むらよし旅日記・其の十六:中部北陸、夏盛り

信州を極める(後編)

8月14日〜8月18日

8月14日(木)ゆっくり走ろう木曽路

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朝の妻籠宿
 朝走っていると途中、他のサイクリストに追い付かれた。「29歳」、共に妻籠宿(つまごじゅく)を観光することに。ここも古い街並がウリの観光地で、店に入ったり写真を撮ったりとゆっくりする。私は「ゆっくり走ろう木曽路」のステッカーを自転車につけたり、フロントバッグにさるっこ人形をくくりつけたりした。そして別れた。
 ここら辺で、サイクリストの悩み股痛がひどくなってきた。ハンドルを支える手首も痛い。大丈夫かいな。やばいけどがまんで東へ、大平峠を越えた。大平宿はすでに廃村になっており、有志の手で保存されているとはいえ何とも寂しいものだ。ここからダートの林道で無名の峠へ。峠のトンネルを越えるとオッサンたちがバーベキューをしていて、コーラを飲ませてくれた。
 飯田市街に下りて今度は天竜川沿いに南下する。風呂は『いいだ温泉湯里湖』の露天風呂で。全国の「ゆり子さん」は入浴タダらしいよ。そして下條村に入ると、いきなりでっかい看板。テレビで見慣れた顔と「ようこそ下條村へ ここは峰竜太のふるさとです。」これには笑えた。それが村唯一の誇りなのか? まあともかくこの村にマイナーな城跡の公園を発見し、そこに設営させてもらうことにした。やっぱり夜になると怖いが。

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8月15日(金)自転車旅行へのあこがれ

 まさかの大雨、ある程度小康状態になるのを待って出発。天竜川沿いにひたすら海を目指すぞ。じきに雨は止んだ。県道1号線は交通量が非常に少なく、上流に諏訪盆地や伊那盆地といった広い盆地があるとは思えないほど山深い。アップダウンはあるが気持ち良く走れる道で、どこまでも続く山深い谷はしかし股と足にひびく。
 愛知県もわずかに通過し、静岡県に入ってやっとの思いで平野部との境、天竜市に。ここでコインランドリーしたあと、山間部に別れを告げ平野部へ。天竜川土手道に入るといよいよ目的の海が近くなる。今日の景色の展開は感動的だ。
 かくして夕日が沈むころ河口へ。メッチャ大変だったなあ。砂浜に降りて太平洋に触り、チャリのところへ戻ると、上半身裸の兄弟3人とそのオヤジが待ち構えていた。もうすぐ中学校という長男が自転車の旅に憧れているらしく、一緒に写真に撮られたりした。まるでアイドルだな、悪い気はしない。
 今夜はJR浜松駅で駅寝しよう、明日は輪行だし。む、どうやら台風が来てるって? それてくれ! とりあえず私は駅の脇で銀マット敷いて、まるでコジキのように・・・。そういえば今日は終戦記念日。毎年は高校野球を見ながら正午に黙祷するのが恒例だったが、今年はやり損ねた。

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8月16日(土)魑魅魍魎百鬼夜行

 しかし浜松駅前は物騒なので、夜行快速にでも乗ってしまうことにした。まず東京行きに乗り込むが、囚人列車のごとく混んでいた。静岡でUターンして大垣行きに乗り換えるつもりだったが、こちらも混んでいたので、そのまま静岡駅ホームのベンチで眠り始発を待つ。何やってんだろう。
 東海道本線から名古屋経由、中央“西”線へ乗り継ぎ、途中車窓に『寝覚の床』を眺めつつ、たどり着いたのは長野県の北西に位置する大町市。安曇野を走りたいと思ってやってきた。ここから南下すれば緩い下り坂を快走。水がきれいでいいトコだ住みたいななんて考えていて、いざワサビ田に寄ってみるとすごい観光客の数。あとは道祖神も多く見かけることができるのも安曇野の特色であった。
 やがて老後の最有力候補地、松本市に到着。テントを設営できそうな場所を探しつつ浅間温泉に入浴、さらに探すがこれといって見つからないまま、途方にくれて松本駅へ。ここで駅寝ってもの考えたが、どうして大きな駅って夜になると魑魅魍魎(チミモウリョウ)、百鬼夜行なんだろう。マクドナルドで晩飯を食べて、今度はキャンプダメと思われていた松本城へ。あっ、すでに2つのテントが立てられている! しめた同類がいれば心強い、私もとなりに張らせていただく。
 松本城では盆踊りをやっていて、眺めているとノスタルジックな気分に。しかも将来、ここ松本が永住の地になるかもと思うとさらに感傷的に・・・。

8月17日(日)自転車で登れる百名山

 寝不足がたたって朝8時まで爆睡、公園の管理人に追い払われるように出発。どうやら台風はそれたらしい。今日は登るぞ! 目標は中信の大高原、美ヶ原だ。まずは松本から東へ扉峠を登る。長くてきつーい道、時々休んでいるとマイカーの人が「まあよく自転車で・・・」と声をかけてくれる。励まされると頑張る気にもなる。

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標高約2000m美ヶ原『美しの塔』
 扉峠から先は有料道路のビーナスラインを北へ、最後の激坂を制し命からがら、今日1500mはアップして美ヶ原に着いた。ガクガクの足のまま散策モードに入る。天気のいい美ヶ原は期待していたよりもずっと広い平原で、牛や馬なんかもいるし、人は多いけれども「一生に一度は」と思える所。定番の高原牛乳やソフトクリームも疲れを癒すようにいだだく。しかし2時間も歩き回ったので足はよけい疲れた。やばい。
 再び自転車にまたがり、美ヶ原美術館は無視して北へ向け山を下りる。標高が高いのでもろに体が冷えるが、下り終る頃にはまた暖かくなった。新幹線駅がもうすぐ開業する上田駅を通過し、すっかり暗くなるころ上山田温泉街に。街中の公園に設営してから共同浴場を探すがなぜか見つからず、千曲川の向こうの万葉温泉に入る。今日はよく走ったなあ、麦草峠以来の無茶だ。
 テントに戻りスパゲティーをゆでていると、フィリピンぽい女性が「寒くないの」と話しかけてきた。温泉街の商売女だろうか。そのうち消えていった。
 ところで個人ランの場合“その場で後戻り”という選択肢が常につきまとう。特に峠の登りなんかは精神的にかなりつらい。だから「がんばれ!」と言われると嬉しいんだね。
 あしたはいよいよギター・マンドリン部(以下ギタマン)合宿への合流日だ。

8月18日(月)ギターとの再会

 どんなにかこの日を指折り待ったことだろう、やっとギタマンのみんなに会える、やっと宿の心配もなく休める! でも今日はその前に戸隠高原に登って蕎麦を食べよう。そうすれば信州の観光ポイントを、自転車で行ける範囲でならほぼ行き尽くしたことになるのだ(まあ厳密にはまだまだ残っているけど)。

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千曲川左岸自転車道、 fine!
 千曲川の土手にある自転車道を北へ。イメージ通りの快走路、こーゆー道は大好きなのだ。やがて更埴市を経て長野市内、松代へ。松代といえば旧日本軍大本営(未完成)だが、その跡は長い坂の上のほうにあるらしいので諦める。梅津城跡だけ見学。何やら工事中であったが、天守閣を復元させるのかな。さらに近くには川中島古戦場跡、自分の先祖が戦ったことで感慨深い場所だ。もちろん私は上杉側ではなく武田側のファンである。
 ここへ来て、体が異様にだるい事に気付いた。えー、何か体が変だよお? どうやら昨日の激走がたたってもうダメらしい。とてもくやしいが戸隠高原は諦めることにした。うーん、ここまで疲労を蓄積させたのは生まれて初めてである・・・。そういえば2年前の夏も戸隠高原へ行こうとして、結局あきためたんだっけな。鬼門か? 「信州を極める」ことが出来なくて残念だが、仕方ない、次の機会に…。
 そうと決まればゆっくりしよう。善光寺にお参りしたあとマクドでうだうだ。たっぷり休んでまた北へ向け出発、このまま平地ルートでギタマン合宿地の戸狩へ向かう。しかしすぐに苦しくなって意識まで遠くなってきた。
 倒れ込むようにりんご直売店に自転車を止めた。ふじりんごが2個で100円。しかし「なんだ、チャリで来てんのか、じゃあ金はいい」と店のオッサン。それでもお金を払ったら、もう1個りんごをくれた。さらに店で食べていると会話が始まりもう1個食わせてくれて、「一昨年もこの店でりんご買っていったんですよ」(本当の話)と言うと、帰り際に桃まで2個おまけしてくれた。100円でりんご4個と桃2個とは“おいしい”思いだ。「車にだきゃあ気をつけろよ!」はい、そうします。
 こうして命からがら戸狩のペンションに到着。ギタマンの面々とも再会を果たした。肝心のマイ・クラシックギターも事前に自動車で来る人に預けてあったので、さっそく受け取り弾いてみる。ああ一ヵ月ぶりのギターだ!! 気持ちいい! 指が痛い!
 体のほうはしばらくダメ、走れそうにない。4泊するギタマン合宿中にゆっくり養生させてもらおう。


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