愛と美と真実。自由と正義。平和と民主主義。

 ――たしかに、これらは、少年期よりこんにちまで、私の思考と行動を、根底から突き動かしてきた原理だ。意識の志向性を、いや、無意識の位相においても、私は、そこに向けてきた。
 むろん、聖人君子ではない私は、幾たびか過ちをおかしてきた。己の未熟さと弱さに、後悔の念に苛まれもする。
 私は、この七つのテーゼを、自らの人格と生活の上で成就したと自負する意識から語るべきではない。
 しかし、同時に、それゆえに己が絶えずこのテーゼを希求して生きてきた事実を語ることに躊躇すべきでもないだろう。今後もさらにその志を抱いて生き抜く決意であると語ることに怯むべきでもないだろう。

 私の人格と思想と行動の自己形成は、たしかに、愛・美・真実、自由・正義、平和・民主主義――これらの価値の具現化への希求と、これらの価値による絶え間ない検証とによって育まれてきたと言える。そう、それは、事実だ。
 私は、今一度、それと自己認識しよう。
 そして、この孤独な闘いを、晩鐘の時、挽歌の時に、最後まで貫く決意を、ここで新たにしたい――。


平和――。湾岸戦争以来、日本が再び国際的な武力紛争に軍事的に関与する国家体制の確立に向けて具体的かつ急速に動き出している。特に、例の2001年9月11日のニューヨークでの野蛮な自爆テロ以来、対テロを名目に掲げて戦争政策を邁進するブッシュ米大統領の指揮のもと、日本も、同盟国として「一体化」した動きをみせて明確な「参戦」に踏み込もうとしている。
 私は、純粋に思想としての理想の位相に於いてはともかく、現実世界の実態の位相に於いては、必ずしも、「絶対平和主義者」「護憲平和至上主義者」というわけではないのだが、しかし、その現実という位相に於いて、わが日本が行い進みつつある実態は、まさにその現実的で具体的な数々の過誤により完全否定せざるを得ず、「反戦平和」の闘いを挑まんと志すものである。

民主主義――。盗聴法、住基法、そしてメディア3法および有事立法の成立、さらに改憲は、まさに有事の際に、日本社会をファッショ的な体制下におき、国民の反戦平和の意志を根底から強制的に排除し、戦時色一色に染める恐れが大きい。それを絶対阻止しなければならないが、それはまた、反戦平和に於いても、民主主義による手段と方法で、国民的コンセンサスの形成を成就する闘いを挑むべきであろう。
愛――。現代社会において愛は不毛と化したのだろうか。こんにちの教育の崩壊は、結局のところ、愛の欠如を物語るものではないか。わたしは、愛の重要性と愛の本質を証したい。
美――。藝術の美とともに、自然・風景の美、環境の美を、わたしは求めたい。オゾン層の破壊、ダイオキシン、エルニーニョと、わたしたち人間は、地球を汚し、壊し続けている。今や事態は深刻だ。
真実――。南京大虐殺といい、従軍慰安婦といい、歴史の真実をねじ曲げようとする動きが無視できないものとなってきた。わたしは、真実を尊び、真実の前に頭を垂れることによってのみ、祖
国の救済と未来は成就することを強く訴えたい。
自由――。自由は何よりも、無自覚的にすりこまれた己の精神の内奥に存する偏見や固定観念や先入観などからの解放を成就するものでなければならない。
そしてわが内なる世界の自由と共に、外なる世界の自由をも成就するものでなければならない。また、自己の自由と他者の自由の調和を成就するものでなければならない。
正義――。この社会には、不当に差別され抑圧され虐げられている人々がいる。人間の尊厳をおかされている人々がいる。わたしは、そうした人々と連帯し、共に闘いたいと願う。


 以上、私が幼少の頃より或いは自覚的に或いは無自覚的に志向し希求してきた7つの大きなテーゼを掲げたが、私は、これらのテーゼを追求するに当たって、以下の点に留意したい。
 一つは、己がそのような思索を練り、行動を実践する際、教条主義や独善や独断に陥らないように心がけること。そのために、異論・反論にも謙虚に耳を傾け、あまつさえ「敵」の主張にも、首肯すべき点があれば、素直に受け入れ学ぼうと思う。
 また一つは、そうして己の認識と行動が一つの形を具現した場合に於いても、状況は常に動いている事実を忘れず、絶えず、己の思索と行動を客観的に自省し、修正が必要な場合は、速やかに自己変革を行おうと思う。
 そしてまた一つには、そうした思索と行動に於ける真理の探求に於いて、かつ人格形成に於いて、己自身、ある次元に到達したと確信し得た境地と瞬間が訪れた場合に於いて、それを以て、私自身の「求道的営み」の完成とするのではなく、その「観念・認識の世界」から、再び、「現実・具象の世界」に還元する歩みを行おうと思う。

 いずれにせよ、私は、次の言葉を、座右の銘にしたい。
 苦悩を突き抜けて、歓喜に至れ!――――。
             (ルートヴィッヒ・ヴァン・ベートーベン)