background: 3/9撮影『伊根の舟屋集落』
目標達成への最後の旅…南へ。
日本は計47の都道府県に分かれている。旅人たちの目標の一つに、その全てを回るというのがある。国内旅行をする者にとって、それが一番分かりやすいステータスだからだろう。私もいつしかそれを目指して自転車ツーリングを繰り返してきた。ただ全てを回るのではなく、走った道のほどんどを繋げつつ。そして、筑波大学サイクリング部に在籍して4年、いよいよ残り4県というところまで来た。… |
3月6日(土)ラストツアー〜全都道府県制覇に向けて〜
旅に出てしまうと、しばらく愛用のクラシックギターを弾けなくなってしまう。だから旅立ち前に、時間の許す限りギターを弾く。またどこかのユースホステルに、ギターが置いてあるといいな。
つくば名物『ランランのBIG丼』を食べ納めする。食べ応えは相変わらず流石である。ツーリング前のこの“ランラン納め”は恒例であるが、今度こそ、以降いただく機会がなくなってしまうかも知れないから、よく噛み締めるのだ。
夜9時を越え、すでに列車に載せて“輪行”するために分解・袋詰めしてある自転車ごと、自動車で友人H瀬に駅まで送ってもらった。もう、つくばでのだらだらとした日常に別れを告げなくてはならない。この旅から帰ったら、すぐにアパート引越し、そして独立生活のための職探しをしなくてはならないからだ。
彼に礼を言い、青春18きっぷを使ってJR常磐線に乗り込んだ。そうか、オレ、旅にいままさに出るところなんだ。うっかり無自覚なまま始まって、そして終わってしまいそうだ。
東京駅で、西への旅の定石といえる夜行快速列車『ムーンライトながら(全席指定)』に乗り換え。
きっと、楽しくなるよ…。
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3月7日(日)雨の原発街道
やはり夜行列車では眠り足りない。しかも朝から車窓は小雨模様で、ややブルーな心境だ。「また雨かよぉ。」前ラン初日は雨が降る、というのがジンクスになってしまっている。
米原駅で北陸本線に乗り換え、午前9時に旅の出発地、福井県敦賀駅に着いた。合宿前の個人ラン“前ラン”は、海沿いに若狭湾沿岸、そして丹後半島を走る予定だ。このマイナーっぽい地域に旅情を求めて。
自転車を組み立て、テントや調理具など家財道具を積んだ“フル装備”でいよいよ出撃する。敦賀といえば気比の松原。日本の白砂青松100選にして日本三大松原にも数えられる名所。だがこの天気では風情は今一つである。ともかく日本海の海水には触っておこう。
雪が少し残る敦賀半島馬骨峠を越え、原発も眺めつつ岸沿いに西へ。地図を見ると、あの『もんじゅ』も近くにある。若狭湾岸はそのリアス式の地形、人口の少なさ、そして大都市への距離の都合からか、日本一の原発街道なのだ。まさかメルトダウンは起こすまい?
普通に走っているつもりだが、体力が落ちているのか、なかなか目的地が近付かない気分だ。複雑な地形が不思議と湖沼群を造っている三方五湖では、その複雑さゆえ方向感覚を失い、少し迷ってしまった。空が晴れていないと、美しいはずの湖も鉛色になってしまうのは残念。雨足は強くなったり弱くなったり、その度に一喜一憂。しかし雨をはじくように大声で歌を歌いまくるのは好き。曲はやっぱりブルーハーツやハイロウズがバッチリだ。
小浜市で昼食予定だったが、このペースではとても無理だ。美方町のスーパーでパンを買い食いし、そのままベンチでうとうと、うつ伏せになって半睡。しばらくすると店のオバチャンが「どこかエライの!?」とびっくりして声をかけてきた。いかんいかん、また出撃しなくては。
今日中に東舞鶴まで、という予定は大幅に下方修正。無謀な計画を実行できる脚力は、もはやなくなってしまっているみたいだ。これでは予定通り二日間で丹後半島まで走り切る、というのも出来ない。葛藤の末、三日かければよい、ということにした。合宿前に四国も少し走っておきたかったが、それは諦める事にした。まぁ、先は長い。無理はせんとこ。
夕方にようやく小浜に到着し、屋根付きステージのある小公園を見つけた。これで夜の雨をしのげるぞ。でも明るいうちからオン・ステージは恥ずかしい。公園の東屋で炊事・食事をして、暗くなるのを待ってからステージ下にテントを設営する。キャンプ生活が始まった。それにしても久々のソロキャンプ自炊は、御飯もオカズ(炒めもの)も上手に出来ず、美味しくなかった。夜7時に就寝。
幸先は良くないけど、大丈夫、大丈夫…。
3月8日(月)念仏峠ノ呪イ
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どんな苦難も、きっと決してムダではない貴重な経験になってゆくと、いいな。
3月9日(火)近畿最北の果てにて
こういう公園キャンプは、警察と悪人の両方が敵だから、あまり安心できない。だから無事朝を迎えられるとホッとする。田辺城跡を少し散歩。今日も曇天だ。
念仏峠、今度は知りうる限りの念仏を唱えながら越えてみる。「ナンミョーホウレンゲーキョー」「ナムアミダブツ」「オダブツダブツ」「ハンニャーハーラー」……(それだけかい)、よっしゃ、パンク無しで通れたぞ。
宮津市の智恩寺でおみくじを引いたら久々に大吉が出た。そこから京都府の日本海側を代表する名所、というより日本を代表する日本三景『天橋立』の砂州を、文字どおり橋代わりにして渡り、丹後半島へ至る。海岸沿いに半島をぐるっと回るのだ。すると今回の旅で初めて、自分以外の“チャリダー”とすれ違った。こんな時期に日本海側を旅するチャリダーなんて滅多にいないものだ。
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雲の切れ間に星が見えるようになっていた。明日からこそは晴れてほしい。
3月10日(水)東中国ローカル線の旅☆夢気分
せまいベンチは寝心地が悪く、しかも猛烈に寒かった。そのまま眠るのは諦め、あたたかい缶茶を買い飲みし、少々面倒ながらシュラフ(寝袋)を広げて寝る。今度はだいぶ寝心地が良くなった。…
…目覚まし時計鳴らねぇし! 予定時間ギリギリに目が覚めた。早朝の列車に飛び乗る。間一髪間に合ったのは、ある意味奇蹟だ。外はまだ暗い。
今日は四国で行う合宿の集合日。列車輪行で向かうのだが、ここからならけっこうマニアックな路線を辿ることができる。まずは山陰本線、もちろん電車なんかではなく気動車である。夜明け前の日本海に、漁り火がいくつか浮かんでいるのが良い。乗客は少なく、「鎧」や「余部」などの駅の風情がたまらない。ぼちぼち鳥取市に向かう学生が乗り込んできた。
鳥取駅からはさらにマイナーな因美線に乗り換える。因幡と美作を結ぶから因美線。うっかり途中で眠ってしまったが、乗り継ぎの智頭駅直前で目が覚めるから不思議だ。単行(1両編成)汽車で岡山県津山市に入ると、H瀬が実家からの通学に使っていたという美作滝尾駅にも停車。おー、これがか。親友の出身地ということで、一目見ておきたかったのだ。『男はつらいよ』シリーズ最終作の舞台にもなったこの駅は、やはりファン好みである。
津山線、瀬戸大橋線と順調に乗り換えていき、昼には四国上陸、坂出駅に着いた。次の列車まで時間があるので、ここで讃岐うどんを食べる。気のいい店のおばちゃんがミニみかん3コくれた。うれしい。
予讃線を乗り継ぎ、愛媛県の瀬戸内海側、伊予西条駅に到着。愛媛県に足を踏み入れるのは生まれて初めてだ。合宿はここから。連中が来るまで時間がまだあるので、町チャリ屋で新品のママチャリタイヤに履き替えた。出費がちょっぴり痛いが、もうタイヤが限界だったから仕方ない。そろそろ集合時間なので、再び駅へ向かった。
ひつこいようだが、私は鉄道マニアなんかではなく、鉄道ファンである。