5. 外科手術

がんの治療法には、外科手術、放射線療法、化学療法、免疫療法を含む多くの方法がありますが、中でも外科手術は最も古くからあり、そして最も一般に使用されている治療法です。外科手術の目的は、腫瘍を完全に取り除くこと、腫瘍を部分的に取り除くこと、あるいは腫瘍組織を採取して正常な組織がどの程度侵されているかを調べること、などがあります。いずれの場合にも、外科手術によって取り出された組織には生検が行われます。

腫瘍の完全な摘出

外科手術は、ほとんどの良性腫瘍と一部の悪性腫瘍に対する一般的な治療法です。この場合の外科手術の目的は、ある場所に存在している腫瘍細胞をすべて取り除くことによって患者を治癒したり、治癒できない場合は少なくとも一定の期間症状を緩和することです。予想される手術の成功率は、腫瘍の大きさや位置、腫瘍のタイプ、手術の難しさなど、いろいろな要素によって異なります。

腫瘍の部分的な摘出

腫瘍が、完全に摘出するには大きすぎたり、手術だけでは完全に摘出できない場所にできていることがあります。このような場合、できる限り多くの腫瘍部分を取り除きながら、周囲の正常な組織や生命維持に不可欠な臓器へのダメージを最小限にする目的で外科手術が行われます。がん細胞が体内に残ってしまった場合、外科手術のあとに放射線療法や化学療法など追加のがん治療を行う場合もあります。

検査のための外科手術

がんが体の中 (つまり胸部や腹部) で見つかった場合、外科手術で腫瘍を完全に摘出できるかどうか、手術前に判断を下すことが難しい事があります。このような場合、検査のための外科手術を行って腫瘍をよく観察し、最適な外科的アプローチが何であるかを手術中に判断します。この結果によって、手術中に腫瘍を完全に摘出したり部分的に摘出する場合もありますし、再度詳しい診断を行うための小規模な生検だけを行うこともあります。いずれの場合にも、獣医と飼い主が検査のための手術を行う前に、手術中に起り得るあらゆる可能性について十分話し合っておくことが重要です。

麻酔

外科手術ではたいてい全身麻酔が行われます。麻酔は、個々の動物の年齢、肝臓や腎臓、心臓の機能、そしてその他の健康状態を考慮して調節されますが、手術の前に、病院がどのような装置や麻酔薬を使用し、動物の安全にどのような配慮をしているか、獣医から詳しく説明を受けておきましょう。十分な考慮がなされていれば、たいていの動物にとって全身麻酔に関連する問題のリスクはあまりありません。
外科手術からの回復

外科手術後は、どの動物もある程度の痛みや不快感を経験するものですが、たいていは鎮痛薬が処方されます。外科手術の傷は、良く様子を観察し、常識的な衛生を保つよう心がければ、それ以上のケアはほとんど必要ありません。合併症は外科手術や腫瘍のタイプによって異なり、可能性のあるすべての合併症を予測できるわけではありませんが、予期しなかった合併症が起ることは滅多にありません。もし手術に何らかのリスク要因があると思われる場合は、手術前、手術中、あるいは手術後に獣医が何らかの対策を講じるでしょう。手術の前に、獣医が認識しているリスク要因と、手術を受ける動物に可能性のある合併症について、獣医から説明を受けておきましょう。手術後に栄養補助が必要な動物には、手術中に給餌用チューブが取付けられることもあります。

経過観察

がんのタイプ、手術で腫瘍が完全に取り除けたかどうか、あるいはがんの転移の可能性など様々な要因に基づいて、動物に追加の治療や継続的な経過観察を行う場合があります。その時点ではがんの治療に外科手術だけが必要だったとしても、その後のがんの再発の有無などを調べるため、適切な再検査や経過観察が必要となるでしょう。検査の種類や再検査の日程などはそれぞれのケースで異なりますので、獣医とよく相談しましょう。