出港の日2




午後3時頃大阪に着く。大阪の街ははじめてなので勝手が分からず 弁天町のホテルに着くのに巨大な荷物をもって右往左往してしまった。 道を聞いても関西の言葉がわからないので何しゃべってんのかいまいちわからないし。 テレビで見ている関西弁は本物ではない、と聞いた事はあるが、これほどとは思わなかった。 どうにかついたが、ホテルが思ったより高級で、びびる。絨毯張りで吹き抜けのフロア、 豪華な調度品がならんでいて、ネクタイ無しで入っていいんだろうか? とか思ってしまった。 中国へ行くために私はその時、泥棒よけのため金持ちに見えないよう、汚い身なりをしていたのだ。 まあ、問題無く入れはしたが。しかも予約したシングルルームがホテルの手違いでいっぱいで、 そのおかげで1泊5万円のデラックスルームにかえてくれませんか、とのこと。料金は同じで良い というので、嫌なわけが無い、大喜びで今まで泊まった事のない、これからも永久に無いであろう 高級ホテルのデラックスルームに泊まることになった。日本最後の夜である。せっかくなので大阪の 町並みを見て見ようと考え、外出したのはいいが梅田で迷子になってホテルに着いたのは、12時だった。 朝8時までにチェックインするように、との船会社の案内を聞いていたので、渋滞に巻き込まれても いいようにホテルを6時にでる。このホテルは会社の重役クラスの泊まるようなホテルであるらしく、 こんな朝早く出かける客はだれもいない。ホテルマンが、 不思議そうな顔をしながら私を送り出す。 タクシーを呼んでもらい、「大阪南港おねがいします」と運転手に言うと、 「は?なにしにいくの?」 と聞き返される。そんな所から船に乗る客を乗せたことがないのだろうか。そんなに マイナーな所なのだろうか?この不安は港についてはっきりわかった。 港の建物はクモの巣のはったような (というかほんとに張ってる)プレハブでできていた。 それが枯れ草のからまるさびた金網でかこまれて、さながら「収容所」と言う感じだった。 そもそも人っ子一人いない。しかも船も無い。 タクシーの運転手は「ここでいいんか?」と何度も心配してくれたが、地図によると ここ以外に考えられないのでここで降りる事にした。 プレハブの中に入ると誰もいない。クモの巣とゴキブリの死骸が転がっているが、 一応「上海客運輪舵公司」と会社の名前は入っている。自動販売機もなんとか動いていた。丁度のどが 乾いていたので、寒かったが冷たいコーヒーを買ったところ、最近使ったことがないらしく 無茶苦茶冷えていた。  それでも一時間もすると一人、二人と客が来た。日本人よりも中国人が多い。わからない言葉で話す 彼らの側でいよいよ中国へ行くのだという実感が高まる。