3部作


   *木蓮*


     喜悦の野辺には、この幹も
         節度ただしく 真率に。
            すべての花は 胸を張り
               一点の翳りもなしに
           空に向かって 反射する。
                  ――――光の噴水!
                              
       だれが叫ばれずにいられよう?
                 こんな青い 青い日には。



            *蜘蛛*

             唐突ノコトハ、受ケ容レラレナイ
                      ンダ、ボクノ許可モナシニ、
                落ッコチテキタ 種ナンゾニハ、
                            眼モクレナイ
                イイヨ……オ恵ミナンカ!
                自分デツカマエルノサ
                 ――――ボクハ、待チ構エテルンダ



          *日曜日*

           薄日のさす カラマツの林で
               何かがそっと立ち止まるように 告げた
                 (この辺りはよく、覚えておくよう
                  合図した)
              消え入るような コガラの囀り
                ――――ブランコの 軋音のように

                 頭上高く 飛行機の音


              狂喜のような 安逸さ!
              ――――勇気づけるには、あまりに
                                 か弱い光

             歩調はこのテンポのとき、
             世界が調和するのを待っている。
             「私」が歩いているのでは
             それではあまりに窮屈なのだった!
             脚はいま、ひとりでに歩き出している……

             すべては呼吸の問題だ
                 (呼吸は、聖霊なのだ)

              柔らかいものが 私の躰を 仕切りに
              取り巻いているのは、光が
              少し佇むように 告げている
                           からだ……
              暖気が 何処までもどこまでも
              私の四囲を包んでいる。
               (どんなに早く歩いても)
                    ――気化した視線
                     何の見張りもない……
                 それはほのかに、みずからの枠
                  を少しも崩すことがないままに 私の
               頭上を そこかしこを
                     みえない力で照らしている
                                ……光の輪


                        ――――――『八ヶ岳』より





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