12. 乳腺腫瘍

乳腺腫瘍は猫のがんの中では3番目に多く、このがんにかかる猫の平均年齢は10〜11歳です。乳腺腫瘍の約90%は転移 (体の他の部分に広がること) の可能性があり、悪性腫瘍です。最も転移しやすい場所はリンパ節と肺で、悪性の乳腺腫瘍は急速に転移する傾向があります。しかし、その他の約10%はからだの一部分でしか成長しない良性腫瘍です。現在は、できるかぎり早期に手術で腫瘍を切除することが乳腺腫瘍に最も有効な治療法であるとされています。腫瘍が良性ならば、手術で腫瘍を完全に切除してしまえば、治癒できる可能性があります。腫瘍が悪性の場合には、手術後に化学療法、免疫療法、あるいは放射線療法を行うことが望ましいでしょう。このような治療の選択肢については、手術後に獣医とよく相談しましょう。

乳腺腫瘍の摘出と同時に卵巣摘出を行っても、腫瘍の再発に対する大きな効果はありません。猫が若いうちに避妊手術をすることで、年をとってからの乳腺腫瘍の発生のリスクを減少させられるかどうかについては、まだはっきりと証明されていません。

外科手術前の乳腺腫瘍の生検は、以下のような理由によって推奨されません:

・最初は良性の腫瘍でも後になって悪性の腫瘍に変わるかもしれないため。
・複数の腫瘍がある場合、同じ乳腺腫瘍でも個々の塊ごとにタイプが異なる場合があり、各塊ごとに生検を行わなくてはならないため。
・同じ塊の中でも、良性と悪性の組織が混在しているかもしれないため。

代わりに、1回の手術で腫瘍になっている、あるいは腫瘍になっている可能性のある全ての組織を切除することが望ましいでしょう。

猫の乳腺腫瘍に推奨される治療法は、徹底的な乳腺の切除です。この手術では、腫瘍になっている側の4つのすべての乳腺と腋の下のリンパ節、そして鼠蹊部 (足のつけ根) のリンパ節を切除します。右と左の両方の乳腺が腫瘍になっている場合は、4週間の間隔をあけて右側と左側をそれぞれ2回、徹底的に乳腺を切除する必要があります。

徹底的な乳腺切除後の手術跡は腋の下から外陰部にまで達します。体液がたまるのを防止するため、小さなゴムの管が挿入される場合もあります。この管は手術の3〜4日後に外されるでしょう。手術後すべての猫には包帯が巻かれ、この包帯も通常手術の3〜4日後に外さます。手術の縫合糸を噛んでしまう猫の場合には、エリザベスカラーが必要になります。

縫合糸にそって体液がたまったり、縫合した部分の傷口が開いてしまわないよう、手術後は猫の活動をしばらく制限し、階段の上り下りや家具からのジャンプ、活動的な遊びはなるべくやめさせましょう。腫瘍の組織学的な診断は手術後1週間ほどでわかり、手術の10〜14日後に抜糸が行われます。