今回公表したものは、わたしが、1987年当時以降こんにちまで、状況の中でその折々に、或いは状況分析を試み、また或いは予測を行ってきたものだ。 そのうち、他でも書いているが、今でこそ「日本が他国の武力紛争に軍事的に関与し得る国家体制の確立に向けて動いている」、もっと端的に言えば、「戦争の時代」に入りつつあるという認識は、知識人や学者やジャーナリストたちにも急速に広まっているが、今から15年前の1987年当時は、事情は大きく異なっていた。 「これだけ繁栄した社会を壊すようなバカな事はしませんよ」「戦争の好きな人はいないでしょう」「平和憲法がありますから、戦争はできませんよ」「そういう右翼的・反動的なタカ派は、自民党でも、小沢さんたち一部の政治家でしょ? 小沢さんは嫌われていますよ。首相にはなれませんよ」「だいいち、マスコミが黙っていないでしょ。一斉に戦争反対のキャンペーンをはるでしょう」「国民も昔と違って情報や知識もあるし、賢くもなっていますから賛成なんかしませんよ」「特に今の若い人たちは、天皇や国家や政府などになんの権威も忠誠心も抱いていないから、仮に国家が戦争政策を取ろうとしても成立しませんよ」などなど……。 これらは、実は、その道ではかなり著名で有能と評価の高い学者や評論家や知識人やジャーナリストたちの言動だった。しかも、決して保守的な人たちではなく、どちらかと言えば革新的な立場にたつ人から根っからの左翼もいた。 そして、この点を特に強調したいのだが、わたしが危惧する、たとえばPKOへの自衛隊の派遣や、湾岸戦争での戦費拠出という形での「参戦」や、「盗聴法」、そして天皇という存在の超越化などの<戦時体制の確立>という観点からみたときに極めて大きな意味をもってくるこれらの様々な出来事は、「決して発生しない」と、彼らは断言したのだった! 歴史に「If」はないと言うが、もし彼らの状況認識がもっと早く適切なものになっていれば、こんにちの「反戦平和」の運動も大きく展開を異にしていただろう。 たぶんこれはご本人には届かなかったのだろうが、わたしは、土井たか子(当時社会党委員長)にも、拙誌「八ヶ岳高原だより」を贈呈し、土井さんのライフワークでもある「護憲平和」が危機的状態に瀕している、「今、あなたが立党を起こすことがラストチャンスになるだろう」とアピールしたこともあった。その他にも、日本有数の護憲派の憲法学者にも緊急アピールを送ったものの、完全無視であった。その人物は今、既存の社会運動の機関誌の中で、「憲法の危機・戦争の危機」を憂えてみせている。 ――ただ、この「戦争の時代」の問題については、まだわたしの警告を杞憂に過ぎないと反論ないし無視する人たちも多いはずだ。彼らの「現状容認」の意識観念論理の正当性――「反戦平和」の闘いの無効性――についての検証は、これから具体的に逐次行っていきたい。 また、「戦争の時代」の到来について、今はわたしと共通の認識をもつ人たちとの間にも、実は大きな乖離が存することも何度か口にしているが、この点についても、近いうちに、明確にしていきたいと思う。 今日は、とにかく、今少なくない人々が、時代状況を憂えている、憲法と平和と民主主義の問題について、わたしが既に15年前に危機感を抱き、多くの反体制知識人・学者・ジャーナリストたちにアピールを行っていたという事実、そしてほとんど無視されたか、上記のごとき反論を頂戴したという事実を記しておく。 2002’09/08 新晩鐘抄録より抜粋 |