Klee

P.クレー「パルナッソスにて」を巡って
　　　　　　　　　　　　――或る知人との対話
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 1/7；4/17 ’2000

参照１
P.Klee　‘ad Parnassum’
http://art.pro.tok2.com/K/Klee/klee02.jpg

(▲Art at Dorian様の画像をLinkしています　　　　　　　　　　　　　　　　　※Art at Dorian…http://www.ne.jp/asahi/art/dorian/)

参照２
クレーの絵（模写）
http://www.dcn.ne.jp/~skana/reiferumerukaiga.htm（Ｏ氏の模写絵）

　　　　　　　　　　　　　　　　　　*

　或る知人が、クレーの「パルナッソスにて」の模写を送ってきてくれた。
　それは非常にすばらしい出来映えだった。
私はクレーの「パルナッソスにて」の現物をまだ目にしたことがないのでよくわからないが、これまで幾つかの絵画写真やnet映像でクレー自身のこの作品を見た限りでは、クレーの方が乾いた何層かに渡る細密画に近い感じ、それに対し知人の方はよりwetでクリスタルな――そう、硝子を通して何層かの工作を見るような感じを与える、という印象を受けた。がともかくすばらしい腕前だった。
　この作品と比較を通して、知人と私の間で交わされたメール上の対話に、認識論、ときには宗教学がかったりしての美術ないし音楽にかんする、少し面白い話をする機会をもつことができた。知人への感謝とともに、、これをupしてみようと思う。
＃このupに関しては知人の許可を得ております

　　　　　　　　　＃文中：メールにて　Ｏ＝知人Ｏ氏 /　Ｒ＝Ｒｅｉ

　　

　　　《第一部》

１／７’2000

Ｒ:>>Ｏさーーん！パルナッソスようやく見ました。
すごーーい細かいじゃないですか！
これ神業ですよぅ模写するの。。根気入りそうぅぅ。（笑）

　（一部省略）
Ｒ:>>子供向けのクレーの絵本に「蛮族の将軍」というかわいらしい画があって、手法上は大部分パルナッソスに似た二重構造になっています。おもしろいですね！もちろんパルナッソスほど重厚な感じはありませんが。（習作だったのかも。）

Ｏ:それ、見てません！本によると、パルナッソスのために、いくつか準備段階のものがあった　と書いてあります。で、かなり計画的にしくんで、けっして思いつきレベルの作品ではないそうです。

Ｏ:>>>クレーは２重の絵は色と色のポリフォニーを絵の上で実現しようともくろんだという、と、その本の著者は言ってるんです。そういえば、下絵の色と上のタイルの色が微妙にからんでいるところ、様々な音色の楽器を奏でているようにも思えますが、

Ｒ:>>そう……なんか下絵は音楽が音になって出てくる前のアトモスフェルのようなもので、その諧調の上にモザイクの音符（半音階的代表の分子）の羅列が具現体（記号？）としてあるような、感じですね。音符のタイルは、ときに背底の音楽以前のものの、強調だったり、逆に次の展開への予兆音であったり、そうかと思うと一見突出した…ヴァルールの対置音のようであったりしながら、全容からすれば或る調和と関連性を担ってて、（これら自体は無機的な記号の集態でありつつ）それらが相互にひとつのいきものを形造っていくようで……
勿論中には音符から洩れるもの（音にされない音；タイルの間）もあり……。
それら図と地のおりなす構図が全体として色の音響になっている、という感じがします～。　たしかにポリフォニックです。　　　

Ｏ:実物、本物を見た時、油彩の感じよりまだ水彩のような、そして紙の上に描かれたような感　じがしたのを憶えていますが、画集でみると、かなり油彩の感じがでています。しかし、部屋で画集と、模写中の絵を見てるとやっぱり全然違うので、それが一体どこから来ているか、ずーっと考えている所です。
確かに、タイルの色調は大事です。それに、あんな小さい一片にさらに内側と外側がちょっと色合いが違うんです。それと、アクリルの色がまだまだこなれた落ち着きさをもっていない色で塗られているので、絵が全体として落ち着いていないため、画面が平盤化して見えるのも原因だと、反省しています。

Ｒ:>>それにしても、このタイルの下絵の色諧調は、どう模写されたんですか。境界線の一様でないところの配色とか、見るのが一寸むずかしかったでしょう？淡い中間色も多いし…。下地と同系色のタイルのトリックに邪魔されて、これ（下地の色）自体　似せるのもけっこう大変そうですよね。　

Ｏ:いやいや、さすがー！よくぞ聞いて下さいました。(笑) 大変です。
下地を塗って、大雑把にタイルの点をどんどん描いていきます。その上でもう一度下地の色で枠どりをして、一応なんとか　第１ステップの塗り絵は出来ます。特に、タイルを細かく描くのと、その上の枠どりに、驚く程の時間がかかるので、全然工程が進んでいないかの様に見えます。家族がたまに見に来てもあんまり変わってないので、つまらなさそうに帰って行きます。　(笑)

Ｏ:>>> 自然に光の反射の光線の重なり具合を楽しむ方が自然な気もします。
Ｒ:>>このタイル、一個一個に光と影が……というか巧妙にめくれあがってるところがあって（なんかのちのクレーの皮膚みたいだなぁって思ったり。硬化症?嘘^^;）

Ｏ:>>> 確か、別の本では、簡単に下絵は明度が暗く、上の明度の高いほぼ同じ色合いというような表現がされていましたがそれはちょっと見た範囲のことであって、実際にこの絵を解剖してみると、もっと、もっと複雑な事が解ります。
大まかには　そんな感じですが、クレーも画家ですから、機械的に只、塗り絵を時間をかけてやった訳ではないのですね。やっと、上の１／４まで一通りタイルを描いていったら、風景らしくなるように上のタイルの色がいろんな可能性を秘めて選ばれていることが、解って来ました。

Ｒ:>>あーー(*_*)ここんところの逐一の判断が、興味深いところですヨネ～。

２／２５
O氏の作業説明文
# >>> 対象は、山の麓にある神殿の廃虚から、山の右側の裾野の辺りを小さいタイルで塗りつぶす作業である。

Ｒ:>>あ…。あれ神殿でいいんですかやっぱり。
　　右側のすその――細かいデクレッシェンド風の周辺のとこですか？
　あの「＞」とその稜線、タイルが異様に細かくなってますよね。

Ｏ:山の名前もあるらしいですが、、？？神殿もイメージか？それともそういう風景があるのか、よく解りません。でも、実景があれば、そこに行って見たい気もしますね。この絵は実際に本物を見てるので、正にその時の出会いのイメージを具体的に追えるのがいいんです。
Ｒ:うらやまし～。実物見てるんですか・・。

Ｒ:>>この辺てファスナーのジッパーがずれてるみたいな並び方してましたよね、タイル。下地の色煉瓦？もけっこう変則的だし。

Ｏ:いやぁー、もうめちゃくちゃですよ、ぜんぜんタイルの大きさ、いろいろです。ものすごーく大きいのとか、小さいのとか

O氏の作業説明文
# >>> 全体としての統一感、絵としての構成などの課題が大きく見え隠れして来た時期に、やっと辿り着いたのか、一筆一筆がなかなか置けないもどかしさを感じている。
Ｒ:>はぁぁ～。
Ｏ:いやぁー、ちょっと大袈裟でした。(笑)結構同じ調子です。でも、下手に描いてると、致命的になる感じがあるので、ちょっと慎重になってるところです。だめなら、部分的に消して、削って、描き直しですね。何度かやれば、、、

Ｒ:>>色合いとか、どうなりました？もうそれほどご自身で違和感もないですか？

Ｏ:いや、むらがあります(^^;; 　
鮮やかなところ、くすんでる所、全体の釣合からおかしいところなどなど、、

しかし、あの絵の中に、朝日、夕日、雲、霧、新緑、秋の紅葉、神殿の朽ち果てた切口に日差しが反射して荘厳な輝きを見せる風景、もうぼろぼろの門に鮮やかな赤いツタがからまり、驚く程の抽象的世界をつくる。などなど描いて見て、初めて思いあたる抽象の世界の先にあるだろう、クレーの山水画の世界、あるいはＰ・クレーの夢のような胸中の大宇宙！彼をして綿密、周到な計画の上でも、一つの自分自身への、モニュメントとして描いた足跡がはっきり見えてきます。それまでの彼の画業の総決算という感じが筆先から心臓のほうに伝わってくるようです。

　（一部省略）
Ｏ:>>> 当り前ですが、細かい描くという作業に埋没していると、何をやっているか突然忘れて来るのです。
Ｒ:>>そ、そうでしょう！（笑）
Ｏ:>>> つまり、全体と詳細なタイルに色を１枚１枚塗るという作業の間に、かなりの階層があって、普通の絵以上に、全体と隅々の部分との関係が掴み難いという事が解りました。

Ｒ:>>ここんとこの物理的＆精神的乖離はすごいものがありますよね。。これを埋める主観（微視）と客観（巨視）の統合的作業はとても気が遠くなります。ベートーヴェンのすごかったところ（精神の巨大さ、構築性）は、そう言う点なんだろうな、というような事、よく思います。。動機から、展開の必然性…終局までの一貫したつじつまと発展（高まり深まり、運動性）……。
宇宙のもの（なりたち）って、でもよくそう思わされますぅ。ミクロもマクロもある同じ構造を持っていたりするから。
それは同時にかけ離れてもいますけど。。遠くて近きもの。

Ｏ:ここで、ベートーヴェンが出てくるとは思わなかった。(笑) 　ほんとうに、その通りです。全体を矛盾なく構成する力と言うのは、凄い事だなぁとあらためて思います。
そういう事が出来る人、考えるられる人、実際にやった人、、　、とにかく、あんまり　いないんですよね、そんな人、、全く前人未踏の所をこつこつと成し遂げるなんて、、、
やっぱりロマンティックですね。孤独との勝負、自分との勝負とか、あるけどやっぱり情熱ほとばしる生きざまを感じます。

Ｏ:>>> 絵を分解する作業と、その部分を全体に再構成するという作業をほぼ同時進行で行う事で、はじめて絵が完成する様です。
Ｒ:>>そうそう（笑）
部分の全体に作用する意味性と役割（位置づけ）、とか、と同時に部分と部分の連関――運動の自律性；自由さとか――構築作業にはとてもその判断能力、必要ですものね・・
卑近な話、ちっぽけな賛美歌（４声部同時進行）ひとつ書くのにも、それが要ります。（笑）口をついて旋律交差のアウトラインが出てくるところから記譜完了までの距離って、あんなちっぽけな世界にもわりとあるんです。
単純にすまそうと思えば出来なくもないのですが、やはりそれだと組み合わせの必然性がうすらぎますネ～(i-i)。みょうに単純だったり（即興性の音楽にはかえってそれもいいかもしれないけど）それか、逆に未だ人工的にぎこちなかったり。同じ音の組み合わせのまま、パートを替えるだけでぐっと自然になったりするんですが・・

Ｏ:絵を見ながら、この事を考えていました。クレーの絵が音楽と関係ありそうなという事が、すこし判りかけた感じです。色と色が響く、反射光が重なる、、、
で、どういう選択と決定をすればいいのでしょう？

Ｒ:>>このあいだ私が言った、採譜の際の「二次災害」^^; も、そういう問題のひとつのような気がします。（笑）音の錯綜洪水と、初発性の忘却…埋没は危険ですぅ
Ｏ:そうなんです、これからいよいよその２次災害の段階になるんですね。絵がいきるか、死ぬかこれから正念場です。　(^^;;;;

Ｒ:>>あまり微視的な分析主義に陥ると、自律性というか必然性がなくなったりするんです。何か不自然に……そう無意味！になってきたり。あれ？最初あんなに歌うようなひびきに思えたのにとか（笑）たてとよこ、ミクロとマクロ、いつも同時に一致していないとダメみたいです。 (i_i)
ここんとこの対象との距離感が――大変ですよね。。

（一部省略）
Ｏ:>>> これも、前者の著者に言わせると一種の作業上のポリフォニーなのかもしれませんが、クレーは意識してた部分と、実際に描いた中でその都度新たな問題を解決した所とが、必ず在ったと信じています。
Ｒ:>>そうでしょうね、、色の流れやヴァルールの精妙化なんか・・きっと。トーンが一律にならないよう、よく見ると大分計算してるように見える。建物の場合はわざと統一したり各層と層とのかもす、色と色の関係やバランスで処理してもいるようですかね。

Ｏ:>>> そして、私の興味は当初の頭で考えていた事もですが、実際に描き始めていった中で　ぶつかった問題と、その解決にもっと、もっと大きな興味をおぼえます。
Ｒ:>>(^^)(^^)(^^)だけどけっこう自然に流れが解決してきたりすることもあるのでしょうね。無意識や直観って、論理的だったりするから。。（＝必然性？）
理知以前と以後……両者一致したときはうれしいですよね。つい分けて考えられがちだけれど。

Ｏ:>>> そういう意味でも今回の模写は、今までにない楽しみを発見した想いです。
Ｒ:>>グゥですぅー。やっぱり収穫多、でしネ(^_^)v

（一部省略）
Ｏ:最初は、好きな絵だしとおもったのですが、実際に描くとなると、ちょっと勇気が要りました。関係する資料を読めば、読む程これはクレーにとってもかなり大きな挑戦だったことがわかりました。その本ではやはり音楽のポリフォニーに関連付けてましたが。クレーは２重の絵は色と色のポリフォニーを絵の上で実現しようともくろんだという、と、その本の著者は言ってるんです。
　　そういえば、下絵の色と上のタイルの色が微妙にからんでいたるところ、様々な音色の楽器を奏でているようにも思えますが、自然に光の反射の光線の重なり具合を楽しむ方が自然な気もします。

Ｏ:>>> この絵は２重になっているので、下の絵のほうを当然先に描いてみました。
……
　>>> 出て来た下絵は、あのくすんだ、垂直と水平を主張していたセザンヌの絵のようなものが、段々と形造られて来たのです。

Ｒ:>>色と色の交代がいそがしくて、コマカイでしょうね・・。
ほんとに迷路に迷いそう。ひとつひとつの色の補填によって下絵として浮かび上がってくるのですか？

（※もう一度、この説明を分割せず記しておく）
Ｏ:確か、別の本では、簡単に下絵は明度が暗く、上の明度の高いほぼ同じ色合いというような表現がされていましたが、それはちょっと見た範囲のことであって、実際にこの絵を解剖してみると、もっと、もっと複雑な事が解ります。
大まかには、そんな感じですが、クレーも画家ですから、機械的に只、塗り絵を時間をかけてやった訳ではないのですね。
やっと、上の１／４まで一通りタイルを描いていったら、風景らしくなるように上のタイルの色がいろんな可能性を秘めて選ばれていることが、解って来ました。当り前ですが、細かい描くという作業に埋没していると、何をやっているか突然忘れて来るのです。
つまり、全体と詳細なタイルに色を１枚１枚塗るという作業の間に、かなりの階層があって、普通の絵以上に、全体と隅々の部分との関係が掴み難いという事が解りました。絵を分解する作業と、その部分を全体に再構成するという作業を　ほぼ同時進行で行う事で、はじめて絵が完成する様です。これも、前者の著者に言わせると一種の作業上のポリフォニーなのかもしれませんが、クレーは意識してた部分と、実際に描いた中でその都度新たな問題を解決した所とが、必ず在ったと信じています。そして、私の興味は当初の頭で考えていた事もですが、実際に描き始めていった中でぶつかった問題と、その解決にもっと、もっと大きな興味をおぼえます。そういう意味でも今回の模写は、今までにない楽しみを発見した想いです。

Ｒ:>>ね、これ。たしか日記にありましたヨ。
Ｏ:日記ですね、、、う～ん！？読んでないですねぇー！ (^^;;;

Ｏ:>>> 模写でたどっていくとほんの少しですが、追体験している気分になるから、楽しいですね。
Ｒ:>>少しではなく、けっこう密度たかく、できますよきっと。批評してるよりよっぽど能率いいのでは。。
Ｏ:>>> 面白いですよ、やってみませんか？(笑)
Ｒ:>>そんな根気・・オルゴールの採譜だけで充分ですぅ（笑）
　　でも絵を理解するのにはいいですね。そういえばクレーの絵はオルゴールのような機械的な楽器によく似合いますね。重力とか平衡感覚とか、とても計算されていて幾何学的というか・・規則的な面があるようなので。。

Ｏ:はい！感じます。しかもフリーハンドで自由に描いているようで、幾何もかなり得意ではなかったかなぁと思いますよ。空間の把握とか、よく出来てますね。

　　　　

　　　《第２部》

４／１７
Ｏ:> パルナッソスは未完成です。廃虚の門のところのタイルとか、まだまだ微調整が残っていて、、、でも少しの間、筆は入れないと思いますが。。
つまり写真がうまく撮れすぎました。実物より、写真が潤った感じに撮れたので、恥を忍んでお送りしました。

Ｒ:そういえば画家紹介の雑誌の付録で、もう一つごく小さなパルナッソスの写真を見ました――う～やはり代表作だったらしい　^^;――が、こちらは、先日私が買って見ていた画集のパルナッソスよりかは色が潰れていず、濃くて、鮮明でした。
画集のだと全体の色調がとても薄くて、妙にタイルのオフホワイト（うろこ）が強調されて見えていました。雑誌の小写真のほうがタイルが出しゃばってなくて、そのぶん下層の色煉瓦が　とても鮮やかなのです。（とくに青）
…がやっぱりＯさんの模写写真の方が鮮烈、もっと立体的できらきらしてみえますねー。う～ん、、、
とクレー自身は、あそこまで潤った感じにしなかったのは何故なのでしょう？
そのかわり精密には、なる訳でしょうか…

Ｏ:>>>> 本の印刷でしか見てなかったので、重層的な作品だろうとは推測するも、そればかり　　ではなくああいう多面的？な色世界だとは……その原因は、単なる私の未熟さから、タイルの大きさが正しく描けなくきっと、１.５倍から、場所によっては２倍くらいの大きさを描いてしまった事によると思います。

Ｒ:でも、（ものを）見えるようにさせているものの側面――光や空気とかいう、媒体；もしくは“反響”の相面――は、かえってタイルが〈粗い〉ほうがわかりますね。(^^)‘映す’ものと映るものが交錯した感じを伴って。
光や映像のぶつかり合いがキラキラよく見えて、ちょうどＯさんが一緒に送ってくださった、ワイングラス越しにヴァイオリンを見る絵のような、或るもどかしい間接さを以て向こう側のもののリアリティを感じようとするみたいな。
もちろん、グラス（＝媒体）自身の実感とひとつになって。
クレーってこういうものを必要としたんですね。　（視覚を“覚”するもの）
でもこうしてみると、タイル手法というのが、空気（水粒、靄ですかネ）から、その流れから、景色の「奥行」から、光の方角から斜陽の響きから…
もういろんなものを上手くほぼ透明で間接的な媒体；プリズム）を通して還元してるのが、伝わるようで。そうそうだからそれがディジタルといえばディジタルな手法かもしれませんが。
　　（笑）
それにしては潤い（媒介性?）のある（笑）…ニクイ発想ですよネ(^_-)＞クレー。すごー。仏教でいう（不断なる）縁起のようなですね、、
風景に関しては、おおざっぱには遠景（とか建造物の内部、奥まり）ほどタイルも下層の色煉瓦も、ともに細かくて、手前の風景ほど粗くしてあるみたいなのだけれど、空気の層とか　ものの厚み、密度によっては、近景でもわざと細かくしたりめくれあがって浮き立たせてたりしてるのが、おかげでずっとわかりやすくなりました。
とくにあの大胆なデクレッシェンド（笑）の横断部分なんかは、タイルを細かく、‘立たせる’ことで、タイル――視覚の媒介者――　からその下地の色煉瓦――実相――までの一寸浮いた間隔、或る種の間接性も、空気の層の重なり合い、厚みとしてみえるようで。
濃淡、たくみに変化させていますヨネ。
それであんな風に靄がかって――しかも空気がうごいて?!―――見えるのでしょうか。
光線もしかりです、ぶつかり合うような……反射光がみえかくれして。(^^)　何かおもしろいですね～

Ｏ:> それが、逆に絵の構造の秘密を暴く形になって、模写する側ではかえって面白い事になったと思います。

Ｒ:そうですね～ぇ！！
こういう側面がなかなか気付かれにくいでしょうから。

でも、するとやはり多面性（プリズム――見えるようにするもの；媒介の立体性）よりは、二階層で成る細密画のような形に近くした（見える風景＝実体*そのものに重きを置いた）のは何故だったのでしょうね…。
　（基本的には）タイルの編み目が細かくなればなるほど、やはり実景に近くなる訳ですものネ　・・
やはりちょっとそこへ興味が行く気もしますが。。
‘このくらいのdryさ’｛加減｝が、彼の世界観（宗教観）かなディジタル―アナログ値のｐｈ。（笑）
模写してどう思われますかー

（♯実体*、といってもこれ自身すでに抽象化されてはいるのですが）

Ｒ:>>>> おかげで靄がかった感じや陽光の照りなども解りやすくて。(^-^)
色諧調の、強弱（f/p　or　Cles/de-cles）の均衡なんかも・・

Ｏ:>でも、この”デクレッシェンド”という言い方！いいですね。解りやすく。(^^)
実際に廃虚の屋根の部分もデクレッシェンドの形をしていますしね。(笑)

Ｒ:そうなんですね～で、このデクレッシェンドのすこし上の層にも、薄暗い雲のような霞がかかってるけど、それを含めて全体に、空気が幾重かになっているんですねえ。
濃いのと晴れてくるの（＞と＜）が交互に浸食し合ってるのかな？
とは思っていたものの、大気のうごめきとして肌で感じるには　今まで想像力で補う、というか　頭で…そう、記号的に？理解させられてた面が強いような気がします。
　（印刷というのもむずかしい問題ありますね。あ、でもわざとでしょうか。……記号性の強調?!　笑）

でも、そういう大気の感覚なんかが、模写ではかえってとても自然に解りやすくよく出てると思います。実物も、その辺見てみたいところ・・。

Ｒ:>>>> クレーの手法らしい独特な抽象的世界に、写実世界がとてもリアルに
｛還元｝されているのがわかりますね。

Ｏ:> これは、あのセザンヌと対照させたり、あるいは、ギリシャの実景の存在を教えられたり、見る事の出来ない実景を想像の世界で、クレーの絵に結びつけた為におきた産物ならば私なりに、この模写の作業のなかの大きな成果ですね。

Ｒ:ええ。(^^)出てると思います、ギリシャ的な陽光もどっしりした均衡も。セザンヌ的な一連の記号化（図形理論化・「知」的把捉）手続きも、それでいて風景の本質を見失わないという精神みたいなのも。

Ｏ:> こちらこそ、お礼を申し上げます。”クレーの日記”の中でもあまりセザンヌはでて来ないとかの話もあって、

Ｒ:あぁ?そういえばそうですね……。でも基本的に尊敬してたみたいでしょ
Ｏ:> 偶然かもっと深いところで、セザンヌ的なものとの出会いがあったかどうか、興味は尽きないですが、
Ｒ:でも乾いた認識の感じとか、造形性の壮さとか……結構精神として近いものはあるように思いますが。
個我はつよいけれども、それだけに個我を滅しようとする精神も、シビアでつよい面があるのではないでしょうか？感受性をささえる知は、かなり強靱そうですよね…。
自分は、まず全体へと個を消滅させるのだという記（宗教観）　がありますよネ。
あれなんかは典型的にそう思いますが。。ちょっと禅的とも？
まぁ日記は、若い頃のものですが、おそらく生涯それほど変わらなかったのではないでしょうか…。（資質）

Ｏ:> 今まで、模写って自分の中でも、それほど肯定的に考えていなかっんですが、今回程模写も凡人にとっては、或種の創作活動に近いプロセスがあることを感じました。本当の創作よりは、むしろ絵画を鑑賞する立場の眼の方が強いのかも知れません。
少しの間、何かを見ても、これをパルナッソス風に描いたらどうなるのかな？とか、しょうもない事を度々考えたものです。
Ｒ:しょうもない事、だなんて　(i.i)＼(^-^;)
パルナッソス風……ふふ。
クレー自身も、いろんな手法を同時多元的にフィルターとして持ってたみたいですから、何々風、というそれぞれの‘還元’を交代してアタマの中で描いてたでしょうネ。

Ｏ:> (＃ちょっとした、はしかのような病気でしょうか？)
Ｒ:ひゃひゃ。じゃクレーも　はしかだらけだったのでは(^^;

Ｏ:>>>> つまり写真がうまく撮れすぎました。実物より、写真が潤った感じに撮れたので、

　（これに就いて）
Ｒ:潤いというのは、身体性（非=対象性）、媒介性だナっていうのは、この前からのレスをしていて、改めて思いはじめた実感です。勿論身体（媒介）性、にはこれまで言うような大気感だとか、空気・光のうごきの感受という意味での主観（主情）性ばかりではなくて、プリズムだの硝子だのという物理的制約としての主観性もあっていいのですが、媒介。
このウエイトが大きければ大きいほど、実景そのものより主観（という函数BOX、フィルターそのもの）が認識論的にももちろん強調されるでしょうので。
（印象主義なら印象主義、形而上絵画なら形而上絵画、というふうに。）

とりあえずこのウエイトを小さくして実景そのものにより重きを置くのが写実主義といえるでしょうけれども。でもそれは認識のからくり上、けして主観を排してる（己の主観と出会ってない）　のではなくて、むしろ不断に自分自身の「主観に出会」わされ、（or主観‘で-あった’ことを喚起され、）そのたびにこれと実景?そのものとの境界――（分「別」、なのではなく）分「節」線――を意識（仏教的に言う覚！）させられているのだと思います。　……ヨネ?(^^;
ものに内在する秩序との‘関係’を伴って滲み出てきて。

で立場によって、その「実」を選ぶか主観のほうを選ぶか（手法、表現のテーマとして）という　違いなのかなって・・。

だから逆に言えば主観性のつよい絵画がものの「実」に出会ってないというのも皮相な誤解があるのでしょうネ。
がともかくその分節線が、芸術家にとって創造の泉なんでしょう…。

クレーは手段をいつも複数持っていたみたいですネ。
音楽家でいえば変奏素材を幾つも抱え、その発揮し場所を吟味し、心得ていたということでしょうか。

Ｏ:> わたしも、３、４種類の印刷されたものを見ましたが、どれも一長一短で、ぴったりこないのですね。仕方ないので、大きい方は構図を主にしてもう１枚は色を主にして、組み合わせて描かざるをえなかったのです。
、、
Ｒ:ご苦労様。　εε(-。-)＼(^-^;)

Ｏ:> 立体的といえば、メールでもお話したように、ほんとに色立体の各桝目を塗りつぶしていく作業と間違うほどの、部分部分の積み重ねだけで出来ているので、全体を考えないと、子供の積み重ねた積み木のように何処かで音を立ててつぶれてしまうような危険性も感じました。

Ｒ:わ。スリリングな場面もあったのですね。
たしかに、全体でなにが語られてるのか、わからないと…。木を見て森を～にならないよう、巨視と微視のコンテクストの合一を自分のなかで再構築していかないとならないのですね～。
もちろん分析主義にも陥らないように。。？
作品は生命体ですものネ。（緊密な必然性で出来てる）
これを、破らないようにしていくのは大変でしょうねぇー。
多分ここんとこの、細密画的構築作業においてもいかに有機性を喪わない、といって強調しすぎもしないかという辺りが、クレーも最新の注意を払った処のひとつなのじゃないでしょうか。
ここへベトちゃんの話が出てきたのでしたっけ?　^^;先達。

細胞組織と身体のように、部分部分が、部分同士でも多面的な意味役割を持ちつつ同時に全体を反映しているような。
（あ。またcd.チェリビダッケかな？・・「私たちひとりひとりは水滴のように海を反映し…」^^;）
ポリフォニー云々もおそらくそういう構造の（芸術としての）証であり再生でしょう…。　クレーにとって。
一即多、一即全・・みたいな、多元的な世界。

Ｒ:>>>でも、（ものを）見えるようにさせているものの側面――光や空気とかいう、媒体；もしくは「反響」の相面――は、かえってタイルが粗いほうがわかりますね。(^^)
‘映す’ものと映るものが交錯した感じを伴って。。

Ｏ:> この部分の考え方が面白いのですが、これも一種の鑑賞者側からの或見方でしょうか？

Ｒ:ええと、、自分でも　この辺書きながら、なぜ媒体とか反響とかいう言葉（概念）が出てきたのかな？って、ふっふっと考えてたのですが・・
たまたまむかし大学時代に未だ独学で読んでた宗教哲学の本を読み返してたからかも知れないんですが、たんなる偶然とも思えない気がしてます。。
先日のレスを書いてるうち、これも実はふと口をついて出てきた、「視覚を“覚”するものを、たえず要求してた」って言葉が（＃↑知を、でもいいでしょうけど）　「見えるものを再現するのでなく、（見えないものを*）見えるようにするのである」――いつか或る絵画ML上でも話題になった一節ですが。
というクレー自身の名言をも、ちょうど喚起しうる?のでは、と気付いてきました…。
＃もちろん、（*印）――みえないものを、の部分は訳者の余計な補足であり誤訳では、という　説もあったようですが、だからこの解釈者の言う通り、コレ＝（）部分は無しにして…も、この際まぁ結局変わらないかなって。。 (^^;
やはりこの辺りは、生涯通底する彼の主題だったと思うし、

Ｏ:> この重層構造の必然性は一体何処にあったんでしょうね？

Ｒ:ええ…。ですから、これを（ものを見る、生きる本質として）物語るための必当な手段（のひとつ）だった、といってもいいのではないでしょうか・・　ひとつの――彼の手持ちの中でも、すぐれて効果的な――フィルター、だったのかも知れないと思いましたが。
しかも媒介の存在（すること）は存在（すること）として、実景とともにカンバスに刻む。ということの必要性…。
媒介と実は（芸術行為によってふたたび蘇生される）とが緊密に不可分な「関係」のもとにある以上。。一元性ではなく「　階層」が、必要だったのだと思います。媒介の媒介性（透明・至純性。にごり・屈折、多様性、うごき、間接性、逆説性――死によって生きる――etc.ものとしてのあらゆる役割）とともに。
また或る場合には「パースペクティフ」が必要だったり、色々でしょうけど。

Ｏ:> クレーは、また違ったかきかたを模索していくんですね？？

Ｒ:いつも幾つか持っていた、らしいですものね。さっきも画集の終わりのほうを読んだら、アトリエの様子の説明でも、そう書いてありました。　ちがった素材をいつもイーゼルの周辺に、幾つか同時に並べてあちこちのカンバスに筆を置いていた、というようなこと。
だからそれらの手段（方法）の多様性は、彼自身の世界の‘本質’を　あらわすのに色んな次元（意識の層）や表現の相面によって生じる「表出」のちがい――仏教で言う方身？みたいな――なのであって、その場に応じて使い分けられるべき必要な手段だったのでは？

キリスト教でいえば三位一体のうちの聖霊――ただし本質（＝神）から不可分・不可同・不可逆（禅なんかではここに即可逆、も入れるでしょうけど＝西田哲学の「場所的逆対応、逆限定」、大拙の「即非」に相当（?）、死によって生きる、のニュアンス）を含む媒介としての、聖霊――となって発出され、受肉さるもの――に当たる位相であり、役割を帯びるものの多様性のようなものでしょうか。
もちろん他の宗教にもそうした「分節」の奥義は語られているでしょうけれども。
クレーはシュタイナーの神秘主義などにも通じてたみたいですし。東洋無みたいのにも・・（それはどこで読んだかナ。画集か、日記か――私はクレーに関してはその二つしか読んでないので^^;）

ひとつの主題が「終わって」から次の主題に移行するのでなくて、主題はひとつが完結するまえに、どうしても多次元的な様相を帯びて彼のなかに内包され、いろんな方法を通して発出されていたのでしょう。

Ｒ:>>>光や映像のぶつかり合いがキラキラよく見えて、ちょうど、Ｏさんが一緒に送ってくださっ　た、ワイングラス越しにヴァイオリンを見るような、或るもどかしい間接さを以て向こう側のもののリアリティを感じようとするみたいな。もちろん、グラス（＝媒体）自身の実感とひとつになって。
クレーってこういうものを必要としたんですね（視覚を“覚”」するもの）

Ｒ:>>>でもこうしてみると、タイル手法というのが、空気（水粒・靄ですかネ）から、その流れから、景色の「奥行」から、光の方角から斜陽の響きから…　もういろんなものを上手く（ほぼ透明で間接的な）媒体；プリズムを通して還元してるのが、伝わるようで。そうそう、だからそれがディジタルといえばディジタルな手法かもしれませんが（笑）
それにしては潤い（媒介性?）のある（笑）…ニクイ発想ですよネ(^_-)　すごー。
仏教でいう（不断なる）縁起みたいなですね、、

Ｒ:今おもうと、クレーの場合、完全な透明体、でないところがミソかもですネ＞タイル。――フィルターの自覚と投影
　　（この辺りに就いてふたたび）
Ｏ:> 表に現れている皮相的なリアルなものと、裏に隠されている本質的なものが、ある事を契機に突然呼び覚まされる、という感覚！この方が、音楽的なポリフォニー論より直接的で解りやすいです。(^^)///

Ｒ:で、ここで面白いのはこの両者が区別されつつもつねに不可分に意識（ないし直観）されることですよね…。呼び覚まされる、のはけしてバラバラなものとしてではないですものネ。逆説的に「一」でしょう・・
媒体（モザイク）と、下層色煉瓦（一度抽象に還元された実景）とは、不可同ではありつつ不可分――或る種の‘間隔と関係’を保ちながら。この間接性が、たとえば点描画法の一元性なんかとはちがい、クレーの個性的、知的なところなのでしょうが――
とにかく彼は表に現れてる皮相的なリアルものを、その次元のまま（現象学的にいえばエポケー「以前」のまま）では表さなかった、でしょうし、それを掘り下げ再生することに芸術（創作）の意味をいつも見出してた、ってことなのでしょうね。。と…思いますが――

でも、媒体＝「通す」もの。厳密にいえば「通すものになり切ろうとするもの」のほうにアクセントが置かれる（おそらく、リルケ（硝子?）のように――――それはクレーが彼自身との比較で何かそれらしきこと、言ってましたけど）かといえば、やはり終局的にはクレーはそうではなくて、（それ）～を「通して見える‘彼方’」＝実?「景」のほうに赴く、つまり「対象世界」そのものにですね。。彼の日記にもありましたように。

それを、ディジタル（乾；知；涅槃）―アナログ（潤；身体性：生死）値のｐｈと、先のメールでも申し上げたかった訳なのです。。(^^;
＃但あくまでもディジタル＝乾＝客観というわけではありませんけれど。フィルターという制約（拡大・排除）性のある以上…。クレーはタイルをまったき純度にしていません・・

　　
Ｒ:>>>でも、するとやっぱり多面性（プリズム――見えるようにするもの；媒介の立体性）よりは、二階層で成る細密画のような形に近くした（見える風景＝実体*そのものに重きを置いた）のは何故だったのでしょうね…。
‘このくらいのdryさ’｛加減｝が、彼の世界観（宗教観）かな。、そういう意味として捉えていただけるとありがたいです。

Ｒ:これって殆ど‘資質’の問題として、どうしても個々の人びとの終局的な差異として宿り、不可避に個々の実存に残像として影を落とす問題だとは思うのですヨ・・
同じ悟りを開いたお坊さん同士でも、その内容に、色即是空の「色」にウエイトがかかるか、　「空」のほうにかかるか、に差異がどうしても生じるらしいのと同じように。。ん～ちとおおざっぱな言い方ですが^^;^^;
でも、やはり同時性として不可分に表れるものにはちがいない訳ですものね…
――身体と知、また媒体（動き）と実（環境・対象世界）。　切断できない…
うー。懐かしい、学生時代にアタマの中が戻ってくぅ（笑）

これのもっと前のレスでも申し上げたかも知れませんが、私にとってつくづく、ディジタル＝アナログは、――この言い方自体、或る種の認識論上の制約を帯びフンベツ的で好きでありませんが、、だからクレーの日記で言うように、闇と闇から浮かび上がるもの（結晶体へと赴くもの）と言い換えてもいいのすが――
（あたかも対立的要素であるかのように）バラバラに切り離せるような構造のものでは、元々ない訳なので。それはお話にならなァ～い（笑）
諸臓器のホルマリンづけでもあるまいし…^^;

　ａ）闇（無；場所；大悲；神の愛＝アガペー）と、
　ｂ）闇から浮かびあがるもの（ひとつは結晶体＝神の物となって考え、物となって見るもの、として。もうひとつは、結晶体（観念理念）と成り切らずに此岸に残るもの、として。　
いずれにしても「於てあるもの」）とは、認識論的にも、宗教・芸術論的にも、もっと密接で不可分な関係にあるはずなのです・・。（逆説性を帯びつつ）
　　　　　　　　　　　　　　　~~~~~~
否定を媒介にして肯定、的な↑

それは知と身体が、「永遠に相別れて瞬時も離れない、終日相対して刹那も対しない」関係でありつつ統合されていくのと同じに思います・・。
＃「於てあるもの」のうち、当然クレーは結晶体の側（神の物となるもの完全なるもの）のほうであろうとし、なろうとし、つまり彼岸へと赴わけでしょうが・・

Ｒ:>>>とくにあの大胆なデクレッシェンド（笑）の横断部分なんかは、タイルを細かく、立たせることで、タイル――視覚の媒介者――からその下地の色煉瓦――実相――までの一寸浮いた間隔、或る種の間接性も、空気の層の重なり合い、厚みとしてみえるようで。。濃淡、たくみに変化させていますヨネ。
それであんな風に靄がかって――しかも空気がうごいて?!――見えるのでしょうか。光線もしかりです、ぶつかり合うような……反射光がみえかくれして。(^^)　
何かおもしろいですね～

Ｏ:> 確かに、構造的だけど、タイルを簡単に同型色だけで塗ってしまうと、
Ｒ:タイルって、ミクロのほうですネ？

Ｏ> 全然つまらない絵で終ってしまいますね。色々な色調で細かくうめて、絵に奥行きをつくり、ダイナミックな力学的動きも出そうなんて、クレーは
Ｒ:デクレッシェンドの上のほうの、霞雲のかかったところや門のところなんてモザイクとしてすごいですものね。あと下層の色煉瓦との、色彩価値の関係も…。（＃たしかこういう研究を30代くらいにしてましたヨネ。）
デクレッシェンドのところも、他の箇所のタイルよりは同系色で、わざと統一的に埋めていますけれど――記号的役割も重いところだから――、よくみればやはり前景（としての下層色煉瓦）に侵食させて、空気感や遠近感を出してますものネ。。

Ｏ:> 最初から考え、計算していたのでしょうか？

Ｒ:あの作品の最初からは――どうなんでしょうか。。
ええとパルナッソスのとき、 52歳くらいでしたけど、分割描法をはじめて、２年くらいして集大成したみたいですヨネ。
その間にこの手法での試みはいくつかしてたみたいですが。。
以前にも書きましたが、図書館から借りた「クレー」絵本に、分割描法のがありましたけど、こんな風にいくつか先に描いて準備はしてたみたい…。
もちろん見たところずっと簡素な――パルナッソスほど緻密で多角的ではないようですが。　が、これほど色彩論的に精密な作品は他にないとしても、色の実験・理論は前からの研究でつかんでいたみたいですよね。
日記で読んだ気が・・

Ｏ:> 幾つかの事前に描かれたもので実験していた結果を、この”総決算の絵”で大胆に塗り込んでいったんでしょうか？

Ｒ:うん、きっと。それはそう思います。で
研鑽で精密に掴んでいたこと以外に、この絵ではじめて気付いたことって（どれくらい?!）有るんでしょうか、ネ。。

Ｒ:>>>こういう側面がなかなか気付かれにくいでしょうから。

Ｏ:> 模写による追体験で、ここまで解るの、実際はかなり後の事です。(^^;;　ほぼ、８０～９０％くらい塗った辺りでしょうね。

Ｒ:そうでしたか…！ありがとうございます。。
　　　　　　　　　　　　　　　　…………
きゃははー(^O^)
さっき私、爆睡してしまって（笑）起きてクレーの日記をパラパラやりましたら、（色彩理論の研究のところを読みたかったのですが、それは未だ見つかってないのですけど、）こんなピッタリな記述がご本人の言葉にありましたヨ。
あ。……もうご存じだったかも知れませんが・・　以下です。
　　　　　　　　　　　　　（番号は「クレーの日記」による）
======

・822　ある作品が生れる過程。
　　　１厳密に実物の模写。ときには、望遠鏡も使う。
　　　２上で述べたのと正反対のことをする、つまり、感じのまま、主な線を強く描く。
　　　３すべてを、はじめの状態へまた戻す。１＝実物と２＝絵の統一を試みるのだ。

#Ｒ:なんか今の主題の解明に打ってつけの箇所じゃありません？
こんなのも、同じページですが

・824　１状態～動き――未完了～完了　と
　　　　２環境――すでに出来上っている。１と２がどういう風に作用し合うかをつぶさに検討。

・827　１自由奔放に感覚の命ずるまま（色の塊を塗りまくる）
　　　　２この「無」をあたかも対象あるかの如く読む。形を読みとり陰影をつけて「無」を解明する。　　　　基本となる調べがあらかじめ与えられている。それがここかしこと画面全体に影を落とす。

#Ｒ:１はfreehandでしょうね。。
#　２がないと、無はただの平面になってしまうでしょうネ。（観念主義）　やはり実存の相でしょう。　　　　
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――引用：以上

Ｒ:第３日記：1908年頃なので、29歳くらいの記述ですネ。
　ね、なんかピッタリじゃありません？(^^;

Ｏ:> 直接関係有るかどうか、解りませんが、最近中公文庫で出された ”時のながれのなかで”　(またまた吉田秀和著)のなかに、晩年のクレーの事が書かれていたので、早速注文しました。内容の骨子はナチに対する画家の闘争が最晩年の創作力の源になったということが、

Ｒ:そういえばパルナッソスあたりにはもう、バウハウス教授を辞し、政治色が濃厚になってた時期ですものね。34年には「橋脚の反乱」みたいな、あきらかにナチをヤユってるようなのも描いてますし。。

Ｏ:> 持ち前のクールな話ぶりで語られ…。スイスという国になかなか亡命者として認められないまま、他界したクレーの気持ちが作品に現れない筈は無い事をあらためて教えられました。吉田さんは、クレーの画風は対ナチを意識したころから、さらに変貌したことも指摘しています。
これを読んで、私などクレーの初期の気味が悪いのとか、

Ｒ:え。。初期って気味悪いですか。

Ｏ:> 晩年の作品はとても理解を越えているなどと言って、毛嫌いしていたことが、何かとんでもない場違いなことをしていた様で、少しちゃんと恐れないで見つめ直さないと、本当のクレーの実体には近づけないかもしれないと思われて、ディジタルとか、アナログという処をつき抜けた処のクレーを見たいと思いました。

Ｒ:最近、ディジ＝アナ論も概念処理をうまくして行けば上のような認識論上、芸術学（宗教哲学）上の問題としてゆける――これらの位相から、近代観念主義、分別知（近代主義二元論）陥穽の克服を指摘しながら、というテーマで――と久びさに気づきました^^;ので、あえて勇気を以て先に書きました。あしからずご了承くださいませでし～。

　＊ただ、言葉（記号）を連結していくうちにそれに照合する実体のほうの位相が微妙に動いて行ってしまうようで、――これも上で話して来たのと重なると言えば言えそうですが^^;――
その調整のために、概念の照合が重なったり文体が複雑になって、読み流し難くなってしまっていますが、あしからず…です

Ｏ:> 吉田さんは８０年代の鎌倉で少し大きなまとまった”クレー展”が開かれた事から、話が始まっています。日本人はクレーは好きな筈なのに、妙に観客は少なかったことも書かれています。
Ｒ:なるほど…。

（以下、この辺りのクレーの技術と画家の意図について。引用繰り返し）

Ｒ:>>>そうなんですね～で、このデクレッシェンドのすこし上の層にも、薄暗い雲のような霞がかかってるけど、それを含めて全体に、空気が何重かになっているんですね～。
濃いのと晴れてくるの（＞と＜）が交互に浸食し合ってるのかな？
とは思っていたものの、大気のうごめきとして肌で感じるには、今まで想像力で補う、というか頭で…そう、記号的に？理解させられてた面が強いような気がします。
でも、そういう大気の感覚なんかが模写ではとても自然に解りやすくよく出てると思います。

Ｏ:> 模写するまで、わたしも記号的／抽象画くらいにしか思えませんでした。
模写したら、どうしても実景とか、色の自然界との照合とかが、どうしても気になりはじめ、抽象＝具象を行帰するようになりました。

Ｒ:よく考えれば記号とは、抽象＝具象の往還の間にこそ生じる必然ですしネ…。クレーにとってなぜ記号が必要なのか、という問題はこれでわりあい解決できそうな気がするのですが・・。あとは個々の作品に於て何故この記号（の必要性）なのか、といったことを逐一模索しなければならないかも…

Ｒ:>>>均衡も。セザンヌ的な一連の記号化（図形理論化・「知」的把捉）手続きも、それでいて風景の本質を見失わないという精神みたいなのも。
Ｏ:> 風景の本質って、セザンヌでもうとっくに終っているつもりが、、、こんなところで、分析に分析を重ねて再登場したんですかね？？
Ｒ:ええ。
でもセザンヌ以降って一口に言って、それぞれの立場のひとがみんなこの本質発見の独特の方法を開拓、ということに走った――ですヨネ。。？
もちろん、それは対象（or取り巻き）世界全般であって「風景」の、には限らなくなりますけれど・・・
思えば私にとってセザンヌがよく受け容れられない折りにも、クレーには素直に感動できたのは、彼の具象＝抽象値のｐｈがセザンヌより抽象に近づいてる
（但しカンディンスキの中期などの抽象は、完全に具象を捨て去るので、また意味が異なってしまいますけれども。それも、ひとつの観念論ではないかなと思うことがありますが。……それはともかく、その抽象へと近づいた）度合いが、風景そのものと或る距離を保っている分だけ――かえって、風景（世界）を尊重してくれてるようにも思えたからでしたっけ。。
方法の問題でもあるでしょうけれど――

クレーは彼岸の「なかへ」建設、します、ネ。＝抽象化
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（クレー「日記」951）
セザンヌは一応のところ、此岸「に」於て、ということになるかなとは思いますが……もちろん、作品にもよりますが

Ｒ:>>>でも乾いた認識の感じとか、造形性の壮さとか……結構精神として近いものはあるように思いますが。
個我はつよいけれども、それだけに個我を滅しようとする精神も、シビアでつよい面があるのではないでしょうか？　感受性をささえる知はかなり強靱そうですよね…。
自分は、まず全体へと個を消滅させるのだという記（宗教観）がありますよネ。

Ｏ:> 出来上がったものは、あるいはモーツアルトに近いものを感じる事はあっても、人間的な苦しみや、考え方は、むしろドイツ的でベートーヴェンに近いアプローチを感じるのですが、、、

Ｒ:殊に知的・精神的位相では、ものの構造的な把握などでダイナミックなものを抱えていたといえるかもしれませんネ。
人類史上もっともおぞましい形と力を持って世を脅かした、全体主義や国家といった観念と具体的な権力的、非人間的行為から、個我と信念を守ることが必要になった、という具体的な状況下に置かれましたしね・・。
人生としても芸術家としても。

　う～ん、、でも逆に言うと、おなじような人生の苦しみを負い知的・精神的にも、またそれを反映する方法論も、不屈の強靱さとおどろくべき多角性を持っていましたけれど、、
作品をなりたたしめる資質的な、魂の位相として……は、、あくまで個我の尊厳（からの出発　と、への帰還；此岸）というよりは、結晶体（であること、となること；彼岸）に重きが置かれた、とも言えないでしょうか・・
資質的な、魂の構造は、モツァルトに、より「近い」のではないでしょうか、、
ちがいもあると思いますが。。（或いはバッハ？？）
　（ナチとの問題や時代性ということなしに、あの資質の芸術家が、不遇などはあっても、あのようなよい家庭環境・教育環境の下、それなりに平穏な人生を送ることがゆるされていたならば、）やはりめぐまれた両親のもとに育ち才能に恵まれたるものらしく、基本的にスマートな、ものの「簡潔性」を以てよしとする、ような処が…ありません？そうでなければ、まだ若かった　（それでも30～40代にはなってましたけれど）とはいえあのような内容の日記になるものかし　ら、と思うことが正直ありますが。
端的に言ってもし、ベートーヴェンならば、「まず個を全体へと解消する、」といった記述はありえない……と想うんですヨ。若かりし頃であろうと、（人生観とは別の、何か）芸術論――作品形成上のノート、としてであろうと・・。
#バッハには未だ、微妙なところがあるかも知れませんが。それでも彼の場合、自覚的・日常的レヴェル（信仰心とか教会・キリスト教の具体的教義のなか）での表現（言葉ないしその関係での創作）と、純粋に音楽としての表現・思想性；個我意識（含：無意識レベル）とは、かなり乖離のある場合があるかと想っています。

ベートーヴェンは資質的に彼（クレー）の好みより能弁だったかと思うのです。
能弁――個我の尊厳へと戻る（ここに於いて自と他、内なる平和と外なる平和の「一」をも獲得する）ぶん、ですネ。。

先に言ってきたことになぞらえれば、無（再生世界としての）ないし完全なる世界へと赴く、結晶体になろうとし、実際或る種の否定性を乗り越えて成っていくself、というのがクレー（の理念）だとしたら、そちらではなく、成ろうとしない、側――ならずに対峙したまま踏みとどまろう　とする、いわば超越から?の働きかけを拒否し、乗じることを許さない自我というもののもつ言い分を、（滅することによって肯われよ！との声に‘即さないからといってすぐさま断じる’のではなく、）むしろ死なないものの声^^;として聞こうとし、充分語らせようとする、という精神の位相が、大きかったのではないかと思うのですが＞ベトの場合。

それどころか、その（滅私せよ、と）働きかける声の主が「ほんとうに」超越（者）の声であるのかすら、吟味しようとする自己、というのか…。

そういうねばりづよいものをたえず持っていたとさえ言えるように思えるのです、
もちろん抵抗する自我の言い分が、いつも受け容れられるべきもの、とはかぎらず、ベートーヴェン自身だってそれをつねに許した（正当とした）訳ではけしてないはずでしょうけれども。　そこが、通常安易に「近代自我」と一緒くたにされるegoめいたものとは決定的に違う、精神の熟達した処なのだと思うのですけれどもネ。

しかしそれを自分自身の苦しみとともに、たえず吟味し場合によっては引き受けようとする精神の位相そのものは、クレー的な魂に較べ、度合いがヨリ大きかった、ような気はしてしまうのです・・。
権力にたいする怒りのおおきさ、とも言い換えられるかも知れませんが。

結晶体とは成り切らない自己の語る（or～に語らせる）その能弁さというのは、（少なくともベートーヴェンのような場合、）自分自身も勿論そうだろうけれども自分以外の、場合によっては自分以上に権力や世の中の不当な扱いにつぶされる不運な他者の自我とか人生、めぐまれたものたちのそれと一緒くたにされて、笑いとばせない人生、といったものが、「より十分に」　視野に入っていた――クレーにはそれが無かったとはけして言いませんが――、それが「自分の魂」の問題でもあったし、充分に語らせる、ことが出来てはじめて誰もが真の結晶体（＝よりまったき透明媒体；自由「自」在）として「完全なる」国（；無。しかしベートーヴェンの場合　もはや無即「有」ですね）に赴くことが出来る、と考えていたともいえないでしょうか。
　（内なる平和「＝」外なる平和の成就）

この辺は、吉田秀和さんなんかとも（あるいは）微妙に判断に違いの生じてくる処かも知れないとは、正直思っています・・

まぁ。好みの問題もありますし。。そういう私自身好みだけでいえば、クレーのほうが‘執拗さ’があまりなく、好きかもしれませんが^^;^^;
でもベトの精神の振り幅のひろさは、いずれにしても避けて通れないですネ・・

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