湧水日記:5月編


☆5月30日(土)――「新横綱誕生」

27日水曜日に、第66代横綱若乃花が誕生した。三度にわたる病気や大けが
を克服しての横綱だ。特に三度目の大腿部の大けがは、本人に引退も覚悟させ
たほどだったようだ。担当医も、横綱どころか大関の維持もむづかしいと思っ
たそうだ。そうしたぎりぎりまで追いつめられたところからの復活で勝ち得た
最高位。本人はもとより、言われなき非難中傷を浴びせかけられた美恵子夫人
(和田アキ子など、テレビ番組の中で、口をきわめて嘲笑していたが、究極的
には自分を素敵だと思ってほしいと売り込むところがある人気商売のタレント
でもない美恵子さんに対して、いったいどういう根拠をもって非難できるのか
。名誉毀損も甚だしい暴言だ)や、親子の情を抑制してきた親方ご夫妻らの喜
びも、心中察するにあまりある。ファンの一人として、心からおめでとうと言
いたい。
尤も、横綱昇進に関しては、12勝3敗という成績に難色を示す声もなくはな
かったようだが、とにかく、幕内力士の平均体重より30キロも少ない計量で
、連続優勝したことの意味は大きい。貴乃花や曙が14勝1敗で連続優勝する
にも等しい成績だ。それに、強靱な足腰と強烈なおっつけ、多彩な技とここぞ
という勝負勘の良さなど、すでに角界随一の実力だ。最終的には横綱審議委員
会や理事会などで満場一致となったというが、当然の事だろう。
ただ、皆が言っているように、横綱維持には不安があるのは事実だ。横綱とも
なれば常に優勝争いに絡むことが求められ、星勘定も12勝以上が求められる
。12勝は、大関では健闘を称えられる数字だが、横綱では責任を果たす最低
のラインだ。横綱になったことで、却って、土俵生活が短命に終わる不安もな
くはない。若乃花には、健康管理に万全を期して、より一層、若乃花の相撲を
成熟させてもらいたい。
とは言え、不幸にして、横綱が短命に終わることがあっても、ファンとしては
、この横綱昇進は率直に喜びたい。楽な大関の地位にあって、いつまでも彼の
相撲を見ていたいという思いはあるが、それ以上に、土俵入り姿を目にする喜
びは大きい。常に弟に先んじられてきたお兄ちゃんの晴れ姿は、やはり感動的
だ。もちろん横綱としての好成績も期待したいが、とにかく才能と努力が彼を
横綱という最高位にまで到達せしめたことを、心から喜び、また大いに評価し
たい。

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★5月29日(金)――「インド首相の詭弁」

パキスタンがやはり核実験を行なった。しかも数回だ。今後も数回に亘って行
なう予定だとのこと。その上、非常事態宣言を発して緊張が一気に高まってい
る。が、防衛大学の西脇助教授によれば、核開発のプロセスとして、まだ両国
には、生産と配備という二つの段階が残っており、これは膨大な資金と時間が
必要とのことなので、今回の両国の核実験で今すぐ核戦争の危険が生じたとい
うわけではないようだ。それに、イスラエルやイラン・イラクやリビアなどが
、ドミノ倒しのように核実験を行ない、核保有国が一気に広がるのではないか
との懸念に対しても、インド・パキスタンが核開発を行なっていることは既知
のことなので、刺激されて核実験に直ちに向かうということにはならないだろ
うとのことだ。それなら、一安心といったところだが、長期的にはどうなるの
か。いたずらに、すわ核戦争だと恐怖心を抱き、ヒステリックな対応をするこ
とも自制しなければならないが、核の抑止という段階から、核戦争勃発という
危険な段階へ、世界が動き出したことは否定できないのではないか。
それにしても、パキスタンの核実験のあと記者会見したインドの首相の「パキ
スタンはこういう国だから、わたしたちが核実験をしたことは正しかった」と
の発言は詭弁もいいところだ。もちろん、パキスタンの核実験も容認できるも
のではないが、初めに自分自身が核実験を強行しておいて、敵対国が対抗措置
として同じ事をやったら、その事を、自分自身の行為を正当化させる根拠とし
て示すというのは、とんでもない詭弁だ。まるで、先に相手の顔を殴っていて
、相手が殴り返したら、「ほら、相手は殴ってきたじゃないか。あいつはそう
いう奴なんだ。だから、俺が殴ったのは正しかった」と主張しているようなも
のだ。一国の首相ともあろう人物が、こんな詭弁を弄するというのも情けない
。が、そのような思考能力の人物によって、世界は、核戦争の危機を迎えてし
まったということを考えると、なんとも、やりきれない思いだ。

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☆5月21日(木)――「スハルト辞任」

スハルト大統領が辞任した。これで、フィリピンのマルコス元大統領失脚のあ
とひとり残っていた独裁者が政治の表舞台から姿を消したことなる。だが、こ
の辞任を額面どおり受け取ってもよいものかどうか。後任のハビビ新大統領は
、少年時代からスハルトの元で云わば弟子のようにして過ごしてきたという。
つまり、スハルトが辞任しても、スハルト体制の終焉になるのか、ということ
だ。日本でも田中角栄がロッキード事件で失脚したあとも、長い間、裏で最高
権力者として表舞台を支配したという事実がある。スハルトの思惑は、そんな
ところにあるのではないか。突然の辞任発表で、歓呼の声をあげた学生たちも
、冷静になるに従って、事態の意味を厳しく受け止め出しているようだ。早速
、ハビビ新大統領の即時退任を求める声があがり出したらしい。インドネシア
情勢は、まだ予断を許さない。

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★5月20日(水)――「責任の取り方」

インドネシアのスハルト大統領が辞任の意志を表明した。だが、その記者会見
で、「現在の混乱を収拾させることがわたしの責任だ」という主旨の発言をし
ている。建前どおりに受け取れば、自分で蒔いた種は自分で刈り取るという責
任の自覚とも言えるが、この種の発言をする指導者はしばしば自らの延命の口
実にしている場合が多い。少しでも長く権力の座にとどまりたい、あわよくば
更迭の危機を乗り越えたいという我欲がみえみえだ。そもそも、混乱は、スハ
ルトの失政と事態打開のための有効な施策の欠如とが発端になり、批判に対す
る強圧的な政治の断行が混乱を決定的にした。今や、経済問題の救済者として
、彼に期待し、信頼することが出来得ず、むしろ権力者として君臨することそ
れ自体が混乱の因となっている。混乱を収拾させるには、彼の即時辞任が最も
効果的なところにまで、事態は立ち至っている。そういう状況のなかで、混乱
の因の当事者が、その収拾のために座に固執するというのは、矛盾というほか
ない。たしかに、スハルトが言ったように、彼が辞任したからといって、イン
ドネシアが抱えている経済危機が即解決するというわけではないだろう。だが
、民衆は、権力者がこのまま居座ることの中に、問題解決の希望を見出し得な
いのだ。そのような民衆の期待と信頼を失った以上、潔く、身を引くべきだろ
う。ところで、これは、現在の日本にも当てはまる話ではないか。

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☆5月19日(火)――「サミット」

バーミンガム・サミットが閉幕した。今回は、日本の経済危機が主な主題とな
るはずだったが、インドの二度にわたる核実験、インドネシアの暴動と突発的
な出来事が発生したため、先送りという形になった。批判の矢面に立たされか
ねなかった橋本首相は、内心胸をなでおろしたところだろう。だが、もちろん
、各国の厳しい追及をひとまず免れ得たとしても、日本の深刻化する経済危機
そのものが解消したわけではない。今、日本は、首相の立場如何などと言って
いられる状況ではない。国際舞台の場で自国の危機と対策が論議されるという
のは不名誉なことだが、今やそんな格好をつけている場合でもない。いったい
、橋本首相以下政治家や官僚は、どれほど事態の深刻さを承知しているのか。
宮沢元首相なども、「今、消費税を3%に戻したら、橋本政権は倒れる」など
と、国民の不安よりもお家の事情のほうを気遣う的外れで無責任な言動をして
いる。一度事態を客観的な目で捉え直すことが必要だ。その意味でも、各国の
見方を知り、考え方を聞くのも大切ではないか。

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★5月16日(土)――「核保有大国の責任」

「九五年のNPT無期限延長のため、引き換え条件として核保有国は包括的核
実験禁止条約(CTBT)を提示した。それを誠実に守ることが核保有国の最
低限の責任であった。ところが、中国、フランスはNPT無期限延長が決まる
と、CTBT締結前の駆け込み実験を行った。米露は駆け込み実験に代わって
、臨界前核実験を平然と実施した。(高知新聞社説5月15日)」
先ずは核兵器の拡散を防ぎ、次には核のない世界に向かうべきところを、実態
は、上記のように、既存の核保有大国による核の独占と言わざるを得ないもの
となっている状況では、米国をはじめとした核保有大国の制裁も、論理的には
説得力をもたない。インドの核実験は、この核保有大国の独占支配に対する抗
議だとの見方をする専門家もいるそうだが、それは些か好意的見方に過ぎるの
ではないか。とはいえ、核保有大国の非が、インドの暴挙を抑止せしめ得なか
ったことは確かだろう。インドの核実験は、インドに猛省を促すことはもちろ
んだが、こうした国際社会の期待を裏切る核保有大国にも、改めて、自らの特
権の意味を自覚し、その責任を誠実に果たすことを、強く求めなければならな
いだろう。

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☆5月15日(金)――「ジャカルタの暴動」

インドネシアのジャカルタで暴動が起きている。人ごとではない。妹の東京女
子大時代のクワイヤの仲間の旧姓W.Tさんご夫妻がこの4月からご主人の仕
事の関係でジャカルタに赴任している。お子さんは日本人学校に通学している
。ニュースによれば、子供たちは学校で宿泊したり、家族はホテルに避難した
りしているという。心配だ。彼女は明るい性格だが、お子さんもいることだし
、さぞかし心労が重なっているだろう。早く事態が収拾に向かうことを祈るば
かりだ。
それにしても、暴動というのは、どうしてこう無秩序になるのか。反政府・反
スハルトは政治的経緯・社会的経緯から理解できるのだが、それが、どうして
、ショッピングセンターを放火したり、日本人の園児が乗っているスクールバ
スを投石したりといった暴挙になるのか。自分たちと同じ市民を殺傷すること
のどこに正当な根拠があるというのか。そのような暴挙は、為政者の強圧的な
報復を引き起こしかねないし、またそれを主観的に正当化させることになるだ
ろう。事の真相・事の善悪を不透明なものにしかねないこのような暴挙は、絶
対にやめるべきだ。

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★5月14日(木)――「核実験の背景」

インドの核実験は、たとえ中国を後ろ盾にしたパキスタンとの確執が原因の一
つとしてあるとしても、容認はできない。パキスタンの対抗措置も懸念される
し、結局は、インドとパキスタン両国が共に核保有国になって一触即発の危険
を孕むことになりかねない。パキスタンの後ろに中国がいるだけに、局地的な
紛争にとどまらない恐れさえあるだろう。事は、そうした現実的な危険を孕む
問題だ。それに、今回の暴挙は、自己防衛としての政策とばかりは言えないよ
うだ。そこには、インドの自身の超大国化への執拗な欲求があるようだ。異常
とも言えるほどのナショナリズムの台頭が近年顕著になってきている。それも
政府国家自身はもちろん、国民的レベルでも顕著になってきている。それが、
核保有国=超大国という図式を描くなかで、核実験を志向することにもなった
ようだ。第1回目の核実験の後の世論調査で、実に91%の人が支持を表明し
たという。

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☆5月13日(水)――「インドの核実験」

ゴールデンウィークの過激な労働の疲労と、緊急を要する諸々の所用・雑用が
重なり、ヘビーな思考が出来ない。今日も、時間に追われながら、山積した課
題をひとつひとつこなした。最初から継続して考察を続けている主題は、明日
以降に。――そこで、昨日・今日の世界の出来事の中から一つ。
インドの核実験。今日も世界中の非難のなかで強行した。確信犯だけに、自制
を求めてもムダだったというわけか。アメリカやニュージーランドは早速制裁
措置を講じるようだ。最大の経済援助国である日本も、なんらかの制裁に踏み
切るようだ。原爆などの核兵器は、武力攻撃をしかけてくる相手国の軍隊に対
してだけ向けられるのではなく、非戦闘員であるお年寄りや女性や子供たちま
で殺傷することを初めから意図しているだけに、まさに国家による大量殺人行
為だ。世界の反発を計算した上での政治的決断だろうが、そのインド政府には
、予想外のデメリットがもたらされることを教えるほかあるまい。

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