―――ジャン=ジャック・カラクテルとその妻



          


「念ずる−現前。すべてはこの移行なのですわね、カラクテル?」

「”光あれ、すると光があった”……ここに、神のすべてが 刻み込まれたかのようだ。」
「ええ。その瞬間、神はおのれの書物を閉じられたのですわ?」

「だが、ぼくらにはすべてが開かれた。…レットル…ねえ、思うんだが、
あの開始――神の<自己への現前>の{手前}に、ぼくらの入る余地はほんとうに無かったものか知らん?」

「…でもカラクテル。(そういう几帳面さが命取りなのですわ?)
<光>あれ、といわれた。”す・る・と<光>・が・〔あ・っ・た〕。”
私たちが求めているのは、いつもこれ(”……”)ではなくて?
この密接! この不連続! 息はどのみち、もう永遠に消し去ることが出来ませんもの。

内部(うち)と外部(そと)――世の中にこれくらい微妙で他愛のない出来事などありませんわ。…あなた(=カラクテル)は、特権など要らなくてよ?」

「勿論だとも、レットル。ぼくは<代理>者ではないのだから!
 (だがこの単純さこそ<神>のおもうつぼなのさ。)」

「(まあ!あなたが今思ったことと云ったら……。)
カラクテル、あなたの享受するのは、<有限性>なんかでなくってよ。
受け容れるのはただ、私たちは[存在]する前から”存・在・し・て”いたことなど一度もない、というこれだけですわ。
いつもここから始動まりますの。いったいそれがどうしたのでしょう?」
「その通りだよ、レットル。それだから、きみのはじまりは、いつも
<遡る>ことなんだ。
わかるかい? ぼくたちは手を切ることが出来ない」





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