6. 放射線療法

放射線療法とは

胸部レントゲン写真を撮影する時に使用される放射線の量を数千倍のレベルにすると、細胞を殺すことができます。この原理を用いてがん細胞を攻撃するのが放射線療法です。放射線を照射するとがん細胞とともに正常な細胞も影響を受けますが、放射線治療はできるかぎり腫瘍への影響が大きく、また正常な組織への影響が小さくなるよう設計されています。腫瘍に対する効果をより大きくするため、放射線治療では1度に大量の放射線を照射するのではなく、少ない照射量を何回かにわけて行います。

放射線療法は一部分に限られた腫瘍の治療に使われます。また、外科手術や化学療法だけでは十分に処置できない腫瘍をコントロールする場合にも使われます。例えば、腫瘍を完全に摘出するには生命維持に不可欠な臓器を含む非常に広範囲な手術が必要になるため、やむをえず手術する部分を最小限にとどめた結果腫瘍細胞が残ってしまうことがあります。このような場合には手術後に放射線治療を行うことがあります。化学療法や外科手術の前に放射線治療を行い、腫瘍をより処置のしやすい大きさに縮小させる場合もあるでしょう。

治癒が不可能であったとしても、放射線療法によって腫瘍からくる症状を少しでも軽減させることができます。放射線療法で腫瘍が小さくなれば圧迫感、出血、あるいは痛みが軽減され、動物のクオリティー オブ ライフは向上するでしょう。このような治療は特に緩和放射線療法と呼ばれています。

治療の危険性

どのがんの治療法にも何らかの危険性はあります。特に放射線療法の場合、がん細胞に加えて正常な細胞も放射線によってダメージを受けてしまうため、放射線皮膚炎など副作用が生じる場合があります。しかしほとんどのケースで、このような副作用よりも、がん細胞を殺すことのほうが重要であると判断されます。また、放射線治療中は動物が完全に静止していなければならないため、治療の度に麻酔が必要となります。麻酔にはわずかですが常にリスクが伴います。

治療方法

獣医学における放射線療法の場合、装置は腫瘍とその周囲のわずかな正常組織に向かって放射線を照射するように設計されており、常用電圧と呼ばれる比較的弱いエネルギーの放射線が使われます。装置は標準的なX線撮影用の装置と似ていますが、照射時間は何倍も長くなります。

放射線療法と化学療法/外科手術

腫瘍の進行が早く1つの治療法だけではあまり効果が期待できないと思われる場合、外科手術や化学療法に加えて放射線療法が実施されます。場合によっては、3種類すべての治療法を組み合せる必要があるかもしれません。

治療期間と治療スケジュール

放射線療法はたいてい何週間かにわたる一連の治療として行われます。放射線を何回かに分けて照射することは、がん細胞と一緒に影響を受けてしまう正常な組織を保護する手助けとなります。照射される放射線の量と治療の回数は、腫瘍の大きさや位置、治療を受ける動物の全身の健康状態、腫瘍のタイプといった様々な要因によって異なります。一番難しいのは、健康な組織の回復力を損なうことなく動物に投与できる放射線の総量を判断することです。

ある獣医大学での治療の一例です。ここでは動物に対して月曜日、水曜日、金曜日のスケジュールで4週間、計12回の治療を行っています。週末は、その間に正常な組織が治療のダメージから回復するための休養期間として治療を行いません。より長い休養期間が必要な場合もあります。動物は月曜日から金曜日まで入院するか、通える条件であれば治療の度に通院しますが、外来患者の治療には1〜2時間かかります。

治療の副作用

治療中、獣医は正常な組織とがん組織に対する放射線の影響を観察します。放射線治療中に生じる副作用は不快なことが多いのですが、重症になることはあまりなく大抵は治療を受けた部分だけに限定されます。多くの動物が治療を受けた部分の皮膚に変化を起こします。放射線治療の終盤、あるいは終了後に、皮膚が赤くなることがありますが、これは重い日焼けや火ぶくれのおきる湿疹に似ており、「放射線皮膚炎」 と呼ばれています。動物が皮膚炎になった部分をかいたりこすったりしないよう注意しなければなりません。あまりこすったりかいたりする場合には、これを防止する薬や物理的な手段 (エリザベス カラーなど) が獣医から処方されるでしょう。治療を受けた部分が脱毛することはよくあり、しばらく続くかもしれませんが、たいていの場合また生えてきます。しかし、再生した毛や治療を受けた部分の皮膚の色が変わることがよくあります。放射線治療の結果として動物が吐き気をもよおしたり、嘔吐/下痢になることはあまりありませんが、腹部に放射線治療を実施した場合には起こる可能性もあります。他の組織 (例えば、目、口腔内の粘膜や歯茎、および骨など) に放射線治療を行った場合に現れる副作用はそれぞれ異なるでしょう。治療直後に現れる急性の副作用は、回復するまで通常3〜4週間かかります。他の副作用はもし生じたとしても、治療後数ヶ月から数年にわたって次第に現れてくるでしょう。

治療後

放射線治療後はかかりつけの獣医に定期的な検査を受けることが大事です。これによって、正常な組織の副作用が観察され、腫瘍に対する放射線の効果が評価できます。完全にがんを消滅させることが放射線療法の目標です。動物によっては完治して、腫瘍の形跡が無くなる場合もあるでしょう。また、腫瘍が完全に消滅しなくても成長が抑制されれば、腫瘍はコントロールできていると言えます。しかし、予想される結果はさまざまな要因によってそれぞれのケースで異なります。