もうローラも13、4歳になるはずです。ローラが元気なうちにどうしてももう一度会いたいのですが、残念ながら仕事や猫の世話 (特におかあちゃんが心配なので) 当分行けそうもありません。ローラ、私が会いに行くまで元気にしていてね。

のびのびローラ


Last Update: 2003.2.2