燧ヶ岳で尾瀬ヶ原をバックに自撮り

自転車キャンプツーリング記

南会津・尾瀬燧ヶ岳そして裏枝折峠へ

2016年8月11〜15日

日記

8/11(木) 四の五の言わずに会津下郷
北千住でスペーシア

福島県にある東北地方最高峰・燧ヶ岳登山をメインディッシュに計画と支度を調え、お盆休みの初日を迎えた。早朝の松本駅で輪行、6時8分ちょうどのあずさ2号で東京駅に下る。今回の旅は一応スマホを持参したが、原則として電源はOFFにしておく。それでも巨大広告の数々や、電光掲示板のニュースで誰某がオリンピック金メダルを獲得、とか目に入る。何て情報量の多い大都会、そしてひっきりなしに行き来する電車とやかましいアナウンス。

上野東京ラインを使って常磐線北千住駅へ。ここで憧れの東武特急スペーシア、きぬ109号に乗り換える(余談だが格安SIMスマホからだと予約ができず、旅行代理店で要手数料だった)。荒川を渡り環七、毛長川、外環、武蔵野線、ルーラルパークラインと次々に郊外線を突破していく。何の変哲もない埼玉県の景色に興味津々。車内ワゴン販売のコーヒーを飲みながら、車窓は利根川を渡り群馬県をかすめ栃木県入り。いよいよ山らしくなってきて、下今市を過ぎると単線区間へ。鬼怒川温泉駅が終点だ。廃墟マニアにはたまらない街だが、グッとこらえてAIZUマウントエクスプレスという気動車でさらに北へ向かう。新藤原から野岩鉄道(やがんてつどう)となる。野性的でゴツゴツした印象の名称だが、単に下野と岩代を結ぶ意味なのね。

誰も降りない会津下郷駅

山王トンネルで福島県入りすると、さっきまでの曇天から変わって絶好の晴天。路線は会津高原尾瀬口から会津鉄道となり、会津下郷駅で下車、自転車を組み立てる。ここは遥か21年前の11月下旬、太平洋と日本海を結ぶ予定だったサイクリング部の合宿で、自走を断念して輪行した所。今回はさらに山へ向かう計画だからあの続きという訳じゃないけれど、ここをスタートとする。あのとき救ってもらった、駅前の大坂屋という焼肉屋が懐かしいわ。昼の営業はないので、食事は近くのスーパーで買い食いにする。

で、予定としてはすぐ西へ向かい昭和村に泊まるつもりだった。しかし列車内で地図をみているうち、もっと俗々とした観光地を周遊したくなった。まず交通量の多い国道121号を北へ、「塔のへつり」に寄る。浸食された川岸が塔の形をしていくつも並んでいる、というものだが夏場はちょっと判りづらいかな。

大内宿、高台の撮影ポイントから

続いて県道329号のけっこうな渓谷坂を登り、広い谷に出た所が大内宿。茅葺屋根が並ぶ様は、信州の宿場町とは趣が異なる。暑いけど熱々の玉こんにゃくだけ食べて行く。ここからぐっと交通量が少ない県道131号「下野街道」を南下し、中山峠を越えて会津下郷駅に戻る。川向こうに「ふるさと公園」という新しい駅があるので、その公園の様子を伺うと、奥が無料のキャンプ場になっていた。これは穴場! 堂々のテント設営と米炊きである。他に誰もいない。

やがて暗くなってきて空を見上げてみるが、星の出はまだまだ。時々流星がスッと動く。真っ暗になる前にテントに篭り、まどろむ。だが簡単には眠らせてくれない事態に…。

AIZUマウントエクスプレス 会津下郷駅前の大坂屋 塔のへつり
8/12(金) ダイナミックだいくら
大川ふるさと公園の朝

福島県下郷町の大川ふるさと公園キャンプ場にて眠りかけた頃、高校生の男女6人位?がワイワイやってきた。テントの中から外の様子は見られず聞き耳を立てるしかないが、どうやら花火をおっぱじめるらしい。こういう安眠妨害は「キャンプあるある」だし、花火くらい好きに楽しくやってくれたらいい。ふしぎなピラミッドパワーによって護られた我がテントに、ロケット花火が命中することはないのだ。しかし気がかりなのは、炊事場に置いといたコッヘルが消火用バケツ代わりに使われてること。だいぶ経ってから2人位がテントに近づいてきて存在に気付き「ヤバい、人いたよ…」という反応だったが、ノリノリの仲間を止める程でもなく。果たして翌朝、コッヘルが綺麗に洗ってあったのは「せめてもの罪滅ぼし」だったのだろう。

公園に設置してある放射線モニタリングポストが朝7時に起動、0.070μSv/hを表示する。南会津地方なんて東京墨東よりマシだろうけど、やっぱり若干高いな。それを見届けてからサイクリング開始。阿賀川(大川)右岸、県道347号はいい感じ。会津長野駅付近はリンゴの産地とのことで、さすが長野だ。南会津町の中心街「田島」は南会津郡役所の洋風建築が残る。ここにも放射線モニタリングポストが。メーカーは相当儲けたろうな。

駒止峠付近

さらに国道289号を西へ、駒止峠(こまどとうげ)への登りに入ると4サイドのサイクリストとすれ違う。こちらはフロント2サイドだが、いずれにせよ絶滅危惧種である。道中所々、豪雨災害のツメ跡を見掛ける。あの、鬼怒川氾濫が大ニュースだった時の? 旧駒止峠への道もその影響で通行止だった。駒止湿原観光が出来ないとあっては、針生(はりゅう)の民宿街は商売上がったりだろう。仕方なく会津高原だいくらスキー場を左に見て、あっさりと駒止トンネルを抜け伊南(いな)地区へ下る。運動不足だから道の駅きらら289のソフトクリームは止めておこう。

県道351号を南下し、時間つぶしに久川城跡を散策。手頃な広さの台地に空堀や土塁といった遺構ががよく残っていて、城跡好きなら想像力を掻き立てられる所だ。どう攻める、どう守る。あてにしていたこたき食堂はお盆休みで、昼食はまたスーパーのパン。気温29℃ほど、伊南川の清流に沿って国道401・352号「沼田街道」を遡っていくと、屏風岩がちょっと面白い。

中土合公園展望台より

いよいよ、姓が3つしかないと云われる金持ち村、檜枝岐(ひのえまた)に入る。ここで天気予報を確認するため、やむを得ず「旅の害悪」スマホを起動。うん、問題ない。JAで2泊分の食料を買い込み、連泊としよう。駒の湯という温泉に入り、歌舞伎舞台などを見物しつつキリンテのオートキャンプ場地帯へ。その中で、設備が古くやや不人気な白樺キャンプ場を選択。他所だと自転車じゃ肩身が狭すぎるから、ここがいい。一応親切だし、オートと言っても一泊500円なら安い。時間があるので中土合公園まで戻り高台に登ると、展望所からは赤い屋根の並ぶ檜枝岐中心街が一望できる。夜の星空は…また真っ暗になる前に眠ってしまった。

旧南会津郡役所 久川城跡本丸土塁 伊南川屏風岩
8/13() 非の打ち所ない燧ヶ岳
目指すは燧ヶ岳

暗いうちに食事を済ませ午前5時、テント一式をキャンプ場に置いたままにして国道352号を西へ。朝焼けに燧ヶ岳がくっきり浮かぶ。今日はあの、東北地方の最高峰を目指すのだ。標高差500mアップのヒルクライム、橅坂というつづら折りを攻略して、尾瀬御池(みいけ)ロッジ前に自転車を駐める。トゥクリップのペダルにトレッキングシューズでサイクリングしているから、そのまま登山も問題ない。南へ歩いて行く。意外に急登だなーと呼吸を荒らげていると広沢田代、熊沢田代といった美しい湿原の木道歩きになったりして、メリハリが実に楽しい。お盆の尾瀬なんて超満混雑するんじゃないかと恐れていたが、この御池ルートはまばら。熊が出るほど閑散とはしておらず、丁度良い。

俎嵓から尾瀬沼

夏場の登山は朝早くのスピードが命。マックスパワー! 周囲の山はもう雲を被り始めているぞ。軽装備だしコースタイムの半分で三角点山頂の爼嵓(まないたぐら)に登頂する。尾瀬沼が眼下! はるかに日光の山々など、申し分のない雄大な景色にしばし見とれる。この山は噴火ピークがいくつかあり、西隣りの柴安嵓で東北最高の標高2356mを極める。広大な尾瀬湿原を見おろすならこちらが良い感じ。夏が来るたび思い出しそうな眺望だ。まだ8時過ぎだが、もうこの山にも雲が湧き始めてきた。

俎嵓に戻って南へ御池岳、ミノブチ岳と下っていく。下山路はナデッ窪ルートが短絡だが「急坂の難路で登り利用が望ましい」と地図に書いてあるので、ここは空気を読んで遠回りな長英新道を選択。人とすれ違う度に「まだけっこうあるか?」と聞かれる。けっこうありますよ。さて下山路はだんだんなだらかになるのは良いが、一合目標識から尾瀬沼に出るまでの距離が長くて堪える。すっかり脚力を使い果たしてしまった。昼食は袋入りカンパン。

三平下から尾瀬沼・燧ヶ岳

ここから尾瀬沼を左回りする。国内の歩道は左側通行であるべきと思うが、尾瀬の木道には右側通行という、日本人には気持ち悪いルールがある。ここは郷に入っては郷に従えだ。流出口である沼尻(ぬじり)平は休憩所が去年全焼したらしく、焼け跡っぽさが残る。とうてい消防車が来られる場所ではなく、消火活動は困難だったろう。トイレだけは復旧してたが、尾瀬はチップ制だしもうちょっと我慢しよう。付近は池塘群。

沼尻川を渡ると群馬県に入るから、心してゆけ。木道が半壊しており油断ならない。三平下で正午の休憩とトイレ。尾瀬沼越しの燧ヶ岳はだいぶ曇ってきた。北へ福島県に戻って、長蔵小屋前は湧き水が飲み放題、ありがたい。平野家の墓に寄り道しつつ大江湿原を貫く沼田街道の木道を行く。ここも尾瀬らしい風景のひとつ。名残惜しく、しかしいつの間にか沼山峠を越え、バス停に到着。

モーカケの滝

ここからの県道1号はバス専用路で、徒歩禁止。仮に歩くことができてもバスを選択したと思うが。車窓にブナの森を見おろし、御池ロッジ前で下車する。ミュージアムを見て、あとは自転車で楽々の下り坂。モーカケの滝は入口に広い駐車場があるけど、訪れる者は誰もいない。展望台から落差40mの滝を拝める。キャンプ場に“帰宅”し、時間と体力に余裕が出来たので檜枝岐の街に下り、燧の湯という掛け流しの温泉に入る。旅のメインディッシュを無事完遂した安堵と、明日の行程が一番キツイぞという不安を胸に。

熊沢田代(くまざわたしろ) 熊沢田代越しに会津駒ヶ岳 柴安嵓から尾瀬ヶ原
8/14() 奥只見湖をタダ見
奥只見湖遊覧船(完全予約制)

ここもまた名残惜しく、檜枝岐村キリンテで連泊した白樺キャンプ場を出撃。昨日は空荷の自転車で登った国道352号「橅坂」を、今日はフル装備で登っていく。これだけ空気が美味しいと、時々通るクルマは悪魔である。尾瀬御池を越えると「酷道」の趣で、熊が怖い。時々通るクルマは天使なのっ。

樹海ラインと呼ばれる超秘境の真っ只中、金泉橋で只見川を渡ると新潟県魚沼市に入る。国道なのに沢が路面を横切る「洗い越し」が無数に現れる。まさに酷道の証で、雨の後は大変だろうな。奥只見湖の南端に船着場があり、丁度船が来る時間なので、湖畔まで長い階段を降りてみる。Nice boat。天気は微妙だが、ここで十数名がバスに乗り換え尾瀬を目指すようで、「私も学生時代はランドナーで旅をしていたんだ」と声を掛けてくれる人もいた。

急峻すぎる湖岸道路

ここから地図では湖岸道路のように見えるが、実際には恋ノ岐乗越など3つの尾根を越える厳しい道のりである。ダムとしては日本2位の貯水量を誇る、深い谷あいの奥只見湖を見下ろしつつ、曲がりくねってなかなか直線距離は縮まらない。かつて一大鉱山街だったという銀山平に2軒の土産屋があり、新潟産コシヒカリモナカを買い食いして一休み。

枝折峠

またキツい登り坂に入り、阿賀野川水系から信濃川水系へ変わる分水嶺を越えてもうひと登りで枝折峠(しおりとうげ)に到達。越後三山などの山々は雲に隠れ気味だが、非常にダイナミックな景観を縫う道を下りていく。先週末に枝折峠ヒルクライムが行われたコースで、今日も練習している人の姿がある。元々今回の旅は、ここらへんのヒルクライムやロングライドイベントの報告をウェブ上で散見して、興味を持ったことからプランニングが始まった。どちらかと言えば尾瀬はそのついでだったのだ。

かつてあまりにも秘境すぎて境界が定まらず、銀鉱脈が発見されてから係争が起こった。枝折峠が境界であるという会津藩の訴えは退けられ、只見川左岸は高田藩のものになったと云う。尾瀬も現在の県境から察するに、だいぶ沼田藩に取られてしまったのかしら? 会津はよほど力(金銀)がなかったんだろうなあと想像しながら、ようやくの人里、いい感じにひなびた大湯温泉街に下りる。ここでキャンプが出来るなら、来年はヒルクライムに参加する?

道の駅ゆのたにのロンパンソフト

標高はだいぶ海面に近づき、平野部の暑さが襲う。道の駅ゆのたにで、ロンぱんソフトクリームを買い食い。ストイックだった昨日までとは一転して、すっかりスイーツ化。小出駅に到着すれば、予定の旅程は終了。ここから列車で帰っても良いが、米や燃料があと一泊分あるから、蛇足だけどあとちょっと走ろう。脳内プランでは南の群馬県へ線が引かれていたが、もうそこまでの気力はない。

三ヶ月前に亡くなった伯父が昔よく買ってきてくれた、小千谷ちぢみ煎餅という菓子がある。それが急に食べたくなった。交通量の多い国道17号を西へ、道の駅を伝いながら小千谷市に入る。あの水色の缶(近年は紙パッケージになったようだ)を求めて、土産屋やジャスコなど血眼になって探し回るがどうしても見つからない。仕方なく駅前の店で一番似ている煎餅を買いつつ聞いてみると、跡継ぎがいなくて休業されたんだそうな。諸行無常。

ここで日没コールド。高台の公園でゲリラキャンプとするが、寒かった昨日までと比べてかなり蒸し暑いし虫多い。ほぼ無線封止で4泊目、旅人らしい自分に着地してきた。

酷道352号、洗い越し 銀山平越しに越後三山中ノ岳 大湯温泉、枝折峠ヒルクライム会場
8/15(月) 終走記念日
千谷沢村

小千谷で迎えた最終日の朝。今日は自走で松本へ帰るか? 輪行の手間がなくて良いが、フル装備の自転車では長距離すぎてダルいな。そうだ、せっかく新潟県に来たんだから海へ行こうぜ。という訳で柏崎を目指すべく地図を調べてみると、途中に「千谷沢」という地名がある。これ、日本一有名な村だった「チャーザー村」のことではないか? ダムに沈んだはずでは…。

という訳でさっそく2km近い桜町トンネルを西へ抜け、現「長岡市小国町千谷沢」を訪れてみる。和菓子屋さんがあるし、バスは一日一本と言わず数本は来るようだ。しかし林家こん平の出生地である痕跡は一切ない。隣りの塚野山集落には三波春夫の銅像があり、ボタンを押すと東京五輪音頭などが聴ける仕組みだと言うのに。

柏崎番神岬

東側にあるもう一つの千谷沢集落から名無しの峠を越えると、道は今回の旅で初のダートに。越後広田から信越本線に沿って柏崎市の番神岬に到着すれば、会津下郷と日本海を結ぶ21年前の夢が静かに実現した。

温泉施設が開店する10時までまだ間があるので、蛇足の蛇足であるが日本海沿いに直江津まで走ってしまうことにした。電車賃も浮くし。しかし雲行きが怪しい。昨日まで好天に恵まれた旅だったが、あと8kmという所で土砂降りになってしまった。うう、濡れた自転車の輪行するのはブルーだなぁ。帰ってからいろいろ乾かしたり錆止めしたりする手間を考えると、柏崎で止めておくべきだった。終戦を遅らせると犠牲が大きくなるのよ、と反省する終戦記念日であった。

直江津駅からえちごトキめき鉄道としなの鉄道とJRを乗り継いで松本駅へ。こうして4泊5日、毎年恒例のお盆ツーリングとしては短めの旅程が終了した。限定使用とは言えスマホを携帯してしまったので、デジタルデトックスも半ば。けれど人気の山岳観光地も不人気の秘境も両方たっぷり味わえて、お得感溢れる道だったと思う。

千谷沢まつり準備中 越後広田のシャッターアート 小千谷ちぢみ煎餅の代替
南会津・尾瀬燧ヶ岳そして裏枝折峠マップ

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