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蝶ヶ岳・大滝山・常念岳
オール自力登山日記

2002年8月20日〜21日


3月に松本市城山付近から撮った常念山脈
中央が常念岳、高い山の左端が大滝山
 北アルプスの中でも常念岳は松本平からひときわ大きく見える、日本百名山の一つです。また、その常念山脈の最南端にあたる大滝山は、私の住むアパートから望む事の出来る、乗鞍岳に次ぐ高い山です。この街に引っ越してから3年余の間、いつか登ってやろうと思ってました。それも、登山口までのアプローチは車ではなくチャリでという、オール自力で…。

 ついにその機会が訪れました。先月友人の誘いで木曽駒ヶ岳のキャンプ登山を経験させてもらい、具体的な計画が立てられるようになったのです。登山なんていけすかない趣味だとは思いますが、そこに山があるからしょうがない。すぐにでも実行したかったのですが、故障したコンロの修理部品を待ち、お盆や週末を避け、ついでに台風の通過を待っていたら、8月20日になってしまいました。いざ出撃。
 早朝、ザックを背負ってチャリで松本から安曇野に渡り、登山口を目指します。たかが700mUPなのですが荷物満載ゆえ、不安に思っていた以上にシンドイ。いきなり凄いカロリー燃焼率であることが、体温から伝わってきます。登山のための体力は残るのでしょうか。
 どうにか三股登山口の駐車場に到着。さあ休んではいられません登山開始。目指せコースタイムの半分!とばかりにまず蝶ヶ岳を目指して、1400mUPを急行します(さすがに「半分」は無理でしたが)。道中、買ったばかりのデジカメで写真を撮りまくりながら。しかしなかなか樹林帯を抜けず、ずーっと同じ様なうっそうとしたバカ登り。どんどん霧が深くなるし精神的にも効きます。だいたい、空から見れば山岳なんて地表上のシワに過ぎないのに、なぜ人は憧れ、苦労して登るのでしょう。しかも時々ゴミが落ちているのを見かける度に心が痛みます。でも私はそれを拾い歩くほどの善人ではありません。

穂高連峰 眼下は梓川の、上高地よりも上流
 お花畑を抜け、ガレ石の向こうに一気に槍穂連峰が浮かび上がってきた時は、そりゃあ興奮しました。こんなめくるめく感動は何年ぶりでしょう。登ってきた山稜の東側は深い霧でしたが、西側は完璧に晴れていたのです!静けき興奮のるつぼのうちに蝶ヶ岳ヒュッテに入城、設営料払って広場にテントを建てました。しばし新山頂(2677m)など付近をうろうろして景色を堪能します。眼下の梓川から物凄い高度差感をもって槍穂連峰がそびえています。所々に雪渓も残しています。「槍穂連峰」とは言いますが、大キレット(山脈が少し切れてる所)を境にして左に穂高連峰(前・奥・涸沢・北など)、右に槍ヶ岳連峰(南・中・大喰・槍)と分けて見る事もできます。まるでその二つの山塊が、規模や人気を競い合っているみたい。そんな3100m級が並ぶ威容を横一文字に、何も遮るものなく眺める事のできるここ蝶ヶ岳は、ひょっとして日本一の絶景ポイントなのではと思ってしまうほど。写真を撮り過ぎて、メモリーカードの残りが心配になってきました(以降、画像クオリティを落とすなどで節約を余儀なくする)。
 もう午後2時、ですが今日はもう一つ目標があります。ここから「憧れの」大滝山へピストンするのです。コースタイムで言えば往復3時間半。夕立はなさそうですが、人気のない細い道をとにかく急ぎます。軽荷になったので始めは飛ぶ様な勢い。「さーんげさんげ、六根清浄!(意味は知らん)」。そのうち疲れがぶり返して足が重くなりましたが。到着した大滝山頂(2615m)も人の気配はなく、鳥の声以外は無音の世界でした。霧で全く展望がないのが残念。「あそこが俺のアパートだぁ」とか言ってみたかったのに。帰りは日が少し暗くなっており、ますます焦ります。そこてズサァッと動物の動く音!熊だったらやばい。でも正体は子猿でした。驚かせおって。

北穂高岳に沈む夕日 左端に奥穂高、右端に槍
 無事明るいうちに蝶ヶ岳に戻り、炊飯してレトルトハヤシを夕食しました。いよいよ夕日タイム。テント場裏にある新山頂にて、そこにいる女の子らと話をしながら日の入りを待ちます。東側は相変わらずの霧でしたが、ブロッケン現象を体験する事ができました。北側は霧が消えてきて、明日登る常念岳が山容を現し始めています。西に視線を戻すと、まさに北穂高岳に太陽が沈むところでした。鳥肌モン!もちろん写真も撮ります。フィルムカメラのようなコストがかからないのをいいことに、感動を全てデジカメに収めようとしてるが、でもそれが登山の目的じゃないぞ。しっかり五感で感じろ!
 暗くなってからもう一度テントを出て、稜線を歩いてみました。期待通り東側の霧がとっぱらわれていて、街の灯りが見下ろせるではありませんか。あそこから登ってきたんだな。逆に穂高の方を見やると、涸沢あたりの小さな一点が輝いています。「山小屋のともしび」ってやつだね。
 テントに戻り就寝。が、なかなか寝付けません。とても寒い!足が凍りそうです。…やがて体が慣れたのか、眠る事ができました。なんでもこの夜は、向かいの北穂高岳では氷が張る程冷え込んだとか。一気に秋が来たようです。


雲海の御来光 堀金村落を眼下にして
 目覚ましの音で起きて、煙突状の通気口から外を見やると、雲海の上、絶好の御来光日和だ!寒さに震えながらカメラを持って新山頂へ。おお美ヶ原、蓼科山、八ヶ岳、富士山、甲斐駒ヶ岳、仙丈岳、木曽駒ヶ岳、御岳、乗鞍岳、霞沢岳、焼岳、穂高岳、槍ヶ岳、野口五郎岳、大天井岳、常念岳までほとんど全部見える!わずかに浅間山や北信の方が雲海の下なものの、来て良かったと思える、素晴らしい眺め。夜明け前の神秘的な黒い山容のパノラマでした。やがて東の雲海上の一点が明るさをどんどん増し、御来光。さあ一日が始まるぞ、と軽く手を合わせました。
 朝食後、余裕でテントを乾かしてからパッキングし、北へ向け縦走スタート。今日は何も急ぐ必要はない、コースタイム通りでいいでしょう。昨日無理した分疲れてますし、今日の不安は下山に集中しています。なにせヒザが弱いもんですから…。ヒザサポーター履きました。左手にはお馴染みとなった梓川と槍穂、正面は常念、右手は雲海の上に大滝山や鍋冠山がポッカリ浮いてるのが見える、ハイな気分の空中散歩。蝶ヶ岳付近独特の二重山稜(稜線がパックリ割れている)もなかなか規模があります。

完璧な槍ヶ岳連峰
 なだらかな蝶ヶ岳旧山頂を越えると、蝶槍という尖った山に登れます。槍ヶ岳気分が味わえてラッキー、超やっりー!…。しかしここからの景色こそ、一番の槍ヶ岳の眺めではないでしょうか。まさに真正面に遮るものなく、槍沢がまっすぐ手前に落ちてきていて、それがまるで槍の幹のようです。ちなみに、日本一長い川こと信濃川は、その長さ計算上の源流は梓川を経た槍沢とのことです。
 ここから樹林帯まで下りたりしながら、2、3、らくだのこぶのような山を越えると、いよいよ常念岳への岩稜登りにとっかかります。何か雲行きが怪しいんですけど。ともかく大小の岩を手も使ってよじ登っていきます。浮き石地帯まであって、たまに滑落者が出るんじゃないの?これが登山というものなのですね、想像してませんでした。特に私の靴は、以前バイトで原付を乗り回してた頃に「フットブレーキ」を多用したために裏がつるつるで、大変危険でした。そして、ついにあそこが山頂か、と思って登り着くとまださらに上が見える「ニセピーク」がいくつあったことか。さすが北アの百名山、容易には人を近付けません。今度こそ山頂発見!やっとだ〜。最大の憧れ常念岳(2857m)に登頂!だけど景色真っ白…。目をつむって、松本城を中心とした街を見下ろしてる気分になってみました。

霧に煙る常念岳山頂
 しばらく休んでから、霧雨のなか下山を開始しました。三角点のある前常念岳までは大したことなかったのですが、そこから先がまた岩稜の、急降下。「こんなのどうやって下りるんだ」と途方に暮れては仕方なく一歩進んでみる、の繰り返しです。これがまた延々と続く。まったく、下山というのは登山の壮大なる後始末です。「助けてドラえも〜ん!」と叫んだところで、タケコプターならぬヘリコプターが飛んで来たら、莫大な救助費用払えず破産してしまいます。
 もう一つ不安があります。昨日の登りから私とたびたび声を掛け合っている夫婦のことです。常念への登りでだいぶ難儀していたようで、結局山頂で待っていても追い付いて来ませんでした。私と同じルートで三股へ下りると言っていましたが、明るいうちに下山できるのでしょうか。だけど、さらに待ってみる義理まではなく、私だって明るいうちに松本へ帰宅したいので、先を急ぎます。
 やがてようやく樹林帯に入り、稜線下山もしばらくは楽になります。が廃道の分岐から、斜面のバカ下りが始まりました。ひたすら九十九折る土の道。遥か下の方の沢の音がほんの少しずつ近付いてきます。ヒザ痛も佳境。時々すってんころりんしながら、なつかしき三股まで下り切りました。「生きて帰って来たー!」足はもはや痙攣気味でした。
 あとはチャリでスイスイ下るだけじゃん。途中、安曇野蝶ヶ岳温泉「ほりで〜ゆ〜四季の里」に入浴して、露天風呂から山の方を見やって思いを馳せます。痛みにこらえてよく頑張った。道中急ぎ過ぎて、必要以上につらい思いをしてしまったでしょうか。
 山の上からの景色は良かったけど、里の景色も親しみがあってなかなかのもの、と思いながら安曇野を横断し、松本に着く頃にはすっかり暗くなってしまいました。ガッツポーズでアパートに完全無事帰着!積年の望みは叶いました。おつかれさまー。

 その後数日の間、体中の痛さに苦しんでますが、日記を書きながら思い出したり、112枚に及ぶ写真を見たりして、また震えるほどの良い経験でした。下界の悩みとか一切考えなかったようですし。これからは今までとは違った想いで北アルプスを見上げるのでしょう。でも登山という趣味に傾倒する気はありません。次なる旅は自分の原点たる自転車ツーリングだと、支度を開始するのでした。

→撮った写真112枚中26枚はこちら(拡大可)。
登山の雰囲気を味わいたい方、ぜひご覧下さい。


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