むらよし旅日記・其の十六:中部北陸、夏盛り

ギタマン夏合宿と越後の海

8月19日〜8月24日

8月19日(火)ギタマン合宿の一日

 ツーリング中、一般大学生に比べれば早寝早起きだった。そのリズムが体についているので、今朝はみんなよりずいぶん早起きしてしまった。ペンションに備え付けの温泉で朝風呂させてもらう。
 朝食後はギターの基礎練習、パート練習など合宿風景に溶け込む。午後はミニレクとして自動車で峠を越え牧場まで行く。なんて楽なんだ。しかし牧場では子供のようにはしゃぎ遊んだので疲れた。
 夜はラウンジで『ドラえもん』やギタリスト・ジョンウイリアムズのビデオを鑑賞、いつしか眠ってしまった。

8月20日(水)ギターと自転車どっちが大切?

 今日もギター。しばらくご無沙汰だったっせいで指がすぐ痛くなる。ウデもだいぶ落ちている・・・。
 午後のミニレクは北竜湖だそうだ。約8キロ150mアップを、空荷の自転車なら楽に行けそうなので私はチャリで行かせてもらう。久々に自転車に乗ったような気がする。体のほうはいくらか回復してきたが、荷物乗せてのツーリングはまだできなさそう。さてレクのほうは、湖でボートに乗る者と湖岸をハイキングする者に別れ、ハイキング側の私らは投擲(とうてき)隊を結成、ボートピープルに石を投げて遊んでいた。ぶつけちゃった人、ごめん。
 夜は、約50日後に迫っている学園祭コンサートの合奏『ペールギュント』を合わせる。そういえば私は指揮・編曲者。実はまだ編曲が完了していないので、本当は自転車ツーリングなんかしている場合ではない。
 さらに夜が更けて、ラウンジでひとり物思い。なつかしいとかノスタルジックだとかってのは、昔から今にかけて失ったモノの大きさに対する悲しみの涙なんだね、とか、生きていくことのジレンマ、性格のジレンマ、我という人間の特殊性と無力感、自分に似た性格の人間は嫌いだ、・・・。結局この旅でも何も見つからないのか、あと一週間もしたらつくばへ帰らなくてはならない、・・・・・・。

8月21日(木)高原レクリエーション

 今日の午前中は部内発表会。私はソロで学園祭に出す予定の『レディマドンナ』を弾いたが、技量と練習量共に不足しており、およそ曲にならずボロボロだった。やっぱやめようかなあ。
 午後は大レクとして自動車とゴンドラで野沢温泉スキー場のかなり上のほう、やまびこ公園へ。プラスノースキーに興じる人もいたが、私は金欠のため眺めるのみ。しかしソリと輪投げはタダで楽しめたのでこちらに燃えた。
 ペンションでは短期バイトを募集している。合宿は明朝までだが、このまま残ってバイトしていくというのも金欠解消にいいかなと思った。しかも旅先で稼ぐなんて素敵すぎる話だぞ。よっしゃやってみるか。
 夜になりみんなで手持ち花火、そしてコンパ。全員大量の酒をくらい、場は大荒れに・・・。

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8月22日(金)山形へ向かっての旅立ち

 僕は今、日本海に沈む夕日を眺めながらインスタントコーヒーを飲んだりカップラーメンを食べたり、そしてこの日記を書いています。
 昨夜荒れに荒れたコンパ、私も相当荒れた。ケンカまでしてその敗北感に浸っているうちに嘔吐。そして意識を失った。やがて朝が訪れ、まだ気持ち悪いが風呂に入ったりして回復に努める。ペンションのトイレはみんなの嘔吐物で洪水を起こしていて、そんなみんなはまだ死屍累々としている。私はバイトをしていくつもりだったが、ここまでペンションを汚してしまってはとどまる訳にはいかない。ようやく生き返った仲間達と写真を撮って、逃げるように自転車で出発した。あっという間に過ぎ去った4泊5日間、別れがつらい。みんなと一緒につくばへ帰ろうかとも思ったが、しかし行かねばならないところがある。さようなら、また会おう。
 こうしてまた独り、体力・精神力との闘いの日々が始まる。つくづくサイクリングは地味なスポーツだと思う。ともかく体調が悪いので無理せずゆっくりと新潟県に入り、上越市高田。高田城の跡はハスの群生が見事だった。
 今日は同じ上越市内の直江津まで。早めに到着し海浜公園にテントを張って、ちょっとだけ海水浴を楽しむ。無料のシャワーがあるのもありがたい。やがて陽も沈んできた。

8月23日(土)海と共に

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越後七浦での1コマ
 昨夜は蒸し暑くてなかなか眠れなかった。さすが海抜ゼロ。今日はチョコチップパンをかじりながら日本海北上ルート。強い追い風も受け、気分はシーサイドライナーだ(なんじゃそりゃ)。海水浴場を左に眺めながら、平坦な道をどんどんと行く。出雲崎というところにはまた“古い街並”、もうだいぶ飽きた。さらに行くと原始的な断崖が海に落ちる越後七浦、まるで知床のような絶景である。ここらへんで海の向こうに佐渡島を、うっすらとだが確認することが出来た。
 こうして120キロほど走ると今日の目的地、新潟市へ。防砂林の中の、坂口安吾記念碑の前に丁度いい芝地があるので、ここにテントを設営。そして海パンはいて海へ。疲れているのに、長々と海水浴を楽しんでしまった。
 明日は山形県に入ることが出来るかな?

8月24日(日)坂口安吾の碑の前で

 やばい・・・、またも夏バテをひどくしたようなだるさが。まっすぐ歩くのもままならず、精神的にもDr.ペッパーを浴びるように飲みたくなる末期症状。もう私は帰るべきなのだろうか、でも山形へ向かうという旅の目標は? 体調に従うか、意志で切り抜けるか? 坂口安吾の碑の前で葛藤する。
 どうにも決まらないので、とりあえずふらふらと新潟駅へ。クーラーのかかった待合室でTVチャンピオンを見ながら、意は決した。「帰ろう」・・・。本当にいいのか? しかしあれほど帰りたくなかったはずの“現実”に帰ることを、ここまで体が要求しているのだ。ぼろぼろの肉体に意志の力が勝てないのはくやしい。これからは自分自身が意志以外のものに流されることを、ある程度容認して生きていくことになるだろう。
 東京方面に向かう列車の中で、呆然として過ぎ行く景色を眺める。そうだ、もうサイクリングを続けるだけの気力体力は全て燃え尽きたんだ。もうあの状態でキャンピングを続けるだけの精神力は残っていなかったんだ。私の夏は、もう終ったんだ・・・。
 そしてつくばに着いたのは夜10時、「とにかく」生きて帰ってきたのだった。

 こうして30日間総計距離約1700キロ、アップ16000mの旅は敗北の形で幕を閉じた。しかしこの旅で得た数多の経験は、きっとこれから生きてゆく糧として、価値あるものになってゆくのだろう。そして今回行き損ねた戸隠高原や山形方面もまた今度、気力が復活してきたら行くことにすればいいさ。それまでは静かに休ませておくれよ・・・。

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