3. がん治療の選択肢

がんには、侵襲性の原発腫瘍 (がんが生じた最初の場所だけで周囲を侵すもの) と転移性腫瘍 (体の他の部分に広がるもの) の2つのタイプがあります。がんは体のあらゆる正常な組織から生じますが、この生じた部分の組織に基づいて、腫瘍の生検サンプルを採取し顕微鏡で調べることによって、がんの進行具合を予測できる場合もあります。

すべての腫瘍には生検の実施が望まれます。これは、生検によってがんのタイプを知るだけでなく、がんの進行程度を把握し (ステージ分け)、動物にその他の健康上の問題があるかどうかも知ることができるからです。精密検査は一般に血液検査 (全体的な健康状態の検査) とレントゲン検査が行われますが、時には超音波、CTあるいはMRIによる検査 (腫瘍のグレードの検査) も行われるでしょう。予後診断と治療計画には、腫瘍のタイプと腫瘍のステージ分けの両方の情報が非常に重要です。

がん治療の目標は、原発部位と転移先の両方の場所で体からすべてのがん細胞を取り除くことです。がん治療の選択肢にはいくつかの物理療法がありますが、中でも特に一般的なのは外科手術、放射線療法そして化学療法です。原発腫瘍の治療にはたいてい外科手術と放射線療法が選択されますが、がんが全身に及んでいたり転移している場合には化学療法も必要になるでしょう。がんのタイプによっては、腫瘍をコントロールするために各種の物理療法を組み合わせる必要もあります。

限られた一部分だけを侵しているけれども、転移する可能性は低い腫瘍 (低グレード腫瘍とも呼ばれる) は、外科手術や放射線治療によって効果的に治療できるでしょう。もし転移する前に原発部位の腫瘍を完全に取り除くことができれば、患者の予後は良い結果が期待できます。しかし、腫瘍によっては非常に悪性で (高グレード腫瘍とも呼ばれる) 成長が早くすぐに広がるタイプのものがあります。このような場合、たとえ原発部位の腫瘍が小さくても、ステージ分けの検査で発見するにはあまりにも小さい腫瘍が転移している可能性が非常に高いと言えます。このような患者には、原発腫瘍を切除するための外科手術と転移をコントロールするための化学療法が組み合わされるでしょう。腫瘍が転移してしまった患者はたいていの場合治癒できませんが、新たな転移の発生やがんの進行を遅らせることによって、寿命をより長くすることができます。

外科手術

がん治療における外科手術は2つの機能を持っています。1つ目は外科的生検で、これは正確な診断を行うためにしばしば必要とされます。2つ目は腫瘍の完全な外科的切除で、これはたいていの一次腫瘍のために選択されます。外科手術はがん治療の最も古い治療法で、一部分に限られた腫瘍を治癒できる可能性が最も高い治療方法です。外科手術だけでは効果的に治療できないタイプの腫瘍には、他の治療法を組み合わせて行う場合があります。

放射線療法

放射線は一次腫瘍の治療において外科手術の次に選択される2番目の選択肢です。放射線治療は単体で、または外科手術の前後に外科手術と組み合わせて行われます。また放射線療法は、解剖学的な制限 (例えば、頭部や四肢などの腫瘍で外科手術が難しい場合) や合併症のリスクなどによって外科手術だけでは腫瘍を完全に切除できない場合に必要とされます。外科手術と放射線療法を組み合わせることで、腫瘍をコントロールしながら、身体機能を良好な状態で維持することができるでしょう。放射線療法は、進行が早かったり現代の医療ではまだ効果的な治療法がないような腫瘍に対して、痛みや出血などの症状を軽減させる緩和ケアとして実施される場合もあります。

化学療法

化学療法は、白血病やリンパ肉腫のような全身性のがんにかかった患者に多く選択される治療法です。また化学療法は、転移の可能性が高い一部分に限られている高グレード腫瘍の治療のために、外科手術や放射線療法と組み合わせて行われます。化学療法の目的は、転移や転移に伴う症状の発生を遅らせることによって、患者のクオリティ オブ ライフを少しでも高く保とうとすることです。獣医学では、化学療法のための薬は人間のがん患者に投与するのと同じものを使用しています。しかし、獣医学では人間のがん患者の場合に比べて一般に一回の投与量が少なく、薬を組合せることはあまりなく、また人間のがん患者のように頻繁に投与することもありませんので、患者に重い副作用をもたらしたり入院の必要が生じることは滅多にありません。化学療法の薬に抵抗する腫瘍細胞が発生してしまうと、治療が失敗に終わる場合もあります。