7. 化学療法

化学療法のための薬 (抗がん剤) は、さまざまなタイプのがんの治療に使われています。どのようなプロトコール (つまり薬の種類や投薬量、スケジュールなど) を使用して治療を行うかは、がんのタイプや病気の進行程度によって異なります。がんにかかった動物の治療に化学療法を行うのは、@ 腫瘍が1ヶ所以上にできている多発性の場合、A 腫瘍がすでに体の別の部位に広がっている転移性の場合、B 腫瘍が手術では摘出できない場合、C 手術したが腫瘍を完全に摘出できなかった場合、D 病気の早い時機から転移するタイプの腫瘍を治療中で外科手術や放射線治療の追加として行う場合、があります。

薬の副作用について

化学療法を受ける人間のがん患者に比べると、動物にはあまり副作用がないようです。これは、動物への投薬量が少ないことと、治療の際にあまり薬を組み合せないためだと思われます。化学療法のほとんどの薬は、がん細胞だけに毒性があるのではなく、急速に分化していくあらゆる細胞に対して毒性をもっています。そのため、体の正常な、急速に成長している組織にも影響を与えることになり、これが副作用をもたらします。骨髄細胞や腸管内の細胞は急速に分化するタイプの細胞なので、化学療法の効果がより期待できます。

最もよく見られる副作用は骨髄の抑圧と嘔吐/下痢です。猫はたいがい口ひげが抜け落ちますが、化学療法が終わればまた生えてきます。骨髄が抑圧されると白血球の数が少なくなるため、伝染病にかかりやすくなる可能性があります。重症の伝染病にかかってしまった場合には、静脈からの点滴や抗生物質を含む集中的な治療が必要になるでしょう。胃腸への影響は個々の動物によって異なります。ごくまれに、入院や輸液による治療を必要とするような重症の出血性の下痢をおこす動物もいますが、このような重い副作用がでることはまれで、副作用が出たとしてもその数は統計学的には化学療法を受けている動物の5%以下です。適切な管理を行えば、たいていの動物が数日中に回復するでしょう。

ほとんどの場合、化学療法で治療後数日間にわずかな吐き気や倦怠感、食欲の減退、軽度の下痢といった比較的軽い副作用が見られます。最初から副作用を起こすことが知られている薬物で治療を行う場合は、問題が起きたらどうすればよいのか、獣医から指示があるでしょう。

投薬方法、治療回数、治療期間

これは、治療しているがんのタイプや、使用している薬の種類によって異なります。薬の種類には自宅で投与する経口薬 (錠剤) や、注射、あるいは1〜2日の入院を必要とするゆっくりした静脈の点滴などがあります。治療は通常1週間に一回から3週間に1回の割合で繰り返されます。飼い主として治療に協力し、治療が予定されているときは、ペットをきちんと病院につれていくことが一番重要です。

化学療法の治療期間はがんのタイプと病気のステージによって異なります。動物によっては、生涯化学療法を受けなければならない場合もありますが、腫瘍が小さくなったり病気の徴候がなくなった場合には、治療は数週間から数ヶ月間で中止されるでしょう。腫瘍が再発した時には、化学療法を再開します。一般的に最低2サイクルの化学療法を行い、治療の効果や薬の反応などを見てから、治療を継続する、薬を変更する、あるいは化学療法を終了するなどを判断します。