<八ヶ岳おろし> No.4


fffffffffffffffffffffffffffffffff「諌早湾干拓
     問題」

―― 干拓是非
   論争の前に

                                               津吹純平

 諫早湾の干拓の是非をめぐって論争が起きている。元々、農業対漁業の対立という、こんにちの日本においてどちらも保護されるべき第一次産業同士の対立という矛盾をはらんだ問題があったうえ、その農業振興の点でも、また後に加わった水害防止という防災の点でも、その有効性が専門家から疑問視されているようだ。見直し論が出るのも無理からぬところだろう。
 だが、今回の論争の発端は、そもそも、まるでギロチンを連想させる堤防板の落下・遮蔽によって、干潟が枯渇し、ムツゴロウやウニ・カニなどの魚介類が全滅しかかっている姿が報じられ、あまりにも酷いではないかとの声が上がったところにある。
 確かに、このような残酷な事態が干拓事業の結果生まれるのであれば、干拓そのものの是非を問うところまでその声が及ぶのも当然かもしれない。
  だが、ここで気を付けなければいけないのは、干拓の是非問題と生きものの死滅問題とは関連性があるものの、同一問題ではないという点だ。
 つまり、たとえ干拓が是であっても、あのような形で干潟に古来から生息している生きものを人間の都合によって死滅させていいのかということが問われるべきなのである。その観点から、酷い事態を一刻も早く停止することを求めたい。
 そうでないと――干拓是か非かに限定されてしまうと、行政にいったん始めた事業を停止させることは極めて困難なこと、また、一方で干拓を歓迎する人々もいるのが現状であること、さらに一般には、「自然保護派や動物愛護派の言うこともわかるけど、干拓には人間の暮らしがかかっているとすればそれも一概に否定できない」と考える人々が多数派であること、等々を考えると、よほどの事がない限り、干拓はこのまま強行されてしまい、結局、生きものの死滅は防ぎ得なくなってしまう恐れが出てくると思われるのである。
 ここは、事の原点に立ち戻って、とにかく、生きものを死滅させることの理不尽を強く指摘しておきたい。
 事は、緊急を要する。こうしている間にも、刻々と生きものは死滅しつつある。一刻も早い命の救済行動が必要である。
 干拓を是とする行政や農民も、無用な殺生は避けなければならぬことを認識すべきである。それが、己が命のためにやむを得ず自然界に手を加える人間の、せめてもの倫理であり、摂理というものではないか。


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