動物お助け活動について Part 2

Nさん宅の場合 1

Nさんご一家は駅前で時計や貴金属、メガネを扱うお店を営んでおり、特にメガネは私が子供の頃からお世話になっているので長いお付き合いがあります。2001年の6月頃、突然腕時計の動きがおかしくなってしまったのでこのお店へ相談に行った時のことです。用事が済んだので帰ろうとすると、奥さんが 「猫がお好きなんですよね?」 と話しかけてきました。確か、以前別の用事でお店に行った時に、猫をデザインした指輪が欲しいというような話をしたことを覚えていたのだと思います。「大好きですよ〜」 と答えると、「裏に産まれたばかりのかわいい子猫がいるんですけど、見ていきませんか?」 と言われました。当時まだ七奈ちゃんはいなかったので、間近で子猫を見るのは久しぶりだったため、二つ返事で見せていただくことにしました。

店の裏側にある勝手口を出るとそこには小さな段ボール箱が置かれており、その中にキジトラの母猫とキジトラや白黒の子猫が5匹ほど入っていました。奥さんは無造作に段ボールに手を入れると、その中の子猫を一匹出して見せてくれました。(普通、子猫を産んだばかりの母猫は警戒心が強く、人間、特に私のような見知らぬ人間が近づくと威嚇すると思っていたので、ちょっとびっくりしました。) 子猫はかなり栄養状態も良く、元気にみゅうみゅうと鳴いていました。キジトラの母猫はお兄ちゃんと良く似たかわいい子で、その子猫ならお兄ちゃん2世になれるかな?などとちょっと心が揺れたりもしました。しかし、母親から 「絶対これ以上猫を増やしてはいけない」 ときつく言われていたので、そこは心を鬼にして子猫を箱の中に戻しました。そして店の中に戻ったところで奥さんが事情を話し始めました。

その店の界隈には一匹のメスの野良猫が何年か住んでおり、毎年春と秋に子猫を産みました。しかし、駅前の車通りの多い、小さな店が建ち並ぶ商店街の一角を縄張りにしていたため、子育てはいつも壊れかかった物置小屋の屋根の上で、それもほとんどの子猫は交通事故に遭ったりうまく育たなかったりで、大人になるまで生き残ることができたのは運良く近所の方に拾ってもらった子しかいなかったそうです。そんな様子を見かねて、2000年の秋に生まれた子猫にご飯を与え始めたのがきっかけでした。その時も4、5匹の子猫が産まれ、2匹は事故などで死んでしまい、1匹は弱って動けなくなっていたところを運良く近所のお店のご主人が拾ってくれました。残った2匹の子猫 (キジトラのトラちゃんと黒猫のクロちゃん) が頻繁に店にやってくるようになったので、見るに見かねてご飯を与え始め、冬にはお父さんが店の裏に寒さをしのぐための段ボールも置いてくれました。

そうして無事2匹の子猫は冬を越し、春になりました。ある日ふと気付くと、トラちゃんが何だか体型がふっくらとしてきて前より太ったようです。もしや?と思うままに日が過ぎてしまったある日、裏の段ボールの小屋の中に子猫が産まれていました。しかも、クロちゃんもだんだんと体型がふっくらとしてきたようです。そして、このままクロちゃんが5匹も子猫を産んだら、どうにも収拾がつかなくなってしまうと奥さんは嘆いていました。

そこで、私は微力ではありますが優しいNさんご一家に何かご協力できればと思い、腰をすえて話を聞くことにしました。私はまずNさんに、ご飯を与えているということはその猫についての責任を負ったと同じである事、そして猫たちの避妊手術は避けられないことをお話しました。なぜなら、可哀想だからとご飯だけあげても避妊手術をしなければ子猫が育ちにくい環境にあるとは言え、不幸な子がどんどん増えていってしまうことは間違いないからです。Nさんはその点は十分に承知されているようで、避妊手術をすることにはすぐに同意してくださいました。そこで次に、Nさんご一家がこれから猫たちをどうして行くつもりなのか、その点をお聞きしました。すると、それまでずっと外にいた子たちだから、避妊手術を済ませたら猫たちはまた店の看板猫として外で面倒を見ていくこと、そして子猫たちには里親を見つけるつもりであることを話して下さいました。

そこまでお聞きして、私はできる限りの協力をしようと心に決めました。それまでNさんご一家は商売をされていることもあり自宅でも動物を飼った事は無かったようですが、偶然出会ってしまった猫にこれだけの時間とお金をかけて面倒を見ようという意志を持ってくださるのは、本当に素晴らしいことだと思ったからです。

そこで次にNさんとこれからの日程を考える事にしました。まず一番問題なのはクロちゃんの避妊です。体型がふっくらしてきたということはおそらく明らかに妊娠しているはずです。しかし、これ以上子猫が産まれるのは困るとおっしゃるので、それではすぐに堕胎手術をしなければならないとお話しました。もちろん、喜んでのことではありません。誰だって、しかも女性であればなおさら、そんな残酷なことをしたくはないでしょう。しかし現実問題、今いる5匹の子猫の里親を探し、その上もしまた5匹も産まれてしまったら、全部の子にそれなりの里親を見つける自信はやはり無いでしょう。(これが私みたいな優柔不断な人間だったら、おそらく全部手元に残してしまうと思うし…。) というわけで、私がいつもお世話になっている近所のS病院に早急に連絡を取るようにお奨めし (比較的空いていて融通が利くので) 事情を話して堕胎手術をしてもらうことにしました。

それと同時にトラちゃんと子猫をすぐに保護して、安全な場所に移すようにお話しました。母猫は子猫を危険から守るため、定期的に子猫を連れて引越しする習性があります。今ならすぐ裏の段ボール箱にいるのですから箱ごと安全な場所に移すことができますが、引越ししてしまうとどこに行ったのかわからなくなってしまいますし、居場所がわかっても保護できる場所かどうかはわかりません (よその家の敷地内や手の届かない縁の下など)。しかも、場所が商店街の中ということで万が一歩けるようになって道にでも出てしまえば事故に遭う可能性もあります。そこで、保護しておける場所があるかどうかたずねると、ご自宅の車庫ならばシャッターがついているし換気用の窓もあるから入れておいて大丈夫だろうという事でした。そこで、夜になって閉店したら箱ごとご自宅へ連れ帰ってもらうようお話して、とりあえずその日は一旦家に帰りました。

翌週末、私はその後の様子を聞きにNさんのお店を訪ねました。Nさんは私の顔を見るなりうれしいような困ったような顔をして矢継ぎ早に話しを始めました。その後すぐ動物病院に電話をして、お腹の大きいクロちゃんが堕胎手術をしてもらえることになったのは良かったのですが、私が話をした日の翌日にトラちゃんと子猫たちを自宅へ連れて帰ろうと思ったらもう引越した後で段ボールの小屋はもぬけの殻だったそうです。その後引っ越した先がすぐ隣の民家の縁の下であることは突き止めたらしいのですが、そのお宅とは日ごろほとんど付き合いが無い上に、敷地も高い塀に囲まれているので、子猫を取り返すことはできそうもないと言うのです。(というのは、その家の人はどうやら自分達がトラちゃんの飼い主のつもりでいるようだとお聞きしたからです。)

私は困ったことになったと思いました。そのような状況では子猫の保護もできませんし、下手をすると母猫の避妊手術もできないかもしれません。だからあの時、すぐにでも猫たちを保護して欲しいとお願いしたのに、どうしてその日のうちにしてくれなかったのか、思わずNさんを責めたい気持ちになってしまいましたが、そこはやはりいろいろと事情もあるのでしょうし、今さら言ったところで猫たちが戻ってくるわけではないので、ぐっと言葉をのみこみました。仕方が無いので引越ししてしまった猫たちはしばらく様子をみる事にして、クロちゃんを避妊手術に連れて行く方法 (逃げないようにきっちりと閉まる箱に入れるとか、暴れるといけないので洗濯ネットに入れる) などのお話をして、その日はとりあえず帰宅しました。

翌週末も様子を見に行くつもりではいたのですが、午前中にNさんから電話がかかってきました。避妊手術から帰ってきたクロちゃんがびっこを引いているので、怪我をしているのではないかと言うのです。私はあわててお店へ飛んでいってお店に閉じ込められていたクロちゃんの様子をみて見ました。クロちゃんは確かに前足をつかないで歩いていましたが、触ってもそれほど痛がる様子はないので骨折しているとは思えませんでした。そこで事情を聞いてみると、手術に連れて行く前日にクロちゃんを保護して一晩店に閉じ込めておいたそうですが、当日箱に入れて連れ出そうとすると大暴れをしてもう少しで逃げられるところだったので、今度は買っておいた洗濯ネットに入れて病院に連れて行きました。しかし病院でも袋に入ったまま大暴れをしたので、その時にどこか怪我をしたのではないかということでした。クロちゃんをお迎えに行った時は気付かず、帰宅してからその様子に驚いて病院に電話をかけてもみたそうですが、先生は別に怪我をするようなことは何もしていないし骨折などもしているはずはないから大丈夫だと言われたそうです。

私も何度か足を触ってみましたが、大丈夫そうだったので 「大したことは無いと思いますよ」 というと、Nさんはとても安心されたようでした。そして、クロちゃんが鳴いて外へ出たがるんだけどどうしましょうかと聞かれたので、再度Nさんの意志を確認し、お外の子として付き合っていくとおっしゃったので、手術の翌日ではありましたがご飯さえ食べにくれば薬もあげられるからと外へ出してあげることにしました。(手術の縫合は溶ける糸でしてもらったので、抜糸の必要もありませんでした。) そして裏の勝手口を開けると、クロちゃんは一目散に飛び出して行ってしまいました。Nさんはクロちゃんが戻ってきてくれるか心配そうでしたが、お腹が空けば戻ってきますよ (亀ちゃんとをやじ君で経験済み) とお話してその日は帰宅しました。

Part 3 に続く

Last updated: 2003.2.5