冬の朝


 山岳の雪の光……
 遠く煙った太陽に まどろんでみえる

 カシラダカみたいね
 屋根のちかくで声がしている
 日毎に風景が 遠のいていく――――


パレストリーナのモテット
ここ数日の朝の目覚めは 夢の途切れる
  さいごの瞬間まで こんな音楽が
      鳴り響いている……
その余韻に充たされながら 眼を覚ますのだ

――この透明感で 一日のはじまりを
今日も 迎えていくだろう……

           **

神様、毎日仕合わせで仕方ありません
          (そう妹は思っているのに…)
 兄は昨日 いねむりをしながら云うのです


 おまえ 早くいいひとをみつけよと
 なぜ? そうすれば(いつでも)死ねるから?
 うん

書物に取り巻かれたこの部屋、おなじ空間
おなじ空気を吸っているのに
妹は充ち足りて 兄は不幸なのだ


 兄はいつ死ぬのであろう……
 まい日 一寸だけ思う



芸術の扉 麗子の書斎