無 題



その日 私はもうこの地から 姿を消していたであろう?
歩き続けた…… そして日がな うたを歌っていた
夏夜のとばり 落ちるうたを

 名残の陽さす森の まばゆい径のべに
 天の白んだ淵のおもへと 誘い込む
 嘲るような わななくような 妖精らの
 哄笑いのなかを くぐりぬけ……
(降りそそぐ 夕べの唄を くぐりぬけ……)

――さざめく調べは モオリス・ラヴェルの
  コギトのように 透き通っていた!
         (所在なげに――ずるがしこそうに?――)

ふと佇んでいた! 小川のほとりに
  ヒメジオンの冠群 一斉に流指す
  淵のおもてに
    佇みながら 夢をみた

うたた寝する児の 頬をなづる

 土鳩の母の 咽喉のゆめを・・
  くるおしそうな とおい祈りを








芸術の扉 麗子の書斎