Cahier(カイエ)3
  ――――「おしゃべりな絵日記」に触れて

   アトリエ エレマン プレザンの子どもたち

       (ポプラ社:絵本となかよし 51
           ――Atelier Element Present)



アトリエ エレマン プレザンとは、ダウン症児など知的障害児が絵を描きに通う場所。
三重県英虞湾のほとりと、東京代々木の二箇所にアトリエがあるそうだ。
そのアトリエのギャラリーに飾られている作品のうち、ことにすばらしいと思われるも
のが、この絵本となっていた。

ページをめくった瞬間、まず思ったのは、「ポロックそっくり?!」
とくに雨・花火(ふでぱっぱ)・あお・毛糸のボール、などの作品。。
リズミカルな筆使いや色彩構成など、ポロックのドリッピング手法による作品にとても
通じるものがあるように思われた。
その他、ヴラマンクの比較的派手目な色彩の作品やミロ風、あるいはある時期のクレー
風な、おおまかな記号的構図や顔に似たものもあったが、共通していえるのは、無意識
と意識との絶妙なバランスのようなものが(いったいどこからがその境界なのか、勿論
安易に一線をひけぬ程に前=意識とその自覚超脱とのめくるめく相即のドラマがあるに
ちがいない)のびやかな、そして本能的と同時にじつに律動的な、*リズミカルな線、
そして色と線(運動)のハーモニーとなって、闊達に表出されていた。
*――じっさい踊りながら描く子もいるらしい。

ことにポロック風の作品たちの独特の運動性に通じるものがある作品たちは・・
脳神経と、自己表現との間の関係など、どうなっているのかと思わされる。
そこで知的障害児のHPをネット上の知り合いを通じて検索してみたが、それはよく
解らなかった。ただ最近知的障害をもつひとびとの作品が芸術として社会に受け容れら
れていきつつあるようだ。

彼らにあっては、具象画と抽象画の差異、ないし価値差異もなく、目に見えるものと
見えないものとの境界さえ、さして意味を持たないかも知れない。
アトリエの先生は、絵を描く「練習」はさせていないそうだし、手法ももちろん各自の
見つけた方法にまかせているらしい。それぞれが自分の思いのままに表現しているのだ。

このセンス……ぜひ、多くの人に図書館や書店でこの本をみつけたら、しばらく手に
とってもらえたらと思う。



エッセイの目次ページへ戻る

「芸術の扉」へ     ★「麗子の書斎」